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138.魔女さんにお願い

「二人で来るのは久しぶりねぇ〜」


 森の魔女さんの家だー!!!


 大きな木のテーブルに、古びた本が本棚に何冊も……全く以前と変わらない。


「え、何これ。あそこと繋げちゃったの?」

「よく繋げているわぁ。戻るわねぇ」


 突然、寮の職員部屋に切り替わった。


 緑と金が基調の自然を感じるカーテンに、吊り下がる月のオブジェ。木のぬくもりを感じるテーブルの後ろに、さっきと同様魔女さんが座っている。いつも通りだ。


「お話に来たのかしらぁ?」

「う……ん、なんとなく」


 その豊満な肉体を見に来ました、と言ったとしても魔女さんならニコニコしてくれるだろうけど……。

 大丈夫、レイモンドはいつもこれを見ていた。ジェニーに見惚れていたとしても、そこまでじゃない。こっちのがスゴイ。大丈夫、大丈夫……。


 と、自分を安心させに来たとは言えない。


「そぉ〜。学園生活、楽しんでいるかしらぁ?」

「ものすごくね。不安だったのが嘘みたいに」

「よかったわぁ」


 そういえば……魔女さんの本棚には古びた本がたくさんあるけれど、タイトルがない。私の本棚はあんなに混沌としているのに。


「ねぇ、魔女さん。さっきの部屋には本がたくさんあったけど、どれも背表紙がなかったよね。なんで?」

「あらぁ〜、気付いてしまったわねぇ」


 うふふと意味ありげに微笑まれる。

 チラッとレイモンドを見るも「気にしたことがなかったな」と言うだけだ。


「聞いちゃいけなかった?」

「いけないってことはないわぁ。そうねぇ〜、アリスちゃんからはいつか頼まれるのかしらと思ってはいたのだけど……」


 どういう意味だろう。


「私が定期的に各国の王子ちゃんのところに顔を出していることは知っているわよねぇ?」

「あ……うん」


 前にレイモンドに聞いた。やっぱり全てを知っているんだ。

 

 基本は国王様と第一王子の二人とよく会うらしいけれど、ごくごくたまには第二王子や第三王子と会うこともあるとか。第一王子が病死した場合などに備えてだろうとレイモンドは言っていた。


「お願いされるのよぉ。自分が死んだら、他の人に渡る前に日記を引き取ってほしいって」

「うわぁ……」

「処分してって言う子もいるけどねぇ? どちらでもいいって言われちゃうと……置いておくわよねぇ〜」


 前の世界で友達が言っていた。自分が死ぬと同時にスマホが爆発してほしいって。アニメとかが好きな子は、同人誌が見つかるのだけは耐え難いと言っていた。まさか、そっち系の便利な処分先にされているとは。


 私もたまに日記は書いている。

 最初はこの世界の知識についても書き連ねていたけど今は……。私はレイモンドより先に死ぬことが決まっているんだよね……。


 細かくは恥ずかしいから書いていないけど、記録として誕生日にもらった物や特別な出来事くらいは書いておきたいし、好きだなとか誰々に嫉妬しているかもとか……結構……。


「魔女さん……予想通りで申し訳ないけど、私のもレイモンドに見られる前に引き取って……」

「え、見たかったのに! いいじゃん〜旅立っちゃったら、もう恥も何もないよ。置いていかれる俺にささやかな贈り物を残しておいてよ。死ぬ前にソッコー読むから!」

「あとを濁さずに立ち去るね」


 魔女さんの部屋を濁すけど。

 

「分かったわぁ〜。引き取っておくわね」

「あーもう、なんでそんな話題が出ちゃったのかなー! それなら定期的に見せてよ」

「そんなこと言われたら、見せる用の日記まで書かなきゃいけなくて面倒だし」

「アリスの本音が知りたいなー」

「大して隠してないってば」


 処分してとは確かに言いにくい。

 私もレイモンドもこの世からいなくなれば、私たちの過去を知る人はいなくなる。大好きな人がツチノコキーホルダーやツチノコ抱き枕をつくってくれたことも、太陽と虹に挟まれてキスをしたことも、あの婚約も……。

 

 うーん、各国の王子様たちもそうなのかなぁ。悩んだことや頑張ったこと……たくさんの思い出を、どこかに残しておきたくなったのかな。


「仕方ないな……俺のもアリスの日記の横に置いておいてよ、魔女さん」


 日記、書いてたの!?


「分かったわぁ。そのことを言うと、必ず皆そうなるのよねぇ」


 だから含みがあったのか。


「レイモンドの日記は気になる……」

「読む? アリスが欲しいって埋め尽くされていてもいい?」

「やっぱりいらない」

「残念残念」


 にっこにっこしているけど、否定する言葉を言わせたよね。もし本当に埋め尽くされていたらプレッシャーを感じそうだけど……たぶんそうじゃないよね。わざわざ拒否するんじゃなくて私に拒否させるような言葉を選ぶあたりが姑息……。


 こうやって試すのが好きだよね。

 ページを埋め尽くすほどの好きを受け止められるのって。深く求める気持ちを受け入れられるのって。


 そういえば……と思い出す。

 育てる人によって味を変えるフェリキタスビティスが最近緑の実をつけてきた。まだ固い。そのうち色づくのかなと思っている。こんな姑息なレイモンドの育てるあの小さな果実は、どんな味がするんだろう。


「……あれ? 魔女さんの部屋にはフェリキタスビティスがないね」


 なんでいきなりそんな話にって顔をレイモンドがしているけど無視しよう。


「どんな効果がついてしまうか分からないものぉ。例えばだけど……私が馬を飼って大事に育てていると、ユニコーンになっちゃったりするのよねぇ」


 何それ……おかしな存在すぎでしょ、魔女さん。だからそんなに寮の皆の前に顔を出さないのかな。ジェニーが魔女さんと会うようになって扱える魔力が急激に増大したとも言ってたし……魔女さんが気にかけているのかどうかや、こちら側が魔女さんを魔女さんだと認識しているのかも関わっているのかもしれない。


「平等が大事なんだね……」

「そうねぇ〜」

「だったら体の成長具合も平等にしてくれればいいのに……」

「また言ってる、アリス」

「レイモンドがジェニーに見惚れるからいけないんですー」

「ダニエルの忍者と同じだって言ってるじゃん」

「平和ねぇ……」


 音もなく魔女さんがパッションフラワーティーを出してくれた。


 前にここに来た時にはチェリチェリベリーちゃんにするか聞かれたけど、ここではこっちが飲みたくて毎回これを頼んでいた。今は言わなくても、だ。


 落ち着くんだよね……魔女さんの側。


 さっきここに来た時には、二人で来るのは久しぶりねと言っていた。レイモンドも、たまに一人でここに来るのかな。

 

 こくりと出してもらったハーブティーを飲む。相変わらず草っぽくて美味しい。


「飲み終わったら裏庭に行く? カルロスたちがいる方に」

「そうしよっかなぁ」


 私はここに何をしに来たとレイモンドは思っているんだろう。こんなに近くにいても全部は分からない。


 自分の日記は見られたくないけど、レイモンドのは読んでみたいよねと思いながら、残りをちびちびと飲み干した。

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(2023.10.27より)

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