112.願望&共通点1
「じゃ、私からいくね〜」
何かを決めたような顔をしている皆の顔を見て、そう切り出す。
「まずは願望! わくわくするような楽しい本の中に入ってみたいかな。知らない景色や知らない世界、とことん味わってみたいなぁ。魔法で絵画の中にいる気分を味わってとかじゃなくて、しっかりとそこで生きてみたい」
これは……レイモンドに向けてでもある。この世界に来てすごく楽しいよって、これからも伝えていきたい。
「それから、共通点がありそうなことは――甘いものが好き! 同じ人、手を上げて〜」
お、カルロス以外手を上げてくれた。
「ダニエルさん、甘いものが好きだったんだね」
「嫌いではないな。前にお前たちに振る舞ってもらったフルーツサンドは美味かった」
「あれは私も美味しかったわ。ラハニノスでは一般的になっているらしいわね」
「魔女さんがスイーツ好きで、たまに知らない料理なんかを教えてくれたからね。こっちに来ちゃったし、しばらくは会わないかな」
レイモンド、綺麗に誤魔化すなぁ。
「魔女様と何年か前まではよく街に出没されていると、小学園でも噂になっていました。騎士学校に入った頃からは聞かなかったですが」
「まぁねー」
カルロスも知っているんだ。それに、やっぱりあの赤い人は魔女さんだよとは言わないんだ……何者ってことにしているんだろう。あんなに赤いのに。
そこには触れないようにしよう。たぶん、ダニエル様が連れてきた信用のおける人物だ、くらいだよね。
「入れ替わるように、アリスさんとのクリスマスの話はラハニノス全土に広がっていますね」
「あぁ……ユリアちゃんの耳にまで……」
「アリス、嫌そうな顔をしないでよ。そもそも、あの光が皆の体の中に勝手に入ってくるんだから噂にならないわけがないよね」
「げ……よく考えたらそっか、そうだよね……控えた方がいいのかな……」
「二年連続でやっているのに突然やめたら、逆に心配されるよ。またやろうね」
「やりにくくなった……」
そうか……クリスマスの夜に祈りを道路脇で捧げる人がいたのはイベントの日だったからか……よく考えると、勝手に光が体の中に……。
「アリス様。皆楽しみにしているので、やめないでくださいね。街全体が活気づきます。お二人のいずれ治めるあの地域の、約束された平和で輝かしい未来を皆が信じられます」
「あ……りがとう。様はいらないけど、そう思ってくれるなら今後も続けるね」
「あ、すみません。でも俺は慣れないんで、アリス様と呼ぼうかなと」
「そっか。……ユリアちゃんは今のままでね」
「あ、はい。分かりました」
騎士の息子だと序列意識も大きいかな。しかし、私とジェニファー様が呼び捨てや愛称で呼び合ってユリアちゃんだけ……は、まずい気がする。そこだけは譲りたくないな。
それにしても、まさかそんな御大層な扱いになっていたとは……。深く考えていなかった。クリスマスの夜の聖アリスちゃん……絵本にもなっているし、歳をとったらどうしよう。
「聖アリスちゃんは何歳まで許されるのか……」
「アリス、トリップしてるよね。こっちの世界に戻ってきて。座っている順番にしよっか。次は俺の願望と共通点自己紹介をするね」
そうだった!
話が脱線しすぎて忘れてた!
「願望は、アリス抜きでは何もないな。アリスと世界中を旅してみたいってくらいかな」
「名前伏せといてよ。甘すぎて胃もたれする……」
「はいはい。好きな子と世界中を旅したいって言い直しておくよ。共通点も、なかなか思い浮かばなくてさ。だから聞くね。アリスが好きな人〜!」
なんってことを聞くの!
全員が手を上げてるし!
「無理矢理手を上げさせるな!」
「ま、いいじゃん。次はユリア嬢だね」
……ユリア嬢か。
レイモンドに嬢ってつけられるとどんな感じなんだろう。今度、アリス嬢って二人の時に呼んでもらおうかな。
「あ、はい……。そうですね、願望は……空に浮く、くつろげる公園のような大きな魔道具をつくってみたいですね。実際は、安全面での課題やメンテナンスの問題もあり無理でしょうけど」
浮いている傘の道もあるんじゃないの……もしかして、そっちは吊るしてもいるのかな。人の意識がなければ魔法の力も無限に使えるわけではないもんね。いわゆる電池切れみたいになって落ちてきたら、えらいことだ。
「共通点は……そうですね。本が好きです。同じ方は……」
これも全員が手を上げた!
「ありがとうございます。本が好きで、読みながら寝てしまうこともあり……お恥ずかしながら目が悪くなってしまいました」
「そういえば、眼鏡の人って少ないよね」
「目が疲れた時に光魔法で目をリラックスさせると、悪くはなりにくいんだよ」
「早く言ってよ、レイモンド! 全然今までやってなかった」
「ご、ごめん……言えばよかったね」
「謝らないで。気付かない方が悪いくらい言い返して」
「無茶な要求しないでよ」
無茶なの……?
「本当に仲がいいんですね」
「そうよね。カナリア寮の名物話芸になりそうね」
さすがに夫婦漫才みたいな言葉はここにはないか。漫才は存在しないよね。その単語は使わないようにしよう。
「表では変なことを言わないようにする……たぶん……」
「それは厳しそうですね。今まで以上に同じクラスになりたくなってきました」
え、こんな短時間で厳しそうって思われるほど、変なこと言ってた!? ……カルロスは丁寧な言葉遣いなのに気さくだよね。
「……なるかもね。次はカルロスだよ」
「あ、そうですね! 俺の願望は、空中要塞の設計と開発にたずさわってはみたいですね。ただ……そちらよりも、要人警護を任務とする部隊に配属されたいので、難しいですね。二番目の希望です」
真面目だな……。本の中に入りたいとか私、バカっぽくない? まぁ、レイモンドもバカっぽかったし、いっか……は! もしかして私のバカっぽさが際立たないように会話レベルを落としてくれていた!?
あれ、レイモンドと目が合っちゃった。変なことを考えているよね、みたいな顔……。
「共通点はですね、魔法の中では一番火が好きですね! レイモンド様の試験は隣のエリアから目に入りましたが、もう胸がわくわくしましたよ」
「……別に、俺は火が特別好きってわけではないよ。一番好きな人はいる?」
シーン……。
「えー、誰もいないんですか。残念だなぁ」
カルロス……実はワイルドな性格?
ちょっと読めないな。
次はダニエル様の番だ。
何を言うんだろう。