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さあ!再編成の時間ですわよ!勝手に増えたやる気モリモリ金髪エルフ、弓の狩人たちをキリングマシーンに変えるべく、俺はアクションを起こしてやるぜ。
でやって来た彼らは全部で28人だった。それを足した今の人員は、フォール出身の復讐者16人、コルディ出身のウキウキな16人、遠い昔にバーリンの里から落ち延びた20人になりました。大きいところはこんな感じ、小さいところは俺とシエラにマリアの3人、ブラッカス率いるドワーフ整備班8名、それと良く分からん学者エルフのジル翁って感じ。
ちなみにコルディから来たアルキス戦士長は帰って行きました。色々報告するんだろうな。俺はエルフ内の政治は興味ないのでレミントンを4丁差し上げて送り出しておきました。ついで警固にサール分隊を付けてもいる。お国で賞賛でもされてこい、願わくば休暇のあることを。
それと装備更新も大事だけど、我らがグワンタナモの防備も大事だ。砦と銃火器を組み合わせてこその防衛力だからな。こっちのことも考えないと。
まず立地の状況からだな。アルファンは北西から北東に縦長の森になっている。この森を長方形に見立てて、縦に二つ折りすると中心線の折り目ができる。その中心線に乗っているのがここグワンタナモ砦。これが大きく見た時の立地。
小さく見ると、テトリスのSブロックみたいな↓←↓に流れるせせらぎが作ったミニ渓谷を跨いだ陣地になっている。北側陣地グワンと渓谷を跨いだ南側陣地タナモ、グワンタナモというのが俺の城。一国一城だ。嫌でもやる気出るよなぁ。
でキャンプグワンは徐々に発展している。住居が増えたのが大きな変化だ。
グワン陣地の西、二つの陣地を繋ぐ丸太橋をタナモ側から渡って右は渓谷の曲がりの外側になっている。曲がった川の外側は拓けてるもんだ、ここも拓けていてみんなが渓流から取水する場所にしている、そんな感じの地形だ。今回そこに追加の人員たちの住居ができて発展した訳だ。いつも通りにエルフとドワーフの連合工兵は凄まじく、3軒の竪穴式ログハウスをすぐに作ってくれた。ペースが良くて何よりだよ
橋の目の前の2軒、右に倉庫が1軒、そこから降って3軒、十分やな。どの家屋も、橋から左の小丘の塹壕より低く仕上げたからね。十分十分。
一方、南に渡ったキャンプタナモは十分じゃない。
全体的に東から西に傾斜がついて険しいグワン陣地に比べると、木々を伐採した平たい土地に屋根付き塹壕が4つだけのタナモ陣地は寂しい。これは手に入れないといけん。堅くできるときに硬くせにゃいけんな、人数いるしな。人数に見合った陣地に変えてしんぜよう。
今の俺は54人のエルフを抱えている。軍隊で言えば、3個小隊だ。各小隊は欠員しているような人数かもしれないが、それでも中隊に手が伸びている。アルファチームから始まってブラボー、チャーリーときた訳だ。目指せデルタの追加、デルタフォースになろうぜよ。小隊指揮官のジョン少尉は中尉に昇進したのでそういう風に頑張っていきたいねぇって感じ。
そんなわけで我が似非中隊を用いて、陣地に武装に拡充してまいりましょう。
寂しいキャンプタナモに集まったエルフ諸君、準備は良いかな?
「ジョンドゥ、初めてくれ。皆狩り長の言葉を待っている」
キャンプタナモに背を向け、南を見る俺にノリス軍曹が和やかに呼びかけてきた。
ノリスは俺の右に控え、前には分隊づつに立ち並ぶエルフたちがいる。一番右からノリス分隊の女性陣が縦に3人、右にずれてカルロ分隊が縦に4人といった感じだ。フォールの3個分隊、コルディの3個分隊、バーリンの5個分隊と立ち並ぶ人数が多いこと多いこと。
これはあれね、指揮官を増やさねばいけんな。
「まずティルク戦士長。列から外れて、ノリスさんの右に移ってもらえますか」
ううん、苦渋の表情といった感じだな。恐らく剣で着いたであろう戦傷が目立つ左目が、濁りを増した風に見えるもの。無事な右目の視線もわずかに下に揺れたしな。
「私は敗軍の将だ。一兵卒でよい」
それじゃ困るんだよなぁ。既にフォールの16人はノリスが纏めてる。コルディだけならこれもノリスにやらせるよ。でもバーリンの20人も、ってのは一気に増やしすぎだ。
それとノリスもそうだが、あなたもベテランだ。俺が小隊付き軍曹を重んじるように、年季の入った小隊長も重んじよう。そうじゃないと纏まることも纏まらないわ。
「19人はあなたに付き添って来たんでしょう?私はその紐帯を尊重します」
あんたは周りを見てくれ。そのしょぼくれた目で過去を見るのを辞めてくれ。
見た目の話になるが、フォールのエルフは高校生からアラサーぐらいの年齢層だ。コルディも右に同じだ。だがバーリンは違う。若くてアラフォー、還暦くさいのも交じってる。だからノリスは若者の取りまとめ役にする。あんたは年長組の尻叩きをやるんだよ。
で俺が上役じゃ動かんなら手は他にもあるからな。借りれるものは猫の手でも使う。うちには血統書付きの美人なお猫様がいるからな。
どうぞ言ってやってくださいよ、俺の目配りに気づいてよ。ほらほら。
「...フォールはバーリンに、道が通じると信じるわ。今ここに在るバーリンにね」
俺の左隣で、溜息交じりになにやら諭したシエラ様。
ただ、その溜息と言葉は、憂いていたのか呆れていたのかは知らん。道ってなんやろね、道理のことか?これだからエルフはよく分からん。そういうのは俺に言わんでくれな。どう受け取っていいか分かんねぇよ。
「二言無く...狩り長に、ジョンドゥに身を任せると誓う。いずれ、フォールに風を吹かせることもな。では頼んだ」
アンニュイモードなシエラに応えるティルクは武人モード全開だった。
言葉を溜める時は眉間に皺を寄せたというのに、よく分からん誓いは、頬を撫でつける風よりも穏やかな面持ちで立ててくるではないか。んで相対する列に移る足取りも軽かった。
いやぁ突っ込まんとこ。政治は俺の範疇にございません。俺はいつの日か、記憶にございませんと言う為に流しておこう。
「これで満足かしら。あんまり苛めないでくれる?だからちゃんと前に進めてね」
分かってるよ。バーリン勢がなんとなく死兵に近い雰囲気なのは把握してるよ。
だから生きて前に足を運ぶんや。今日はその為の最初の一歩を刻むんだ。全開フルスロットルで行こう。エルフと共に。
俺の左には今日もご機嫌麗しいシエラがいる。まぁ今はちょっと顎の方に唇寄せて、渋い気持ちを主張しているがね。
俺の左に控えるのはシエラだけじゃない。マリアだっている。今日も今日とて従卒として着いてきてくれる。緩いボブカットの愛らしい娘っ子はやる気バッチリに、俺の目線に頷きを返してくれる。
それに右隣りにもノリスがいる。ニヒルな笑みを浮かべて俺の指示を待ってくれる。頼れる軍曹が、期待を顔でもって伝えてくれる。あと軍曹から准尉に昇進だな、兵卒上がりで小隊指揮官に出世するからな。喜べ仕事がが増えるぞ、待ってるぞ。
でそのもう一個右には気分が持ち直したティルク閣下が加わってくれた。祖国の土を踏ましてやるからな、ガンガン行こうぜ。
それに俺たちの前にだって沢山のエルフがいる。高校生くらいのから定年くらいのまで、随分と幅がある集団がいるんだ。ウッキウキな奴から無感動な奴までいっぱいだ。期待に不安に胸がいっぱいそうだな。
「自分の家に帰ってもらうだけだけだから。気合を籠めるのはその後で間に合うさ」
シエラは鼻を軽く鳴らして瞑目なすった。
心配なんざ入りやしやせんよ。チャンバラ連中になんか良いようにさせんわ。
むしろ俺が気合入れていかなきゃな。ガッカリなんてさせてやれねぇよな。
だから伝えよう。グワンタナモ砦は蓋にするために作ったんじゃない。森の南西に作ったこの玄関は閉じる為じゃない。出かける為に作ったんだ。
お出かけの為にバスケットを用意しよう。水筒にはお茶を入れよう。ついでなんかスポーツもやりたいよな。野球とかどうよ、攻守がハッキリしてて丁度良いよな。
「追加の兵員の人達はグワンタナモにようこそ!そして今日まで付いて来てくれたみんなもありがとう。取りあえず歓迎会をしたいと思うんだ、それもコルディの人達への詫びも兼ねて。今まではフォールしか銃を持たなかったから、コルディの人は疎外感を持たせてしまってたよね。ごめん。バーリンの人もそれを知って不安になっていることだろうから申し訳ない。だからお詫びじゃないけど、皆が一つになれる手伝いを、俺はしたい。だからプレゼント替わりに、皆にライフルを配る。今日、この日から、皆はライフルを持ち同じ矢じりを放つ。同じ敵を撃ち、皆で同じ土を踏む。森を、エルフの森を一つに纏めよう」
さぁ装備の更新だ。俺だけやることないから一生懸命考えたんだ。
中隊崩れでも中隊だ。俺は中尉昇進だ。さぁ仕事道具を補充するかね。
瞼の裏の住人がニンマリと、あくどい笑みで迎えてくれる。
にしても嬉しそうやな。なんぞ良いことでもあったか?両手の平を上に向けてこう、信じられない!みたいな顔してるけどどうした。
「パイオニア!広がったみたいだな!今度は何やった?」
エルフが増えて、ドワーフが前より協力的になったぐらいだな。
シエラが偉大な一歩って言ってたよな。じゃブラッカスか?判定がよく分からん。
「現地民が増えた。前のは目が良い奴で今度は機械いじりが上手い奴だ。フロンティアでいいんだよな?広がったってのは」
なんか、瞳を閉じてウンウン頷いてるけどよ。お前が一番出鱈目なんだからさ、さっさとなんか教えろや。おどれ俺に何させる気だ。
「そうかそうか。暫く来ないと思っていたが順調そうで何よりだ。で、良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?」
早速、訳わかんないのが来たわ。良いとか悪いとかじゃねぇだろ。ここまでよく分からん要求と謎の支援をしてるだけで良いも悪いも判断つかねぇことしかしてねぇだろあんた。
「よく分からねぇから一編にしてくれ。で、フロンティアってのはなんだか聞けるようになったか?」
おい、頭を被ってんじゃねぇぞ。手までつけて大仰にしやがってよ。
だいたい日本人よりヤンキーのがせっかちってもんじゃねぇかよ、コメディアンみてぇなことしやがって。出来の悪いコメディはあんたのダサいネクタイだけで十分だ。
「ふぅ、良いニュースは取り扱いが増えて、かつ選べるってことだ。悪いニュースはあんたのキャパシティが足りねぇってことだ。あとそうだなぁ...フロンティアが出来上がらないとそれ自体が何なのかは把握できないだろうな。ジャパニーズには言っても理解できない話だからな」
人種差別かましてんじゃねぇぞ、ブラック以下とでもいうつもりかクソ野郎。
と思ったところで島国出たことない俺には、本当に差別されてるのか分からねぇんだけどよ。サムおじさんで言われるフロンティアってなんだろうなブルーオーシャンかなんかか?ほんと分かんねぇ。
「フロンティアはもういい。で鉄と油で次はなんだ。もう増えたのか、選べるのか?俺の容量ってのはなんだ」
サムは顎に手をやり、途端にクソ真面目な顔になった。
仕事は真面目にやるのか。海の向こうの人間はオンオフの激しいこって。
「あんたの方の問題で制限が掛かる。詳しいことは省くが、そうだな俺が持ってる倉庫に置いておけるスペースがない。目録は無限に増やせないってことってことにでもしておこう。増やすとしたら大きいカテゴリーであと一つになる、おススメはオートミールかフロックコートだ。取り扱いを増やすか?」
どういうことやねん。サムおじさんに置けない物なんてねぇだろうが、デカいことに拘ってるくせに小せぇこというなや。
もういいや、出鱈目は今に始まったことじゃない。そんでオートミールは食料でフロックコートは服飾か、その二つからねぇ...選ぶなら、困ってんのと便利そうなのとで服か。だけど急ぎじゃねぇな。
「急ぎじゃねぇから取り扱いは今のままでいい。それよか銃だ。戦争が近いかもしれない、中隊崩れを武装する」
「油は軍用がいけるようになったぞ。鉄でも油でもどんとこいだ。ただしネックはそのままだがな」
まぁたオールドグローリーいじりやがって、ホントあんたの国は偉大だわ。世界を自分の都合で警固する力は偉大だな。
まぁ軍用の乗り物は素直に嬉しいか。でも使えるもんあるか?思い浮かばねぇ、ハンヴィーあっても通れる道ないし。バイクくらいかね、今度貰うか。
「7.62x51㎜弾で揃えて武装する。スプリングフィールドのM1Aとウィンチェスターのモデル70が欲しい。両方ともウッドストックと22インチバレルに揃えてくれ。それと軽機関銃も欲しい、ミニミを7.62㎜に換装したのがあったよな?それもくれ。まだあるぞ、モデル70はシュミット&ベンダー辺りのスコープを載せておいてくれよ」
「なんだなんだ、パイオニアは中東かアフリカにでもいるのか?モガディシオってのはマジだったのか」
大口注文に口をあんぐりなサム。目が細まって眉間に皺が寄ってるわ。
そりゃそう思うよな。大口径の小銃弾だもんな、俺だってそう思うわ。なんで森でこんなん持ち出すのかな...頭おかしいわ。
「これでもぶっぱなすのは森なんだぜ?冗談みたいだろ。こっちの射手は腕が良いからこうなっちまった。それと将校用に拳銃をくれ、あんたの国の傑作が欲しい。せっかくだからこれもスプリングフィールドにしとくか、今となっちゃこっちが本家本元だしよ。物は1911、5インチバレルにウッドプルーフ、勿論45口径だ」
コルトは潰れたようなもんだからな。WW2の時に大量生産してた国営工廠が本家扱いとか寂しいもんだよな。ウィンチェスターは持ち直したように見えるのが救いか?どうでも良いけど。
「なかなか兵隊が揃ってきたじゃねぇか。どんくらい持って行く?」
「セミオートライフルが50丁、ボルトアクションが20丁、ライトマシンガンが10丁。ガバメントは6丁で良い。弾薬の方は7.62㎜が1万発、.45ACPは300発もありゃ良いな。そうだ、将校が増えたからな、カールツァイスのあれも2つおまけでくれると嬉しい」
ちょっと多いがまぁ、ブラッカスたちへの礼に丁度いいからこれで行こう。あと将校に双眼鏡と拳銃持たせりゃ箔がつくだろ。エルフの上下関係は分からんけど、それを維持するのに役立てて欲しいもんだな。
「初期のベトナムだな。ブラックライフルが欲しけりゃいつでも呼んでくれ。で今までの弾はどうするんだ?」
あー、フルオートは要らないです。小口径も今のとこ要らん。もっと射撃が下手な奴が来たら頼むから。
そうな、レミントンがめんどくさいんだよな。あれは全部サウスエルフの里にくれてやれば良いか。ドワーフがリバースエンジニアリング出来れば彼らも、というか俺が居なくなった後も何とかなるだろ。
「.300WinMagはFMJに変えて、ショットシェルはこれまで通りにOOバックで適当にくれ。40mmグレネードもそこそこ欲しい。だけど30-06は取りあえず要らないな。そういやカートリッジだけじゃ意味ねぇか。M1Aのマガジンは10発の方にしといてくれ、装備重量が心配だからな。ってことで軽機関銃のリンクも50発までで良いや」
そうそう、今ままで猟銃に拘ってたのは装備重量がネックだったからだ。エルフは気持ち華奢な体つきだから、あんまり重いと苦労すると思うのよね。思うだけだがよ。
「注文が不完全だな。7.62㎜はFMJ、45口径はJHPにしておく。あとM1Aはスーパーマッチ、モデル70はスーパーグレード。それと1911はミルスペックがいいだろう。ライフルスコープはクラシックBDHLで4-16X50だ、800ヤードを目安にな。あと山盛りのカートリッジとマガジン、それとMk48にリンク。オーダーはこんなものか、持って行け」
そこそこ厳しい目でサムに見られてしまったわ。こりゃ俺には輜重は無理だな、あれもこれもって感じだわ。大口注文すぎたな、今度からはもうちょっと計画的に行こう。
「俺はまだまだフロンティアが欲しいからな。好きに広げてくれや、パイオニア」
大丈夫だ。俺の眼は森の外に向いてるからな。
俺がいる将校の列と兵卒の列の間にドカンと木箱が並んだ。今回は木箱なのか。
にしてもやべぇ大量の木箱だ。一個一個がでけぇしよ、ちょっとやりすぎたかも知れない。
「...ちょっとこれ多すぎない、こんなに出せるものだったの?」
端正な顔が歪んでいらっしゃるシエラ副官。そんなへの字になさらなくても良いじゃないの。
そうねぇ、レミントンの時でも多かったけどさ。それよりすごいのがいっぱい来たからねぇ、じゃんじゃんいくよ。巻きで進行するから、へそ曲げるのは許しません。
「まぁ多いけどさ。でも多いから説明することいっぱいなのよ。ってことでノリスさん、腰の鉈でもって片っ端から箱を開けてください。中身は取りあえずそのままで」
おっかなびっくりな准尉ノリス。腰が引けてんぞ。別に爆発なんかしねぇよ、40mmグレネードだって信管にセーフティあるから弾けないからな?着発信管だからこそ安全性があるのよ。まぁそんなこと考えてる訳じゃないと思うけど。
「今度は何が出てくるんだ?」
ククリナイフみたいな鉈でもって、てこの原理で開けていく准尉殿。
聞くより見た方が早いんじゃないの?まぁ見てもレミントンと違うくらいしか分からなくて、そう言うんだろうけど。
で今開けたのは小銃弾が入ってんのか。宝探しやな、取りあえず。
「今回はレミントンと違って、別の道具と組み合わせるのが多いです。なんでじゃかじゃか開けてください。俺もどこに何が入ってるか分からないので全部開けましょう。じゃ皆も開けてな」
駄目や、フォール組しか動かねぇ。コルディ組はこれが噂に聞く...って感じだし、バーリン勢は固まった人ばっかだ。
そうね、君たちは慣れてくれればそれで良いや。
ほら、そこの運動部、君たち若いんだからさ。じゃんじゃん開けるっすよ。
「これ、レミントンに似てるっすねー。でもシエラ様のサコーに付いてるのがあるっす」
おお、狙撃銃の20丁が見つかったわ。ウィンチェスターのモデル70だね、レミントンと同じボルトアクションだからそりゃ似てるよ。そもそもレミントンのボルトアクションはウィンチェスターのモデル70の委託生産が切っ掛けだからね、今度は先祖を使ってくれや。
でこのボルトアクションを社名で呼ばせるか迷う。俺のウィンチェスター社製の散弾銃と呼び方被るしな。どうすっかなそろそろ形式呼びさせてみるか?M2重機関銃はM2で呼ばせてるし大丈夫だとは思うんだけど。
良いや、選択肢出して決めさせよう。
「そうそう、だいたいレミントンと一緒だから。上についてるのはスコープっていって、覗くと遠くが見える。使い方はシエラが知ってるから皆、後で聞くように」
いつまにか箱のすぐ前に立つ俺をエルフ達が囲んでる。まぁノリスが大きく一回手を叩いたからだけどね。
おずおず頷くのも居れば、宇宙猫みたいな顔の奴もいる。つってもエルフが興味あるのは機械的な作用でもスペックでもなく使い方だけだ。説明楽だし短くすむしで聞いてくれてればそれで良いや。
「で、カルロ分隊長。それの名前を決める権限を上げよう。選択肢を言うから選んでね。ウィンチェスター、モデル70、狙撃銃。どれにする?」
お前も宇宙猫になるのか。そうね、いきなり言った俺が悪かったよ。そりゃ困るよな、あんまり馴染みが無い単語ばっかだからな。選ぶっても基準が掴めないよな。
ただようやっと顔の動きを再開させたカルロ運動部部長は決めたみたいだ。いや決めたよな?なんかうーうー唸ってるけど決めたよな?
「...ウィン、チェスターでいいっすか?」
こういう風に困らせても健気に答えを寄越すのがこう、体育系みたいなんよな。無茶振りに答えさせられる後輩だわ。ごめん、意地悪な先輩でごめん。
「はいウィンチェスターに決定!いい?ウィンチェスターだから!ってことでこのウィンチェスターなんだけど、使い方はレミントンと変わらないので後日に回します」
ふおおと応えるエルフさん達、牧歌的な光景ですね。木箱開けてんのフォール組しかいねぇや。まぁホストはフォール組でゲストはそれ以外だ。別に良いか。
でその20丁の狙撃銃は選抜射手用だ。セミオート撃って優秀な結果出した人材に回すから今日は良い。にしてもどうやって選ぶかね。分隊長の推薦か射撃大会でもやるかだな、猶更後日で良いや。
「狩り長!これ、ハンドルが妙です。さー」
マリアがM1Aのピストンレバーをカシャカシャしてるのが見えた。
あかんて、勝手にやっちゃ。まぁ弾も入ってなければマガジンも入ってねぇから撃てないけどな。
で、この辺の木箱がM1Aか。50丁は流石に多いな、やりすぎた感あるわ。でも戦争なんや、手加減できん。
「それハンドルじゃなくてレバーな、それ貸してみ。ノリスさん!そこの木箱の弾10発と、今開けた木箱から鉄の箱一個取ってこっち来てください。ウィルキー、手伝ってあげて」
俺を親鳥にしたみたいにぞろぞろ追いかけて囲むエルフ達を尻目に、俺はマリアからM1Aを受け取って機関部右脇のレバーの感触を確かめる。固いわ。一応民生用なんだけどな、もうちょっと引きやすいかと思ったわ。俺がひ弱なだけか?
「ウィルキー、一回このライフル持ってて。その鉄の箱は俺が貰うわ」
「ハハ、またしても珍妙なのが出てきましたね」
ウィルキーは激しく苦笑した。戸惑いがすげぇわ、顔はくしゃっとなって目が開いてんのか分からんくらいに細まった。
そりゃ珍妙なのは認めるけど、今まで以上に珍妙だからな?世界が変わるぞこのライフルはな。
「皆いったん注目!木箱を開け終わっていなくてもいったん注目!俺の近くの人は座ってください、皆見えるとこに居てね。大事な説明するんで」
フォール組も俺を囲みだす。50人もいるからな、ちょっとした講義みたいなもんだよこれ。青空教室で良かったわ。グワンタナモにある家屋の室内じゃ無理だな。
「この鉄の箱がマガジンと言います。これで世界が変わりますからね、マガジン覚えてくださいね。でノリスさん、一発づつ弾をください。んで弾が入るの分かります?」
レミントンで世界が変わったノリスが、うへぇまた変わんのかよってな感じの表情しながら俺に弾を渡してきた。口はあんぐり、目じりは下がって困り眉。そうだよ変わるんだよこれでな。
そこから俺は体を回しながらマガジンに弾を込めるのを見せた。皆訝しげだ。そうだよな、レミントンにはそのまま機関部に突っ込んでたからな。こんなちゃちな鉄の箱に突っ込んでもしょうがないと思うよな。
「ウィルキー、ライフル頂戴。良いか、よく見ておけよ」
さっきは凄いライフルなんだと期待して、またとんでもない武具なんだとドン引いて苦笑したウィルキー。今度も目は細めたが、どうも困惑の為らしい。回りくどいと感じたっぽいな。
気持ちは分かる。レミントンなら直接込めて終わりなのにマガジンに込めなきゃいけないのは面倒に感じるだろうよ。要らない作業が増えたように見えるだろ?
でもそうじゃないんだ。
「ここに穴があるだろ?でマガジンを差し込む。そこからこのボルトハンドルに似ている突起、ピストンレバーを引く。良し、そこ開けて!試射するよ!」
俺は行進する儀仗隊のようにM1Aのストックの底を左手で、バレルを左肩で支えて持ち、くるりと回りながら右手に持ったマガジンで差し込み口を叩いて示し、そこから皆が頷くのを見てからマガジンを差し込んだ。んで固いレバーは気合で引ききって、吠えるように指示を出した。
取りあえず、今いるタナモの東側を開けさせたけどこっちで良いか。100mくらい先あるドワーフ謹製の黒い馬防柵を的にしよう。
それと馬防柵っていっても材料が土だから低めだし、銃眼に出来そうな四角い窓がところどころあるから馬防柵でもない気がする。それは今どうでも良いか。
俺は空いていた右手でグリップを掴み、左手はハンドガードに移す。そこからずっと上を向いていた銃口を下げ、右人差し指をトリガーガードの中に入れる。ガーランドから続く、丸いリアサイトに3本ニョキっと生えるフロントサイトを合わせる。
さぁ、M1Aだ。セミオートだ、自動小銃だ。ボルトアクションとは違うのだよ、ボルトアクションとは!ってな気概でもってトリガーを引く。
―――ダン、ダン、ダン
取りあえずの3連射。驚いてくださったかな?歩兵火力がまた上がるぞ。ふっふっふ。
まぁ狙った銃眼の穴を通せずに黒い土壁に3つ跡つけちゃったけどな。反動キツイし立射するにはちと重いわ。日本人には無理だこの銃。俺は手がプルプルするわ。
「...ジョンドゥ。それはもしかして10発連続で撃てるのか?」
ノリス准尉、苦しそうな顔してるとこ悪いけどイエスですわ。相変わらず理解は早いけど、胃が痛そうやな。手で押さえてやんの。
まぁ慣れてくれ。次の主力はこの子だからさ。
「マリア、あと7回撃ってみてくれ。感想が聞きたい」
言えた義理じゃねぇけどさ、なんかプルプルしてっけど大丈夫かこの娘。風に揺れるボブカットより手が震えてるぞ。
んな心配する俺の視線の背に、マリアはライフルを構える。レミントンと同じ22インチのバレルを東に向け、レミントンと同じ木製の曲銃床を肩に当てる。そんな手馴れたいつも通りの手順を踏み終わる頃には多少は震えが収まった。
こいつら俺より扱いが上手いからな。心配するだけ無駄やねん。
「ふぅ...射ちます」
小さく息を吐いてからダン、ダンって撃っていくマリア。
ホント手馴れてるわ。皆さんもそう思ってるから、静かなんでしょ?急に静かになったからびっくりだわ。マガジン突っ込む時まではほーとか、はーとか、反応があったっつうのにね。
...いや分かってるよ、セミオートに衝撃を受けたのは。そうな、レミントンでもヤベーのにもっとヤベーの来たかんな。でも慣れろ。じゃなきゃ戦えねぇ。
「マリア、感想くれ。それレミントンと違う弾使ってるんだけど、どう?今後はこっちに切り替えるから」
どうですかね。比較的には似てる弾だけど、違うもんは違うからな。
銃声聞いてキリッとしたかいつものアヒル口に戻ったし、頭も回るようになったでしょ?
「レミントンより反動が軽いです。さー。それと軌道が綺麗に飛びます。600ヨルドまでならレミントンに勝てます」
そんな大真面目に何言ってんだこいつ。上瞼が下がった寝ぼけ眼でぼんやり断言すんなや。
何を撃ったんだ。これってあれだろ、600m先のなんかに当てたんだろ?で取りあえず600mって言ったんだろ。ほんとエルフの射手は常識の外で生きてるわ。
うん、問題ないことが分かったから俺はもういいや。うん、仕事せな。驚いてたらきりないわ。
「...使えるみたいね。マリア、ありがとう。この銃の名前はスプリングフィールドね。はい、覚えた?スプリングフィールド。全員に1丁預けるから皆練習するように。でシエラ、このスプリングフィールドの弾が7.62㎜って弾でさ。今後はこれがメインになるんだけどどう思う?スプリングフィールド含めて」
そうなんよ。シエラに了承してもらわんと梯子が外れてまう。エルフ中隊は合議制なんだ。戦闘兵科のノリス准尉は兵器選定くらい押し切ってもいいけど、運用思想含めた時に高官の娘のシエラに拒否られると大変なことになる。もう着いて行けないわねって人員引き抜かれた挙句に無一文になるのは不味いのよ。
まぁ当人は口すぼませて頷いてるから大丈夫そうだけど。
「まぁ良いんじゃないかしら。これで距離を詰められても対応出来そうだしね、悪くないと思うわよ。でも問題が出来た。ジョンの所為だから、私は関係ないから」
まずまず感触の良い回答から不穏なワードが飛び出した。
急に態度を変えたな。こめかみ抑えてどうしたよ?前半は思慮しながらだったけど、どうして着地がそうなったよ。
―――儂をなぜ呼ばんかァい なんぞ出しおったァ 見せろォバラさせろォ
ああ、そういう。そうな、餌放り散らかした俺が悪いな。
でも大丈夫だ、こういう時は餌をあげれば満足するからな。自分だけ貰えないと思ってるブラッカスにもちゃんと用意してあるからよ。で、ついでに仕事も押し付ければ静かになる。ほらハッシュパピーは沢山あるぞ。