118.入学パーティ
翌日の入学パーティー。
私はソフィに身支度を整えてもらい、ジェニーもメイドさんが部屋に来ていた。
ユリアちゃんもフリル袖で編み込みが入った可愛い服だ。本人は似合わないけど一応……と俯いていたものの、眼鏡っ娘でそれは反則ですよねと言いたい。布に包まれた柔らかそうな胸を触ってみたいと思ってしまった私は変態なんだろうか……。
私はあんなに柔らかそうじゃないし、ジェニーみたいな色気もないし、中途半端だよね。
王子様っぽい格好をしたダニエル様や貴族風のレイモンド、いかにもな騎士服(騎士学校卒業生が着用を許される準騎士服なるものがあるらしい。騎士団に入る際の面接の時などに着用するとか)のカルロスと神風車でびゅーんと学園まで飛んだ。
こんなに目立っていいのかとも思ったけれど、どうやら寮とその入口付近は森の中の魔女さんの家のように他の人には気付かれにくいらしい。魔女さんの力を思う存分借りてしまっている。
御者の人に見送られ、ユリアちゃんとカルロスとは分かれて四人で会場に入った。
「ジェニー……ここだけ世界が違うのではないかしら」
天井画には神様や聖女の姿が描かれ、壁も白と金だ。王宮のダンスホールと言われても納得する。
「王立魔法学園よ。他国の留学生を受け入れることもあるもの。戦術学科は例外としてね」
国の威信もかけているのか……。
「ごきげんよう。今日は一段と麗しくいらっしゃいますね」
レインボーな髪のオリヴィア様だ。
昨日は自己紹介のあとに今後の予定を聞いて教科書を受け取ってからすぐに解散だった。そのあとにオリヴィア様に「自己紹介でもおっしゃっていたけれど、受験日の光魔法はすごかったわね」と話しかけられた。
会話の中で「ジェニファー様にお茶会の席で教えていただきましたの。アリス様はとても素敵な方だって」と言っていたし、どうやらジェニーによって私についての根回しが行われていたようだ。
ジェニーが彼女へと笑顔を向ける。
「あら。オリヴィア様こそ、とてもドレスがお似合いですわ。色合いが素敵ね」
さすがジェニー。
なんて返すか正直、困った。
だってドレスもレインボーだし。
私も頑張って褒めよう。
「私もそう思いますわ。まるで色とりどりの精霊を宿しているようね。色彩の一つ一つに、それぞれの魅力を感じるわ」
「分かりますの、アリス様!? この多様な色彩は神様への愛を表現しているのです。理解者を得た気分ですわ」
え……適当に褒めたのがドンピシャだった? 宗教系の話は困るなー。魔女さんは好きだけど。
「両親にも誰にも理解してはもらえないのよ」
「自らを包む服装は、自らの生き方そのものだと聞いたことがありますわ。偽らずに自分らしさを貫こうとされる姿勢を感じ、私もそうありたいと尊敬しますわね」
「さ……すが、ジェニファー様のご親友ですわね」
いや、幼馴染のゴスロリ趣味の聖歌の受け売りだけど。誰にどう言われても私はこの格好を貫くと言って、修学旅行すらダメージ加工系の軽いゴスロリファッションで現れていた。
「アリス様の隣の席を与えていただいた幸運に、神に感謝したい気持ちですわ」
「そこまで言っていただけるような身ではないわ」
「魔女様に……選ばれた方ですものね?」
そっと聞かれる。
やっぱり伝わっているか。そうだよね、貴族は情報交換も大事だからこそ社交の場もあるわけで……。正体不明で突然レイモンドのお相手ですとは、いかないよね。
「拾われただけですわ」
肩をすくめて、くすりと微笑んでみせる。
「ふふ、私もアリス様が好きになりましたわ」
そうジェニーに言うと、「お邪魔しましたわ。他の方にも挨拶をしてきます」と立ち去っていった。
「ジェニー……根回し、ありがとね」
「私がしたくて勝手にしただけよ。さすがアリスね。私の方がもっとアリスのことを好きなのよと言いたくなってしまったわ」
お互い囁やきあう。
それからも何人かが挨拶に来て、適当に返した。ダニエル様とレイモンドも、多くの人に話しかけられているようだ。
やっぱり学園に入ると、なかなか二人きりにはなれないよね……。
少し寂しさを感じたところで学園長が壇上に現れ、挨拶が始まった。