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129.ダニエルと二人で

 学園生活にも慣れてきた五月の寮での昼下り。せっかくの休日だけれど課題に時間を費やし、気分転換にと部屋の外に出た。


 ……静かだな。誰もいないのかな。


 レイモンドは土日のうち片方は私とデートをするけれど、もう片方は何も約束をしないし、いないことも多い。ダニエル様たちと手合わせをするとも言っていたし男子同士で付き合いもある。課題もあるしね。ハンスと話したいこともあるだろうし……。


 ただし、休日になると私の指輪がよく光る。どこにいるのかなーと別行動したあとにレイモンドが探るんだよね……。あっちの世界にいたら、堂々とGPSで追跡するタイプだ。まぁ、確認してもいいか聞かれて許可は出した。愛は感じるしね。

 私もレイモンドの居場所を教えてと指輪に願いを込めれば光が指し示すことは一度彼の前で実験済みだけど……気にしているみたいで恥ずかしくてできない。


 一階に降りてみても、誰もいない。

 魔女さんは部屋にいるのかもしれないけど……。私たちの会話の邪魔をしないようにと思ってか、普段は存在感を消していることが多い。たまに部屋にズカズカ入って雑談はしている。


 さて……せっかくだし、一度しかチラ見していない場所を探検してみようかな。


 一階ラウンジより奥に行くと廊下が続いていて、男女別の大浴場がある。男子は使っているのかもしれないけど、私たちは初日に覗いただけで使っていない。各自、部屋の浴室のみ使用している。

 入りたい場合はニコールさんに事前に言わなければならないし、お湯をはってもらったらせっかくだし皆もどうぞとなるだろうし、時間を同じにするかずらすか聞かなきゃいけないし……まぁいっかと。掃除も大変だろうしね。


 外にも小さな露天風呂があって、花も植えられてオシャレな感じにはなっているものの、当然壁に囲まれている。空を飛ぶ人に見られないように布製の屋根も張ってあるから、青空を見ながらの入浴も無理なんだよね。


 大浴場入口の前を通り過ぎると、小さな休憩エリアがある。のんびり飲み物でもここで……といった場所だろう。お風呂から出たらコーヒー牛乳をここで飲みたくなりそうだ。


 そこに、なぜか大きな人がいた。


「ダニエルさん、なんでこんなところにいるの……」

「お前こそ、なんでここにいるんだ」


 今日はレイモンドと一緒じゃないらしい。窓を開けて、そよそよと風を感じていた……のかな。


 そういえば、こう見えてダニエル様って面倒だとか疲れるって言葉をよく使うよね。


「誰もいない場所で、一人疲れを癒していたの?」

「よけいなお世話だな……」

「私はただの探検」

「はぁ……お前らしいな」

「私って邪魔? もう行った方がいいよね」

「邪魔ではない。好きにしろ」


 そう言われると立ち去りにくい。ジェニーのこと、少し探っちゃおうかな。


「それなら、すごく鬱陶しいことを聞いてもいい?」


 彼の横に立って裏庭を眺める。風は外壁があるせいか、そんなには入ってこない。露天風呂を覗けないようにすぐそこにも壁や鍵付きの外扉があり、狭いエリアしか見られない。掃除道具でも入っていると思われる小さな倉庫もあるけれど、箱庭のようなものも飾られていて、小さな可愛いお庭といったふうだ。


「邪魔と言えばよかったか……」

「結局、ジェニーはダニエルさんを様付けで呼んでいる気がするんだけど。それから、前より名前呼びの頻度も下がっているし、やりにくそうだけど何があったの」

「ものすごく鬱陶しいな……」

「お節介をしている自覚はあるけど」


 ナイーブなことだからジェニーには直接聞けなかったものの、気になってはいた。私のせいでそうなってしまったのは間違いない。

 

 せっかくならもっと……って、思っちゃうんだよね。やっぱり踏み込んじゃいけなかったかな。


「……はぁ……何回かは呼ばれた」

「そうなんだ」

「心配そうに本当にいいのかって聞かれて、好きなようにしろと言ったら……やっぱり戻すと戻されたんだ」


 頭をガシガシしながら違う場所を睨むようにして、荒い息をはぁって吐く。


 男子だ!

 すっごく男子っぽい!


「それ……実は嫌がっていると思われたんじゃない? 嫌なの?」

「嫌ではない」

「どっちがいい、とかは……」

「本当にお節介だな」

「ごめんなさい……私はジェニーの笑顔がみたいの。ジェニーの気持ち、気付いているでしょう? 私にはあの時にしかつくれなかったって感じる印象深いレイモンドとの思い出がたくさんあって……だから二人にもって。でも、お節介だよね。もう行くね」


 なかなかダニエル様を落とすのは大変そうだなぁ。部外者の私がしつこすぎるのもね。そろそろ立ち去ろう。


「ま、待て」

「ん?」

「ジェニファーは……私のことが、……好きなのか」

「はぁ!?」


 何を今更この人は……え、気付いていないとかあるわけ?

 そんな馬鹿な……。


「……ジェニーが受験日とか二人で私たちを待っていたのは、なんのためだと……」

「お前を心配してのことだろう」

「よく褒めているよね、ダニエルさんのこと」

「婚約者なのだから当然だ。自分の役割をよく理解している」

「入学パーティーの日だって、二人でどこかに消えてたよね」

「ああいう場が苦手な私を思いやって、一緒に逃げてくれただけだ」


 駄目だこの人!

 鈍すぎる!


 知ってる、男子ってこんな感じだよね。でもでも、王子様じゃん! もっと察してあげてよ。


 指輪が発光を始めた。どうしてこんなところにと、きっと光を辿ってレイモンドがもうすぐ来る。


「その光……」


 あの時からのジェニーを思い出す。レイモンドのどこが好きなのって。どうしてこんな短期間にって詰め寄ってきたジェニー。ダニエル様と一緒にいたいから私を利用しちゃうのと申し訳なさそうにしていたジェニー。

 私が言う訳にはいかない。


 でも……でも……!


「あれ、アリスこんなところに――」


 つい涙がこぼれてしまうのも気にせず、私は叫んだ。


「ダニエル様のニブチン!!!」


 空気が固まった。


「え……ア、アリス……?」


 言ってしまった!

 だって鈍すぎるし!

 

「う、うわーん、レイモンドー! 王子様に悪口言っちゃったーっ」


 その場に立っているのもキツくてレイモンドの胸に飛び込む。完全に女であることとレイモンドに好かれていることを利用している。我ながら酷すぎる行動だ。こんなに女として駄目駄目なことをしてしまう日が来るとは……!


「だ、大丈夫、大丈夫……。えっと、よく分かんないけど、ダニエル怒ってはいないよね……?」

「怒ってはいない。私のせいだ、泣かせてすまなかったな」


 呆れられたよね。

 どんな顔をダニエル様に向ければ……ジェニーにもあとで言っておかないと……全てを忘れたい。なかったことにしたい。


 ダニエル様の立ち去る足音が聞こえる。


「レイモンド……私が悪いんだけど、悪いんだけど……慰めて……」

「アリス……大丈夫だよ。でも、あとでちゃんと説明してね。俺以外の男に泣き顔なんて見せないでよ」


 世界で一番安心できる場所。

 この腕の中で心を落ち着かせて涙が止まったら、次にすべきことを考えよう。

 

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(2023.10.27より)

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