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やさぐれジョンとアンクルサム  作者: イエローモンキー
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9

コルディのエルフとブラッカス工房のドワーフを加えて俺達は里を出た。馬も数匹ばかり荷物を頼んで歩かせた。乗るとか言い出されなくて良かったわ、俺乗馬出来ないからな。

俺の気分はこうだ。

丘や谷 小川を越えて 幾星霜 夜露に聴くか 俺の将来

途中の野営は二日しかしてないけどな。森林浴に星空観賞はセラピーに持ってこいだと思う。なんか下手な俳句に目覚めそうになる。だが俳句のルールなんて知らんからこれっきりにしとくか、誰に聞かせる訳でもないしな。


それにしてもアルファンの森は険しい。ドワーフたちが住んでいるというマーリンド山脈は里から見ても巨大なんだが、アルファンの森も標高でいえばそれなりに高そうなんだよね。全体的に東から西に下っていて森全体が丘を形成してる気がする。地図には等高線なんてないから実際はどうだか分かんないけど。

そんな感じで地面はかなり起伏が激しい。木々が根を張ることで土を固めていて、崩れたところとの差が激しいんだよ。凄いところは壁になってる。川が流れてるところはちょっとした渓谷になってんだ。

そりゃ馬になんか乗らないわ。落ちたら分かりやすく大変だ。


ただ例外はある。

サウスエルフの里の周りは手を入れたのか元からかは分からんがそんな険しくない。今俺たちがいる場所も険しくない。

そう比較的住みやすいエリアが、そうでないエリアを南北に挟んでいる訳だ。


「ここから先はカルマン人が好んでキャンプを作る一帯よ」


今、俺の背には北東から南西に折れ曲がりながら小さい渓谷がある。北東から南にきて西に曲がりまた南に向くってな塩梅。ルビコン川を越えた訳だ。


「丁度いいから此処にしたい。渓流から水は取れるし後ろからは攻められないしでいい感じじゃないか?」


適当に塹壕掘ってその辺の木を切り倒して屋根でも載せれば十分陣地になる。ついでに木を切れば斜線を通せるから一石二鳥だろ。

俺の頭にはそんな皮算用みたいな考えが浮かんでいる。


「後ろからは来られないのは分かるが我々も後ろにはすぐに行けないな。危険じゃないか?」


ノリス軍曹が渋い顔だ。背水の陣は嫌みたいだ。

でもなぁ、カルマン人狩りの度にいちいち渓流を渡るのもキツくないか?


「俺たちはこっち側での活動の方が多いと思うんです。どうせならこっちに張った方が面倒は少ない」


シエラは何やら思案顔だ。馬匹の管理をしてる輜重科はどうなんだろうか?サウスエルフのちっぽけな遠征隊は3人の合議制だからな。意見は欲しいんだが。


「ジョンドゥ、我々は少数に変わりないんだ。エルフと人間とでは繁殖の速度が違う、基本的には大事にいきたいというは理解して欲しい。もちろんレミントンがある今、我々も勇み足になってはいるが恐いものは恐いんだ」


そうか、彼らのネックは人口か。そりゃそうだよな。300年も寿命があるのがぽこじゃか生まれるならもう覇権取ってるわ。

そんな中で女子供狙って攫うカルマン人とかクソだ。殺そう、うん殺そう。


「間を取っては駄目なの?里側に大きなキャンプ、ここに小さなキャンプ。なにかあったら援護して小さなキャンプは引き払うのでどう?」


シエラが折衷案を提示する。

良いかもしれない。個人的には俺たちの銃が鹵獲されるのが怖いし弾薬盗られるのが一番嫌だからな。本城と出城で行くか?それなら敗走はしないだろ。


「ノリスさんどう?谷はそんなに広くないも深くもないから木でも渡せば行き来できそうですよ」


「それなら大丈夫だ。レミントンだけの軽装なら最悪橋が無くても逃げれる」


よし全会一致だ。

この辺の木はどれも広葉樹だから橋は用意に時間かかりそうだしで交渉材料には弱い気がしたがなんとかなった。


「なんじゃ、話は終わったかの?儂らはどうすれば良いんじゃ」


ブラッカスが首を回しながら暇そうにしている。

銃を見に来た彼らには悪いがつまんない仕事しかないんだよなぁ...


「面白くないだろうけど穴掘ってくれ、それもおっきな奴」


「そんなことはない。戦の為の拠点じゃろ?その銃とやらを使うための思想はおもしろそうじゃしのう。それにそんなこと秒で終わるわい」


フンスフンスと鼻息を漏らしておられる。

ドワーフ使って築城とか面白いわ、どうなるかな。


「そうだな...俺の腰ぐらいの深さで縦に2ヨルド、横に5ヨルドの穴を掘って欲しい」


「いくつじゃ、それで終わりか?」


食い気味の返事が返ってくる。そんなすぐ掘れるのか?

あと塹壕ってどう作んのが良いのかね。別にここに砲撃が降ってくる訳じゃないしな...


「4か所くらいで良いんじゃねぇかな。渓谷に対して平行にして、土は東側にやって壁にでもしてくれ。掘ったとこには屋根だけが欲しい、壁は要らないし屋根は低めにして草木でもを載せてくれ。遠目で見た時バレにくいと助かる」


雨がしのげればいいよな。射線は必ず通してカモフラージュ出来ればそれ以上は要らない。

ちょっと注文が多いけど人命のためだから頑張って欲しい。


「ドミトリと儂、ミハエルとヤースで分かれてやるぞ!おいノリス、エルフをちょっと貸せ。木工はお主らの方が早いからのう」


背中に背負っていたシャベルを手に持って仕切り始めるブラッカス。

なんでシャベル背負ってるかって?彼らはシャベルとハンマーで戦うらしいからだよ。ついでに彼らはリュックに工具を詰めてシャベルと一緒にここまでやってきた。いやぁ良い工兵になるんじゃないか?


「ちょっと!建築を任せるって約束で連れてきてるのよ!」


「じゃから指示を出しとるじゃろうが」


にべもなくシエラを切り捨てるブラッカス。

この観戦武官手強いわ。弓の代わりに銃を使ってるところを見たいって来てるだけだからなぁ...だから指示を聞く理由が薄いのかな。でもあんまり無茶いうとシエラ副官に食料止められんじゃなかろうか。


「...マリア!ウィルキー!君らの分隊で手伝ってやれ」


疲れた顔したノリス軍曹が二個分隊の投入を決断した。その音頭で山歩き用に腰に鉈を下げていたエルフが力なく動き始める。

俺は知らんからね。エルフとドワーフの折衝はする気ないから。


でワイワイ築城が始まった。勿論出鱈目である。


エルフは鉈で切り倒すかと思ったら魔法でやった。幹に手をやって念じる素振りを見せれば幹に亀裂が入っているではありませんか。鉈なんか大して使ってない、邪魔な小枝を落とすくらいだ。手を当てるだけで木材を加工していくとかいうよう分からん光景は何なんだろうな。風の魔法ってなんなんだ、すげぇ便利じゃん。

ドワーフはスコップでじゃんじゃか土掘ってエルフを急かした。

そこからエルフが用意したデカい丸太を一人で持ち上げて、俺の注文より深めに掘った地面に刺して埋める。あんであんなチビなのに丸太を持ち上げるのか分からんわ。力持ちですねぇ、意味が分からん。

穴に刺した丸太に、縦に二つに割った丸太の屋根をつける時も不思議現象をやらかしてくれた。ブラッカスが土を握ると釘になったんだ。土の魔法ですかそうですか。金属より弱いがこれで十分とか知らんわ。

塹壕作りが終わったら東側に馬防柵染みた壁を土で3か所作ったがこれも土の魔法様様である。ドワーフが手を翳すと黒く固まった。これが結構硬いのよ、ほぼほぼ岩みたいなもんだ。


「ジョンドゥ出来たわい」


そんな30分くらいで出来るもんじゃないと思うんだけどな。あっという間に4つのカモフラージュ済みの塹壕が出来た。やべーだろ、よくこんな奴ら攫いに来るよカリマン人。


「...助かったよ、ありがとう」


声がひっくり返らなかった俺を褒めて欲しい。そっかー、俺たちは工兵付き小隊だったのか。


「これが砦になるのかの?ジョンドゥ、城壁とかは要らんのか」


え、何その城でも作れそうな物言い。お腹一杯だわ、勘弁して。


「俺の国じゃ寄られたら負けなんだよ。だから防備はこれくらいで良いから」


これでエルフが籠れば絶対落ちない。後は本拠点でも作ろう。もう知らん派手に作ればいいんや。


「良い感じね。さっさと向こうにも作るわよ」


顎で催促してくるのはシエラ。その先には手すりもなんもない橋があった。

ほえぇもう作れたの...暇してたエルフも何やら丸太と板を縛った橋を用意してたらしい。途中丸太が3本から2本になったり3本に戻ったりなそんな簡素な作り。川幅が3mくらいで谷の幅が10ⅿくらいなんだが頼りなくないか?


「なぁ危なくないか?幅が全然ないぞ」


「落とすことまで考えたらああなったわ。高さはないから別に落ちても死にはしないわよ、あったら便利くらいの物にしたら十分ね。馬も渡れるし」


ナイフをちらつかせているシエラ。そういうことならしょうがないな、橋を爆破しなくて済むなら楽だし安全だ。退却に使うなら数人しか渡らないことだし。

そしてお馬さんは俺より勇敢だな。確かに橋無くてもここまで来れてるし橋から渓谷のそこまで10mもないしで死なないだろうよ。でも怪我はするよ、絶対。


「私に捕まりたい?」


シエラが楽し気になった。分かった渡れば良いんだろ。


エルフたちは馬を連れてすいすい渡っていく。だが俺とシエラは歩幅が狭いドワーフと同じ速度で渡った。やっぱ怖かったわ。

渓谷が小さいのは川が小さいからで水深なんてほんの数cmだ。つまり川底のじゃりじゃり見えてる。痛いだろうな。無事に渡りきれてよかった。


「で次は何を作るんじゃの?同じで良いのか」


ニカっと笑うはブラッカス、他のドワーフも楽しげだ。築城は楽しいらしい。

そうな、サウスエルフ側は向こうより険しいからなぁ。どうしようか。


「橋を渡って左は向こう岸より高いから、一番高いところに同じもの2つを頼む。右には倉庫が欲しいな、そこに食料と弾薬を置きたいから。ついでに右側は縦横5ヨルドくらい範囲を均した場所もくれ」


自然を上手く使ってなんとか堅城にしたいもんだ。岩肌を削るように流れるこの小さな渓谷で長閑にハンティングだ。左の小山なら向こう岸の様子が分かるからスコープ付きのサコーが良きるはず。右に作る倉庫は窓から撃てるようにしとこう。後の施設は追々だな、常駐するんだから里の借家みたいなの2、3軒あれば作れればいいか。


「そんなんすぐじゃのう。そうじゃ工房作って良いか?」


左の小山に二人組のドワーフを行かせたブラッカスが宣ってくる。何したいのか分かんねぇや。


「ここじゃ鉱石なんて出てこないわよ?」


眉間が狭まる輜重科シエラ。

そりゃそうだ。鉱石もインゴットも何も持ってきてない。エルフと馬が運んできたのは食料と縄と麻の布くらいだ。それに弾薬は40発くらいづつ各自が持ってきてるくらいか?

でもドワーフたちは色々持ち込んではいるか。槌やら金床やら。それに何故か自作ドライバーも持ってる。あれだ、レミントン弄った時にネジに気づいて作ったんだろうな。適応力ありすぎ。


「何か作ろうって訳じゃないわい。お主らはここにそりなりに滞在するんじゃろ?フォールと同じようにここも出張所を作りたいのう。エルフにレミントンの手入れは無理じゃから任せてみんか」


おお!ガンスミスになりたいのか!

俺は歓迎よ?精度が落ちたら使い捨てようか考えてたからな。エルフはここまで百発百中でバレルの消耗も遅いだろうしであんま考えてなかったけど、問題は問題だったからな。


「またそうやってエルフを馬鹿にするのね。どうせ私たちは弓矢の矢じりも作れないわよ、好きにしなさい。とちったらご飯は抜くわ」


ぷんすこ怒ってらっしゃる。口が尖がってる。

でも断らないとこを見るとエルフとドワーフってお互いに利益があるんだろうね。金属製品はドワーフが面倒見て、食料はエルフが面倒を見る。共生なのかどうなのかは知らないけど仲良くやってどうぞ、俺は関知しないから。


「飯を抜かれん程度には働くわい。で、ジョンドゥ。お主ほどの工芸士ならレミントンやウィンチェスター以外も面白いもんあるんじゃろ」


良い笑顔でお聞きくださる。

良いぞ、出してやる。あんたらがこんなもんかと言う塹壕がどれほどの価値があるか証明してやるぜ。


「さっさと倉庫と工房用意してくれよ?忙しくしてやる」


サム!陣地防御だ!





「日が空いたじゃねぇか、パイオニア。元気にやってるか?」


瞼の裏に住む下品な笑顔おっさんが燥ぎだす。

元気だよ。現地民の兵隊は戦争準備をご機嫌にやってる。


「今日も元気にフロンティアが前に進んださ。塹壕を武装したい」


「そいつは良いな。だが野砲を持ち出すには足りねぇな、何が欲しい」


そんなデカいの要らねぇよ、何を考えてんだこいつは。

でもそうか、森をナパームで焼けばベトコンを殺れると考えた口だもんな。スケールがデカくてよろしいことで。


「モーターで十分だ、過剰すぎる。重機関銃とモーターでいい」


「そんなんで足りるのか、グレネードは手持ちもあるがモーターだけか?あんたボルトアクションが好きみたいだがフルオートのカービンはどうする」


自動小銃は要らんが擲弾は考えてなかったな。注文しとくか。

ただアサルトライフルは止めておこう。エルフがボルトアクションに不満を持ってからで良いや。M14からM16になった時に出たらしい、威力が足りないとかいう不満が出るかもしれないしな。30-06と5.56㎜じゃちょっと違いすぎる。


「...決めた。三脚付きのM2重機関銃を3挺、M2迫撃砲を3門、M79擲弾発射機を4丁。50口径が2000発に60㎜砲弾と40㎜グレネードが100発づつくれ」


「やっと軍隊らしくなってきたな、パイオニア。敵は誰なんだ?」


敵はクソ宗教に奴隷制度のクソ国家だよ。


「モガディシュみたいな感じって言えば分かるか?すぐ逃げてすぐ集る」


「現地軍でゲリラの相手か?精が出るなぁパイオニア」


グリーンベレーになったって言っただろうがよ。

ニヤケ面しくさってよぉ、ぶん殴んぞ。


「それと敵の顔がよく見たい。良い双眼鏡はないか」


多分エルフの交戦距離って長いんだよね...500ⅿ前後でやりそうなんだ彼ら。


「双眼鏡のパイオニアをくれてやるよ。カールツァイスのデルトリンテム、8×30」


ドイツ製か。なんかかっこ良いじゃん、素直に貰おう。

中核メンバー分でいいか。ノリスの将校偵察に使ってもらおうか。まっ軍曹なんだけど。


「3つくれ」


これで俺たちはひとまず安心だな。剣と魔法の世界に迫撃砲陣地だ、かかってこいやカルマン人。

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