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うんざりだ、もううんざりだ。何が楽しくて機関銃手やらなあかんねん。
人体とかいうソフトターゲットに7.62㎜なんか連射したらズタボロになるだろうよ。この世の地獄に他ならんだろうよ。で向こうは捨て駒染みた運用なんだから簡単には退かんだろ、胸糞過ぎて涙がでらぁ。
「狩り長。マーリンド山脈が作る影の所為で、河原から先が薄暗くて良く分かりません」
「あれじゃのう。オマケに赤毛猿が太陽を背にしとるの。こっちは逆光がきついわい」
なんか横でMk19運用員のマリアとブラッカスが愚痴ってやがる。
そうね、奴さんは頭が良いねぇ。多分自然要因が自分たちに有利になるまで兵を伏せさせてたんだろ。それか、主攻が目くらましになっているうちに少数部隊を回したかだ。中々悪辣じゃねぇの。
「良いか、この際俺達は盲撃ちで良い。迫撃砲が数発で大騒ぎなんだ、すぐに見えるようになる。だからパッパッと仕留めよう」
こうなるんならクレイモアをバラまいときゃ良かったぜ。
つっても回収するときに事故ったら嫌だから敷設範囲を絞った訳で、まぁ無理な相談か。
俺はやけくそ気味に対岸に向けてミニミをぶっぱなしてみた。
嫌だねぇ、うるせぇし反動は重いし最悪だ。こんなん耳がいかれるっての。バレルが何インチか知らんけどスプリングフィールドより短かい所為で音が猶更煩いのなんの。ようこんなの軍人は撃てるよほんと。
あそこの茂みに、木の裏に、岩の左右に、すっと真っすぐ射線が通った木々の隙間に見境なくぶち込み続ける。あっ300mだ?知らねぇよそんなもん、距離なんて分かるか糞ったれ。
プレデター相手にしてる気分だな。俺には全く見えてないしな。一応マリアのグレネードが着弾した近くを目安にはしてるけどどうだかな。
あとどうでも良いけど50発じゃ少ないかもしれねぇな。気づいたら撃ちきってたんだけど。
「ドミトリ、リロード!」
―――良いわよ ちょろちょろ見えてるわ
なんか声がした気がするけど、気のせいだろ。取りあえず銃声は聞こえてるからそれが止むまで撃ち続ければ良いだろうな。
そうするうちに俺でも見える距離で何人か死んだ。
見てると頭が弾けるみたく血が噴き出していくやつが多い。頬付けなんてせずに適当にばらまきながら対岸の河原先の森をざっと見渡せば、それがよく分かる。
多分見えてないところでも死んでんだろうな。銃声が耳から鳴りやまない。ずっと死んでいっているのが分かる。
ああ、そういや弾帯はいくつ使ったんだ?銃身が知らないうちに真っ赤になってる。おかしいな、一連射に10発も使ってないんだけどな。バレルチェンジしてる暇なんかないしどうでも良いか。撃てばどのみち終わるんだから。
なぁ、これに何の意味があるんだ。何人死んだ?何のために死ぬ?
糞がよ、面子か強迫観念かなんかはしらねぇけど何を目的にしたらこうなるんだってんだ。忌々しい。
撃たなきゃ終わんねぇ、撃っても撃っても終わんねぇ。もっと撃たなきゃ、もっとだ。
―――ジョン それくらいで十分よ!ジョンドゥ どうしたんじゃ!
放せってんだ、まだ銃声が聞こえる。もっとだ、もっといるんだ!
糞っ放せ!撃たなきゃこっちが死ぬんだぞ、人ってのは簡単に死ぬんだよ。だから手を抜いちゃいけねぇのはエルフだって分かってんだろうがよォ!
どうせカルマン人が居るんだ。俺には見えんが銃声が止まない、誰かが反応してるんだ。炙り出さなきゃいけねぇ。まだいる、いるんだからぶち込んでやれば良いんだ。
「良いからこっちを見なさい!...これで私の言葉が聞こえるわよね?」
いつの間にかシエラに膝枕されていた。俺の両耳の辺りをがっしり手で持って頭を固定してる。
あれか、ミニミからひっぺがされたのか俺は。
「...悪い。で、どうなった?」
「対岸は退いたわよ。それでタナモの方はコルディの残りを全部、援軍に行かせたわ」
そう言い少し疲れた顔をしながら解放してくれたシエラ。
すまん、熱くなってたのは俺か。これ謎の鎮静魔法なかったら、俺って大分ヤバいんじゃねぇか?ほんと感謝せないかんな。
なんて独り言ちながらタナモ陣地の方を見たらこっちも佳境くさい。そんでもって気配がしたから右見てみたらバーリン勢のエルフが来てた。
年かさあって渋いねぇ、身じろぎせんのが安心感があって良い。俺が歳食ってもこうはならんだろうなぁ。自分の小市民さが恨めしいね。
「狩り長、伝令に参りました。ティルクより具申あり、西は物音一つなしとあらば追撃に回るのが上策にあらずや」
そうか、向こうはここまで煮詰まっても暇してるのか。にしても悩ましいねぇ、バーリン勢ってちょっと積極的すぎるから出しづらい。こりゃ戦況を見ながら考えんと。
タナモの方はなんか、分隊単位で残った空堀とかクレーターとか連絡通路に火炎瓶投げ込んでるのが3個分隊かな?多分コルディ小隊だろう。辛いねぇ、燃やしときゃ死んでるか確認せずに済むもんな。
で全体的には見ると敵の組織的な突撃は無くなったらしく、残敵掃討といった感じに散漫に展開して自由に撃ちまくってるフォール小隊の各分隊があっちこっちに見える。IEDも使ったらしく、105mm榴弾の着弾穴よりもでかいクレーターが外周があったところに3つ4つ出来てらぁ。
「...見てないうちに大分進んでんなぁ。ではバーリン勢は残敵掃討が終了次第、哨戒してください。組織的な後退が見られた場合は手を出さずに、はぐれた敵兵だけを始末して回る感じで十分です」
「賜りました。ではその様に致しましょう」
片膝ついて俺の話を聞いていたアスラは足取り軽く小丘を降りて行った。
まぁこんなもんで良いだろ。こっちも全力戦闘で疲れ切ってんでしょうから、中隊全体で動かしたくない。
ここまでで厄介な敵っていや魔術師の防壁が面倒ではあったけど、考慮すべき敵戦力はそんなもんかね。バーリン小隊のイングラムじゃきっちいだろうけど、出くわす可能性はどうなんだろうかな。
「大盾を強化してた魔術師って始末出来てる?誰か確認してないか」
「105mm榴弾で排除済みです。といいますか有力部隊はあらかた敗走してますよ」
答えてくれたのは砲迫による射撃の管制と観測を任してたジュディス。相も変わらずハーブをはみはみしておられる。
ファランクス染みた盾部隊は崩れ落ち、騎馬部隊という鉾は折れ、弓部隊は迫撃砲で駆逐しましたって感じか。確かそんな流れだった気がする。
早朝の開戦からずっと戦った甲斐があったんかな?戦果は上々でしょうよ。個人的にも腹が減ったと感じられるくらいには状況が落ち着いてくれて万々歳。
「そういうことならあれだ、もう昼だ。ジュディス達でサンドイッチでも作ってきてくれないか?タナモの野郎どもも腹減らしてるだろうし」
「自分がお腹減ったんでしょうに。私も何か作ってこようかしらね、そろそろ川魚のオイル漬けが良い感じだと思うし」
へいへい、ノリスを山車にして悪ぅござんした。
つってもジュディス分隊は数少ない女性陣だからちゃっちゃと炊事に回さんと駄目だ。男どもは料理場の使い方が荒いとかで、やらせるとノリス分隊とジュディス分隊がもれなく全員キレる。前に姉御がブチ切れた顔で一人包丁研いでたの見たが滅茶苦茶恐かったからな、勘弁してクレメンス。
「ジョンドゥ、なんぞやり遂げた顔しとるとこ悪いんじゃがの。まだ終わっとらんと違うんかいな?」
どうしたブラッカス、まぁた不機嫌な顔し腐ってからに。
もう良いじゃん、もうたくさんだよ。タナモ陣地なんか見てみろ、正しく地獄がそこにある。四肢が千切れたのとか黒く焼け焦げたのとか、鮮やかに朱い川に赤黒い池とかよ。人だった良く分からん仏が腐るほど転がってる。鎧来てるのが大半だから内臓が出てるのは見当たらんけど、まぁ酷いな。
「ああ、もう...狩り長、ご飯はまだみたいですね。どうします」
ジュディスがポニーテールを靡かせて空を見上げた。
一体なんだってんだ?太陽が真上に来てる所為で眩しくてよく分からん。ただ黒い影はなんぞありますねぇ。爬虫類っぽい影絵っつうかなんつうか。
「やっぱりワイバーンじゃの。死肉が呼んだか」
呆れたように吐き捨ててるけどな、なんだよそれ。
いや、ほんとなんなん。その飛んできたトカゲは何?大丈夫な奴なん。まぁまぁデカくて強さそうなんだがよ。
「ごめん。誰か説明して」
「そうね。いつもだったら奴隷狩りのカルマン人に当ててたエルフの戦力が浮いたのは分かるわよね?だからコルディの戦士をマーリンド山脈の崖に住むハルピュイアにいくらか貸して、巣を駆除して回ったらしいんだけど...住処を追われたうちの一頭がアルファンに移ってた、そんな感じじゃない?」
なんか涼しい顔で考察なされてますがねぇ、そういう事を聞きたいんじゃないのよ。
確かにハルピュイアは前に習った気はするよ、でも今はどうだっていい。それにコルディの里が仕事を受けてようがどうだっていいわ。
「...そうじゃないって」
「はいはい。通常は死肉食ではないとされているけど、余程食うに困ったから出てきた。今回はそれで説明がつくでしょう。アルファンと言えど、大気中のエーテルの吸収だけじゃ足らない。だから捕食することでエーテルを補うんだけど、ただ死肉ってエーテルが残留してるかしら?」
有難い講義が続いてる間に空飛ぶトカゲがどんどん降りて来とるだろーがよ。
いやまぁ、トカゲが狙いだしたのはどうもタナモ陣地の南、森の中だからうちにはあんまし関係なさそうではあるけどね。多分にはなるけど生き残りが森の中逃げてる最中だからそっちが優先なのかもしれない。
ただ安全って訳でもないと思うんだけど、その辺どうなんだ?
「ワイバーンだかの獲物が生餌か死肉かはどうでも良いんだけどさ。排除出来る?」
「勿論。ただワイバーンは銃声を怖がっている感じではあるから、うちに仕掛けては来ないんじゃないの?それとジュディス、30-06で抜けるのよね?」
小さくお辞儀することでジュディスが答えた。
30-06ってFMJで貰ってたはずだよな。300WinMagならHPでもいけそうつうか、ホローポイントの方がダメージ入りそうな気がする。
今持ってれば試したいなぁ。
「なぁサコーの弾ってFMJしか手元にないのか?」
「ないわよ。最近あれ、狩猟の時しか使ってないもの」
「ジョンドゥ、おもろいもん作ってあるんじゃが使ってみんか?丁度よいのがあるんじゃが」
シエラの眉尻下げてしょっぱそうにしてる顔に比べて随分とブラッカスは血色の良い陽気な笑顔しとりますなぁ。
「見てみい、30口径のミスリル製弾丸に変えてある。魔導紋を彫り込んであるしカッパーで被膜しとるから遜色なく使えるはずじゃ。重量もそんな変わらんから同じようにおそらくは飛ぶ」
あのねぇ、おそらくってのはなんだよ。そういうのはいけないでしょうがよ。
でもブラッカスの手に乗ってる弾薬の出来は問題なそうではある。30-30みたく弾頭が丸い訳でもないしまぁ普通の弾頭形状だ。中身は被膜と薬莢の所為で分からんけどな。
「当たったらどうなるんだ?」
「魔導紋が作用してミスリルが対象のエーテルを吸い上げながら、弾頭を中心に魔法を勝手に発現させるじゃ。今回は水の魔法をヒントに冷却するように彫り込んである」
あっ?全く意味が分からん。
エーテルってなんだってんだよ。そんな謎な成分?が生物の体に染み込んでんのかって話だっつーの。ほんで冷却ってなにさ。気化熱的なメカニズムなのか、分子の運動を止める力技方向なのかてんで分からん。
「なんかもういいや。取りあえずワイバーンに撃ち込んでみようや」
胡散臭そうにシエラがブラッカスから特別製の300WinMagを一発受け取った。
当たったらどうなるんだかね。凍るんだとしたら、傷口が凍って出血は少なくなるよな。でも凍った筋繊維だったりが体内で暴れたりしたら内部はズタズタになるって感じで良いのかどうなのか。
威力が上がったのか下がったのか微妙なところだねぇ...実際に試さなきゃ分からんわこれは。
「ちょっと動きが煩いから、落ち着いた時に撃つわよ」
考え事してたらシエラが射撃体勢になってたわ。伏射でいくみたいやね。いつのまにか塹壕から出てベージュの背嚢にハンドガード乗せて、背だけ少し起こして準備万端って感じ。
そんで空飛ぶ爬虫類の方は丁度ホバリングし始めた。で、ここからの距離はどんなもんだ?タナモ陣地から300mは離れてるしここからタナモも100mくらいはあるから、ざっと500m弱くらいかね。奴の高度を考えたら600mくらいあるかも知れない。
ただなぁ...真上を飛んでった時はあんなにデカかったワイバーンが、今はめちゃんこ小さく見えるんだよ。正直結果が出ても、俺には判定できん。
「じゃ撃つわね」
気軽なシエラの一声で皆が目を凝らしだした。
相変わらず煩い戦闘音にサコーに銃声が紛れたかと思えば、ワイバーンもその小さくて大きい体が森に紛れていった。
ごめん、効果があったかまるで分からんわ。弾が凄いのか、シエラが凄いのかなんなんこれ。
「魔導紋が雑だったんじゃないのー。ちょっとしか魔法がおきてないじゃん、一瞬じゃん」
「魔導紋に問題がある訳ないじゃろ!どれだけ精巧に彫ったと思っとるんか」
なんかマリアとブラッカスが言い争い始めたわ。
でもだ、ちょっとだけとはいえ成功したのか。んで多分だけどそうなった仮説がおもいつかんでもないねぇ。
「なぁブラッカス。確かミスリルって柔いんだったよな?ワイバーンの皮膚がどれだけ固いのかは知らんけど、弾頭が潰れるとは思うんだ。で、変形したせいで魔導紋とやらが駄目になったってのはどうだ。あとマリア、どんな感じに魔法が...こう、どうなった?」
「ちゃんと胸の射入痕の近くは凍りました。さー。ですがワイバーンが持っているエーテル量に対して作用が弱すぎる様に見えました。後のことはすぐに落ちたのでなんともです」
あー潰れる、あっ...って黄昏始めたブラッカスは置いといてだ。マリアのレポート通りなら、取りあえず狩れただろうからひと段落で良いでしょもう。
それと弾丸自体の評価だけども、こっちから言わなくても銅で弾丸を被膜した判断は良い線いってる。そん調子でやってれば今回みたいな凡ミスはしなくなんだろう。ただな、撃たれたら凍る弾とファンタジーすぎて手に負えんなぁ。
「そうか。マリア、ありがとうね。うし、これで大きいところは仕留めきったと思う。さっさと片づけしようか」
「ジョン、ライカンもある程度は手伝えるから。それだけは言っておくからな」
アレックスが気恥ずかしいのかお手手をペロペロなさってる。ほんと猫だなお前。
ここにきてどうしてなかなかデレるかね。アレックスも絆されてきてくれたかどうなのか。
でもよ、ドラゴンっぽいワイバーンを始末したタイミングで言う事なのか?サラマンダー信仰ってどうなってたんだって話やねん。分かんねぇことばっかしで困る。
「ありがとよ。頼りにさせてもらうからな」
握手したら肉球があった。なかなかいい感触だな。
人間頑張ってればいいことがある。そんなことを思った。




