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今は5月中旬から6月くらいか?
俺は自然主義者じゃないから分かんねぇや。時間はドワーフが分かるらしいが暦は使ってんのかね。エルフは春夏秋冬より細かくは言ってこないから、もし異世界に暦があるなら使ってるのはドワーフだろう。
でも暦はどうだっていいか。ってか太陰暦だったら俺が対応できないわ。あと時間や暦って言えば、すげぇアンニュイな気分になる。短い間に色々ありすぎて疲れるわ。
1匹と3人のストレスの中でシエラと出会い、そこから一週間くらいでフォールの里を出る。次の一週間はグワンタナモ砦のとんでも築城、さらに捕虜を取ったとこから2週間くらい経つのか。
さらっと並べたけど激動の日々だよこんなん。出鱈目だ、出鱈目な世界すぎる。約一か月、殺人と殺人教唆ばっかりやってる、ふざけんな。
もういいや仕事しよう、仕事に必要なことだけ考えよう。こっちも色々ありすぎなんだよ。やることはないのに考えることばっかじゃねぇかよ。
まず捕虜のクレリックからはノリスが名前が聞き出した。パッケージチャーリーの名前はチャルタ・ボーゲン。カルマン王国、北西部最大の町コーリングにある教会の筆頭司祭様である...らしい。
出鱈目な世界の出鱈目な宗教なんて、俺にはよく分からん。そしてどうでも良い。それにしばらく追加の報告を貰ってないから残念な結果になったんでしょうな、グワンタナモではよくあることです。去る人を追う気は俺には無いからどうでも良いや。
大事なことはアルファンの森だからな。アルファンの南南東とカルマン王国の北北西、森と平野の境がどうなっているかが重要だ。
その境にはタロップとダルク、二つの町があるらしい。この二つの町は、北西部で一番の大都市らしいコーリングに座すコーリング辺境伯殿の影響下であるという。そして辺境伯という立場には限定的な軍権があるらしい。
これあれじゃねぇか、アルファン方面の王国民が死にすぎたら、国軍がすっ飛んできそうじゃないか?いや辺境伯に軍権があるのは大河の向こうのサルファス教国に対する備えらしいけどさ、最後はそんなの関係なくなるだろ。ボーゲン司祭の情報を信じるならそんな感じ。
俺が最後に見たミスターボーゲンは大変みすぼらしかった。白い法衣というか祭服か、祭服と紫のストールは取り上げられて着替えさせられた様子だった。だからエルフのお古の麻服を着てたし、麻服は染みだらけですり切れていた。いや服だけじゃない、顔や体も酷く消耗してたか。
まぁ旧マリア分隊が頑張りすぎただけだろうよ。俺が食事を取らせるように言ったらケツから取らせたらしい。見かねたドワーフたちがキャンプタナモに地下壕を作ってくれました。あとそこから何やったか俺は聞かなかった。
彼にはもう教会の、国教の威光なんてなかった。ただの初老の爺だ。汚ねぇ爺の吐く言葉に信憑性なんてあるのか?絵面が最悪すぎる。こんな形無しじゃあ、司祭も信仰もイマイチ信用できないね。そんなことを思った。
ただ俺も軍事的なことは聞いておいた、一応。
まず封じの魔晶石について。これは魔石と呼ばれる石ころを魔物の心臓辺りから取り出して、研磨したり何したりで魔晶石に変えるらしい。魔石は魔晶石の原石か。
魔物とか糞ファンタジーやな、肉食動物が理論上の最大サイズになると心臓の辺りで出来るとかなんとか。理論を越えてデカくなるには魔力が必要とか知らんわ。生物学は他所でやってどうぞ。
で話を戻してだ、魔晶石に破魔の魔術陣を加えて完成するらしい。スペックはピンキリだけど、100mくらいの四方に断続的な魔力の波動を送るんだとさ。それで魔法の発動を阻害できる、らしい。
で敗残兵が、封じの魔晶石が効かないエルフがいた、雷を操る黒い髪のエルフが出てきた、なんて錯綜した情報をまき散らしたらしい。それを確認したくてボーゲン司祭は前線にきたって感じなのも証言した。
このフットワークの軽さは何なのかね。偉いのか下っ端なのかよく分からん。ただカルマン人の動きが早いってことだからな、俺たちは予断を許さない状況にいると思う。
あとは目下の課題の民兵についても聞いた。森正面のタロップとダルクの町二つ合わせて200人、コーリング単独で500人くらい奴隷狩りに来れるんだとよ。全員が一気に来るわけじゃないけど民兵でこれだ、ふざけんな。
目的としては林業だったり狩猟だったりをしながらエルフ狩りに勤しむらしい。現地民のエルフ攫いながら森の開拓だとか馬鹿じゃねぇの?俺はそんな手緩い真似はしないから覚悟しておくように。
と敵の全貌が明らかになってきた中で困ったことがある。敵は理解できてきたが、今度は味方が理解できなくなった。
なにやらどうもサウスエルフとドワーフが本気になったらしい。ただ把握できてないことが多すぎる。なにから処理すれば良いのか分からんわ。順にやろう、それしかない。
取りあえずグワンタナモ砦のドワーフが報告も無しに勝手に4人増えた。
俺が聞いたのは時計の材料を取りに行くってことだけだったのに、戻ってきたら増えてんだよ。皆して勢いが凄いねぇ、止められないねぇ。何?仕事寄こせ?ちょっと待て、すぐ用意してやるから。
でもドワーフは本気って言っても、整備と工務だからいいんや。雇用主はサウスエルフだから俺とは直接関係ない。彼らはインゴットだの鉱石だのお手製の小さい工作機械だの、持ってきたりに作ったりで忙しいから放っておける。一応は戦闘員じゃないからな、別にこっちで編成を指図するわけじゃないし。
そんなこんなでブラッカス工房は8人をグワンタナモに派遣して、まだ大勢いるらしい工房員たちは鉱夫やったりエルフ相手に交易やったりするらしい。まぁ君たちは戦争してないからそれでいいんじゃない?知らんけど。
問題はサウスエルフだ。
ノリス分隊がフォールに戻ったが、これは連絡要員なだけだから良いんだ。ついでにグワンタナモ砦のルーイ分隊とフォールの里のウィルキー分隊を交換するのも問題ない。予定通りだからな。
コルディ組のエルフたちが、2人だけコルディの里に戻したいとか言ってきたのも別に良い。実際、許可出して戻した。フォールだけじゃ不公平だしな、コルディにも勿論配慮しなきゃいかん。だから良い。
だからさ、だから二個分隊でフォールに戻り、二個分隊でグワンタナモ砦に帰ってくるんだったよなぁ?ノリスさんねぇ...
何故に竪穴式ログハウスに知らんエルフが3人も俺らといるのか、何故にグワンタナモに金髪エルフが数十人も増えたのか。
これって何、知らんうちに兵力増強決めたの?ホントに何も知らねぇんだけど。
「えっと、ごめんなさい。何があったらこうなるんですか?」
俺の両隣りにいるシエラとノリスは別に良いよ、軍曹と副官だからな。だから俺を真ん中にドカッと座らせたノリスに文句はないよ。それをほくそ笑んで見てたシエラも別に良いよ。
だが問題は、俺たちと杖を挟んだ3人組だ。大問題だ。なんかお偉方だよ、絶対お偉方だよ。なんか他のエルフと違うもんよ。
俺の対面の一番左のエルフは左目にモノクル付けた学者風で絹っぽい青に染色した服着てんだよ。こんなのフォールに居なかったぞ。俺の想像してたエルフには近いかも知れないけどさ、実際のエルフ文明とは違くないか。
対面真ん中は銀色の胸当てとか金属装備でがっちり固めた腕の太いムキムキだよ。エルフってもっと軽装で華奢なんじゃねぇのかよ。
最後の対面右のエルフはいつもの麻の服って感じで恰好は普通に見える。エルフの普通は知らんけどさ。でも左目は濁ってるし、左眉の真ん中を真っすぐ通った傷がある。これは戦傷だろうけど、初対面でツッコめねぇわ。ついでにこの並びで一人だけしょっぱい要件な訳がない。この人は全体的にふれ辛い。
「ジョンドゥ、そう身構えずともいい。まずは紹介する。この者はアルダンの里の使いのジル」
ノリス軍曹は何を言ってんだ。砲艦外交も良いとこじゃねぇかよ、こんなん。ノリス分隊の出迎えに行ったら、うちの小隊の倍の数の武装集団がいるってどういうことやねん。まぁ素直に紹介は受けておくけども。
で、服の袖をいじりつつ会釈してから和やかに笑みを送ってくれたのが、ジルとかいう一番左の学者風エルフか。見た目は70代くらいに見える、えらい老練そうな印象。
取りあえずジルはアルダン導師の里の使いで良いんだよな。アルダンは取りあえず服飾に凝ってるのか。それくらいしか分からん。
「続いてコルディの里の使い、アルキス」
目力込めながらぐっと噛むように笑みを浮かべて頷いてきたのがアルキスね。金属の防具も眩しいが笑顔も眩しいわ。歳はノリスよりは下なのかな、40代手前くらいに見える。ノリスが一般部隊のベテラン軍曹ならアルキスは精鋭部隊の兵長って感じだ。つまりバリバリの中核戦力に見えるってこと。
そしてコルディの里は知ってる。サウスエルフの里では兵力に力を入れている方らしい。
でもそれくらいしか分からん。フォールは食料を、コルディは戦士を頑張ろうみたいな内政方針なのを聞いただけだし。
「最後に...」
「気を遣うでないよ。私のことは後でよい」
ノリスが言い淀むと共に険しい顔をし、それを左眼に戦傷を負っているエルフが手を挙げて止めた。軍曹は深い吐息ともに肩を落とし、戦傷の目立つエルフは物憂げに窓の外に視線を変えた。
第一印象通りに訳ありじゃねぇか。俺は突っ込まないからね。司会はノリスだ、さっさと進めてどうぞ。
「失礼、その傷は治さないでいるのかしら?私なら治せるけど...そこだけ聞いても?」
なんかフォールの首長の娘が地雷を踏みぬきやがった。
人間は知らんけど、確かにエルフは治せるな。ってことで、治せるけど治さない選択をしている理由がある。まぁ気が重い回答になるだろうな。それは俺でも分かる。
「治せると...名前を頂いてもよろしいか」
50代くらいに見えるノリスと同年代っぽい古強者染みた隻眼エルフは、残された片目に寂しそうな色を浮かべている。
なんか俺、こういうのに弱いんだよなぁ。悲壮感バンバンに出すやん。胸に来るわ。
「シーガン・フォールの娘、シエラ・フォール」
「失礼した、私はティルクだ。今は無きバーリンの里の戦士長を任されていた。私の眼はバーリンの家が治すべきであるから気になされずともよいのだ。ただ気遣いはありがたく思う」
隻眼ティルク将軍の寂しげな拒否の返事に対してシエラは瞳を閉じて頷くだけだった。、
フォールの家には世話にならないと言ってるのかこれ。そんで無くなった故郷の指導者に操を建てるとも言ってるのか。好意的に解釈するなら、いるかいないか分からんバーリン家の生き残りを見つけ出して、その時治してもらうって感じか?それは夢見すぎかも知れんが。
なんか武人な感じやな。んでシエラは他国の姫か。俺から見て取れるのはそんなもんだな。バーリンのことは聞いた方が良いのかどうなのか。言いたきゃ言うか、このまま聞いてよう俺は。
絵面としては亡国の忠臣ティルク、忠義の為にシエラ姫の気遣いを袖にするの巻。どうでも良いか。
「狩り長ジョンドゥ。あなたの話は俺も聞いている、サールたちに手柄をあげさせたこともな。コルディの話もしていいか?」
重い空気が嫌だったのか、アルキスと紹介された二の腕マッチョマンがデカい声をだしてきた。
良いっすよ、俺も仕事の話したいからな。コルディにも人員出してもらってるからお友達みたいなもんだろうしな。
そうそう、コルディ組もこの前実戦に出たんだよね。コルディ組の8人はサール分隊とコーマ分隊に分かれて活動してる。
「アルキスさん、でしたね。サール分隊はノリスさんの指揮で戦ったので私は何もしてませんよ。お褒めになるのはノリスさんにどうぞ。それに彼らは勇敢です。ノリスさんもそう思いますよね」
カルマン人のベースキャンプはあれの他にもう一つ見つけてて、そっちはノリスがやりたいって言うからお任せしただけだ。同じように40人くらいって言うから3個分隊出して、俺は丸投げして終わり。フォールのノリス分隊、ルーイ分隊にコルディ組のサール分隊。頑張ったのは彼らだ。
ほら、ノリスもなんか言って。フォールとコルディの共同戦果なんだからさ。
「アルキス戦士長、コルディの狩人は優秀だ。剣を下げ、分解したM2を持って森を駆け敵を始末した。彼らの援護は大きかったよ。それと私は手本が良かったからな、ジョンドゥが齎してくれた戦訓も大きかったよ。コルディのエルフと狩り長の成果だと私は考えている」
にこやかにコルディと俺を褒めたたえる軍曹ノリス。
ドワーフには弱いがエルフ内の政治は上手いのな。八方良しじゃん、コルディを持ち上げつつ俺の有用性をアピールするとか気が回るのね。でも自分の戦功削ってるぞ。出世が遠のくぞ、そういうのは。出世する先があるかは知らんけど。
でも、どう戦ったかは俺は知らんのよね。結果しか報告もらってないわ。
「そう言えばですけど、3個分隊でどう戦ったんですか?俺はそこを聞いてないので教えてもらえると助かります。多分他にも聞きたい方がいると思うので、少しだけどうです?」
学者くさいアルダンのジルが気持ち身を乗り出し、戦士アルキスは目にぐっと力を入れている。ティルクは目を細めて軽く身構えた。興味深々って感じっすね。
ただシエラは俺の横で人差し指で髪の毛をくるくるしてる。そうね、あなたは生きてるカルマン人しか気にしないもんね。あとこのお姫様は政治に興味はないって感じがなんとなくする。
「ええ、私はその為に来たようなものだから、是非に。それとシーガン導師から森を精霊の下に戻すとも伺っている。後でその辺りも君に給いたいね」
どうやらアルダンは情報の為にこの翁を送り込んだらしい。てことは知識層な訳だ。
森の為に一緒に働かない?ってサウスエルフを誘ってからは皆宗教的なこと言わなくなったんだけど、この人とは宗教問答しなきゃいけなさそうやん。めんどくせぇな、苦手なんだよ。
ただエルフは土着宗教ぽいからまだいい。一神教は手に負えないから俺は嫌だ。
「どう聞いてるかは知りませんが、森を安全地帯にした後に森と隣接する平地に防衛線を敷くところまでは考えてます。それ以上はまたの機会にしましょう。ではノリスさん、二回目の襲撃についてお願いします」
ジル翁がいそいそと羊皮紙と羽ペンを机に並べだしたのが見えたから、俺は質疑応答の先送りを明言しておく。
取りあえず今日はしないからね。お三方の連れてきた武装集団の話が俺はしたいのよ。そいつらは俺に預けるつもりなのか、別の指揮系統で動くのか、どっちかは知らんけど出来ればこっちに欲しいのよね。
王国軍が動く前に準備したいからな。だからノリス口説いてくれや、ほら。
「ジョンドゥ、分かったよ。では始める。そうだな...12名の戦力を用い襲撃を行ったのは皆把握しているだろう。我々は12名を3分割し4人の分隊に戦力を分けた。通常通りであれば愚策だがこれを可能とする手段をジョンドゥは提供してくれている。レミントンだ。我々が手に入れた戦果、戦術はすべて銃火器と呼ばれる武具でもって成立している。これは全てジョンドゥの力と知恵だ」
顎をすんと上に振った俺を苦笑して長広舌を始めたノリス軍曹。まぁエルフのことはエルフで話付けてくれや。俺は恩着せがましいのが嫌いなんだ。
あと銃も運用方法も先人の知恵と血の結晶だ。俺のものじゃない。説明しても理解されないだろうからもういいけどさ。
「まず全ての前提となったレミントンについてを共有しよう。コルディもアルダンも既にうちのウィルキーたちがそれを持ち込み、各里の導師や戦士長にお見せしてあるな。その全く新しい弓の能力は把握していると思うが、今一度確認しよう。条件で変わるが射程は約1200ヨルドに殺傷距離は約800ヨルド、4連射までなら速射能力も申し分ない」
おい、ウィルキー分隊に2週間の休みを与えるって言ったろうが俺は。ノリスの指示かシーガンさんの指示か知らんが何をやらしてんねん。お偉いさん相手のデモンストレーションとか地獄じゃねぇか。これじゃグワンタナモ砦にいたほうが休めたのでは?なんかごめん。
ん、これって30-06弾の話してんだよね。800mくらいまでは弾丸が殺傷できると当てて確認したんだ、へー。で1100mだと弾丸の運動能力が弱いと確認したんだろうな、当ててな。
なんでスコープ乗ってないレミントンでそんなことしてんだ。馬鹿じゃないのか、君たち...怖いわぁ。
「このレミントンを持った弓兵を4人で動かす。そしてジョンドゥは300ヨルド程度の戦闘を想定している。これは信じがたいことだ。300ヨルドの距離の先を一撃で屠り去る威力の矢じりをほぼ必中で放つ能力は何に使えるだろうか?今までは100ヨルドの距離で弓を持って鬼ごっこをしていた。こちらが多ければ追いつめに行き、向こうが多ければ追い立てられる。ついでに言えば白兵戦は博打だった。風の魔法が使えればバターのように切り裂ける、使えなければ泥沼の剣の叩き合い。だがそれらは今、昔の話になった」
やべぇ、なんか演説になった。これまだレミントンの話なんだ、ウソみたいだろ?
いやぁホントにエルフは戦時下にいるのな。どこから手に入ったとかなんでそうなるとかじゃないもん。手に入ったもんは何でも使えって感じだわ。カルマン人との100年戦争は伊達じゃないわ。
んで、コルディのアルキス兵長はなんで不満げなん。自分のとこの兵隊の話が出ないからか?おもちゃの自慢が羨ましいのか?
「アルキス戦士長、ウィルキーになぜ600ヨルドで戦わないか聞いたそうだな。その時ウィルキーは答えを持っていなかった。今でも疑問に思われていることだろう。私はそれに、今お答えする。一言で言うとジョンドゥの力と思想だ。彼はレミントンでは不十分だと考える。それ故にグレネーダーを、M2を、また違うそれらの弓を戦いの中に組み込ませた。報告にないところだが迫撃砲もあるな」
エルフがドワーフにタジタジな理由が分かった。あいつら話聞かねぇからだ。ノリスだけじゃない、シエラだって話長ぇからな。俺と出会ったばかりの時のカウンセリングがクッソ長かったのは覚えてる。
あとアルキス兵長はごめんな。ちゃんとアウトレンジで屠るの考えてたんだね。俺は森でやるのは反対だけどさ。でもいい考えだとも思うよ。俺が出来ないからって僻んでるとも言うが。
「シーガン導師から伝わっていると思うが、グレネーダーは意図的に指定地点に爆発を起こせる。それは魔法や魔術よりも再現性があり、殺傷能力も高いレベルで安定している。200ヨルドまでなら好きに使えるのも良いな。これをレミントンと組み合わせるとどうなるか。それにM2もあるな、それはレミントンよりも大きい矢じりを強い力で連続して放てる。城壁は分からないが家屋であらば、中の人間も易々と始末出来る」
アルダンから来たがジル翁がウッキウキで羽ペン走らせてるわ。議事録取ってんのか報告書纏めてんのか分からんが楽しそうね。今日はそれで満足しろ。良いからそれで満足してどうぞ。
兵隊チームのアルキス兵長と忠臣ティルクは小難しい顔してるわ。そうは聞いてたけど、実際の実務担当者が大真面目に言ってるの見てうへぇって感じかな。なんで辟易としてるか分からんけど。
「ジョンドゥはこう思考する。敵の一団を、拠点をそれらごと殺しきる。300ヨルドまで寄ることで逃げる者の背中を撃つ時間を確保する。順に逃げ延びれなかった者を始末する。家屋に籠る者は建物の中で爆発を起こし纏めて始末する。家屋や遮蔽に身を寄せる者はレミントンで、M2で遮蔽ごと撃ち抜いて始末する。全ての者を破裂音と共に始末するとどうなるか。我々にとって望ましくない場所に、最後に残った者にだ。その死を運ぶ音を聞かせてやればどうなるか」
なんか締めに入ったぽいな。ノリスの声に熱量が乗ったのが分かる。だからシエラさん、もうちょっと話聞こう?俺と目が合うの君だけなんよ。まぁ俺も集中してないんだけどさ。
あとサプレッサーとか導入駄目そうな感じ出すの止めて。亜音速弾とか色々あるからそれ使ってからにしようよ。予定はないけども。
「ジョンドゥは先頭を行く。50ヨルドに足りない弓を持ち、戦果を確認する為に。自らの弓が何を起こすのか、その弓を獲物がどう警戒するのかを確かめる為に。ジョンドゥは我々に狩りをしろと言う。だから、私とルーイがレミントンを持ち丁寧に逃げる者を射った。ルーイは敢えて敵に身をさらし、サールがM2で群がった敵を撫で払った。立てこもる2つの家屋をM2で撃ち抜き、中をグレネーダーで吹き飛ばした。辺りが無音になるまで死の音を絶やさなかった。これは全て狩り長の指示だ。そして彼は戦士長ではない。戦いなど我々はしていない」
いや確かに俺の襲撃と内容自体は変わらないけどさ。そっちの方が高度じゃないか?
いやマリアとカルロのデブリーフィングを聞いたらこうなったんだろうけどさ。俺は何も教えてないんだよなぁ。
それに敢えて何も持たさなかったコルディ組のサール分隊を重機関銃チームにしたのも止めなかったけど、そうしろとは言ってない。個人的に陣地外に持ち出すのはまだ怖かったからね。ノリスでやるって言うから心配で出しちゃったけどさ。
「これが300ヨルドである必要だ。誘い、追い立て、釘付け、狩りを成就させるためにだ。最後に一つ。狩り長ジョンドゥの思想に敬意を払うべきだろう。これから300年、ジョンドゥは、我々はなんと言われるべきだと思うか。戦うためだと言ってコルディを出たのは理解している。アルキス戦士長、コルディの16人はどうされる。ティルク戦士長、永らくコルディに身を寄せたバーリンの戦士20人はどうされるのかな」
あのさぁ。君らは300年生きるよ?でも俺はあと50年くらいだからな。人の死後の話すんなや。
ってのはどうだっていいけどもねぇ。そうかー、コルディ組がまんま16人増えるのか8人増えるのか知らんが最低で28人増えるな。多分中隊の半分くらいの人数やん。出来ることが増えるねぇ、仕事が増えるねぇ。
どうなの、急に肩の筋肉がパンプアップしたアルキス兵長。
「ノリス戦士長、元より16人はお任せすると言ってあるだろう。それとジョンドゥ。カルとカーラが繋いでくれたこの奇縁を、コルディは喜んでいることを改めてお伝えしたい。あとうちの奴はもうちょっと扱き使ってくれて良いからな」
そうな、俺とコルディの里はあの双子から始まったんだもんな。元気してるかな。
あとあれだ、また移住みたい感じで来るのか人材派遣なだけか分からん。当人たちに後で聞こう。
しかしコルディの首長もよく会ったことない人にエルフをバンバン送り込めるよな。俺の隣にシエラがいるのが効いてんのかね。
「ええ、頼りにさせていただきます。ただコルディは兵士が抜けても大丈夫なんですか?」
「双子を取られかけた里が言うことじゃないが他より戦士が多いからな、これくらいは大丈夫だ。あの双子もボケ老人に頼まれて薬草を取りに行った所為だしな。...儂が生まれたときは大丈夫だったとか言わないで欲しいものだな」
ああ、なんか疲れてんな。二の腕の筋肉まで萎んでりゃあ。
あと油断が無ければ大丈夫ってことらしい。だったら油断すんなとは言いたいけど言わんでおこう。でも子供だけは何とかしてくれ、俺ができる注文はそれだけだ。
んでもう一人はどうすんだ、隻眼の忠臣さんは。
「森を安全にすれば解決しますよ、全部ね。それと、ティルクさんでしたね、どうしましょう?」
じっと瞑目してるけどさ。考えたって変わらないんじゃないの。
オーダーをくれればなんだっていいからなんか言って。戦い方だけ言ってくれれば俺が合わせるからさ。
多分あんたはフォールの16人と一緒なんだろ。俺の予感があってればそうだよな。
「...80年と少し前だ。この辺りに、ここより少し南西にバーリンの里があった。ジョンドゥ、この先に、バーリンに行けるのか?」
目がまだ諦めてる。穏やかだ、昔の思い出を見てるような目だ。
それじゃ駄目だ。それじゃこの先は見れないんじゃねぇのか?今を見てもらわなきゃならねぇなぁ。
隻眼なんだからさぁ、人より頑張んないと見えるもんも見えないだろうよ。
「俺は森を出るところまで行くつもりですよ。サウスエルフが望むならですけど、森の外に防衛線を敷いた上で王国を殴りましょう。奴らが奴隷を全て吐き出すまで」
「それはよいな。私が連れてきたのは皆、バーリンを忘れられない者、友の思い出を捨てられぬ者だ。狩り長、万事お任せする。存分にやってくれ」
バーリン家の生き残り探しでもぶち上げれば良かったか?
この諦めてるノリスの同年代は追々何とかしよう。
「最後にジルさんですよね。いつまでグワンタナモ砦に居られます?あとアルダンの里の意向はどうなんでしょう」
この人何しに来たん?情報だけ欲しいのか分からん。アルダンの里は何したいの?フォールとコルディからはバチバチにやってくれってのが伝わってくるけどさ。
ここまで翁は楽しく見物って様相を崩さなかったから、猶更聞きたいわ。
「いつまでかは、再び森が一つに纏まるまで、としておこうかな。何、私は書き物しか出来ないししないから気にしないでくれたまえ。君は南を向いている、私は北を向いている。それとアルダンは精霊の為にシーラ大河を使うだろう、君が望めばね。だからアルダンは後回しでよいよい」
左眼にモノクルつけた爺さんエルフは羽ペン揺らしながら妙なことを言う。
皆ノースエルフ関連は言ってこないから俺は聞いてこなかったんだけど、そういうことなのか?
それと海運できるよってことだよね。でも精霊ってなんだ、何になぞらえてるんだこれ。
まぁ書き物しかしないなら全ての書き物をやらしてしまえ。交易に強そうな里だから金庫番やってくれ。
で纏めるとどうなるんだ。
取りあえず、俺のエルフ小隊は半個中隊になって書記官っぽいのが常駐ね。なんぞ分からんが取りあえずやることは装備更新だな。やることやってりゃいいでしょ、めんどくさいのはパスだ。
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