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お菓子の行方

「え、あ? お、俺に?」

「迷惑だったかな。甘いもの好きじゃない?」

「いやいやいや、嫌いじゃない!」


 三島君がちょっと挙動不審だ。

 校舎裏に呼び出してお菓子を渡すなんてちょっとおかしかっただろうか。親父ギャグではなく。

 三島君が周りをきょろきょろと見回している。私もつられて見回す。人目は無いみたいだけど。というか、そういうところを選んだつもりだけど。

 千代にも一応相談したら校舎裏がいいとか言って三島君を呼び出して、『後は若い二人で』と言い残し、どこかに行ってしまったのだ。千代が三島君のことを好きなら私と二人気になるのが気になるんじゃないかと思って一緒にいてもらおうと思ったんだけど、用事でもあったんだろうか。

 それにしても、女の子にこんなことをされているのは気まずいに違いない。友達に見られていたら何か言われそうだし。


「ごめんね、すぐ行くから」

「待って待って待って!」


 三島君が慌てた様子で私の手を掴む。

 それから、


「ご、ごめん」


 赤くなってすぐに私の手を離した。


「あ、うん」


 これもまたつられて、なんだかこっちまで顔が赤くなる。そう、つられてしまったのだ。

 男の子に手を掴まれるなんて、保育園のとき以来だろうか。三島君もそうなのかもしれない。

 慣れないことをするの、よくない。

 三島君は何か言いたいことがあって慌てていたに違いない。

 それで、咄嗟に。うん。


「あのさ、これってどういう、こと?」

「あ、そうだった」


 説明もしてなかった。

 あんまり長時間こんな風に一緒にいると迷惑かなと思って、謎にお菓子を渡していく変な人になるところだった。


「昨日のお詫びだよ。中身は私が作ったお菓子なんだけど」

「藤沢の、手作り・・・・・・」

「あ、もしかして、手作りダメな人だった?」


 三島君がぶんぶんと首を横に振る。


「よかったー」


 三島君はしげしげと紙袋の中身をのぞいている。シンプルな袋にしたから男子が持っていてもおかしくはないはず。鞄にもちゃんと入るサイズだし。その辺はちゃんと考えている。


「昨日、お父さんのことで迷惑掛けたでしょ? だから気にしてないかなって思って」

「あー」


 とか、言って黙ってしまうところを見るとやっぱり気にしてたみたいだ。


「ごめんね。うちのお父さん、ちょっと親バカで」


 言ってて恥ずかしい。

 見られたのも恥ずかしい。

 父の正体を知られたのもそうだけど、あの親バカっぷりを見られたことが、もう・・・・・・。


「・・・・・・いいお父さんに見えるけど」

「え、本当!? そう言ってもらえると嬉しいけど」


 正直、引かれてるかと思った。

 それに、三島君も教室で父が声優だってことを誰かに言っている様子は無い。やっぱり信じても大丈夫そう。ネットでもそんな話題出てないし。

 それに、父のことをいいお父さんって言ってくれるなんて。


「三島君って、いい人だね」

「え」


 なんか、三島君が固まってる。


「あ、ええとね。うちのお父さんのこと誰にも言わないって言ってくれたし、あと、Vtuberのこともだし。無理矢理やって欲しいって言ったみたいなものなのに、ありがたいなって思って。だから、お菓子もそのお礼って言うか」


 伝わってないかなと思って説明する。

 今になって思った。すぐにでも渡したいなって思って作ってしまったけど、今度家に来るときでもよかったかもしれない。

 私ってやつは。

 でも、すぐにでも渡したかったわけで。


「本当にありがとう。色々巻き込んじゃってるのに」

「・・・・・・別に。巻き込まれてるわけじゃないから」


 三島君はちょっとわざとらしく咳払いする。


「俺も、動画とか作ってみたかったところだったから」

「そうなの? 部活でやってたりするんじゃないの?」

「部活でやってることなんてつまらないことばっかりなんだよ。だから、俺も色々好きでやらせてもらってるからいい」

「そっか、よかった。三島君も楽しくやってくれてるなら安心だよ」

「それより、藤沢の方こそ目立つの嫌なんじゃないのか? 無理してるんだろ? 声入れるのだって大変そうだし」

「・・・・・・え」


 びっくりした。

 そこまでわかってくれてたんだ。


「あ、うん。でも、三島君もちーちゃんもがんばって作ってくれてるから。私も頑張らなきゃって、思って」

「そっか、でも無理すんなよ」

「あ、ありがとう。だけどね、二人がせっかくすごいの作ってくれてるのに、私だけ全然追い付けてなくて・・・・・・」

「そうか? 俺は、藤沢の声すごくいいと思うけど」

「え、あ。あ、そ、そうかな」


 三島君の言葉はお世辞じゃないみたいに聞こえた。それで、少しドキッとしてしまった。

 不意打ちで言うのはずるい。


「それに藤沢のお父さんのことも、他のやつに言わないよ。だって、藤沢、バレるの嫌なんだろ? 嫌がってるなら言わないのなんか当たり前じゃないか」


 さらりと、三島君は言う。本当に当たり前みたいに。

 みんな、そうだったのかな。そんな風に考えてくれるんだろうか。絶対にバレたくないって、私が心配しすぎていただけで。人気声優の娘だって言われて、そういう目で見られるのが嫌だったから。

 三島君は、私が誰の娘でも気にしないでいてくれてるみたい。

 だけど、やっぱりそれは三島君が三島君だからかもしれない。

 きっとみんなが同じなわけじゃない。

 だったら、こうして仲良くなったのが三島君で良かった。

 父のことバレたときに千代が変わらずにいてくれたみたいに、三島君も変わらずにいてくれるのが嬉しい。


「ありがとう、三島君」

「お、おう」


 照れたように三島君が笑う。笑った三島君は、ちょっと可愛い。いつも結構無表情気味だから。


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