表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やさぐれジョンとアンクルサム  作者: イエローモンキー
7/27

7

カルマン人のキャンプから戻って数日たった。

戻ってからは平穏だった。シエラとノリスたちにある手伝いを頼み、シーガンに身の回りの世話はお願いをしたら取りあえずサウスエルフは何も言ってこなくなった。


木の壁と屋根に囲われたあの穴倉で暮らすことを許された俺は食事をシエラに世話され、毎日数時間この世界のことを教えてもらった。

その勉強の教材が日に日に増えていく。この辺りの簡素な地図に動物や植物の図鑑、歴史や言い伝えを記した書物が壁に貼ってあったり机の横で雑に重なっていく。

でもその知識の結晶は俺に何も教えてくれない。


エルフもカルマン人も実際に聞こえる言葉と口の動きが合わないこの出鱈目な世界の文字だ。俺には読めなかった。おかげでシエラには苦労をかけてばかりだ。


分かったことはアルファンの森は広大なこと。森を出てすぐ南西に大きな大河が流れていて、その向こうにキール正教発祥の地のサルファス教国があること。南東は平野が広がっていてそこがカルマン王国だということ。東にはマーリンドと呼ばれる巨大な山脈が広がっていてそこにはドワーフが住むということ。

そりゃエルフがいればドワーフもいるか、ファンタジーここに極まれり。

この分だと他にもいろいろいるんだろうよ。亜人って概念は人間以外の総称だというし、いちいち個別に呼んでられないくらい種類があるってことだからな。頭が痛くなってくる気がする。


あと地味に大事なことだが食事もちょっと良くなった。植物の勉強にと、食事の材料に図鑑に載っている穀物だったり薬草が使われるようになった。ちょっとした食育を受けている訳だな。穀物は芋に麦、薬草はハーブって感じだった。それに肉は豚と鳥は確認できた。牛もあるらしいが潰すのに丁度いいのがいないらしいから、しばらく出てこないとも言っていた。

まぁ本当かは分からない。この俺の新しい塒はどうも里の外れにあるらしく、里の様子も大きさもわからないから。

ただ嘘は言ってないだろうし、畜産と農業はボチボチやっているみたいだしで俺の食い扶持は心配いらなそうではある。


結局俺はやることをやるだけだ。ハイローラーになってエルフに全額ツッコめばいい。

エルフの子に薄汚い手が触れなくなるその日までそうするだけだ。カルマン王国にエルフ奴隷が居なくなるまで解放するだけなんだ。

なんてリンカーンでも気取ることにしよう。南部人が奴隷解放か、笑えるな。

だからアルファンの森、ここサウスエルフのフォールの里から南東に出ていくことが喫緊の課題なわけだ。

ぺこぺこしたがるエルフを止めるために、ノリスに戦える奴を集めろと頼んだがどうなったかな?

信頼できるのが条件って伝えたら困ったように微笑んでいた。どうもノリスは俺に信頼されたいらしい。

信じてるから頼んだんだ。だからあんまりそう卑下しないで欲しいんだけどな、まぁこればっかりは追々関係を深めていこう。


考えに耽っていると鈍い音が頬を叩く。穴倉の扉をドンドンと鳴らすノックの音が聞こえる。

俺はどうぞとそれに応えた。


「遅れてすまない。ジョン、手勢を見繕ってきたよ」


50代くらいの渋い男前が俺に報告している。ノリスだ。


「何人くらいいます?」


顔合わせが出来ればいいと事前に伝えておいたがどのくらいだろうか?

リリアを取り戻すのに20人くらいだったが多いのか少ないのか分からん。エルフの兵力ってどうなんだろうね。


「16人いる。すぐそこの開けた場所に待たせているから来てくれないか?」


まぁボチボチ。ジャングル戦のエキスパートなエルフだ、これで50人くらいまでは殺せるはず...だと思う。

俺はノリスの案内のままについていく。


「集めたのは親類を殺された者、攫われた者だ。今日はフォールのエルフだけだが、コルディの里のも何日かしたら来る」


ノリスが速足でずんずん進む。やめーや、あんたの歩幅でこのペースは俺にはキツイ。

あかん、やる気満々だ。サウスエルフヤバい。俺も人間なんだよ、怖いって。これはやる気スイッチ押しすぎたな。連中、森から人間を消し去りたいらしい。


「良い面構えだろう。意欲があり、勤勉な狩人たちだ」


ノリスは立ち止まり満足げに眺める。

横に二列に整列するエルフたちと合流した。だいたい二種類だ、前のめりで熱い眼差しを俺に向ける奴と美しく背筋を伸ばす無感動な奴。差は何だ?なんでも良いけどさ別に。


「彼がジョンドゥだ。シエラ様の食客でこれから狩り長を務めてもらう」


何も聞いてないんですが。狩り長ってなんだ?道具が出せるだけだぞ俺は。


「ジョンドゥ、君からも言葉が欲しい」


君らアグレッシブなとこあるよね。シエラもそうだ、一度捕まえたらルンルン誘ってくる。

もう突っ走ろう、それしかない。利害関係が一緒ってことをコンセンサスとっときゃ問題ねぇだろ。


「...俺は安寧の地が欲しい。俺の短い一生を平穏にしたいし、そのためにはアルファンをエルフの物にしたいから協力してくれると嬉しい」


おお、と感嘆するのが半分。胡乱げ気持ちが眉なり目なりに出るのが半分。

いやだからなんなの?やりづれぇなおい。

ちょっと早いけど道具渡しちゃうか、こういうのは強いインパクトで押し切ってしまった方が早いだろ。


おうサム、道具注文させろや。





「ようパイオニア!調子よさそうだな」


瞼裏でご機嫌な白人デブがガサツににやけている。

ああうんざりする。必要最低限だ、それでいい。


「取り扱いはどうなった?」


「最初の一歩は偉大だからな、どんなに小さくとも大きな価値がある。二歩目はそれなりだ」


シケてんなぁ...

俺は月に行ったつもりはねぇけどそうかい。まぁ分かるよ、シエラほどの価値はないことは。


「でどうなんだ?俺はパイオニアからグリーンベレーになったんだが」


現地住民に軍事インストラクションせにゃならんのよ。民生用じゃちとしょっぱいじゃん。良い恰好させてくれねぇかな。


「良いじゃねぇか、せいぜいゲリラとして頑張ってくれ。...そうだなぁ、鉄は少しばかり使えるのが増えた。あんまり重くなきゃ軍用モデルも渡せる」


マジかよ。重さがネックなのは謎だが進歩したじゃねぇか。てことは油もそうなのか?基準を聞いておきたい。まぁ答えるかは微妙だが。


「乗り物も重さか?何なら出せる」


「トレーラーは無理でトラックはいける。こんなところだ。ああ民生用だけだぞ?」


十分十分。トヨタ戦争が出来れば当座は問題ないだろうしな。まぁ今回はエルフ17人の民兵を作ることが目的だ。そんなに派手いかんでいいや。


「サム上出来だ、文句はねぇよ。それで今回なんだが、レミントンで30-06か308Win、そんでアイアンサイトついてて木製のストックの奴ってあるか?」


サムが目を瞑って深く息を吐く。

おい、聞いただけじゃねぇか。なんでわざとらしく溜息を吐くんだよ。


「なんでもあるに決まってんだろ?モデル700BDL、バレルは22インチでキャパシティは30-06が4発。あんた猟銃が好きだなぁ、何に使うんだか」


うるせぇ。顧客が狩人なんだよ、奴らがやるのは狩猟だ。


「それを17丁に30-06のFMJが二千発。それと別に、前もらったOOバックが100発と.308WinMagのHPを500発くれ」


「熊でも狩るのかよ、豪勢だな。スラッグはいるか?」


サムがヒューって口笛で囃し立てる。

別にビッグゲームじゃねぇんだよな。まぁ薄汚いワンころを狩りだすってだけだ。


「スラッグは要らねぇ。で、貰えるか」


「勿論だ。気張れよパイオニア」


サムが指を鳴らすとぼこじゃか出てくる出てくる。積み重なるレミントンに樽に並々入ったライフル弾、バケツ一杯にこんもり入ったショットシェルと、こっちもバケツこんもりの樽の奴より大きいライフル弾。死の商人にでもなった気分だな





「これが俺の力だ」


いきなり目の前に出てきたおもちゃセットに眼が点になるエルフ諸君。

あのな、確かに出鱈目だろうよ。でも俺からすりゃエルフも十分出鱈目なんだからもうちょっと耐性あっても良いんでねぇか?


レミントン製のボルトアクションライフルを拾ってみる。妙なサイトだな。機関部の前に照門がついてんのか、まぁ当たれば何でもいいか。

ボルトを引いてチャンバーを解放して樽から30-06弾を取って機関部に1発込めてボルトを閉鎖する。

バーレルからバレルにってのはつまんねぇか、ごめんなさい。


「これがありゃカルマン人をいくらでも殺せるからな?よく見とけよ。ストックをこうやって肩付けして頬も付ける」


5mくらい先に小石が落ちている。

これくらいの距離なら当たるからデモンストレーションだ。


―――ダァン


フルメタルジャケットの小銃弾が小石を散り散りにする。

金属鎧がいる世界だからホローポイントは止めてみたがどうなるかなぁ。もうちょっと考えた方が良いかもしれない。まっその時考えよう。


「...ジョンドゥ。何なんだそれは」


ノリスさんドン引きやん。口が空いたままや。

でもこれ君たちが使うんだぞ?そんなんじゃダメダメ。


「レミントンとでも呼んでください。で、分かりやすく言うと、筒の中から金属の矢じりを真っすぐ高速に飛ばす道具です。弓より早く撃てて遠くまで飛びますね」


「どのくらいの距離で使えるものなんだ?」


ノリスさんは案外冷静で助かる。他は駄目だ、手で口を覆ったり空を仰いだりしている。

そこ!聞こえてるからな、これはありなの?ってどういう意味だ。勝てば官軍やねん、卑怯なんてないわ。


「シエラは200ヨルドでほぼ必中でしたね。多分倍はいけます」


呻いてる、ノリスさんが呻いてる。喜べ貴様らエルフはチーティングするんだ、山賊なんか鼻歌混じりに殺せるようにしてやる。


「ノリスさん!これ持ってください!みんなもレミントン持って!」


大声出して指示するとエルフたちはきびきび動き出した。

多分これ普段から訓練してるな、混乱してるけど指示通り動けるもん。


「まずは姿勢!肩にストック当てるんだ。そういい感じだぞ、照門と照星を重ねるのが次のステップだぞ!頬をストックに付けて前を見ろ、なんか手前に凹みがあるよな?それが照門だ!」


エルフたちを見て回る。

アワアワしてる奴にリアサイトを指でなぞって教えてやる。自信のなかった奴もそれを見て確認して前に向き直す。

いいじゃん。筋が大変よろしい。


「一番先にポッチがあるだろ?それが照星だ!んで照星と照門を重ねてやればクソを吹っ飛ばせる!やってみろぉ!」


ちゃんと狙えているか傍からは分かんねぇな。まぁ出来てそうだからいいか。


「何も起こんないよ?」


ふんわりヘアーな女エルフが話しかけてくる。


「俺に話しかけると時は最初と最後にサーをつけろウジ虫!」


「さー!マリアです!さー!」


ピシッと気を付けみたいになって返事をしてきた。

あー、やっちまった。ノリで言っちゃったよ...最後まで突っ走ろう。それしかない。


「よし、もう一度レミントンを左手と右肩で構えるんだマリア!ここの突起、ボルトを持ち上げる。そうだ!そのまま持って引けんだ。いいぞいいぞ、そこからまた元に戻せ。みんなも同じようにやってみろ!」


一心不乱にガシャガシャいじるエルフたち。そうだそれが出来ればお前たちも一流のキリングマシーンだからな!

あー滅茶苦茶やねん。軽いブートキャンプになっていくぅ...


「よし、ひとまずはそれでいい。一人一個そこの樽から金属の粒を取れ!それが弾だ、レミントンと弾があればカルマン人はいくらでも殺せるからな!みんな弾は取ったか?」


「さー、取り出したぞ。さー」


いやノリスさんはやらなくていいです。見た目が50代のベテラン感ばりばりの人に言われても、こっちは恐縮なんで。

なんなの、意外とノリ良いのねエルフ。君たちクソ真面目なんじゃなかったの?


「あの...ノリスさんはやらなくて良いです。あの向こうって人が居たりしません?危なくないですか?」


「そうかやらなくていいのか?それとあっちは大丈夫だ。南には家も畑も何も作らないことにしているし、今日のパトロールはこれからだから誰もいない」


南ね...むしろ都合が良いか。切り株だらけのこの演習場(仮)は今後も使えそうだな。


「良し、みんな向こうを向いてレミントンを構えろ!ボルトハンドルを引け!そうだ!穴が開いただろ?そこに弾を突っ込むんだ!そこ、弾が逆だ、そうだその向きで入れて、良いぞ!みんな出来たか?」


皆俺を見て頷く。

別に声出して良いんだよ?お行儀良いな、こりゃ良い兵士になるわ。


「良いか!俺が良いと言うまでトリガーを引くな!お前が右手の人差し指で遊んでるのがトリガーだ!一回指を輪っかから抜け!」


みんなトリガーガード使って指を伸ばしてる。

これだよ、また手馴れだした。怖いくらいに適応力あるわ。


「ボルトを戻して前を見ろ!石でも木でも好きなの狙え!全部、糞ったれのカルマン人だ、遠慮はいらない!良しトリガーに指をかけて...引けぇ!」


うるせぇぇぇ!そりゃ17人の統制射撃だもんな...煩くない訳がない。

あとほぼほぼのエルフがうっとりしてる。口々に当たっただの、もっといけるだの言っている。やっぱ射撃上手いなエルフ。残りはどうだって?いやぁパグみたいな顔してるから外したんだろ。


「良いか、レミントンを向けて良い奴は逃げないカルマン人と逃げるカルマン人だ!まだ撃ちたい奴は樽からライフル弾を持っていけ!ノリスさん、4発まで入るんで入れてみてくれません?」


「分かったやってみる」


レミントンを持ったノリスがボルトを解放させて空薬莢が飛び出る。それに驚きつつ機関部にポチポチ弾を入れる。それをみて立ち代わりにエルフたちがリロードをしていく。


「ジョンドゥ、ボルトを戻して良いか?」


ノリスさんの俺への問いに顔を青くするのが数人いた。勝手にやったか。

あのねぇ、別に怒らないって。ただもういつでも撃てるから気を付けては欲しい。


「良いですよ。ただいつでも撃てる危ない状態なんで使わないときは弾抜いてくださいね。ボルトを前後させると、入ってる空薬莢っていう撃った後の搾りかすみたいなのとかだったりまだ使ってない弾薬が出てきます。それを念のため4回やってください」


「了解した。凄まじい道具だな、これは。よく分からないが4回までならボルトを動かせば撃てるんだろう?」


この人たち使い方には興味があってすぐ覚えるのに、原理は気にしないんだよなぁ。


「あの、なんでこうなるとか聞かないんですか?明らかに知らない道具ですよねこれ」


「そういうのはドワーフの領分だよ。私たちエルフは便利だったら使うくらいの意識しかないな」


あ、さいですか。ドワーフって何やってんだろうな。この人たちが驚いているようで驚いてないっていうか、すぐ受け入れる土壌になってるのかね。ドワーフもヤバいかもしれない。


「さー、森で撃ちたいです。さー」


なんかふんわりボブのマリアが話しかけてくる。訓練は終わったんでもうそれは良いです。

でこの子は10代後半くらいの容姿で、すんごい美形。いや皆美形なんだけどさ。でもこの集まりって家族を取られたエルフなんだよね...浮かばれんわ。


「もう訓練は一旦終わりにするから普通に喋っていいからね。あと危なくないならどこで撃っても良いから。ノリスさんたちも好きに使ってくださいね」


「さー、面白いので続けます。さー」


そうですか。


次の日アホみたいに食事に肉がでた。良い笑顔でノリスさんに3日で物にすると言われたが、もう出来てるじゃんと俺は心の中でごちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ