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やさぐれジョンとアンクルサム  作者: イエローモンキー
24/27

24

真昼における、タナモ陣地に対する南からの攻勢は失敗に終わった。そのまま夕闇が訪れるまで小康状態を保った。

連中は意気地が足りんとみえる、堪え性の方はどうであるか見物よな。手当は早いに越したことはないと言えど手段に乏しいであろうよ。

しかし我らもここらでもうひと働き、ふた働きせねばなるまい。意地を見せねばならないのは我らとて同じことであるが故に。報恩とするには戦果が足りぬ。


「ティルク、敵集団を視認した。どう動くつもりだ?」


そうか、遂にやって来たか。

当然と言えば当然であるな。王国軍が迂回攻撃を実施するなら東西の二択のいずれかを選択せねばならんだろう。が、グワン陣地の東方からは渓流からの渡河攻撃であることを思えば選びにくい選択である。故に迂回をするなら、渡河を予めすませ西に大きく回るのが賢し気な思考というもの。


「そう構えるでない、これも狩り長の読みの内よ。北に回したアスラにはヨルセンを回してやろう。そうなれば8人とミニミが2丁、その火力である程度は向こうも堪える。我々の衆で地雷原を突っ切って相対するぞ」


「コルディの若造たちはどうする。呼んでくるか?」


呼ぶなら今を置いて他はない、だが要らんであろうな。地雷の設置場所が頭に入っているのはバーリン勢のみだ。いちいち彼らに注意して進む状況では警戒が散漫になりかねん。それに夜更け過ぎだ、新月に程近いこの夜の中では危険がすぎる。この迂回攻撃に対応できるのは我々だけであろう。


「思い出せ。ここは誰が森ぞ、誰が祖が精霊より賜りし地ぞ。我らの手でやらねばなるまい。迫撃砲の用意だけさせておけ、IEDの作動後、広範囲に撒かせれば十分であろう。タルカの分隊からカールとジェイコブの二人を出して我らと連絡させよ」


「マリオンから西南方向に、だな」


宿願を果たす機会は目の前にある、全霊をもってこれを果たさんとする。


「皆の衆、銃を取れ。地雷原を越えて強く当たるぞ。赤毛の猿どもを誘引し、しかして反転攻勢をかけようぞ。タルカ、キミッヒは我に続け。ヨルセンは行け」


北から8人、東から10人。狩り長が執着する十字砲火を浴びせてやろう。

装弾数の多いイングラムを手配した以上、手が足らんなぞ言わせぬ。一騎当千の古強者たる姿を見せつけようぞ。


「これより先は交戦まで会話を禁ずる、全て手信号で行え。行動開始」


皆、笑みを溢しておる。それは我も同じか。

しかし感傷に浸るにはちと早い、いつか来る安寧の為に身を粉にするとしよう。





ワイヤーを跨ぎ、鉄条網を避けつつ森を進む。

随分この辺りも荒れたものだ。起伏が激しくとも漠然とした通り道があるはずであるのに、それが無くなっているのは物悲しい。往来が絶えて久しいのを無理矢理に分からされる、口惜しいという他はない。加えて目の前の敵戦闘集団が久々の行き来する存在であるというのは我慢ならん。


〃停止 横隊 変更〃


50ヨルド程度の距離に数十名規模、これは少ないといって良いのかが分からぬ。横隊でこのまま襲って良いものであるのか。これが主攻であるか陽動であるか、敵の意図を読まねばなるまいよ。事を起こせば、周囲にいるであろう別の一団も呼ぶであろうし悩ましい。

ここは撤退を視野にいれつつ一撃浴びせるか。


〃セミオート 用意〃


45口径が30発、即応できる個人の火力として申し分ない。狩り長はあまり信用しておらぬようだが十分であろうにな。8人のイングラムを合わせて240発、ミニミとウィンチェスターが一丁づつで7.62mmが50発と5発。白兵戦にならなければマグチェンジも出来る以上、戦闘能力は桁外れと言えように。


「射て!」


木々に見え隠れする敵兵の一人に狙いをつけて射つ。

草むらに隠れるに倒れていきおった。これで十分ではないか、いたずらにデカい得物を使いたがる必要なぞどこにもないではないか。


―――畜生がッ あそこだ!火花を散らしてやがるッ 突っ込めッ


ほう、来るか。地獄に落ちろ赤毛猿どもがッ!

容易いな。一人、また一人と落伍者が出ておるぞ、胸に射る度に倒れていく。ラッパを吹いておる場合か?集結する前に狩りつくしてやろうではないか。


しかし、不可解に草むらが揺れておる。風ではない、それも赤毛の猿共が倒れこんだ草むらではなかろうか。


「ティルク!効いてない奴がいるぞ!糞がッ」


胸の辺りを小さく凹ませた鎧をきた王国兵が幾人も立ち上がる。貫通を免れたか。

しかし随分と強固な鎧に見える、もしかするとドワーフ製であるかもしれしれぬ。


「見えておるわ!キミッヒ、間抜けを晒すでないぞ!」

〃後退 相互 援護〃


キミッヒが了解と手で示したのが見えた。

拳銃弾ではキツイかもしれしれぬ。兜なら抜けるがこの乱戦に近い状況では一々狙ってられんではないか。

増援部隊と思しき弓兵までも合流してきているのが見える。なんとか罠まで退かなくては。


「ポジションについた!ティルク、引くんだ!」


―――追え! この機を逃すな!一泡吹かせてやれ!


地雷原まで引ければ逆転できるであろうな。鎧なぞ何の役にも立たんクレイモアを見せつけてやろう。

それにしても中々楽しませてくるでないか、猿どもよ。なかなかに優良な部隊をぶつけてくるとはな。


「キミッヒ!ミニミで弓兵部隊に牽制をかけろ!残りは露払いだ!ウォーレン、シリング、アルテタ!退くぞ」


森を駆ける喜びが体を伝う。心臓が喜んでいるのが分かる。闘争の中で土を踏みしめる度に心が蘇っていくのを感じる。弓矢の雨を搔い潜り、敵を狩るなど血潮が躍るというものよ。

ほれほれ、鉄条網はすぐそこだ。悪魔の園はもう目前だ、始末してくれよう。


「キミッヒ!分隊を下げよ!我らで援護するぞ、無理に頭を狙わんでよいからな。転ばせるだけで十分ぞ」


分隊員と共にキミッヒ等に集る蠅を落としてやる。敵兵はバタバタと倒れ、その都度立ち上がるが鬱陶しい。だがこれで終わりであろう。

キミッヒ等が我らを追い越し、後方に地雷原の只中で陣取ろうとするのが背中越しに音で分かる。

そろそろであろうな。


「いつでも良いぞ!引っかかってくれるなよ!」


ふん、森の異常など一目で分かるわ。どれだけ巧妙に細工をしようと、エルフの目にかかれば一目瞭然であろうが。


「分隊、後退!我に続け!」


あの辺りがよいな。キミッヒから少しばかり左の鉄条網の後ろに退くとしよう。そろそろアスラ等と連絡をつけねばならんから、北上しつつ退避していくべきであろう。

罠をいくつか通り越していく。側面防御に手抜かりはないことを思い知るがよい。


退避する中で、何回か爆音が鳴った。銃声は前方でしか鳴っておらんから分かり易くて良い。

つまり、連中はワイヤーに足を引っかけたのだろう。馬鹿が、そこまで偽装に手を入れてないというに

分からんとは。


―――停止!停止 糞ったれがッ 吹き飛んだのは誰だ!


止まってよいのか?王国軍よ。こちらは準備が出来た、一芝居付き合ってくれぬか。


「シリング、アスラと合流して南下させろ。その後、45口径では効果が薄い故、7.62mmをミニミで可能な限りバラまかせよ。行け」


―――なあおい!助けてくれッ! 俺の足はどうなってる?誰か教えてくれよ! 見えない!目が見えねぇ!


無造作に追うから引っかかるのよ。間抜けどもが。鉄条網を避けて突進してくるのは良いがな、その鉄条網に吹き飛ばされては恰好が付かんだろうに。

元々内蔵してある鉄の粒、辺りの小石が爆風と共に凶器と化す様は恐ろしい。ドワーフの鎧であっても、非装甲の部分は他愛もない。付け加えて吹き飛ばされた先々で断崖や鉄条網、鋭利な岩や木の枝や根に叩きつけられ更なる苦痛に晒される。これでは助かる者の方が少ないであろうな。


「キミッヒ!援軍は左翼に回せ!」

〃フルオート 全力 射撃〃


「了解!追い立ててやろう!」

〃一名 発破 派遣〃


一発では効果が薄くとも数発であれば抜けるかも知れぬ。抜けずとも銃声が増えればこけ脅しには十分よ。

そもそも援軍なぞ要らんわ、20人いれば100人は殺せる。このまま食いついてくるのであれば、ゆるゆると退いてクレイモアの餌食にしてくれる。逃げを選ぶのであればマリオンまで追い込んでくれる、IEDで一網打尽としようではないか。


喧噪の中でラッパの音が鳴り響く。先ほどとは音程が違う、それに少し遠いのでないか?


―――退却ッ退却! どこに退けってんだよ! 良いからずらかるんだよ! 阿婆擦れシルフィ共が増えたぞ!


フルオート射撃は好かぬが効果はあるな。無駄弾が多いが欺瞞には最適だ。これもまた戦訓にしなければなるまい。

そらそら早く逃げねば背中を射ってやろうぞ?貫通せずとも衝撃は凄まじいものがあろう。ああ、そこはクレイモアだ。

引き飛んだな、そのままチリのように消し飛べ猿達よ。


そろそろ追わねばならんか、イングラムは射程に乏しい。100ヨルドをきらねば使い物にならん。


「前進!前進!追い立てよ!」


転がっている猿共の首を手刀でもって撥ねながら進む。

魔法が戻ってきたのだ、バーリンを去った我らは風の精霊と共に戻ってきたのだ。ただでは帰さんぞ。


貴様は逃げずに良いのか、剣を向けてどうすると言うのだ。

ほれ見ろ。イングラムを数発胸に受けるだけで膝をついた。目線を我に向けるから、眉間に射ちこまれるのだ。


「銃撃を敵左翼に厚くぶつけよ!もう少しでマリオンだ!」


「いつでも発破出来る!」


視界の右片隅にマズルフラッシュが見えた。

アスラが来たか。仕上げの頃合いだろう。


窪地に逃げ込む王国軍が見える。

洞や崖に囲まれているその場所に籠れば射線が通らん、困ったものだな。罠というのは自然が一番怖ろしいのだ。見え透いた罠なぞ見破れるが、自然の与える罠というのは感知しにくい。本当に困ったものだと思わんか?

そこで散らばっているだろう友軍の集結を待つつもりであろうが、良くもまぁ引っかかってくれるものよ。


「衝撃に備え!身を遮蔽に隠せ!」


皆が辺りの要害に身を隠すのが確認出来た。木々や段差から様子を伺っている。

105mm砲弾が4発とC4の合わせ技はどこまで吹き飛ぶであろうな。100ヨルド程度は距離があるが不十分かも知れぬ。だがやらざるを得ん。


「マリオン導師の御許に!発破!」


凄まじい轟音が鳴り響く、そして音が絶えた。いや絶えたのではないな、耳が聞こえないのかもしれない。

全身の震えを感じるのと共に森が、大地が揺れた。土埃が爆風に運ばれてきたのか、岩の後ろに蹲る体に土やらが被さってきた。そして体を起こして前方を見れば、まさしく地形が変わっているではないか。窪地が無くなり木々がへし折れ、爆心地がだだっ広く出来上がっていた。


ここでようやく音が戻ってきた。

誰もが息を飲み、呆けているのが分かる。誰も言葉を発っせず、風の音しか聞こえぬ。

いかん。戦闘中なのだ。継続せねばならん。差し当たっては地雷原まで退かねば。迫撃砲の支援があるうちに退かねばなるまい。


「キミッヒ!後退するのだ!」


「えッ!聞こえないぞ!」


これでは戦闘継続は厳しいであろう。後退では済まない、継続は断念せざるを得ない。

風切り音が鳴ってきた今を逃せば、連携が拙くなったであろう我が小隊は窮地に追いやられる。


〃撤退 至急 撤退〃


〃了解〃


100から200人程度は屠れたことで満足せねばならんか。惜しい、追撃が一番戦果が上がるというのにまこと惜しいことよ。めくら撃ちの迫撃では大した戦果はあがるまい。

どうもことを急いたらしい。60mm砲弾が着弾し始めたがまるで当たっておらぬ。あの拙さが我が身を揶揄するようで恥ずかしくて堪らない。いくら夜戦といえど不手際がすぎたのだ、もっと狩り長の構想に順応せねばならん。


「ティルク、俺たちも今のうちに撤収しよう」


「...ウォーレン、アスラに手信号送っておいてくれぬか」


戻った後、コルディの若造共に監視を手伝ってもらわねばならんな。あの坊主どもより迂闊な身を恥じねばならん。このままでは終われん。


「精進せねばならんな。でなければ何のために我らは戻ってきたのか分からん」

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