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やさぐれジョンとアンクルサム  作者: イエローモンキー
20/27

20

遅れて申し訳ありません。

馬に乗ってとことこ歩いた道を逆走して思うことがある。

乗り心地が大して変わらねぇんだ、ケツが跳ねて仕方がねぇのよ。俺たちのトヨタを持ってしても、この林道染みた道のりの険しさはやっぱり険しいままだ。運転席でこれだから後部座席と荷台はもっと酷いんじゃねぇかな、後ろの荷台の獣人たちが心配だわ。

つっても20㎞も出さずにとことこ走ってるだけだし、偶に邪魔な木があってエルフが切り倒すのを停車して待ったりで負担は軽いと思う...軽いよな?


「黒猫、乗ってから一言も喋らないけどどうした?」


俺はルームミラー越しに一瞬だけちらりと後部座席を見た。

黒い猫頭の異世界人はグロッキーだった、ついでに右隣りに乗せたアスラも同じようにへばり気味。

そんなに酷いかね。確かにサスペンション効きすぎてフワフワすぎる気がしないでもないけど、サスが効いてないと揺れが酷いと思うからどうにもならねぇよ。それとこのピックアップトラックはパートタイム4WDだから、FRと4WDでモードチェンジは出来る。けど変えたところで差が出るとは思えないし我慢してもらうしかない、頑張ってくれ。


「...なぁ、俺は何に乗せられてるんだ。怪我人や病人は歩かせずに済んだから良いけどよ、なんでこんな重そうな部屋が勝手に動くんだ。んでドロドロうるせぇ音はなんなんだ」


黒猫呼ばわりに文句を言ってこねぇくせにピックアップには文句を言うのか。

いやまぁ信用されてねぇだけか、それに信用してくれない黒猫だけじゃねぇしな。荷台に乗せたガリガリの獣人たちも皆言葉を発しないまま黙って乗った。それに比べりゃ名前を名乗らないだけなんてマシだ、こいつはまだ喋ってくれるからな。


「燃える水を使って車輪を回すエンジンって機械が、この部屋動かしてんだよ。乗り物自体はハイラックスとでも呼んでくれや」


説明はめんどくさいからこんなもんでいいだろ。それにこいつが知りたいのは自動車についてじゃないだろうしな。何から聞けばいいやら何なら話してくれるやら頭が痛いぜ。

あとバレてねぇと思ってるんだろうが乗ってからずっと口をへの字にしてんの、ルームミラーで見えてるからな。黒猫だっていっぱいいっぱいなのは分かるが、俺だってキャパシティが追っつかねぇわ。


「ハイラックスねぇ...随分と積めるみたいだけど、どのくらいまでいけるの?」


助手席に座っているシエラが地図と睨めっこしながら質問してきた。

こっちは慣れたもんだな。一番最初に聞くのが性能かよ、ホントにサウスエルフは何に使えるかしか興味がないのな。

ただ流石にサウスエルフもハイラックスには面を食らったのか、荷台に食料載せてくれって俺が言うまで思考停止してたし、今になってシエラが立ち直った訳だからインパクトは大きいみたいだがよ。


「1000㎏くらいつっても分からないよな、ミニミを100丁と少し積めるぐらいじゃねぇかな。それでもって平地なら今の5倍は速度出せる」


軽機関銃が10㎏ないくらいだからそんなもんだろ、でメーカーがそう言ってるだけだから実用的にはもっといける訳で。あとエンジンは4000回転くらいまで回るみたいだからディーゼルエンジンくさいが、どんくらいパワーというかトルクがあるのか気になる。個人的にもテクニカルにする気満々だから牽引なり車載なり出来る装備品の幅に影響してくるしよ。


「馬より早いじゃない、それでいて10人くらい運べるとか馬車が阿保くさくなるわね...今だって6人と物資が荷台にあって、それと部屋に4人でしょ?もっと早く欲しかったわ」


俺が横目で見たシエラは口を尖らせておいでだった。ついで若干投げやりな様子で右を指差しになられた。

あのねぇ、アルファンの森で使うには馬のが便利だって。実際ちょくちょく止まって木を切り倒してるじゃんか。荷台で警戒してもらってるマリアだったり、馬に乗って騎兵やってるウィルキー分隊の4人が苦労してるのシエラだって見てただろうがよ。それにMTだから俺しか乗れないでしょうよ。教習所なんかないし習得させる暇があったら銃器に慣れて欲しいしで予定は当分先だったんだって。


「いきなり光ったんですがどうしたんです!」


右横を馬で並走してたウィルキーがぎょっと俺を見てきた。

すまねぇ、癖でウィンカー出してたわ。教習所とか考えるからこうなるんだよ、仕事に集中しなきゃ駄目だ。


「右に曲がるって合図だすのに光らせたんだ!気にしないでくれ!」


まぁいいか。ゆくゆくはドライバーも誰かになってもらう訳だし、車列を組むときに必要だろうからこのままウィンカーは出しながら運転するか。


「この分だとコーマ達より早く着くんじゃないかしら」


地図を見つつ副官殿が満足気に溢してきた。

歩ける獣人はコーマ分隊とアスラ以外のアスラ分隊で先に出発させて、俺たちは歩けない獣人と荷物積んでから出発てな具合だけどどうだろうな。コーマ達は先に出たしグワンタナモ砦までの直線ルートを取れる、でも俺たちは積み込みに時間が掛かったしピックアップでも通れる道を探しながらの回り道だしで時間が掛かるんだよ。向こうは徒歩だけどいい勝負じゃねぇかな。


「まぁ早かったら出した甲斐があったってもんよ。で、着く前にライカンをどうするか少しだけでも話したいな。アスラさん、アルダンの里で受け入れて貰えますかね?」


ちらっと後部座席を伺うとアスラは百面相しておった。んで黒猫はじっと目を細めてた。

黒猫がこれから先をどうするつもりか警戒してるのは分かる。だからアスラもそれを考えてんだよな、酔ってる訳じゃないよな?


「...バーリンの戦士をコルディの里が引き受けたように、落ち延びたライカンはアルダンの里が保護していると聞きますからな。...そこからシーラ大河を登って大陸の北に出るも自由でしょう」


アスラが嗚咽を我慢しながらなんとか言葉だけ吐き出してくれた。

おいおいまだ昼過ぎなんだぜ?暫く着かないけど大丈夫かそんな調子で。こりゃ車両部隊を組むなら適正検査がいるかもしれん。

んで取りあえず難民経験者のバーリンエルフがそう言うってことは、獣人難民はやっぱりアルダン行きかな。ただフォールはどうなんかね、コルディもアルダンも余地がなかったらフォールしかなくなるんだが。


「アスラさんありがとう、辛かったら休憩いれるんで言って下さい。シエラ、フォールはどうなんだ。どういうスタンスなん?」


「ちょっと漠然としすぎじゃない?どうって言われてもフォールで受け入れは出来ないわよ。大体アルダンも難民全員を定住させた訳じゃないわ、大陸の北にあるライカンの部族ごとに振り分けてから送り届けたってのが大半よ」


横目でシエラお嬢様が不満げに眉を顰めなすったのが見えた。

通過ビザしか出ないって感じだなこりゃあ。だがさもありなん、地政学というか戦略的な要因を見りゃ分からんでもない。

アルファンの森とシーラ大河の境目にアルダン、アルダンから右にフォール、コルディってエルフの里が位置してるのを考えればしょうがないかもしれない。コルディは右脇にマーリンド山脈があってそこに住んでるドワーフって直接的な伝手があるし、アルダンは大河の水運でつまりは逃げ道の選択肢が北部以外に持てる。でもフォールはそれが無い。右翼と左翼はケツ捲れるのに中央で対峙し続けるしかないってのは、確かに余裕が無いのかも知れない。

そして肝心のノースエルフがどれだけ頼れるかどうかは俺は知らない。ただ、サウスエルフが言う礼を失せば300年恩知らずの恨みを受けるってのを思えばだ。それを思えば南北の対立は根が深そうだしで当てにはならないんだろうな、嘆かわしいもんだ。南部と北部のどっちが恩知らずかは知らんがどっちにしても景気が悪い話だから俺はしらないからな、水掛け論しか待ってないんじゃなかろうかとも思うし。

そんなこんなな事情だしで、ジョン中尉は政治に深入りする気もないから手を突っ込む予定も当然ないしでパスだパス。


「で俺たちはどうなるんだ?大陸の北に希望でも持てば良いってのかよ」


溜息を溢していた俺を咎めるような鋭い視線をルームミラー越しに向けた来た黒猫。

そうね、大陸の北は良く知らないんだよね。俺がシエラに教えてもらうのはアルファンの森から南のことばかりだしな。まぁそっちは知らないし、知ったところで俺が出来ることはない。

だがお前の言う希望次第で俺の出番が来るかもしれない。黒猫がフロンティアを欲しいならな。


「そうだな、エルフの言う希望は北への逃亡だ。この希望が不満か?だったら俺の用意する希望に興味あるか」


「...なんだよ、てめぇはライカンに何を求めてんだよ。俺達に出来ることなんてなんもないんだ、草原の王なんて粋がってた老人の言い伝えはお伽話でしかねぇんだよ」


俺の薄笑いか物言いかに怯んだらしい黒猫がそれでも反抗する気概で持って問い質してきた。

自嘲してる感はあるが威勢が良いこって。それで草原の王とかあれか?遊牧民族的な暮らし方で強い時代があったってことだろうかね。俺としちゃそういう素質がありゃ十分に思えるし、そう卑下するもんでもないだろうと思うが今はいいや。


「あのよ、何が出来るかなんて知らねぇよ。俺はカルマン王国の敵だし、敵の敵は助けておいた方が良いってだけの話だ。取りあえずは食って寝て回復してろや。それと俺の演出でエルフが面白い見世物をやるから、後のことはそれを見てお前らで決めろ」


俺が言えることなんてこのくらいだな。

俺は志願兵しか使わないからな、今リクルートしてもしょうがない。それに徴兵なんてのは愛国心が強く規律の厳しい国家じゃなきゃ成立しない。大体だ、今時の歩兵なんてのは誰にも出来るような役割じゃないんだ。当然俺も歩兵に専門技能を習得してもらうつもりだから現代歩兵と同じように高価な人材になる、誰でも良いわけじゃない。

だからエルフが銃火器で何やるか見てくれよ。お前らも出来そうだって思えるならそん時に誘ってやるからな、フロンティアは勝ち取るもんだ。一緒にやる気があるなら歓迎するさ。


「分かったよ、あんたの言う通りにすりゃ良いんだな。動けるようになるまで面倒見てくれるんなら、黙って従うさ」


「じゃ一つ目だ、いつまでもあんたって呼ぶなや。俺はジョンドゥって名乗ってる、お前は?」


「...アレックス」


やっとこの気難しい黒猫が名前を教えてくれたぜ。つっても沈黙を貫く獣人のおかわりは沢山あるから気が滅入ってくるがよ。

これで獣人が選ぶ希望のどっちにしても、獣人が回復するまで動かさせないのが決まったな。いざって時のグワンタナモ砦の放棄案がパーになった訳だ、軍備増強する必要があるかもしれん。


「それで何?私たちはライカンの為に食料の奪取に勤しめば良いのかしら」


シエラ副官が人差し指を唇にあてがいながら微笑んでおられるわ。んでアレックスは首をすくめた。

若干棘がある言い方だったけど、シエラは俺に言ってんだぞ黒猫。そもそも3班同時襲撃は威力偵察が主目的だったからブリーフィングと違うことに嫌味言ってんだ。下準備をしに来たのに全部終わらせるとかそりゃ話が違うって思うわ。

はい、前倒ししてごめんなさい。サウスエルフは真面目だから、ノリスもティルクも一当てだけして終わらせたんだろうよ。こんな皆殺しなんてやってんのはうちの班だけだろうな、ほんと追加業務申し訳ない。


「まぁそうなるかな。暫くはノリスさんとティルク戦士長を班長にして4個分隊くらいで襲撃かけて略奪してもらうと思う」


拠点のモグラ叩きしながら馬匹をモッティ戦術で奪取ってのは後で説明すりゃいいか。

もうタナモ陣地近くに来たのが風景で分かるしな、遅い昼飯食いながらにでも話そう。難民輸送は終わりだし後はちゃっちゃとデブリーフィングだ。





そして獣人とグワンタナモ陣地で頭がいっぱいの俺は後悔する羽目になった。

ハイラックスだ。あれがドワーフ達に見つかって盛大にうんざりした。そうだよな、そりゃ食いつくよな。なんなのか知りたいよな。でもなエンジン止めてねぇのにボンネット開けんなよ、危ないだろうが。

取りあえず空堀をハイラックスが通れる幅だけ埋めてくれれば弄らせてやるって言ったら退いたけど、その一瞬だけだ。しょうがないから後で玩具もやるから一回動かさせろっていう羽目になったわ。

何が良いかね。一応野砲か無反動砲、対人地雷を考えてるけどあれか、大砲のが受けが良いかな。


「溜息ついてるけど、あんまり美味しくないのかしら」


シエラが軽く頬を膨らませてらっしゃる。

いや、美味しいっすよ。鳥の胴体に香草詰めて焼いたこの料理とか滅茶苦茶美味いぞ?コンソメスープにパンもよきよき。このザワークラフトめいた野菜の漬物は酸っぱすぎる気がせんでもないが。


「大丈夫だ、最高に美味い。不味いのはドワーフ達だから」


「ふふ、そうだね。あれ程に興奮したドワーフも久々に見たものだ。あれがなんのなのか伺っても良いかな?」


アルダンから来たジル翁が茶化すように水を向けてきた。

ほんといい気なもんだぜ。ハイラックスが知りたいらしいが、俺は獣人の処遇を知りたいんだ。いい気で居れるのも今のうちだぞ、すぐにシエラやノリスみたいに辟易とする羽目になるからよ。


「名前はハイラックスって言います、簡単に言えば馬無しで動く馬車ですね。ただ馬ほど悪路に強くない、つまりは万能って訳でもないので過度な期待はしないでください」


「なるほど、後で乗せてもらっても構わないかな?」


ああ乗りたいの?何人か運転教えるついでに乗せてやればいいか。

理想としては手持ちの兵隊50人の過半数を運転出来るようにしたいけどすぐには無理だから数人でいいや。んでその数人を教官にすりゃ俺はフリーになるしそれで行こう。

ただそんな余裕が今は無いと思うんだよなぁ。


「ええ、後日で良ければ誰かに乗り方教えるついでに乗ってもらいますね。んで取りあえずノリスさんとティルク戦士長、今回の成果を教えてください」


はい、俺はまだ食い終わってないのでここでハイラックスについてはぶった切ります。つーこって時間稼ぎしてくれ、ノリス。


「分かったよ。右翼側拠点に向かう途中で馬匹の列を見つけた。ジョンドゥには申し訳ないが目標をこちらに変えさせてもらったよ」


俺の目配せを受け取ってくれたノリス准尉が妙なことを口走ったじゃありゃせんか。

いや良いんすよ。俺としても委任戦術は歓迎だからな、個々の判断で戦術目標変えるくらいはこっちで帳尻合わせるからね。戦略目標は輜重だからそこを間違えなけりゃ良いっすよ。


「結果としては馬と一緒に馬車を数両とライカンを20人弱を鹵獲した。不満は逃げるカルマン人までは手が回らなかったのと拠点襲撃は荷物が増えたから諦めたことかな。ジョンドゥが望むなら拠点に今から向かうがどうする?」


俺の頷きに続けてノリスが成果を報告してくれた。

なんかあれね、手段は報告しないのよね。デブリーフィングは熱心な割に俺にはそういうの言わないんだ。釈迦に説法は要らんでしょって感じに省くけど、俺は聞きたいんだがよ。でもまぁ長くなりそうだし良いか別に。


「今から行っても日が沈むかもしれないんで後日で良いですよ。戦士長、左翼拠点はどうでしたか」


「一当てしながら防備の確認をして終わりだ。200ヨルドまで寄って一通り確認をして引き上げたがどうであったか。私のところだけ成果がなくて面目ない」


ティルク将軍が肩を落とされたわ。

最初の想定はあなたの行動通りなんだからそれで良いんだって。カルロ分隊は遠目で一方的な戦闘するのが好みなの分かって俺はあなたの班に付けたんだ。防備もそうだし戦闘状態になったらどういう反応を示して防御戦闘するのかっていうのを偵察したかったのよ本来はね。


「今回の3つの襲撃で一番の成果はティルク戦士長なんでしょげないでください。鹵獲した物資で言えばノリスさんが戦功第一ですけど、お題は偵察なんで情報のが価値が大きいです」


「...何を言うか、狩り長が一番の手柄ではないか。100人を皆殺しにしたのはアスラから聞いているぞ。ようやるわ」


あのねぇ、いつまでも初見殺しが通用するわけじゃないんだよ。ここまでジョン中尉は大きな失敗なくこなしている様に見えるかもしれないけどよ、どっかでカルマン人だって対応してくるんだよ。

だから俺のやり方を戦訓にすんのは辞めた方が良いと思うんだ。その辺釘を刺した方が良いかもしれない。つか俺自体はなんもやってないしな、段取りつけてお願いしてるだけだ。


「基本的に俺は奇襲でしか戦ってないです。上手くいきすぎてる部分が多分にあるんで、今後とも上手くいくかは厳しいと思います。なので後でその辺り詰めましょう」


奇策が多すぎるっていうが所感なんだよ。正攻法だと分が悪いからこうなってるけど、すぐに正攻法が必要になるんだよな。そう、グワンタナモ砦の決戦とかいう防御戦闘が待ってんだよ。いつまでもこんな調子じゃ不味い。

不味いっていや俺の食事が進まないのも不味いわ。食わしてクレメンス。


「後で良いならライカンの処遇が喫緊の課題ね。ジル、アルダンで受け入れは可能なの?」


俺の心の叫びを知ってか知らずか副官シエラが話を振ってくれた。

この間に食っちまおう。シエラの方は食い終わったみたいだしな、シエラの横でもきゅもきゅ食ってるマリアと一緒に鳥肉を食い切っちゃろう。

違う、俺は水のおかわりが欲しいんじゃないんだ。だからマリアはそのまま食ってろって。


「短期的になら可能でありましょう。ただ里で定住するにはライカンに用意できる仕事が足りませんな。アルダンで求められているのは水夫ですが、彼らは水が苦手なものが多い。なれば北に活路が見つかるまでフォールに食の面倒をお願いすることになるでしょう」


俺が手でマリアを押しとどめていたらなんか始まったわ。

もろ政治的なやり取りやん。これってあれだろ?フォールとアルダンの事前交渉になるんだろ。俺は知らねぇからな。日本人は政治が嫌いなんだ、俺は政治はしないから。


「また食料を強請るのね。コルディは兵を時折貸してくれるから良いけど、アルダンは何をくれるかしら」


「天塩あたりで如何でしょう?もしくは絹でも。我々が大河の交易の守りを優先する許しを、常々アルダンは有難く捉えています故返礼は致しますが」


半笑いで睨むシエラをいなすように、ジル翁が揚々と頷きながら提案なすった。

なるほど、シーラ大河の水運に兵隊割いてるからグワンタナモ砦にアルダンだけ兵隊送り込まなかったのか。でもこの切れ者っぽい文官ジルを代わりに送ってるあたり、こっちを軽視してる訳でもない気はする。

いいのよ。アルダンの里に上陸作戦とかされちゃ堪んないし、俺としては異論はないから。


「...ドワーフが持ってくる岩塩だけじゃ心もとないしね。私から父様に手紙でも書いておくわ」


一杯食わされたって顔をするシエラ嬢。

でも大丈夫だ、俺も食い終わったから。ていうのは詰まらないか、すまん。あとすまんついでに俺は知らんからな、政治は俺の範疇にないからこればっかりは助けてやれんぞ。

あとそういえばの話になるけど、アルダンだってレミントンかスプリングフィールドでも欲しいと思うんだがその辺りは言ってこねぇんだよ。だからアルダンは俺に何して欲しいのか、俺とどう関わりたいのか分からん。とくにレミントンのボルトアクションは今、フォールとコルディの休暇の行き帰りの護身用に8丁残して、余りはフォールとコルディにあげた。それなのにアルダンは何も言わないんだよねぇ。


「ジルさん、アルダンにお願いする判断は俺がしたようなもんです。アルダンは俺に求めることはないんですか?」


「おや、精霊の子を助けることを望んだのは我々でしょう。寧ろ返礼すべきはアルダンだ、狩り長殿は何を望まれようかな?」


この老人には珍しいすっ惚けた表情を見せてきた。

精霊の子っていうのは獣人も含まれてたのかよ。だから宗教的な表現は難解で嫌なんだ、含意が広いことが多すぎる。この分だとエルフ、ドワーフ、獣人は精霊の子ね。サウスエルフにとっては精霊が神様の連中とは連めるって感じなんだろうかね。

土着信仰くさいエルフの価値観と一神教くさいキール正教の対立の現れにも感じるけど、まぁこれは穿ちすぎかな。


「時が来ればシーラ大河を下るのに協力してもらいたいですね。それくらいしか思い浮かばないんで、今はこれといって要望はないです」


大河っていうには馬鹿でかい川だろうな。マーリンド山脈は雪が被るくらい標高の高い山だしそっから雪解け水なりが流れる川がシーラ大河に向かって森を横断してるのは分かってる。かなり水量が多いだろうから、物資を運ぶならそこを使った方が良いに決まってる。

まぁサルファス教国とカルマン王国の国境でもあるらしいから、そこまで自由に使える訳でもないだろうけどな。二つとも敵性国家だ、黙って使えるってのはまずない。


「川を下れる程の軍事力はアルダンは持ち得ないがよろしいか?」


そう言って右手で蟀谷を抑えるジル翁。

自主自立の精神が豊かなことは良いけどよ、俺が目の前にいることを忘れてねぇか?アルダンが望むならその軍事力をつける手伝いくらいするんだがな。舟艇部隊とか精鋭みたいでかっこいいしよ。


「すぐに出来る話ではないですけど、川下りの道具も用意出来るんで冬がきたらその辺試してみませんか?アルダンがその気であれば武装の面倒も見れるので」


「...冬か。私から導師に話を通しておくよ。森を出るというのは本気だったようだね」


ジル翁の判断はしみじみと呟くように下された。

戦争なんてのはね、自国を戦場にして良いようなもんじゃないからな。引き込んで防御するってのは水際で防御出来ないからする次善の策でしかないのよ。

この100年苦しい思いで耐え忍んだんだろ?その忍耐に確かな対価はなきゃやってられないよな。図らずも引き込んだからにはそれを利用しようや、そして水際防御が出来るように場面を転換させんだよ。


「まぁ詳しい話は冬が来てからにしましょうか、今は国軍を迎え撃たないといけませんしね。それと事情が変わりました。ライカンのことを考えるとグワンタナモからの撤退という選択肢はほぼなくなったようなもんです。のでグワンタナモ砦の防備を強化しますんで各自そのつもりでお願いします」


舟艇部隊も良いけど、陣地防御の備えのが急ぎだからな。エルフのライフルマンや砲迫で守る陣地に地雷やらIEDやらトッピングせにゃいかん。それこそ獣人たちが安心できる最高の防備を整えなくてはな。

評価、いいね、お気に入り登録ありがとうございます。

ただこの作品って面白いんですかね...自信がない一か月でした。7/4

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