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103/188

103.告白

 レイモンドが連れて来てくれたのは、学園管轄の農業公園区の見晴らし台だ。魔法環境資源研究学科が主にこの公園を使うようだ。

 治癒の実をつける植物を栽培したり、植物の成長促進魔法の成果を確かめたりという学生のための場所でもあり、維持を担う人たちの生活の場でもある。


 昨年、いつもの雑談会の日にダニエル様と王都の街をお忍びで歩いたらしい。寮や隠れ家の確認のついでだったのかもしれない。ここには入っていないらしいけれど、海が一望できる高台があると教えてもらったとか。

 公園には、もらったばかりの生徒手帳を見せるだけで簡単に入れた。厳しい管理はされていないようだ。


 このエリアだけが牧歌的で、不思議な感じ。


「やっぱり少し寒いね」

「冬だしね」

「でも、すごくいい眺め……」


 川が陽射しに照らされてキラキラと白く反射している。木でできた簡素で小さな橋、くるくると回る風車、ところどころにある畑や見たこともないくらいに大きな花弁の白い花々。

 お昼時だからか人はまばらだ。


 遠くに目をやれば王都の街。

 その向こうには海が広がっている。


「春には……もうここにいるんだね」

「ああ、一緒にね」

「そういえば、ソフィたちってここで何をするの?」

「あー……ソフィにもね、寮で少し手伝いもしてもらうんだ。女性の部屋や手洗い場なんかの掃除だね。ダニエルの従者が担わない部分。基本的には午前だけで、午後は隠れ家の管理を任せるよ。午後に一度寮に戻るとかはあるかな。まだそこまでしっかりとは決めていない」


 ハンスに夕食を用意しなきゃいけないだろうしね。ううん、新婚家庭だよね。本当に私たちが行って、いいのかな。

 

「そっか、ハンスは?」

「んっとね……」


 なんでレイモンドが照れているんだろう。


「ここの魔法教育施設併設型保育園で働いてみるって。特別に許可をもらった。資格もないし嘱託にはなるけど……」

「え、なんで保育園……」

「俺たちが実習なんかで参加する場所にいたいのかな……。あ、いや、アリスが違う学科を選ぶなら俺だけかもしれないけど」

「それなら心強いね。そっか、実習とかあるんだ」


 保護者に来てもらって守ってもらうみたいな照れがあるのかな。

 そうだよね……レイモンドだってまだ十五歳だもんね。甘えてばっかりで、背伸びをさせ続けちゃ駄目だ。


 だから……この幸せなぬるま湯から、そろそろ外に出ないと。


 冷たい風が頬をなでる。

 いつか言おうと思っていたその言葉を表に出す、心の準備をする。


「ねぇ……レイモンド」

「ん?」


 彼だって分かっているはずだ。何かを私が言いたいから、わざわざ連れ出してもらったことくらい。

 だから静かに待っていてくれる。


「もう一回、婚約を申し込んで」

「もう一回!? え、も……もう一回!?」


 なんで二回も言ったの。


「だってあんなの断れないじゃん。ちゃんと私が断れる状態でハラハラしながら申し込んで」

「趣味が……悪い……」

「あーゆー状況をセッティングするのと、どっちが?」

「わ、分かったよ……」


 レイモンドが、チラリと私のはめている指輪を見る。


 口だけで断られても大丈夫とか思っているのかなぁ。卑怯なのも姑息なのも自信がないからだよね。……私がなくさせちゃっているのもあるのかな。言いたい放題言ってるし。

 結構なんでも受け入れてはきているのに。


 柵の手前に二人分の鞄を彼が置いて、私の両手を握りしめる。こんな目もできたのかと、真摯な視線を受け止める。


「初めて君を見たその日から、ずっと好きだ。生き生きとして、無理をしていてもそのことに全く気付かずに頑張っていて……側にいられればいいのにって。声をかけられたらいいのにってずっと思っていた」


 初めて告白でもされたように、胸が高鳴る。

 

「同時にすごく悲しかった。どうして……その生きた軌跡が急に途絶えてしまうことがあるんだろうって。君がたくさんの人との関係を築き新しいことを覚え、違う環境に臨むたびに俺は……何もできない無力さを感じていた」


 恋の始まりは、相手の絶対の死を知ることと同時。その胸中は……私には想像もできない。


「最後まで罪悪感を持たずにいられるか、自信が完全にあったわけじゃない。準備をしながらも恐れていた。君が失うものについて、あまり考えないようにしていた。君の死を回避できてやっと俺は……そのことに思いを巡らすことができた」


 それでも、元の世界の言葉を私が失ってしまうからと覚えて。肉親がいなくなるからと代わりになろうとして。何が必要かと必死に考えてくれたことくらい、分かる。


「君の全てを――あちらの世界から消してしまった。君の記憶から言葉も失わせてしまった。知り合いも誰もいない世界に呼んでしまった。全部、俺の我儘だ。必ず幸せにするよ。俺にできることはなんだってする。俺と婚約してほしい。いつか結婚してほしい」


 レイモンドの手の震えが伝わってくる。指輪は外れなかったのに。


「ありがとう、レイモンド。婚約を受け入れるよ。いつか結婚しよう。あとでご両親にもあらためて一緒に報告しようね」

「アリス……」


 抱きしめようとするレイモンドを制止する。


「でもね!」

「え……でも……?」

「私の欲しい言葉じゃ、全然ない!」

「くっ……」

「だから、私からも婚約を申し込むね」

「え……あれ、もしかして明日にはお揃いの指輪をって……あれ、本当だったの……? え……?」


 うん、それは嘘だけどね!

 次は私の番だよ、レイモンド。


 そんなスタート、私好みじゃないことくらい分かってよ。

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(2023.10.27より)

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