131.三人でお風呂
「おっふろ〜、おっふろ〜、三人でおっふろ〜。浮かれて泳ぎたくなるなぁ」
大理石造りのリッチな大浴場で、三人でくつろぐ。元々こんな浴槽だったのか私たちのために入学前にリフォームしたのかは分からない。
ジェニーが快くオッケーしてくれてよかった。ユリアちゃんも入ってみたかったんですと喜んでくれた。
私たちが言い出さないとさすがに無理だよね……もっと早く誘えばよかった。
せっかくならもう一つの懸念事項も払拭したいなぁと二人を誘った。ここでなら、なんでもない雰囲気を醸し出しながらサラッと聞けるかなと。
「あら、アリス泳げるのね」
「――!」
この世界に来てから泳いでいない……! 海には行ったのに。プールも一般的ではないらしいし。ええっと、私は記憶をなくした設定だから……。
「なぜか泳ぎ方は知ってる。でも泳いだ記憶がない。ユリアちゃんは?」
「私もないですね……海へは森を抜けないといけませんでしたし」
「そうよね。こっちの海へはすぐに行けるから泳げる人も多いけれど……私の屋敷にもプールがあるわ。夏季休暇にラハニノスに戻ってしまうのなら、休暇の初日あたりに遊びに来てもいいわよ。話は通しておくわ」
「え、わ、私までいいんですか!?」
「もちろんよ」
白薔薇邸にはなかったなぁ。城のエリア内にはプールがあったのかな……。監視塔周辺など関わりがなさそうなエリアには案内の時に入らなかった。
「私も嬉しい。レイモンドがいいって言ったら行きたいな。プールまであるんだね」
「そうね。大量の水を生み出す練習にもなるわ。火を生み出すのも、水の側でなら安心だものね」
なるほど。うっかり水を消せなくなってもプールの中ならね。消火もしやすいし。そーゆー使い方があるのか。私にはヘタを打ってもどうにかしてくれるレイモンドがいたからな……。
「水着が問題かな……」
「私も持っていないです」
「それなら、夏が近くなったら皆で買いに行きましょうか」
……ジェニー、絶対いいやつ持ってるでしょ。皆で買い物に行きたいのもあるのかな。
「ひっそりと私の護衛がついてきてしまうけれど」
「大丈夫ー、察してる」
「アリスはそうよね」
「私も大丈夫です。やっぱり必要ですよね」
「そうね……」
少し沈黙が訪れる。
よし、ここで何気なくあの話題を……!
「そういえば、ユリアちゃんに聞きたいことがあったんだけど」
「はい、なんでしょう」
かなり緊張しながら、今思い出したふうに切り出す。
「メイザー様に、後ろから見ていて結構口説かれていると思うけど大丈夫? 助けを出すべきかいつも迷ってはいるんだけど」
言っちゃったー!
迷惑そうな顔をしていないかな……。なかなか聞けないから、こーゆー場でならと思ったんだけど。
「口説かれて……は、いないかなと思います」
「え」
あそこまで分かりやすくて気付いていない?それ、ダニエル様より鈍いんじゃ……。
「でも、褒めてはくださいますね。眼鏡の理由も、そんなに夢中になるものがあるなんて素適だねって……。今まで自分が駄目だと思っていた部分のプラスになる捉え方を教えていただいている気がして……慣れないですけど、感謝はしているんです」
めっちゃ真面目な受け取り方をしていた!
「男性にも不慣れだったので……、メイザー様のお陰で少し緊張しないようになってきました。高貴な身分すぎて天上の方ですし、誰にでも優しくされる方だとも思いますけど、その……大事にしたい言葉もいただけるのかなと」
「そうだったんだ」
メイザー、やるじゃん!
彼が席をダミアンと代わってよかった。
「それなら、これからも割り込まずに見守るね」
「いえ、いつでも入ってきてください。アリスさんとは少しでもお話したいです」
「ありがと!」
ただ……もし恋になってしまったらどうするんだろう。両思いになった時に伯爵家と平民は……かなり厳しい。どこかの貴族の養子にすればなんとかはならないこともないけど、彼の両親の意向も絡む。
私自身も、魔女さんが連れてきた設定がないと厳しかっただろうし。
……今は考えることではないか。
同じことをジェニーも考えていたのか、俯きがちだ。
「ね、露天風呂に行こっか」
明るくからっと聞いてみる。
「そうね、せっかくだし外の空気を浴びようかしら」
ジェニーも話題を変えたかったのかもしれない。
三人で外に出る。
タオルで前を隠してはいるけど……ジェニーのお尻がキュッと上にあがってセクシーすぎる。水着なんて着たらすごいことになりそう。クラックラするよね。
「そういえば、ジェニー。プールはダニエル様たちも誘うの?」
「そうね……嫌でなければ。嫌なら誘わないけれど、来ていただければプールは使いやすくなるわね」
確かに王子様が使うとなれば、どーぞどーぞってなるよね。
露天風呂にザバンと浸かる。
ううん、極楽極楽!
……ここにはさすがに極楽って言葉はないよね。言わないようにしよ。
「私は誘っても大丈夫ー。むしろ皆で遊びたいな」
「私もです」
「それなら誘うわね」
……この世界の水着ってどんなんだろう。ビキニが主流だったら、二人との差が歴然となりすぎる。
「私の貧相な体を可愛く見せてくれる水着はあるのかな……」
「貧相って……十分魅力的よ。皆で買いに行くのだし、一番アリスが可愛く見えるものを選びましょう」
「ジェニーに言われてもね。私が男なら、もうイチコロだよね」
「アリスったらもう……」
そこまで会話したところで、聞き慣れた声が飛んできた。
「アリスー! 聞こえているからねー! こっちに俺も入れて二人いるんだけど!」
げ!
「察して何も言わずに引っ込んでよ」
壁を挟んで会話をする。
こっちもあっちも真っ裸だと思うと恥ずかしいな。
なんで二人なんだろう。でもそっか……向こうもマッパってことはレイモンドのそれを、もう一人も見ているのか……ズルくない? とか思う私の頭は終わっているかもしれない。
「壁まで距離はあるけど、壁の向こうは道路だからね。人が通るからね。俺はもう出るけど、会話に気を付けてよ。あとで部屋までもう少し注意しに行くから」
「……え。やめて、怒られたくない……ものすごく反省した」
「納得いくまで注意したら、すぐ出ていくよ。じゃーね」
レイモンドが扉を開けて中へ入っていく音がする。もう一人は存在感を消してはいるけど、まだいるのかな……。私が下手なことを言わないか見張っているとしたらダニエル様の方かな。
「ああ……レイモンド、心配性でしつこいからなぁ……」
「そこも含めて好きなのでしょう?」
「うん……そうなんだけど。私もそろそろ出るね……。二人とも、変なこと言ってごめんなさい……」
ユリアちゃんにメイザー様のことを探るという目的も達成したし、怒られに行こう……。今日の私は失言マシーンになっている。謝ってばかりだ。怒られて反省しよう。
二人に「気にしないで」と言われつつ見送られる。一緒には出ないんだ。今、ユリアちゃんの手を軽くジェニーが触ったよね。二人きりで何か話したいことがあるのかもしれない。
私はもう行こう……。
脱衣所まで戻ると、ジェニーたちとはプロポーションが違いすぎるなぁと思いながら体を拭いた。