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俺の背中側を半円に取り囲んでいたエルフ達が半分に割れる足音がして、振りかえってみればモーゼになった下手人がいた。下手人は勿論、ドワーフ整備班である。
8人とも髭モジャのチビでおっさんで違いが分かり辛ぇのなんの。まぁエルフも金髪の美形しかおらんからドワーフに始まったことじゃねぇけどな。
「ジョンドゥ!どうせ儂らが弄るんじゃから、声くらい掛けたらどうなんじゃのォ」
その一行の中で一人だけ首に赤いスカーフを巻く、ブラッカス工房長が顔中の血管を広げて叫んでいるではないか。
あのねぇ、戦闘兵科が優先に決まってんでしょ?実際に命預けるのは彼らなんだから。
「でぇ丈夫だ!あんたらの分もある。丁度誰かを呼びに行かせようと思ってたところだからな」
現金だねぇ。自分らの分もあると言ってやったら口々にホォだのオォだの言って興奮しだしたわ。
だいたい君たちは腕時計作ってくれたじゃん。返礼の品くらいは用意するわ、俺だってさ。
それにしても腕時計は結構なお手前だった。牛革のベルトに細工の細かい時計盤、手先が器用なこって感動したわ。数字が読めねぇ文字だったが、長針が一周したら12時間なのは一緒だから実用にも耐えるし良い仕事したねぇと感動もんだった。ただ作動機構が、付けた人間の魔力を吸って動くとかいうファンタジー付きのブツに仕上げたのは謎だがこれはどうでも良いか。
だからまぁ、俺とシエラとフォール組の分隊長が左腕に付けた時計の謝礼は奮発するから期待するが良いぞ。
「今、エルフ共が弄ってるのはなんかいな?連射できるのはM2くらいデカくなきゃ難しいのか思ってたわい。でもそうじゃないみたいじゃのう、小型化できるのか。で、工作精度と部品強度の出し方が気になるわ」
ほんと、話聞かねぇな。スプリングフィールド持ったマリアしか見てねぇわ。
あかん、話が長くなる。エルフはいったん好きにやらせよう。俺はこの職人どものエスコートをしなければいけないな。
あと悪いけど、口とがらせてるシエラと遠くを見てるノリスはこっちだから。ティルクも連れてった方が良いか。
「ちょっと待ってろブラッカス!ウィルキー、カルロ、フォールでまずスプリングフィールド試しといてくれ。で終わったら皆で撃っていいから。東に撃てよ!でそれからシエラとノリスさん、それとティルク戦士長は俺に付いて来て、残った木箱も確かめるから」
ぼちぼち動き出すエルフ達。フォール組は手馴れたようにシャカシャカ動くし、里にいてもつまんなくてグワンタナモに出てきたらしいコルディ組は和気あいあい眺めてる。大丈夫そうだな。
バーリン組?目がくるくるして挙動不審だ。慣れろ、それしかない。
「ジョン、今回は頼まれないわよ?」
片目瞑ってシエラがぶすくれたわ。ノリスもちいせぇ溜息吐いてやんの、眉尻さがってますねぇ。だけどティルクは無表情だわ。ドワーフに耐性でもあんのか?まぁ色々と消化できないだけだろうけどさ。
この亡国の戦士はこの勢いでなんとかしよう。ドワーフ流で歓待してやれば素直に受け入れるようになんだろ。
「大丈夫大丈夫、基幹用員に渡したい物があるだけだから。それでブラッカス達はグワンタナモ砦から離れる気ないんだろ?自衛用にプレゼントがある。開いてない木箱、片っ端から開けてくれや。宝が待ってる」
なんかドワーフがすっ飛んで開け始めたわ。木箱を両手で開いてやがる、釘で打ってあるんだけどなぁ。あと返事くらいせぇっちゅうねん。
それにほら、シエラが額を抑えてるぞ。もうちょっと手加減してくれや。勢いが強すぎる。
「こりゃ凄い、ちっこいM2が出てきたわ。こうもダウンサイズ出来とると見事なもんじゃな、やるのうジョンドゥ」
まぁた馬鹿力だ。ブラッカスが、サムがMk48とかいってた軽機関銃を片手でひょいと持ち上げてくださったわ。それ9㎏くらいあんじゃねぇのそれ?ようやるよホントに。
「M2と大体一緒だよ、給弾カバーを開けて弾帯セットすりゃ撃てる。撃ってみるか?」
俺はブラッカスの横に寄って軽機関銃をチェックしてみた。なんか鉄と油の匂いがきっちいな。銃かブラッカスか。ブラッカスだな、サムは新品で寄越すからブラッカスの匂いがきついんだろうよ。だがそれが良い、工房の親父が頼れるのは良いことだ。
で銃の方はあれだ、思ってたよりゴツイ。今までの奴のウッドストックと違ってこれはアルミかなんかに材質が変わってる、これだけでも違うもんだなぁと思う。それにバレルの先は二脚がついてる、金属ばっかやな。
二脚って頼んだっけな、サムが気を使ってきたのか?嬉しいがどうしようか迷う。エルフが使うにはちょっと重いかもしれん。
「バラしてから撃つ、じゃなければ安心できんわい。中身が分からんもんは使わんぞ、じゃからバラしてよいかの?」
そんな厳めしい眼光で拒否んなくても良くない?銃を見る目は少年みたいに綺麗だってのによ。
ああ、好きにばらしてくださいな。俺には整備する知識も工具も部品もなんもないからな。ブラッカスの親父に全部放り投げるつもりだからな。
それに多分、この特別製ミニミ軽機関銃が一番故障率高いと思うのよ。大口径の小銃弾を毎分、何発だ?1000発弱くらい撃つ訳だから、まさしくドワーフ頼りになる。
「好きにやってくれ。この軽機関銃、ミニミって呼ぶことにするか。ミニミは全部で10丁あるんだが、考えてる用途より余分にある。だから取りあえず2丁はブラッカス達にやるから」
エルフ中隊は4人分隊が全部で13個ある。フォール組とコルディ組は1個分隊づつ里に休暇に出すから、手持ちが11個になる。軽機関銃を持たせる分隊は5個分隊もあればいいんじゃないかなって感じ。
それに選択肢はウィンチェスターの狙撃銃もある。ミニミと一緒に両方持つか、どちらか一方かは各分隊長次第だな。コルディのサール分隊はM2重機関銃の分解運用したから、コルディ組がミニミ運用したがりそうって予想はしてるけどどうだかね。
「...いいんかいな?グワンタナモの共同資産じゃなくてよいのか?」
なんぞピクピクしてどうした。ブラッカスだけじゃねぇ、辺りの全員身震いして目を白黒させてやがる。そんな嬉しいか?
それとそんな赤い思想は要らんわ、うちは自由主義陣営だからな。今度そんなこと言ったらレッドパージすんぞ、胸元の赤いスカーフとサヨナラになるがよろしいか?
「個人資産で良いわ、いくらでも出せるんだから。まだ終わりじゃねぇぞ。レミントンとはまた別のボルトアクションを20丁も一緒に出したから、こっちも2丁くれてやる。あとスプリングフィールドだってそうだ。これは3丁持ってけ。で、誰か!ちっこい銃見つけた奴はいねぇか!」
こいつらが喜びの咆哮あげる前に畳みかけよう、で塹壕増やさせれば静かになるだろ。ドワーフはとにかく押し切れ、出来なきゃエルフにぶん投げろ。俺は知らんぷりしたいからな。
そんな勘定をする俺に声をかけてくるドワーフがいた。こいつってドミトリで良かったっけ?見分けがつかねぇ、どうせ髭生やすならそろぞれ形に拘ってみてくれって思うわ。
「あー、その木箱がこまいの纏めて入ってんのか。それは箱ごとこっちに持ってきてくれ。で早くいじりたい奴はグワンに戻ってミニミとウィンチェスター、スプリングフィールドをいじっていいぞ。ブラッカスは残ってくれ」
恐らくドミトリ、が地べたから持ち上げてこっちに持ってくる。なんか箱が歩いてくるみたいだ、下半身しか見えねぇわ。で、体系が樽の奴も何人か逃げてった。皆して小太りなんよな、食事か遺伝か分からん。どうでも良いか。
んで拳銃弾にTHE、ガバメントって感じの1911が6丁、カールツァイスのレトロな双眼鏡が2つね。
さっブラッカスの親父と隻眼将軍ティルクも将校認定しちゃいますかな。
「これに入ってるのは俺の国の指揮官がよく持ってる奴だ。このちんまいのもマガジン突っ込んで撃てて、もしもの時に使う銃だ。でシエラとノリスさんは持ってるから分かると思うが、これは双眼鏡。これを覗くと遠くが見える。ブラッカスにもやるからちょっとでいい、静かにしててくれ」
ふぉぉって感じのブラッカス。
俺は軽く1911を見せびらかしてから、.45ACP弾をマガジンに突っ込んだ。双眼鏡はどうでも良いからそのままだ。
ノリスは分からんが、シエラは双眼鏡使わねぇからな。ニコンのライフルスコープのが倍率高くてそっちがメイン、カールツァイスのレトロな大きいネックレスにしかなってないんだもの。つまりWW2辺りのなりきり将校セットの意味合いくらいしかない。
「でこれは1911って言うんだけどね。これはライフルじゃどうしようもない距離、つまりは10ヨルド以下で使うもんだから普段は使わないかも知れない。本気出せば25ヨルド程度までは対応できるけどあんまし意味ないかな」
なんかティルク閣下が身震いしたな。接近戦に嫌な思い出でもあるのかね?いや濁った左目と左眉の傷みりゃ分かるけどさ。
にしてもブローニングおじさんの傑作は良いわ、純粋にかっこいい。厚めのスチールスライドに渋い持ち手のウッドプルーフ、武骨なアイアンサイト。手に感じるずっしりとした重さが頼もしくてしゃあないわ。ただ欠点もあるっちゃある。グリップが太い。やっぱり45口径、シングルカラムと言えど太いもんは太いしグリップセイフティも邪魔くさい。で45口径じゃデカいからキャパシティも7発で少ない。
今更だけど、グリップセイフティ削った38口径モデルが良かった気がせんでもない。つまりは競技用の何かの方が良かったかもしんねぇ。全体的にアメリカンサイズだ、威力も使いやすさも。
「今までのは小さい槍のような物ばかりであったが、それは毛色が違うな。有用なのか?かなり小さくなったが威力はどうなっているか」
死んだ魚の眼をして黙っていたティルク閣下が御下問になった。顔色が少し良くなった気がする。
いいですねぇ!ノリス准尉以外にも戦術面でアドバイスが欲しいからね、どんとこいだ。ジョン中尉の仕事はサムおじさん蹴っ飛ばして物資を吐き出させることだからな。どう使うかそっちで考えて。
「俺が用意したライフルはどれもこれも長いです。それこそバレルの先にナイフでも付ければ槍になるくらいに長いです。でもそれでしばき合うより、小っちゃい銃があった方が便利ですよね。ってことで撃ってみせるのでみててください。威力はまぁ、当たれば確認出来るでしょう」
やっぱエルフって使えるかどうかが重要なんか?ティルク閣下もそれ以外聞いてこないじゃんか。
取りあえず深い事情は脇に置いて、なんとか目の前の状況を嚙み砕こうとしてるみたいだからこのまま圧迫していったろうか。ティルクは押して落とす。
その為にも撃ちますか。現在砦の東でM1Aの試射中だから俺は西に撃とうかな。的はそうね、切り株がちょこんと一個あるからそれにしよう。10mくらいだし当たるでしょう。自信ないけど。
左手でスライドを抑え、右手でレシーバーを押すようにコッキング。左手もグリップを支えて右手の親指でサムセーフティを確かめる、ギリギリ届いたわ。マガジンリリースはこの分だと届かねぇな、左手で押すことになる。まぁ今は良いけどさ。
バンバンバンと撃っていく。7発きっかり打ち切って1911はホールドオープン、俺頑張ったよ。すっげぇ反動が重い、銃も重いからそこまで跳ね上がりはしないけどそれでもキツイ。
「...それはマガジンだったか、マガジンを入れ替えればすぐに撃てるのか?それと、見た感じではあるが鎧も抜けそうではある。なるほど、7人で50人を皆殺しにするだけの道具は確かにあるのだな」
ティルク閣下が渋い顔してらっしゃる。だが右目は生き返ったな、良いことだ。良いことだからそのまま算段に移ってくれ。これでどうやって殺すかを。
とまぁ閣下の採決は頂いたので残りを説得しましょう。
「そうです、マガジンがあればバンバン撃てます。それと鎧は撃ってみないことにはどうもなんとも...じゃノリスさん、マガジンを一つで良いので弾を7発込めてください。撃ってもらいます」
一言了解したと言って、すっとノリス准尉が弾を込め始める。おっM1Aのマガジン見てたおかげか手早いじゃん。それにノリスはレミントンからの付き合いだから、ある程度の耐性もついてるみたいで猶の事良し。
にしても鎧と防弾チョッキってどっちが脅威かね。鎧の方は、乗用車の装甲レベルなら問題ないと思うけど分かんねぇや。
「ノリスさん、じゃ1911をどうぞ。右のトリガーガードの下にボタンがあるので押すとマガジンが取れます。なんで落ちるマガジンを左手で取ってくださいね。はい、押して取って」
俺はノリスと、1911とマガジンを取り換えてもらいリロードの下準備をしてもらった。
今1911はホールドオープンしたままだ。この45オートの便利さを実感してもらうべく、敢えてスライドを解除させなかった。そしてカッコよさに酔いしれて欲しいな。
「はい、空きマガジンはこっちで貰うんでこの弾が入ったマガジンをどうぞ。で、それをいれて、そうです。そこから持ち手の右側上についているレバーを下ろしてくれます?」
俺はマガジン同士を手で交換し、ノリス准尉はリロードをしてから神妙にスライドレバーを下ろしてくれた。
エルフの軍人階級の人は素直で良いわ、指示聞いてくれるもん。ドワーフは話を素直に聞かねぇんだよなぁ。
「これで7発また撃てるのか...ふふ、ジョンドゥの道具は便利にできているものばかりだな」
「まぁこれを発明したおじさんが変態なだけですよ。で俺が撃つより当たると思うので撃ってみて、感想ください」
銃を見つめながら生返事気味な思案気のノリス准尉は、スライドを撫でながらリアとフロントのサイトを手で確認した。
まぁた当てそうな雰囲気出しやがってからに。俺は10mがせいぜいだったがノリスはどうなるよ、いくつで当てんのよ。相場は25mやぞ、超えるのかどうなのか。
俺の視線を受けながらノリス准尉は斜めに銃を向け右ひじを伸ばして構え、左肘を曲げながら左手でグリップを支える。つまり、俺の下手くそなアイソセレススタンスの見本を進化させてみせる。そこから小気味良く7回銃声を鳴らす。おっかなびっくりの俺とは全然違うテンポだな。
「50ヨルド程度までは訓練すればいけそうだな、それ以上は勘で当てるしかないと思う。威力は50ヨルド以下が望ましいかな。中々気に入ったよ」
なんかあれだな、金髪の背が高い壮年が1911撃ってると海兵隊みてぇだな。ニカっと満足げな海兵隊軍曹が訓練してるように見えるわ。准尉だけど。
それに50mっすか。よくもまぁ1911の純正サイトでやるよ、そういう風には出来てねぇんだけどな。
ただ頼れるベテランのインプレッションだから素直に信じよう。それに45口径って11㎜と少しのサイズの口径だからな。ライフル弾がそれより小さい7.62㎜で初速も早い、対して45口径は遅くてデカい訳だからまぁ50mくらいで限界なのもそうだろうから精確なインプレッションなんだろうね。
「シエラはどうよ、撃ってみるか?あとどっちにしても評価が欲しい」
「今日は良いわ、気が向いたら撃ってみる。ちょっとグリップが太いもの、ブラッカスにでも細くさせてからで良いでしょ?それと、まずまず良いと思うわよ。これがあれば後ろで援護してろなんて言われないだろうし」
木箱に入ってる別の1911を摘まみながら、蠱惑な笑みでもって可愛い不満を言われてしまったわ。はいはい、いつでも隣にいてくださいな。どうせシエラも射撃が上手いんだ、俺のSXPよりシエラの1911の方が当てるだろうしな。
ただグリップって細く出来るかねぇ。プルーフかグリップ全体を削るか、マガジンセイフティを外すかになると思うけどどうかね。ただ俺とシエラの手ではちょっとキツイから追々なんとかしよう。
「じゃぁ採決は通ったんで、6丁ある1911はそれぞれ俺、シエラ、ノリスさん、ティルク戦士長、ブラッカスおまけにジルのお爺さんの護身用とします。追加のカールツァイスの双眼鏡はそれぞれブラッカスとティルク戦士長が持ってください。んでシエラが言ったけど、どの銃に関しても性能に問題のない範囲でなら改造していいから。だからブラッカス!個々人の希望に対応してくれるか?」
幹部要員の座が確定したことにティルクは複雑そうな目をしたけど無視だ、無視。後はブラッカスを押し切って閉廷でございますね。
で、シエラが気にしてる1911の太いグリップもそうだけど、どの銃も色々いじれると思うんだよね。
ミニミだったらストックとかハンドガードとかの金属部品を肉抜きして軽量化、空挺モデルみたいにしても言い訳で。ボルトアクションもM1Aも木製ストックだけど、エルフは木工得意なんだから自分でストック作っても良い訳なんだよ。
そうです。うちは森林戦の専門、特殊部隊です。それにジョンドゥの提供は官給品じゃないのでバンバンやってくれ。
「...良いんかいのう?バラして組み上げるだけでも凄まじい量の知見が得られるんじゃぞ。儂らはいつかマーリンドの工房で再現するなんて夢を持てたんじゃ。もっと貪欲になってもよいのか、いじくりまわしてもよいのか?信じてくれるんか」
何、らしくもなくしょぼくれてんだ。銃の技術力に怯えでもしてんのか?今まで改造はしなかったのはそういうことなのか?
なぁ時計を作った腕を信頼しない訳がないだろ。カルティエような出来栄えの素晴らしい一品だったんだぞ?あんたらの手先の精密さはCNCマシンと勝負できんだろうよ。
まぁ個人的にはGショックが欲しかった。指揮官日本人だし。
「俺はドワーフ以上の職人を知らねぇよ。銃を作りたいってんだったらバッチリ協力するぜ。だからもっともっと、俺は頓珍漢な奴を出してくから今出した奴くらい易々と弄ってくれや。後でジルのお爺さんかシエラに紙に纏めてもらって渡すからよろしくな」
「...任せるんじゃ!あんたのウィンチェスターのストックと、撃針周り以外なら大抵はなんとかなるわい。特に材質、金属は取り換えれるのう。やたらスチールとレッドに拘っとるがの、もっと良いのあるじゃろ?オリハルコンとかアダマンとか」
ブラッカスって仕様の話だと割かし静かに話すんだな。確認事項では熱くならんのか、覚えとこ。
で、樹脂製ストックと撃針とか雷管とか火薬は駄目な感じね。それはそうかもな、工学より化学って感じな分野だしな。
それは別に良いけどさぁ...なんぞ出鱈目なワード出したな。なんだそのクッソファンタジーな金属は?
はぁ意味わからんわ。でそれ使うとどうなるの?ファンタジーなの?
「代替する金属の候補の説明を頼む。使うとどう変わる。スチール、レッドと比べた時の利点はなんだ?」
「こんなもん作れてそんなこと聞くんかい、大分変るじゃろうが。簡単なところじゃと...弾丸が柔らかい方がよい理由がよう分からんからあれじゃが、アダマンタイトのがアイアンよりも比重が重い硬い弾丸になるわい。オリハルコンであらば硬くて軽い弾丸になろうよ」
大真面目に言ってるの、徹甲弾要らないのって聞かれてるの俺は?糞ファンタジーなアーマーピアシングを奨められてるの?
分かんねぇ。ドワーフは何考えてんだ、銃をどうしたいんだこいつら。結局は爆発起こして飛ばすだけなんだから、火薬でも代替手段でも見つければ作れる訳でさ。で割かし作れそうな気配出してる感じだしですぐ作ると思うんだ。でも何作ろうとしてるんだブラッカスは。
「あんまり硬いとバレルの溝が機能しないと思うんだがその辺どうなんだ?」
「食い込まなければいけんのか。弾丸はスチールと混ぜて合金にでもすれば多少使いやすくもなるわい。そこにヒヒイロカネとオリハルコンの合金のバレルでも用意すれば、うんいけるのう」
分かんねぇ、全てが分からねぇ。ファンタジー素材でどこまで行くつもりなのか、そもそも出来るもんなのかなんにも分からん。
でもなぁ、劣化ウランとどっちが抜けるかなぁ。気になるわぁ、超気になるわぁ。
「あとミスリルじゃ。ミスリルは柔らかいがそれはレッドも同じじゃ、じゃがミスリルは魔力を通せるから色々出来るわい。それにこれはすぐじゃのう」
こっちは良いや。俺には知見がない、何が出来るか全くわからん。好きにやってくれ、結果だけ教えてくれれば嬉しいわ。なんかドラゴンブレス弾とか出来そう。まぁそれはちゃちな焼夷弾なだけだけどよ。
「取りあえずは分かった。まぁ色々やってみようや、ポンポン作れるもんかは知らんが合間合間に楽しんでくれ。あと、これから改造したときは後で良いから報告は欲しい。結果が良ければ皆のもやってくれな、それで死人が減る」
「ふん、減るのはエルフで増えるのは人間じゃろうが。じゃが儂の知ったこっちゃないから、意見が貰えりゃどうでもいいのう。そういうことじゃからエルフ!なんでも好きに調整してやるからいつでも持ってこい」
ブラッカスは胸いっぱいのおもちゃを大事そうに抱えてお行きなすったよ。
ただあいつらは銃作って何する気なんだろうな。ブラッカス達は西部ドワーフだから戦争抱えてないって言ってたはずなんだけど。
「なぁシエラ、銃なんか作ってブラッカスはどうするんだ?何に持ち出すんだ?」
「知らないわよ。作りたいから作るんじゃないの?サウスエルフ相手に格安で武具を売る理由すら分らないしね、案外取引先が少ないのかしら。ただ分かることはサウスエルフに潰れて貰っては困るなんて言うのは都合が良すぎるってことくらいじゃない?」
ああ何、食料と武具の交換って格安なん?そこだけ聞くと優しい死の商人やな。字面が最悪か。
それに、口に指2本あてて思案なされたシエラお嬢様が分からんなら俺は猶更分からん。良き隣人なら大事にしときゃいいだけだし、何でもいいか。
「それでジョンドゥ、塹壕を増やすと聞いていたがそれは良いのか?」
やっべ、最後にとちった。ドワーフ工廠の個人向けカスタム業の開店に気い取られてたわ。
もう全員工房に引っ込んじまってる。導入した銃器は4種類だからそんな掛からないとは思うけど、めんどくせぇな。
「ああ、ティルク戦士長。タナモ陣地の4つの屋根付き塹壕を8つにするんですけど、それをバーリンから2個分隊出してドワーフを手伝ってやってください。んで4分の1くらい円周になるように繋がった塹壕を掘ってもらう予定なんですね。ドワーフに」
「既に立っているのと同じものを増やすと?それと西の渓谷に当たるところから東の土壁の辺りの渓谷に当たるまで空堀を作る。了解した」
すまん、後任に振る仕事じゃないのは分かってるんだけどさ。フォールの上役二人が酸っぱい顔してるから頼んだ。
あれね、この人はドワーフ苦手じゃないのかね。辺りを見渡す顔が嫌そうじゃないんだが。
「空堀は二重におねがいします、それと適当に連絡通路もつけといてください。でドワーフは忙しいかも知れないんで明日で良いです。こっちも新しいライフルに慣れないといけないんで、合間合間お願いします」
「狩り長は面白いことを考えるようだ。空堀は我々が使ってもよいし、敵の足止めに使ってもよい。装備は我々の方が軽装なことが多いであろうから此方の方が堀を上手く使える。それに失っても惜しくない程度の作りだから此処自体を罠にも出来る」
そう言う感じか、築城が好きな感じか。あだ名は勘助でどうじゃろう。
それによう分かりますねぇ。爆薬で吹き飛ばすとこまでは計算に入ってることを。
「国軍が来ても大丈夫な作りにするつもりです。一度に1000人くらいは屠りましょう」
良い笑顔になったんじゃなかろうか。やっと目じりが上がったとこが見れたわ。
こんなところで満足だろ。シエラ姫。
「さぁ今日はスプリングフィールドよ、あれは私も偶に使うつもりだからね。ほら、皆で射ちに行くわよ」
ノリスがティルク戦士長みたく成ったらどうしよう。そんな不安があったかは知らんが、俺のティルクへの無茶振りに眉を顰めていたシエラの機嫌が直ったみたいだな。足取り軽やかに向かわれる。
取りあえず、森林猟兵中隊はこんなもんで良いか。後は新しい玩具でピクニックでもしよう。