12
絶え間なく銃声が響く。シエラが4発射ち終えればすぐさま4回銃声が鳴る。
俺は双眼鏡から目を外さないから分からないが、マリアがシエラの装填中に射つことにしたのは音で分かる。良いねぇ、射撃を絶やさなければこっちのペースだかんな。緩いペースでそのまま撃ち込んでやってくれや。ダン、ダンってな。
遠くからも銃声が鳴っている。こちらも低調なリズムで俺の耳に届いている。
カルロ分隊は俺たち以上にのんびり射っているんだろうと思う。こっちのライフルマンは2人で、向こうは4人なのにそこまで銃声の頻度が変わらない。
全力で射撃はしないのがエルフ流なのかカルロの考えなのかは分からないけど、素人は黙っておこう。俺より君たちのが射撃上手いんでしょ?好きにやってどうぞ。
そんな状況に身を置く俺は戦果確認に勤しんでいる。カールツァイスのレトロな双眼鏡の視界には相も変わらずなカルマン人が映ってる。
畑の肥料になった奴がいれば井戸に落ちた奴がいた。頭の悪い奴から死ぬ。
植えて浅いのか背丈なんて全くない作物の中で頭を抱え込んだ奴は、土下座の形でそのまま動かなくなった。井戸に隠れようと思ったのか、井戸の中へ垂れていくロープを掴んだ奴は頭を射たれてそのまま落ちていった。
連中はなにも分かっていない。二方向から響く騒音の中で動きを取れないでいる。
剣士と弓兵の入り混じった集団がその場その場で屈んで怒鳴り声をあげて静止している。3か所くらいに数人ずつで、なんだか指揮統制を発揮できているのは分かるが、効果的な軍事行動が取れなきゃ意味なんかないわ。
彼らが持ってる選択肢ってあるか?ないだろ、そのまま怒鳴りあっててくれ。
他の様子は、連なっている布張りのテントの一つからガリガリな男が町人みたいな服装の男の肩に抱えられて連れ出されるのも見えた。ガリガリの方は他より薄着で骨と皮がくっついてそうなくらいだが怪我は無さそうだ。なぜ栄養失調みたいな病人がいるかは知らんが俺たちが治してやるから心配しないでくれ。お前を抱えていた男みたいに胸か頭に特効薬をプレゼントしてやる。
と、ここから見えるカルマン人が半分くらいになったところで銃声が減った。これはカルロ達じゃない、俺達の射撃が減ったんだ。
まだグレネーダーは早いんじゃねぇか?非武装の奴が動き出してからで良いと思うんだが。そいつらはどこぞで武具をしまってんじゃないのかね。
そこで俺はバードウォッチングならぬマンウォッチングを止めることにした。
俺が右に顔を振ったその先でレミントンが雑に切り株の上に置かれている。オウ、何かあったかな?
いや、まぁその持ち主は、四つん這いになって腐葉土を掻き分けたり小石をその辺に投げたりしているんだが。
「...なんで空薬莢を拾ってんの?」
マリアはおしりをプリプリ振りながら顔だけ俺に寄越す。眉が上に上がってきょとんとした感じである。
俺がおかしいのか?なんで精鋭森林猟兵のエルフ様が自衛隊みたいなことやってんだよ。日本人が指揮官だからかよ、んな貧乏染みたことしなくていいわ。
「シエラ様が拾わないからです。さー」
おいシエラ、言われてんぞ。バカスカ射ってないで何とか言ったらどうだい。
じゃなくてだ。俺はガンパウダーや弾丸自体は持ち込んでないから再利用なんて出来ない。使い道ってないと思うんだけど。
「そうじゃないって。薬莢集めてなにかするの?しないなら要らなくない?」
「矢じりは回収するのです。だから薬莢も回収するのです。さー」
ふへぇ、貧乏性だぁ...
分かるよ?矢じりは多分貴重なのはね。ドワーフが来た時しか手に入らないだろうから大事に使うんでしょ。それで大事な矢じりの為に弓が上手くなったんだろう。必要が母になってエルフは弓を磨いたのかよ。世知辛いねぇ。
そこの指導者層のブルジョアエルフ!マリアはいじらしいが君はどうなの。丁度リロードしてるんだから答えてよ。回収しなくていいよな?
「シエラは回収しないのな」
「皆が獲物から勝手に矢じりを抜いてくれるから習慣が身につかなかったわ。...なんて嘘よ、ジョンがしないから私もしないのよ」
手元のサコーを見ずに、シエラは俺に微笑みかけて言う。
だが呑気なのは会話だけだ。手は止まらないでいる。
レミントンと違って、サコーは乗っかっているスコープが邪魔で装弾しにくいのに器用なもんだねぇ。指3本と手のひらで.300WinMagを4発持って、親指と人差し指使って機関部にポチポチ入れてるよ。それも見ないでやるんだ、練習でもしたんだろうか。
「ほら、弓兵が数人と呑気な一団が纏まったわよ」
スコープを覗きなおした狙撃手の報告が俺の耳を優しく撫でる。
俺は双眼鏡から手を放して、背負ったウィンチェスターを構えることにした。そしてフォアエンドを一回スライドさせて、マリアを見ると準備が終わっていた。
片手で中折れしていたグレネーダーを縦に杓って元に戻すゆるふわ金髪ボブが俺を見る。
「弓矢と武具を取りに行くはずだ、吹き飛ばす。射線はどう?」
シエラの銃声があるから、俺はマリアの耳の横を借りる。囁いても聞こえる距離で伝えたがこの子も良い匂いがする。柑橘系かな?
「手前の家屋は届きますが奥のは手前が掠ります。南に抜ける風も不安定なので近寄りたいです。さー」
こそばゆいのか、少し硬めの声を俺の擲弾兵が返してきた。
ごめんセクハラだよな...気を付けます。
申し訳ないしサクサク行こうか。状況チェックして問題なかったらそのまま制圧するかな。またシエラが4発射ったら相談しよう。
シエラがボルトを解放させたまま胸元に回したポーチに手を突っ込むのが見えた。良し。
「シエラ、奴らの残りの人数と状況を頼む」
「弓兵と非武装の15人くらいが駆け足で南に、後は北の入り口周辺に3、4人のパーティが2つね」
入口ってあれか。大岩とそこそこ石垣っぽい壁で挟んだとこか、あの歩哨が立ってたところ。で、15人の群れは逃げるか剣を取るかは知らんが南に行ったとね。OK、分かった。
「俺とマリアで南、右に大きく出ながら距離を詰めよう。シエラはここで援護してくれ、北の奴らが動けないように釘付けにしてやりながら俺の方も見れるか?」
俺は簡単に言ったけど、これって難しい注文だよな。
北の入り口と南の距離はそこまで離れてないけど、スコープ付きだからなぁ。いちいち覗き直さなきゃダメだろう。
「大丈夫よ。私、両目開けてスコープ覗いてるし。でも発砲は減るわよ、もしもの為に一発ずつ込めるから」
両目開けて覗くつっても、周辺視野はそこまで広がらんだろ。
まぁ良いや。俺より射撃が信用出来て且つ、最低でも3発の援護があるから十分十分。右手でピースしながら大丈夫って言ってきた余裕が最後まで続くことを祈ろう。
「マリアは俺の後ろについてきて。いったんグレネーダーは背中で担いでレミントン持ってね。良し、行こう」
「全ては狩り長のままに、です。さー」
気合が入ったらしいが恰好は追いついてないな。
シエラの身長より数㎝低いマリアにはレミントンはデカすぎたかも知れない。22インチバレルだもんな、マリアの身長の半分くらいのライフルだ。どことなく頼りない。
だがそんなのは見た目だけだ。森の精鋭だ。馬鹿にした奴から死ぬことになるし死んでもらう。
そんな擲弾猟兵のリクエストに俺は応えよう。まずは奴らの西に出る、切り株を隠れ蓑にしながら前に出るんだ。
切り株が多い現在地から右に行くと丸太が横倒れになっているのが見えた。高さは俺の腰より低い。防備の為かただの木材置き場かは知らんが、ベースキャンプの西を守るように数本ある。
一番近く切り株の後ろに、俺は片膝をついてマリアを手招きした。レミントンを横抱きにして低めの中腰で寄ってくる。
特に教えなくても軍事行動が身についてんのは何なんだろうな。エルフと人間は戦争してんだと実感させられるわ。
「こっからあの丸太まで遮蔽がない。まず俺が走ってあそこまで行くから、援護してね。マリアが射つ展開になるなら俺は諦めて戻ってくる。俺が行けたら手で合図だすから、そこでマリアも来て」
目を丸くしてうんうんと頷くマリア。
ほんと頼むぞ。俺のウィンチェスターとマリアのレミントンの装弾数を足しても11発くらいで、シエラの援護足しても15発あるかどうか。南下してるらしい15人の集団と丁度だよ。俺は外すと思うから誰かしらリロードがいることになる。再装填の時間がもらえずに白兵戦とか死んでも嫌だ。慎重に行こう。
俺はなるべく音を出さずに小走りで動きだした。
あれだなこの辺はただの土だな。腐葉土と違って足音がでるから注意しないと。現実は完全ステルスなんか無理だ。丸太の先の木造家屋から気配がするもん、俺が気づくんだから向こうも気づくかもしれん。頭が痛ぇ、カルロ達の銃声に奴らが夢中になってくれるのを祈るしかねぇ。
祈った甲斐があったか、中腰で小走りとかいうキツい動きのおかげか丸太まではなんとか着いた。丸太の影で息を整えながら、俺はマリアに右手で合図する。
こっから様子が伺えると良いんだけどな。そう思って潜望鏡のように顔だけ出してみる。かさついてささくれ立つ丸太の水面から、俺は目から上だけ出してみた。
3軒の木造家屋が見えた。左手前に1軒、そこから右やや奥に1軒、その2軒の間の奥に1軒。なんだ1軒増えたじゃねぇか、今のシエラの位置じゃ見えなかっただけだけどさ。
うち2つの中から物音と怒声が大きく漏れている。奴ら分かれたらしいな。どうやって制圧すっかな。40mmグレネードを中に撃ち込んでから適当に散弾銃何発か撃てば良いのか?動きのある家屋の片方は、ここからでもドアが見える。もう片方の一番奥の家屋は閉じた窓しかねぇからめんどくさいわ。
皮算用してたら俺の右肩が叩かれる。身が竦みあがるのが自分でも分かる。
振り返ったらマリアが口すぼまして笑ってた。そうね、俺がアホ面になったのが悪いんや...一番恰好がつかないの俺だわ。
「右の小さい家屋と奥の家屋が見えるだろ?あそこがさっきから煩い」
二人で潜望鏡やりながら作戦会議だ。にしてもほんとカリマン人ヌーブだわ、準備まだですかー?
で手前の左の家屋は静かだからいいや、誰か居てもシエラに任せよう。最悪俺がなんとかすりゃいい。
「んー、グレネーダーは一発です。さー」
そうなんだよねぇ。残りの3発はシエラのとこ置いてきたんだよな。正直どこかで退くだろうと思ったから、装填した40㎜グレネード一発だけで来ちゃった。
いや、今から戻ってもいいのよ?エルフの狙撃だけで終わらしても良いんだけどさ。でも駄目だろう。俺だけ何もせずにいちゃ駄目だ。働かないとあかんて。
「その貴重な一撃は集団に当てたい。右の家屋のドアが開いたら迷わずそこにぶち込め、中の奴はそれで死ぬ。奥の家屋から何か出てきたら少し待て、数人纏めて屠れるところに撃て」
こんなんでいいだろ。接近戦と室内戦は俺でやる。右の家屋までは30mくらい、奥は50mないくらいだ。俺でも当たる。
マリアがレミントンとM79を背負い換える。
「俺は左の家屋を警戒する。マリアは右と奥だ」
「さー」
そこはイエスをつけてくれ。ホントのほほんとしてるわ、この娘。
じゃ任せたからな。マリアが撃ったら激しくなるんだ、景気よくやってくれよ。
俺は丸太の上に右肘をのせて家屋を警戒する。
こっちはなにもない。蛻の殻だ。でも窓も閉まってるしで様子が分からない。寝るのに使ってるだけかもしれない。
ただなぁすぐそこだからな...どうしても気になるんだよなぁ。
「撃ちます」
ゆるい小声が発射を告げる。
ポンっと鳴らしたM79とどっちが気が抜けてるか分からん。どっちもどうしてなかなか可愛い音だねって感じ。結果は可愛くないけどさ。
その可愛くない結果は非常に効果覿面だった。
いつの間にかドアが開いた右の家屋の中に吸い込まれるように40㎜擲弾が侵入すると、中でボカンと派手な音を鳴らした。ドアを開けた奴が外に弾け出され、家屋の窓が窓枠ごと吹っ飛んだよ。
俺はマイケル・ベイじゃないからそこまで派手じゃないはず、作りが弱いんだろうな。
「よし、中を確認したい。俺が先導するから着いてきて。前は俺が、マリアは左を警戒してね」
右手を丸太に着いて体を支えて、左手にウィンチェスターを抱いた俺は丸太をひょいと越えた。
雑草が所々生えた地面をおっかなびっくり進む俺。
ここでちょっと静かになったのが分かった。カルロもシエラも射ってないなこれ。吹き飛ばした家屋で終わりかもしれない。
ああ、でも奥の家屋があるか。ただあそこも静かになってる。よく分からん。
外に飛ばされた男のところまで来た。ドアの向こうから鉄の匂いがする。中はどうかな、悲惨だろうな。
それとこいつ生きてる。凄い弱いけど、うう、とか、はは、とか言ってる。外傷はないな、胸から落ちて呼吸できなくなったか。
観察してたらマリアが俺の横に来た。淀みのないスムーズな動きでもってレミントンを胸に向ける。
黒い鎧の胸に穴が空いた。当のマリアは空薬莢が真上に飛ぶ角度にレミントンを左手と肩で持ち、右手でボルトハンドルを引いて空薬莢を飛ばす。
「中にもいます。さー」
マリアは詰まらなそうに、ボルトハンドルを放した右手で空薬莢を掴む。
全てが事もなげだ。撃つことも銃の扱いも報告も、なんてことないと言わんばかりにやる。
どうしてカルマン人はエルフに喧嘩を売れるんだ。奴隷狩り100年の報いは悲惨な結果になるぞこれ。
「マリア、俺の背中について」
俺はドアのすぐ左に着いてから、マリアに指示を出した。
どうやろうか。まずこの家屋は長方形だろ、で1辺が短い方にドアがある訳だ。
先にウィンチェスターの銃口だけ中に入れて、中は右から中央を確認すりゃいいんじゃなかろうか。そっから左を見ながら入る、で行けるか。
でもなぁ、スラムファイアは出来なかった気がするんだよなぁ。でもボルトアクションよりはマシだ、何とかするしかない。
俺は祈りながらチューブにショットシェルを一発突っ込んだ。これで8発だ、何とかなれ。
「マリア、俺が入ったら続いてね。怪しかったら射って、怪しくなくても射ってな」
さーと間延びした声が返ってくる。
取りあえずぶち込め、ぶち込むことでしか安全は確保出来ないんだから。
行くぞと声で気合を入れてから俺は踏み込んだ。
手がない奴、足が拉げた奴、硝子で顔がぐちゃぐちゃな奴。血を流していない場所がない奴。派手な奴から目に入ってくる。どれも革装備の軽装だな。
だがそれとは違うのがいる、金属鎧だ。破片を防げたのかは分からんが爆風だけで済んだらしい。こんな狭いとこで良くもまぁ運が良いことだと思うわ。
俺は入ってすぐの左脇の壁に背を預けて座り込んだ奴の額を吹き飛ばした。続けて邪魔な机を横に蹴り飛ばして、関節部の隙間に破片が刺さって倒れていた奴の胸を撃ってやった。マリアは涼し気に、倒れた椅子に被さって気をやっていた奴を撃った。
そんな感じに二人して、少しでも動きのある奴は撃った。3分も掛からなかったと思う。
「確認します。さー」
マリアは落ちていた剣を手に取って動き出す。
俺はそんなマリアを尻目に辺りを見回した。入って右には、空きが目立つ棚が奥までずっと続いている。あちらこちらに散らかっている武具は、ここに収まっていたんだろう。グレネードで散らばったか、パニクった連中が散らかしたかはもう分からないな。
奥も棚がでんとある。食料品が多いだろうか。吊るした肉や、香辛料かなにかが入っている濁った色の瓶、それに酒瓶くさいやつ。中から小麦が漏れている布袋や壊れた小さい樽から出てきた漬けた野菜。色々あるな。
それに色んな意味で、根が深いやこれ。
「16人です。さー」
満足したらしいマリアが剣を放り投げる。
血がべっとりですねぇ...まぁいいのよ、俺は何も言う気はない、必要なことが分かればそれでいい。
「もう一軒あるから、それをどうするか考えよう」
俺は入り口から左の一番奥にある窓に寄った。
ここからその家屋が見えるねぇ、そぐそこじゃねぇか。しかもガソゴソなったり静かになったりと忙しいじゃん。
どっすかなぁ。取りあえず装填だ、ポーチのショットシェルを入れないと。
「グレネードを取ってきますか?さー」
そうねぇ。取ってくるのもどうかね。
ここで偵察しといた方が良いんじゃないかな。北の入り口次第だけどシエラもここに呼ぶか?
つうかカルロ分隊はどうしてるんだろう。俺、キャンプに入っちゃったしな。降りてきたかもしれない。
「取りあえずキャンプ西の丸太に戻ろう」
「先導します。さー」
シエラがポイントマンをやったのに習ったかは知らんが、ふんすふんすとマリアがやる気を見せて家屋の出口に向かう。そうだね、丸太からレミントンで援護する方が都合が良いよな色々。
「頑張ってな。戻る時は静かな方の家屋に注意してね、俺はあの未だに外に出てこない連中を見張るから。着いたら俺の援護をよろしくね」
俺は家屋を出るときにマリアの肩を叩いて合図した。俺は家屋の壁を、出て右につたって援護ポジションに着く。
さーと、俺の指示に返してマリアはさーっと駆けながら戻る。
ごめんなさい。つまんなかったっすね。なぁつまんないから動かないのか?奥に立てこもったカルマン人たちよ。
丸太を越えたマリアがレミントンを依託しながら構えて、手ぶりで俺を呼ぶ。なんかおかしいね。手だけ出してピースをキメてるのもいるよ。
俺はアホらしくなって走って戻った。丸太を雑に越えるとやっぱりシエラがいた。
マリアのリュックと残りの40㎜グレネードを持ってきてくれたみたいだ。なんでこっち来たんだろうか。
「シエラ、なんかあったのか?」
「何もないから来たのよ。キャンプの北はほぼ片づけたわよ」
ほぼじゃ困るなぁ。随分と凄惨な確認をしたマリアを見習ってくれよ。一人一人首を差してたよあの娘は...正直何も言えなかったわ。
まぁ他と比べて、シエラが気持ちお上品なのかもしれない。良いか悪いかは知らん。
「北はどんな感じだ?まだいるのか」
「私からは影になって狙えないからカルロに手信号送って頼んであるわ。一人か二人よ、無視していいでしょ。出てくれば死ぬんだから」
なるほど。そういうことね。
カルロは動かさないで見張らせてる訳だ。
じゃこっちもやりますか。グレネードもあることだしな。
「あの奥の家屋を見てくれ、あそこにまだ立てこもってるのがいる。んでそこの奴らから捕虜が欲しい...まずマリアはあの閉じてある窓にグレネードを撃つでしょ?」
ステイステイステイ!
俺は手でマリアを止めた。もうぶち込もうとしたよ、話途中だっての。
「いいかい、それで奴らを燻り出そう。出てきた奴の足でも撃って捕獲したい。質問は?」
多分エライやつが混じってると思うんだよな。
あそこにはキール正教の紋章が入った垂れ幕が壁にある。んで他の木造家屋より作りが綺麗だから何かいる。
中の奴は色々知ってそうじゃん?出てこないのも下々の者が賊を追い払うのを待ってんだろ、イケすかねぇな。
「出てきた奴が南に逃げたら射線が一瞬通らないわよ」
副官シエラが不満げだ。
全部殺す必要ないから十分だろ。それに森には狼も熊も出るんだ、森にも頑張ってもらえれば楽だろうよ。
「右の家屋は気にしなくていいよ。シエラは一番偉そうな奴の膝を射ってな、サコーでなら足が取れる。マリアは好きに射っていいから。逃げても獣の餌だ。俺達か獣か選ばせてやろう」
シエラは頷いてサコーを丸太に預け、マリアは立ち上がってM79を構えた。
さぁどうなるか。
「グレネード!」
閉じた窓が枠ごと家屋の中に弾け飛ぶ。よし、どうするよ、お偉いさん。
怒声と悲鳴が上がったのちに、ダンッと物音がした。出入り口は逆側か、さぁどっちに逃げるんだ。北か南かそれ以外か。
答えは俺たちからみて右、南側だった。建物の右から白い何かが飛び出した。ベットのシーツか何かをもった黒い鎧の男のようだ。どうも布が翻ったりで良く分からん。
白旗のつもりか知らんが、関係ないとシエラとマリアが射つことで示したさ。血に染まって小さくなるのは良く見えたがそれだけだ。
二人がボルトを操作する間に連中は右の家屋の影に入っていった。
「もどかしいわね!」
そうお冠なるなって。すぐ出てくる。出てこなければカルロ達が射つだけだ。
実際すぐに出てきて、10人いないくらいの奴らは南に駆け出すのがすぐ分かった。
「足が止まれば楽なんだがなぁ...」
俺じゃ当たらん。50mくらいあるから俺のウィンチェスターじゃ無理だ。バレル長くしてフルチョークにして射手も変えなきゃいけねぇな。
なんか俺要らない子じゃない?
「止まります。さー」
革装備のカルマン人の頭を射ちながら溢すマリア。
うん、止まったね。命が止まったね。なんてつまらないことを考えたがそういうじゃなかったらしい。
突如敗走するカルマン人の進路で爆発が起こった。
連中は泡吹いて止まったわ。一団の中にいた白い法衣で肩に紫の布を下げた初老の男が、ほんとに泡吹いて止まった。
カルロ分隊やるなぁ。
「これで終わりかしら?」
笑いを噛み殺した声がする。そうね、俺の注文通りになった。
法衣の老人は足を無くしてすっ転び、それに気を取られた残りの半分が頭と胸を撃たれて死んだ。
生き残った4人が言葉にならない絶叫をあげて俺たちを一瞥し、森に向かって逃げていく。
「これで最後です。さー」
いつ持ち替えたのか分からないM79から空薬莢を取り出しながら、マリアがそう締めくくった。
そう、最後だ。森に入ったが最後、誰一人帰る者はいなかった。そういうことだ。