101.暴かれる嘘
「あれは……な、なかったことに……」
笑っちゃうくらいに男らしくないよね。男らしくとか女らしくって言葉は好きじゃないけど、情けない顔して……。
私の前では、もっと情けなくなっちゃえばいいのに。たまに手が届かないように感じてしまうくらいに格好よくなった彼を、私のところまで引きずり落としてやったような気になる。
恋愛って怖い。
おかしな感情に振り回されて、自分が自分でなくなってしまいそうだ。
「私の質問に全部素直に白状したら、週に一度は私からキスしてあげる。さっきみたいに」
「ええ!? 白状するする! 全部言うよ!」
いきなり元気になって私を抱きながら起き上がった。
こんなことを交換条件にする私……痛すぎる。恥ずかしすぎる。過剰に自信を持っちゃってる人みたいだし……絶対に誰にも知られたくない。
「なんだっけ! ああ、アレね! 嘘だよ、嘘。これでいい?」
「ダメ。どうしてそんなしょーもない嘘をついたの」
「俺と定期的にキスをしないといけなかったら、他の男なんて視野に入らないでしょ? 良心の呵責に耐えられないに決まっているよ」
……なんて爽やかに言い切るのか。
「いつも変な呪文みたいなのを唱えているのは、なんで」
「嘘がバレた時のための備えだよね。実は召喚者からの特定の詠唱が必要でしたってことにしておけば、やっぱり俺から離れられないじゃん。最初からほぼバレていたし、アリスも薄々そう思ってたんじゃない?」
「姑息すぎる……」
「アリスの好みが姑息な男で助かったよ」
「そこは違う!」
変なところで計算高い……。
「それなら結局、あの言葉はなんなの。あと、最初に来た時に、確かにキスのあとに言葉が通じたとは思ったんだけど」
「いいや、逆だよ。最初のは君の世界の言葉だ。そのあとにキスをして、こっちの言葉で話をした。召喚した時点でもう変換は終わっていたんだ」
うわぁ……。
「いつものはね……君の世界の言葉。好きだよって、愛しているっていつも言っている。最初のもそんな感じの言葉だったと思うよ」
なんてことだ。
もう覚えてしまったあの音は、そんな意味だったのか……。
「でも、もう習慣になっちゃったし。これからもたまには言っていい?」
「……いいけど……」
召喚前から入念な嘘の準備を……コイツ、他にもあるよね、きっと。
「ねぇ、レイモンド」
「何かな。なんか目が怖いけど……」
「私はさっき、そのことに関することだけを教えてって言ったわけじゃないよね」
「――え?」
「私の質問に全部って言ったの。まだ私に嘘をついていること、あんたなら絶対あるよね? 全部言って」
「――――っく!」
あ……これ、あるわ確実に……。
「お、俺はどうしたら……」
苦悶し始めたし。
あーあ、なんで可愛いって思っちゃうんだろう。しばらく眺めていようかな……。
「じゃぁ……とりあえず……軽いのを二つ……」
いくつあるの!?
「この指輪……はめていると婚約しているようなものみたいにハッキリしない感じに言ったけど……」
「ああ、うん。婚約指輪だよね」
「そうだね……少しでもハードルを下げようと思って……完全に婚約指輪だ」
「両親にも許可を得たの?」
「うん……今までの君の様子から、いいんじゃないかって」
そりゃそうだよね。
親善試合で婚約者ってあの場所にいる全員に紹介してもいいって言ったし、その前にも王都から戻ったあとにお姫様抱っこしてもらっていたのも見られたし。
「もう一つの軽いのは?」
「召喚する子を選んだ条件……聞かれた時に可愛くてって最初に言ったけど、その条件はよく考えると入れてなかったんだよね。可愛い可愛いってずっと思っていたから、つい……」
そんなの、もう忘れてた……。
そっか、そんなどうでもいいことまで覚えているってことは、実は嘘をついていることを気に病むタイプだったのかもしれない。
軽く嘘をつくくせに、ずーっと気にして……。
これは、重いのも聞き出した方がいいよね。
そうでないと――、ずっと彼の心にのしかかり続ける。