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戦争は未然に防がれた

「見てみて-、天音っち。描いてみたっ」

「ふおっ」


 千代のノートに描かれたイラストを見て、私は思わず声を上げる。


「こ、これは……」


 これまでもちょこちょこ千代が描いた絵を見せてもらってはいる。正直、かなり上手いと思う。というか、それそのものだ。


『いやー、私、それしか出来ないし。自分の絵柄ってものが無いんだよ』


 なんて、千代は言う。

 千代がそれしか出来ないなど言っていること。それは、漫画やアニメのイラストをそっくりに描けることだ。

 けれど、それはそれですごいんじゃないかと思う。

 だって、これはどう見ても野生の公式だ。それに、そっくりに描きつつ写しているだけではなくて、ちゃんとそのキャラに似せつつ新しい構図で描いている。

 それって、才能だと思う。

 だが、それより、このイラストは……、


「この頃の作風も、なかなかいいんだよね。今の方が洗練されている気がするけど、今とは違ってなんか勢いがあるって言うか」

「それは、なんかわかる」


 頷きながら、私は心の中でツッコミを入れずにはいられない。

 これ、父が昔やっていたキャラクター、シェニのイラストだー!

 更に、新居さんがやっていたキャラであるウノまで一緒に描かれている。しかも、なんだか怪しい雰囲気だ。

 この二人が揃っているのを見たばかりの私は、なんだか、こう……、身体がむずむずと……。


「天音っち、この作品わかる? 結構古いやつだけど」

「あ、うん。動画で見たことある」

「おお、よかった! 私も藤沢さんを追って、昔の動画とかも最近見てるんだけどね。少年な藤沢さんも最高っすわ。それにね、それにね!」


 くふふ、と千代が口に手を当てて思わせぶりに笑う。


「最高なんですわー。ウノ×シェニ。くふふふ。先人たちがハマっていたのもわかりますわー」


 よくわからないが、千代が謎の商人みたいな口調になっている。それくらい興奮しているらしい。

 私は複雑な気分だ。

 うん、だけど、


「私も嫌いじゃない、けど」


 なんて、答えてしまう。


「やっぱり! 天音っちならわかってくれると思った! 新居さんの声だしね! 見てなかったら勧めるつもりだったんだ-。それにねー、これがシェニ×ウノじゃないのがいいんだよ。シェニが受けなのがまたいいのよ。ぐふふふふふ。なんか、シェニって明るいのにちょっと不憫なキャラというか、でもそこがまた悪くないんだよねえ」

「……」


 わかる! すごくわかる!

 キャラ的にはめちゃくちゃ美味しいと思うのだが……。

 シェニの声が父だというところに微妙にブレーキが掛かってしまう!

 しかも、相手は新居さん……。

 妄想すると、ちょっといけないことになってしまうから!

 というか、生々しすぎる-!


「あ、ごめん。も、もしかして! 天音っちはカップリング、逆だったとか? いつも新居さんのこと可憐って言ってるし」


 千代がちょっぴり心配そうに私の顔をのぞき込んでくる。


「あ、ううん? 私もこのカップリングはウノ×シェニだと思うよ。大丈夫だよ。ウノの役やってるときは新居さん、クール系だし」

「ふー、よかったー」


 千代が胸を撫で下ろしている。


「逆カプだと戦争になることあるからねー。SNSとかだとよくあるけど、私、天音っちと戦争したくないし!」

「いやいや、もし逆カプが好きでも私もちーちゃんとは戦争しないし」

「うんうん。でも同じでよかったー。黙っちゃうから心配したよ」

「ごめんね。頭の中で妄想してたらトリップしちゃって」


 あは、と私が笑うと、


「それは、すごく、わかります」


 千代が力一杯頷いた。

 実際にはその妄想にブレーキ掛けるのに必死だったわけだけど、それは内緒だ。

 それにしても、まさか千代がそこまで父を追いかけているとは思わなかった。一瞬、その作品、母が見ていたのを横で見ていた、なんて言いそうになって焦った。

 そんなことを言ってしまえば、芋づる式で母が父の声大好きとかバレそうで怖い! それだけならいいんだけど、なにしろ夫婦だから……。


「でさ、これ見て-」

「ん?」


 私は千代が差し出したスマホをのぞき込む。

 そこにはなんだかものすごく美麗としか言いようのないウノとシェニのイラストがあった。


「わあ」


 私は思わず声を上げる。


「いいでしょ! いいでしょ!? 放送当時に活動してた人みたいなんだけどね。こういうの耽美って言うの? この雰囲気がたまらんのよ! 子育てが一段落してまた活動を始めたとか書いてあってさ。当時のファンの人からもコメントめちゃくちゃついてるから、元々人気だったんじゃないかな。私も最近よく見てるんだ、この人のイラスト。いやー、復帰してくれて良かった。これからもアップしてくって書いてあるし、この人も藤沢さん、大好きって書いてあるし、楽しみだなー」


 一緒に画面をのぞき込みながら、千代がほぅとため息を吐いている。



* * *



「ただいまー。あれ?」


 今日は母が家にいるはずなのだが返事がない。


「お母さん?」


 コレクション部屋だろうか。

 ノックしてみるが返事はない。何かに夢中になっていて気付かないだけなのかもしれない。ドアに手を掛ける。鍵は、開いてる。

 いた。

 母はパソコンに向かって何か作業をしているようだ。この部屋はコレクション部屋兼、母の作業部屋にもなっている。ヘッドホンをして何かを聴いているらしく、ノックの音に気付かなかったようだ。

 手元にあるのは、ペンタブ? どうやら何か絵を描いているらしい。昔、同人誌を出していたというのは聞いたことがあるけれど。

 古のオタクというやつだと、母が自分で言って笑っていた。のだが……、


「え!?」


 パソコンの画面を見た私は思わず声を上げた。

 母が振り向く。


「あ、天音!? 見た!?」


 私に気付いた母が、慌てて画面を隠そうとあたふたしている。

 否定するつもりなのに、私の目は画面に表示されている絵に釘付けになってしまう。


「お父さんには内緒で! ね! さすがに本人に見せるのは気まずいし!」


 私は、こくこくと頷く。確かにこれは父には見せられない。

 耽美なウノ×シェニ絵なんて。

 驚いた理由はそれだけじゃない。この作風、すごく見覚えがある。

 だって今日、千代に見せられたばっかりなんだからー!


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