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やさぐれジョンとアンクルサム  作者: イエローモンキー
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築城初日から一週間ほど経った。俺はこの一週間を相も変わらず暇を持て余しながら過ごした。一方でドワーフたちがあれやこれやと日々煩く楽し気に動いているのは羨ましかった。機械いじりがよっぽど楽しいみたいだ。やること尽きなくていいな。サウスエルフたちものんびりと着実に狩りの準備を進めている。俺だけ暇なんよな...


俺以外は忙しいのなんの。まずエルフ小隊は再編成した。

ノリスにフォールの里と調整を任せたので里に度々帰る必要が出来た。なので俺とシエラとマリアで本部をやる感じにした。少尉の俺、副官のシエラと従卒のマリアって感じ。マリア分隊はノリスが面倒を見るのでノリスとマリアを交換したことになるな。

そしてノリス分隊は小銃背負って馬匹を連れて里に戻って、とくに何もなかったので帰ってきた。今後も連絡要員になってもらう。

それとは別に里に残していたカルロ分隊とウィルキー分隊を交換した。こんな感じに常に一個分隊づつ休日を得るローテーションを作った訳だ。まぁ向こう戻っても里の警固があるから休みじゃないけどね。兵隊仕事は厳しいって相場はこっちでも変わらない。しかも二週間ごとに休みを回すとしても、往複で三日か四日かかるからお休みらしいお休みにならなそう。それでいて帰りは食料を持ってきてもらわないといけない。なんか働かせすぎで申し訳ない。今度から弾薬は俺が出すから許してくれ。


コルディのエルフたちはフォールに移住した扱いらしく、年に一回帰れればいいそうだ。

それとこの8人の装備も考えないといけない。半分が剣でもう半分が長弓だからどうしたもんか。レミントンでも良いけど幅を作った方が良い気がする。剣持ちは切り込み隊になるし、弓は静かだしな。熟考が必要だ。


ドワーフたちはというとデカいが正義だった。

M2重機関銃、フィフティーキャリパーに夢中になった。試射をしたら銃声より大きいんじゃないかってくらい歓声を吠え上げた。バラして組み上げてから自分たちででも撃ってキャッキャするのよ。弾帯抜いた三脚付きのM2を軽々持ち上げて、神じゃ神の発想じゃと血眼だった。

レミントンより高火力で連発できるのが良いんだとよ。ボルトアクションライフルと比べたらあかんて。

一方エルフはそれを見て下品だとぷんすこ。一発で十分じゃないとかシエラが言い出したがお前は海兵隊のスナイパーか。実際に試射で300ヨルドらしい距離を単発一回でぶち当てたから否定できない。カルロス・ハンコックかな?


ただドワーフも苦手なものはあるらしい。迫撃砲の試射をしたら静まり返った。

戦術級の魔法やら魔術じゃないかといって怯える。火の魔法ではこんな簡単に吹き飛ばせないと戦々恐々になったわけだ。砲に榴弾を突っ込むだけで吹き飛ぶことなのか、これを人に向かって撃つことなのかは知らんが衝撃的だったらしい。

エルフ?ノリスを中心に分隊長たちがどうやって使うか相談してたよ。カルマン人を殺す覚悟が彼らにはあるからな。

残りのM79グレネーダーはフォール組のエルフ分隊に配備した。俺のとこのマリアと各分隊の一人が持っておく。これで分隊火力は十分だろ。

ちなみに5名の射手候補は数射して満足した。落下軌道が分かればいいそうだ。

訓練要らずで頼もしいよ。俺はボルトアクションライフルとグレネーダーを装備したエルフが森を歩く意味を考えないことにした。迫撃砲とグレネーダーに怯えるのはドワーフだけで良い。


過剰火力のエルフ3個分隊と通常通りの2個分隊、遊撃をやるのが俺の本部分隊。総勢19名の運用がこの一週間の間に決まった訳だ。


施設の方も大方出来上がった。ドワーフとエルフの工兵能力は凄まじかった。

サウスエルフ側の本城には高台の塹壕2つとその向かいに倉庫があり、倉庫のすぐそばの均してもらった地面には迫撃砲を3門設置した。塹壕の方にもM2を1挺づつの2挺配備した。

で、近くには塹壕にログハウス被せたような小さい住居を絶賛建設中。1軒は出来たがもう1軒はまだ途中だ。ドワーフの言う工房を併設するんだとさ。小さい炉を作るから最初のより少し大きくして岩の部分を作って足すとも言ってる。魔法で土を岩に変えるとかホント出鱈目だわ。


本城の橋を渡ってすぐには4つの塹壕が並ぶ、カルマン王国側陣地がある。

だがこっちはとくに手を入れてない。M2を1挺持ち込んだだけだ。


俺はサウスエルフ側陣地をキャンプグワン、王国側陣地をキャンプタナモと名付けた。

そう、二つ合わせてグワンタナモ。さぞ悪名高い砦になるだろうよ。


そんな感じでグワンタナモ砦と一週間を過ごした訳だ。

防備は固まったからな、そろそろ動けるだろ。


俺は今、グワンに作った倉庫の床に熊の毛皮製絨毯の上で胡坐をかいている。その周りにはシエラは女の子座りをしてノリスは片膝を抱えて、マリアは正座で小さく輪になって座って集まってもらった。


「偵察に何か引っかかるかな?」


俺たちは朝食を取った後、カルロ分隊を斥候に出した。

人選に意味はない。見てこいカルロってやりたかっただけだ。


「そうね...今は昼だしそろそろ何か見つけたかもね?」


シエラ副官は自信がないのを隠すように、胸に下げた双眼鏡を広げたりしていじりながら言った。

今、アヒル口みたいになった。可愛いなおい。


「シエラ様、カルマン人はそこまで熱心でもありませんよ。ベースキャンプが一つ無くなったんです。他のキャンプも一度退いているかも知れません」


軍曹ノリスは手をグーパーさせてリラックスしている。

そんな連中逃げ足早いのか?

だいたい潰したキャンプは、ここグワンタナモよりも里に近いんだぞ。この辺りに連中がいたとして伝わってるもんなのか?


「この前の敗残兵はまっすぐ帰ったってことですか?それでその敗残兵を吸収をした別のベースキャンプもエルフを恐れて帰っていったと」


「敗残兵が真っすぐ帰ったのは確かじゃないかと思う。フォールの里の方でもカルマン人を見た者はいなかったからな。ジョンドゥ、君の力はハッキリ言って異質だ。それを見た者は逃げると私は考えるが」


楽観論を好まないノリスらしい意見だ。連中を馬鹿じゃないと考えるからこう言うんだろうな。

だが連中をいないと考えるのはどうなんだろうな。悩ましい。


「あなたは壊滅したベースキャンプを自分の眼で見たわね、それにレミントンを持っている。私だってそう、サコーを貰って奴らを地獄に送ってやった」


冷めた表情で語り始めたシエラ。どことなくアンニュイで雰囲気で共通理解を作ろうとしてる。


「私たちはジョンの力を知っている。その力を借りることで出来ることを分かってやっているのよ。でも死んだ奴らも逃げた奴らも何も理解していない。何一つ理解できない力の前に散っていっただけなのよ」


ノリスが言っているのは、連中は馬鹿じゃないから対応しようとする。できなければ逃げるってことだ。

シエラはカルマン人が状況を理解できずに今まで通り動くと言っている訳か。


「俺には分かんないなぁ。銃は特別か?判断が出来ないほどに得体の知れない物なのか?」


君らすぐ使えるようになるじゃんか。エルフもドワーフもニュービーは一人もいないじゃん。

エルフはライフルを使えるし、ドワーフはそれを整備出来る。実は大してカルチャーショックなかったりして。


そんな俺の思いとは裏腹にシエラは困り眉になった。


「あなたに出会う前の私にサコーを教えても信じないわ」


ノリスは良い笑顔だ。


「今でもレミントンは不思議だよ」


マリアは涼し気に微笑んでいる。


「グレネードの気持ち良さは説明できません。さー」


皆して信じないと、説明できないというのか。

もうそういうもんだと思うしかないな。こればっかりは現地民の考え優先だ。


「じゃぁカルマン人は戦争を知らないのか...」


そうだ。ファッキンヌーブたちに教えてやらなければいけない。

必ず奴らは居る。敗残兵を信じなかった奴、笑ったやつ、追い返した奴が居る。敗残兵だって心が折れずに残った奴もいるだろう。


「良いカルマン人は死んだカルマン人だけだ。善良な心に変わるまで教えてやろうじゃんか」


皆楽しそうな顔するなぁ...

頭の先から足の指先まで殺意たっぷりなエルフぶつけてやるか。


「あら、もう授業の時間みたいね」


シエラは目線を倉庫の入り口に向ける。

フォールの借家とは違ってドアが無くそのまま入ってこれる。エルフの中では珍しく日に焼けたオールバックの男、カルロが入ってきた。


「手ごろなのがありました。40人くらいのキャンプっす」


40人が手ごろですか、そうですか。


「様子はどう?」


サコーと小銃弾が入ったポーチを背負いながらシエラがやる気を見せる。

彼らライフルスリングを麻で自作してんだよね。おかげで小ぶりな胸のパイスラが拝めて満足です。


「何人か怪我人がいて身動きが取れないみたいっす。あちこち擦り傷が酷い見たいっすね。ウォルフにやられたか、この前のベースキャンプから逃げてくるのに擦ったかじゃないっすか?」


「他に見つけたことはないか?」


ぬか喜びなんて毛ほども見せないノリスが先を促す。

俺、ラッキーとか思っちゃったごめん。


「ローブ来てる...宗教者っすかね?人集めて演説打ってました。内容は分かんないですけど、血まみれの杖片手に...すんません何やってんのかは分かんなかったっす」


どういうことだ?

前回のベースキャンプ襲撃では白ローブは全部殺ったんだけどな。あー、でもそいつらの遺品持って帰ったって感じかもな。

まぁどうでも良いっちゃどうでも良いか。


「他には?そのキャンプ以外は何もなかったの」


そう聞きつつシエラ先生はウィンチェスターを俺に渡してくる。

俺も行くのね。行くつもりだったから良いけど。

行くと決まったら、誰かそこのポーチ取って欲しい。俺は手振りでマリアにアピールしてみた。


「キャンプを張った跡も見つけたっす。40人ちょっとは元々別で居て、そこから合流したみたいっす。これは足跡と森が教えてくれたんで確かっす」


マリアありがとうな。ポーチも満タンやね、重さで分かる。

先にキャンプの跡見つけて芋づる式に当たりを引いたのか。なるほどね。


「ジョンドゥ、どうする?」


軍曹ノリス、やることは決まっているだろ?

人選はどうすっかなぁ...


「見つけたカルロ分隊と俺、シエラ、マリアで叩こう。ノリスさんは自分の分隊とルーイ分隊、コルディ組、ブラッカスたちでキャンプグアンを防衛してください。タナモは空けていいです、でもM2は引き上げてください」


俺とシエラが出るならノリスはお留守番だな。本人もわかってるから腰を浮かせもしない。多分軍曹にとっても正解だろ。


「そっちが少なくないか?」


心配する振りしてノリスもこれで良いと思ってるんだろ?

襲撃よりもグアンタナモの防衛が大事だ。帰る場所が無くなった俺は死ぬ。


「こっちは大丈夫です。ノリスさんはいざとなったらドワーフにM2と迫撃砲使わせてください」


「ああ、任せてくれ。それに言い方は良くないが、ジョンドゥたちが餌になってグアンタナモに引っ張ってくるのを叩くくらいしか仕事はないと思うよ」


そんな釣り野伏させんなや。ここはキューバだ、九州じゃない。

まぁ無理すんなって言ってんのは分かる。随分好戦的だけどな。


「もしもの時は頼みますよ。マリアはグレネードを持って行ってね。もちろんカルロ分隊も忘れないで」


M79は偵察に持って行かせてないから今言っとかないと。あるとないとじゃ制圧力が大分違う。

それに分隊火力が上がったことを実感してもらおう。レミントンだけと雲泥の差になるはずだし。


「うす」


「持って行きます。さー」


純朴な青年の気の抜けた返事と気持ちのんびりなゆるふわ擲弾兵ガール。

一見油断してるように見えるけどそうじゃないんだろうな。この子らナチュラルに殺るんだろう。

カルロは爺さんを殺され、マリアは姉が戻ってこない。そう言っていたし皆そんな感じだ。

まぁいいや、この子たちが気の済むまで付き合おう。


「ジョン分隊とカルロ分隊は出撃だ。カルロ、先導してくれ」

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