136.裏庭でもぐら叩き
体育大会の翌日の土曜日。私とレイモンドは寮の裏庭にいる。
露天風呂は壁を挟んで向こう側だ。その向こうにはダニエル様と二人で見た小さな裏庭がある。ここは広く、白薔薇が植えられていたりウサギさんや精霊さんの置き物があったり、床置きの可愛い照明があったり……オシャレ感がある。私たちはそこの隅っこの土の上で座り込んでいる。
ワンピースは汚しにくいので、ソフィと前に買った白とピンク基調の活動的なロリ系の服に着替えた。他にもこっち系をソフィと数着買ったので持ってはいる。レイモンドと違ってそんなに身長も変わっていないのか、普通に着れるのがありがたい。
召喚される前は百六十センチ弱くらい……一年分戻されたもののそんなに一年で変化はなかったしね。中二の夏までに伸びきった感があった。そのあともあまり伸びた気はしない。分からないけど。
「その服……可愛いけど触りたくなるよね……」
「そう思うのはレイモンドだけ! 早く練習を始めて」
魔法を使われる気配の的確な察知のため、レイモンドの提案で私たちはモグラ叩きをしようとしている。もちろん本物のモグラではない。レイモンドが土の中からぴょっこりと飛び出させる土のモグラさんだ。
「じゃ、目をつむってねー。いくよ」
うん……確かに目をつむって集中すると、ムズムズする感じはするかも。
「そこだ!」
「はずれー。ズレてるね」
目を開けると、私がビシャっと手をやった横に、ひょこりとモグラさん(ただの土の山だけど)が飛び出ている。
「難しいなぁ。はい次」
「アリスが目をつむっていると、キスしたくなるなぁ。してもいい?」
「駄目。早くして」
「はいはい」
「そこだ!」
「惜しいねー。小指だけかかったよ」
ビッシャビッシャ特訓していると、ダニエル様とジェニーが裏庭に出てきた。
「何をしているんだ……アリス嬢、ずいぶん印象が違うな」
「アリス、朝食の時は普段の服だったわよね」
「魔法の特訓ー。さすがにワンピースはね。これはお忍び服で前に買ったの。どうしたの、二人とも」
「ニコールに聞いたのよ。二人は外出中なのって尋ねたら裏庭で特訓されるそうですって」
「なるほど」
裏庭を使いますって一応言っておいたしね。
どっちかが聞いて、どっちかが一緒に見に行かないかって誘ったのかな。
「ジェニーもする?」
「どんな特訓をしていたのかしら」
説明するよりも見せた方が早い。「見ていてね。今から私、目をつむるから」と言って、モグラ叩きを実演する。
「地味だけど難しそうね。ダニー、手伝ってくれるかしら」
「構わないが……その服でやるのか」
「運動服に着替えてしまおうかしら」
「ジェニー、私のこんな感じの服がまだあるけど着る?」
「え……」
二人が凍りついた。
ロリは駄目?
「ダニエルさん、見たい?」
「い、いや、ジ……ジェニファーがど、どうしても着てみたいと言うなら……」
すごい可愛い反応してる!
「ジェニー! 今すぐ着よう! 今すぐそっこー着てこよう! レイモンド、待ってて」
「はいはい……」
「え、アリス、ちょっと待って、え、そ、それを……?」
ジェニーまで私の太腿を見ないでよ。
半ば無理やり彼女を私の部屋の前まで連れていくと、急いで他の似た系統の服を持ってきた。勢いで買ったものの、冷静に鏡を見ると私には色合いがエロすぎて合わないと思ったやつだ。
「ジェニー、これを!」
「アリス……あなたが着ているのよりもアレじゃない。これを着る勇気は私には……」
「ダニエル様を誘惑できるって! 保証する!」
「え……」
「大丈夫大丈夫。外には出ない。寮でだけ」
「そうは言っても……」
「お願いジェニー! 私……ジェニーに悩殺されたい!」
興奮ぎみの私に押され、「着るだけ着てみるわ……」とジェニーが自室へと入っていった。
廊下で待っていると、ユリアちゃんがそおっと部屋から出てきた。
「あの……なんだかすごい声がするなと……。あれ、朝と服が違いますね。健康的で色っぽいです。似合いますね。こんなところでどうしたんですか?」
ユリアちゃんの部屋にまで私の声が響いていたとは。レディまでの道は遠いな。
「ありがとう。ジェニーにも無理矢理私のこっち系の服に着替えてもらっているところなの」
「え」
なんでユリアちゃんまで凍りつくの。
「アリス、これもう……って、ユリアまでいるじゃない!」
ギャー!!!
エロい!
ギンガムチェックの紫の巻きスカート風キュロットには黒のフリル。おそろいの肩出しブラウスには紫の大きなリボンもついて、最高にガーリーだ。
「ジェニー、さいこぉぉぉ!」
「ジェニーさん、素敵ぃぃ!」
「どうしちゃったのよ、二人とも……」
ギャップ萌えだ!
ギャップ萌えもハンパない!
「今すぐダニエル様に見せよう!」
「これ、あまりにもアレ……」
「私の趣味にケチつけないで!」
「え、あ、そうね、アリスのだったわね……でも、これは……」
グダグダ言っているジェニーの手を繋いで、急いで階段を下りる。
あ……カルロスにまで会っちゃった。固まっちゃった……。まぁいいや、今は無視しよう。
「ダニエルさん! 見て、ジェニーを!」
バァンと扉を開け放ち、二人の視線がジェニーに……!!!
そうだよね。
こんなに色っぽいジェニー……レイモンドだって視線が釘付けになるよね……。
さっきまでの興奮が急激に萎えた。
「レイモンド……」
「あ、うん。何かな。すごいのを着せたね」
「私たちは違う裏庭で練習しよ……」
「いいよ、行こっか」
ダニエル様とジェニー。固まって見つめ合っている二人がどんな会話を交わすのかは分からないけど……。
「私たちは行くね」
そう言って、二人を置いて立ち去った。