表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やさぐれジョンとアンクルサム  作者: イエローモンキー
5/27

5

シエラがご機嫌麗しく先導して二時間は歩いただろうか。

景色が、植生が変わってきた。サウスエルフの里の周りは間引きされていたらしく果実を結ぶ広葉樹のような木が等間隔で生えていて、地面は腐葉土が覆っていて歩きやすかった。

そこから段々と岩肌が点在するようになりつまりは苔で滑る歩きにくい土地に変わってきた。木々も乱雑になり林からジャングルに早変わりだ。俺には厳しいよ。

それに、同じ日に二度もエルフ狩りのカルマン人に会うことになるってのは俺には厳しいわ。まぁ二度目は死体だが。

しっかし良くこの場所まで戻ってこれたもんだ。シエラの奴迷うそぶりなんて一切なかった。エルフの森歩きはヤバい。


血痕やら足跡やらを追い始めて30分くらいか。いや時間が分からんから俺の体内時計の怪しさを信じるならだが、まぁそれぐらい経って状況が変わり始めた。血痕の間隔が分かりやすく狭くなってきた。

これそろそろ死んでんじゃねぇかな?あの銃創で動ける距離なんてこんなもんだろ。こっからどうするんだ?


「なぁ?そろそろ案内は終わりそうじゃないか?」


シエラの眉間に皺が寄る。ご機嫌モードが終わっちまったな。


「いや、死んでないわよ?ほら」


右手で持ったサコーの銃身で指し示すシエラ。いやぁ君らほど俺は視力良くないんだが。意味が分からなくて呆けづらかました俺に苦笑を浮かべたシエラは歩みを再開する。そんなシエラの背中には小銃弾が入ったポーチが揺れていた。


そうなんだよ、こいつその辺の草を編んで紐作って肩掛けにしたんだよ。見るも鮮やかに紐をつくって、おそらくベルトを通すためのポーチの輪っかにすっと通してだ。よし行くわよって。

エルフ高性能すぎひん?こいつ一人で良いんじゃねぇか?


「そうな、死んではないみたいだ」


野郎の死体はなかったが右手はあった。ここで千切れたか、千切ったかだ。どっちでも変わらねぇや。


「腕だけじゃないわよ?血痕も途切れてる。大方、ここで右腕とサヨナラして右肩を治療したんじゃないかしら。ただね、この先を足跡だけじゃちょっと...」


「足跡じゃ不満か?」


不満なんだろうな、渋い顔してる。

しかし金髪女エルフ様は表情豊かだな。見ていて飽きない。


「エルフとカルマン人は立場が入れ替わるのよ。狩りに来たものが狩られる、そう逃げる側がエルフとは限らない。...エルフもカリマン人も足跡の偽装くらい皆やるのよ」


シエラは先の足跡を訝し気に観察しながら言った。

おっかねぇ森だな...下手したら足跡を罠にして釣ってきそうな勢いだな。


「だから助っ人呼ぶわね」


言うなり指笛をピューと吹くシエラ。

わーい、これで森のお友達が増えるね!頭が痛ぇ、何呼んでんだこれ。


「ラルフ、こっちよ。この腕、どう?」


草むらからガサゴソ出てきた狼みたいな畜生が血まみれな腕を嗅ぎ、噛みつき、振り回す。

止めてくれや、人のトラウマ無遠慮に穿り回すや。

でもこいつの目は赤く光ってない。琥珀色だ。体毛もそれなりに整ってる。俺に嚙みついたのと違う種類か?


「その遊んでる生き物はなんだ?」


「この辺りで生息してるウォルフね。正確に言うならアルウォルフとでも言うんじゃない?親が死んでいたのを拾って手懐けたの」


ウォルフとかいう畜生を抱き寄せながら言ってくるシエラ。

そこそこデカい狼だな。こんなん襲われたら死ねるぞ。信用できんのか。


「大丈夫よ、ラルフはカルマン人よりお利口だわ」


はい、飼い主が言うなら信じます。もう知らん。ただこいつは信頼できなくても鼻は信頼できるだろうな。エルフの目、犬の鼻。狩りだすにはまぁ確かに豪華な布陣だな。


「ラルフ、行って」


手をパンパンしながらシエラが指示を出すとスルスル森の中を動き出した。

匂いを嗅ぎながらだから止まる時は止まるがそれでも速くないか。こいつも迷わず進む。エルフにウォルフ、どうも森暮らしは森に迷わないらしい。


そこからまた二人と一匹黙って歩く。

そこかしこに岩肌が見えだしてからずっと地面の傾斜は緩やかな登りが続いていたが一転下りに変わる。そして枝がウザったくなってきた。

追跡自体もラルフが船頭になってから、ローブのカルマン人の逃走ルートがごちゃついてきた。

足跡は後ろ向きになったり前に戻ったりとまぁ確かに追いづらいようになっていた。足跡以外も枝が折れていたり石がひっくり返っているのを確認しながら、ラルフの鼻と答え合わせ。最近できた跡かそうでないのかは俺には分からん。

そんな俺を他所に、シエラが目で見つけラルフが鼻で確認する。なるほど、これで逃げられる人間なんているのか?俺は無理。


「ジョン、近くに水があるわ」


突然、冷めた目をしたシエラが断言する。

なんで分かるんだ?俺に言われたって知らんて。


「なんで分かる?で水じゃ分からん。滝か、湧き水かなんか?」


「水の魔法よ。池があるわ」


これはビンゴだろ。人間、水は必要だからなぁ。ベースキャンプはそこでしょうな。

シエラがニコンのスコープを覗きだす。


「...やっぱりいた。800ヨルドと少しくらいかしら。木が影になって厳しいわ、様子が分からない」


100ヨルドで122歩なんだろ?大分遠いじゃねぇか。であれか、裸眼で見つけてスコープで確認したのか?ホントどうなってんだその視力。


「シエラ、200ヨルドまでは近づきたい。そんでもって俺の道具は30ヨルドくらいじゃないと多分当たらない」


「じゃ、あの大岩が良いわね。あそこからキャンプを見ると緩い向かい風、奴らからは私たちの音も匂いも遠くなるしどう?」


どやって笑うシエラ。すまねぇこっちは狩人初心者なんや...全部任せるわ。


「それでいこう。カルマン人には森からでて行ってもらおう」





そんなこんなで大岩までキャンプを軽く偵察しながら行ってみた。

もう夕暮れに差し掛かっていて色んなもんが見えづらくて仕方ない。まぁこっちも見つかりづらくて痛し痒しか。

そんな中で分かったのが、馬車が3両に金属鎧と革装備の軽装の奴が10人くらいずつとローブが3人。まぁ20人くらいいるな。それに馬が6匹木に繋がれている。夕暮れ時だからかキャンプに帰ってきた連中がいて、それが増えたのを入れてこんな感じ。本当はもうちょっといるかもしれないがそれはいい。

それでもって偵察しながら手筈も二人で整えた。いやぁエルフの視力が凄すぎて、連中から遠いからおしゃべりできるっていうね。ただ俺にはほとんど見えなかったけど。


優先目標はこうだ。

まずサコーのライフル弾で馬車の車輪を吹っ飛ばす。シエラに軸を狙ってもらうが多分当たるでしょ。理由としては、攫われたエルフが確認出来なかった俺たちとしては馬車は逃がせない。そんでもって戦いになってから射つのは誤射が怖いのでゆったり射てる初撃に回すことにした。

次にローブを狙えるなら殺る。シエラは後で良いって言ったが回復手段を潰したい。潰せりゃ楽が出来るかもしれない。これもシエラがサコーで吹っ飛ばす。

なんかシエラばっかりだな。いや俺もやるのよ?散弾銃でこの距離は無理だから、良い頃合いで距離を詰めてOOバックで吹っ飛ばしてやる。それまではスポッターでもやってよう、アシスト必要ないだろうけど。


「ジョン、私はいつでもいけるわよ?」


サコーのチャンバーを解放させ弾を込めなおしていたシエラ先生が声をかけてきた。岩にサコーのハンドガードを預け、左手で右頬を触るような形でストックを左手で抑えている。

なんでそんな依託射撃なれてるの?初めてだよね君?


俺はウィンチェスターをポンプアクションする音で応えた。

ウィンチェスターは7発とポーチに入ってる9発。サコーは4発と13発。十分だな、やれるだけやろう。


―――ダァン ダァン ダァン


蜂の巣を突いたように連中が動き出した。

遠くて何言ってるか分からないが叫び声をあげてるのは分かる。それに3両の馬車からそれぞれ車輪が外れたのに驚いてるのが何人か。

ただ誰も伏せないし隠れない。ヌーブじゃねぇか、カルマン人狩りじゃなくてカモ狩りだったらしい。


「良し、ローブを射って」


馬車に駆け寄っていた白いローブの男の頭が弾け飛ぶ。

そりゃそうよ。サコーの弾はビックゲーム用だ、熊を撃つような弾で撃ったらそうなるわ。


「弾を込めるわ」


シエラがポチポチとライフル弾を機関部に込める。ちょっと動きが可愛い。いややってることは可愛くないが。


シエラがリロードしてる間、カリマン人のキャンプを観察していたら動きが変わった。

半分は自失呆然としている。そりゃ仲間の頭がいきなり吹き飛べばそうなるよな、PTSDかなんかだろうよ。

もう半分はこちらに気づいたようで、何やら赤い装飾の凝ったバンダナを巻いた白い金属鎧の奴が出てきてあれこれ叫びながら指示を出し始めた。

黒塗りの金属鎧をきた連中が何人かこっちに駆け出し、革の軽装備の奴らが他のより大きい馬車から弓を取り出した。


「弓持ちは私がやるから、ジョンは剣士を止めてくれる?」


シエラがボルトを戻しながら言ってくる。

そうね、俺は狩りに慣れてないからな。シエラ先生の言う通り動くわ。


「了解。一人か二人でいいから足か手を射ってくれないか?」


人間、死体は見捨てるが怪我人はなかなか見捨てられないからな。

足手まといを作れば動きが鈍るはずだ。


「わざと半矢にするの?ふっ悪辣ね」


シエラ先生あなた笑ってますよ。エルフって人間が嫌いなんだなと実感するわ。


とまぁシエラがまた射ち始めて俺が大岩から少し前に出ると、金属鎧たちは気勢を挙げながらそこそこ近づいていた。50mないくらいか?ちょっと遠い気がしないでもないけど、ウィンチェスターで先頭の奴を狙ってみる。

狙ってる間にほんの少し距離が詰まったがそれでも遠い、でも胸を狙って撃つ。

俺が上手いのか散弾だからかは分からんが当たってくれた。金属鎧をベこべこに凹ましてやるのが見えた。もちろんそのパワーは強烈で後ろに転ぶ。貫通したかは微妙だけど、ストッピングパワーが足りてるのは分かったから良し。

俺は少し落ち着きながらポンプをシゴいて次弾を装填する。

先頭の奴が後ろに急に転んだことで後続の一人が足を引っかけて転び、もう一人は威力にびっくりしたのか俺とシエラの銃声にびっくりしたのか黙って立ち止まる。向かってくるのはあと3人。こっちより一人多いな、きついか?


「良い気になるなよ魔術師がァ!」


3人のうちの一人がそう叫ぶ。

不味いなぁ会話できるくらい近いのは寄られすぎか?でも18インチでチョークを絞ってない散弾銃なんてこのくらいの距離じゃなきゃ当たらねぇんだよな。今は学校のプールくらいの距離だ、つまり25m。


また胸を狙って撃つ。今度は貫通したみたいだ。血を吐きながら後ろに倒れる。なんかこいつら真っすぐ走ってくるから当たるわ...ほんとヌーブだな。

そこから俺は頬付けしたままフォアエンドをスライドさせて次の黒塗り鎧目掛けてトリガーを引く。やっぱりこの距離だと抜けるな。同じように血を吐いて倒れこむのが見える。そしてまた頬付けしたままスライドを動かす。


「やめろ、やめてくれぇ!イァ!降ッ参だ!なぁなッ何が、目的なんだぁ...」


最後の一人が剣を放り出して両手を上げてくる。ああ、降参のポーズはそう変わらんのね。そしてかなりしどろもどろだな、いやシエラの銃声が止まないからそれにビビってんだろうけどさ。

あと残念だが目的はカルマン人狩りだよ。


「エルフは捕まえたか?」


「3人っ捕まえた!一番小さい馬車い、纏めて捕えてる...エルフが欲しいッならやるよ!だか、ら見逃してくれ、なぁ頼むよぉ」


正直に話してくれた彼には9つのペレットをプレゼント。彼の鼻が無くなったのはご愛敬だろう。


「シエラ!そっちはどう?」


「弓兵4人と、肩を射った半矢の弓兵に呼ばれた魔術師2人に剣士が5人はやったわよ。あとのクソどもは逃げた奴と座り込んで動かない奴ね...馬車なんでしょ?」


うへぇ...なんでそんな殺ってんだ。確かにバンバン射ってんのは音で分かってたけどやべぇな、シエラやべぇ。教えてもないのに負傷兵で衛生兵釣りやがったよ、怖い女だ。

でこっちの話も聞く余裕があるのかよ、どうも狙撃は朝飯前らしい。話が早くて助かると思えば、うん考えちゃいけない。


「何発残ってる?」


俺も確認しとこ。ポーチのショットシェルをマガジンチューブに突っ込んでと、チャンバーの1発にチューブに7発でポーチには5発か。


「一発だけね。まぁあとは魔法でなんとかなるしラルフもいるから大丈夫じゃない?」


さいですか...多分これ一発はワザと残したな、てことは弾さえあればもっと殺れた訳か。


「じゃ、馬車まで行こう。3人いるみたいだぜ」


リリアとかいうエルフ以外もいるってことだ。いやリリア以外の3人かもしれないが話が複雑になるからそれは考えない。


「フォールの里以外のも捕まってるみたいね。良かったじゃない、他の里にも恩が売れるわよ?」


ご機嫌な足取りでキャンプの中で鎮座する馬車に歩き出すシエラ。

別にそういうのは要らんて。俺はシエラに付き合っただけだ。


「...で、残りはどうするつもりなの」


シエラがニタニタとした目線を向ける先には、心神喪失といった感じに呆けて座り込んででたり膝をつき両手を組んで神に祈っていたりただ大声で泣き続けていたりする5人の敗残兵がいた。


どうっていわれてもなぁ...


「近寄っても逃げないなら殺る、逃げるなら放っておく。人質連れて帰るのが優先だろ」


「優しいのね...祟らなきゃいいけど」


全部殺してたら身が持たねぇだろうがよ。それに日が暮れてる。タイムリミットだよ。


うんざりした気分でとぼとぼ歩いてキャンプの端についてみればめちゃくちゃだ。ぼうぼうと燃え上がる焚火の辺りには瀕死の男が倒れていた。池の横の死体に縋りついて泣いている男が俺たちに気づかないでいた。デカい馬車の前で男がただ座り込んでいた。

そして始末した。ただそれだけだ。


三両の馬車を見比べると他の馬車より金属部品が多い馬車があった。確かに他より小さいし南京錠めいた鍵がかかった扉があった。

めんどくせぇな、荒っぽい鍵でいいか。


「シエラ、少し離れてくれるか?」


「ふーん...どうぞ」


少しばかりの期待を滲ませるシエラ。別に大したことはしねぇよ。


扉の鍵をウィンチェスターで壊してやった。

ラルフがキャウンと怯む。


「気が利いた鍵じゃない」


シエラは銃声くらいでビビらないらしい。マスタキーはお気に召したようで幸いだな。

で馬車の中のエルフも人間嫌いなんだろうよ。そう思った俺は手ぶりでシエラに開けるよう促す。


シエラが扉を開け、中に向かって手招きすると3人がおっかなびっくり降りてきた。小学生くらいの女の子が二人、男の子が一人。後ろ手に縛られ、口には布を詰められている。


「酷いことしやがる」


「でもこれで終わりよ」


俺とシエラとで拘束を解いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ