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信じられる言葉

「情熱? イメージ? なんか、もやっとしててよくわからんのだが」

「だよねー」


 教室でまだ朝一の授業が始まる前に昨日母から言われた内容を千代に伝えてみたものの、反応はやっぱりあんまりよくなかった。

 確かに、漠然としすぎていてよくわからないのは確かだ。


「でも、どしたの急に。情熱とかイメージとか言われても、私にはまだ無理だよ。オリジナルなんて」

「だったら、私も無理なんだけど」

「えっ、それは困る。むー。だけどなー」

「私はちーちゃんのオリジナルのイラスト、見てみたいと思ってるよ。だって、いつも見せてもらってるのすっごく上手いし、諦めたらもったいないと思うから」

「そ、そんなあ」


 と、言いつつまんざらでも無さそうな気がするのは気のせいではなさそうだ。昨日、母も言っていたとおり直接褒めるというのは本当に破壊力があるらしい。


「あ、でも」

「?」


 千代が何か閃いたように、にまりと笑って私を見る。


「ってことは、天音っちやる気出たんだね」

「え、あ、うーん」

「うんうん。いいことだよー。いいよーいいよー」


 プロデューサーか何かのように言いながら、千代が私の肩をぽむぽむと叩く。いや、本当にプロデューサーかな?


「が、問題は私か! けど、どこでそんな話見たの? ネット?」

「えーと」


 父のことすらバレているんだ。もう怖いものは無いというか、言っても構わないかもしれない。そこも一応聞いとけばよかった。でも、母も直接会って話したいとか言ってたくらいだし、母としても不都合は無いはず。

 それに、好きな作家さんの言うことなら千代だって真剣に聞きたくなるはず。


「ううん。あのね、千代が前に見せてくれたウノ×シェニを描いてた人いるでしょ?」

「ああ! うん。あの人! めっちゃ素敵なイラストを描くお方!」

「あのね、あの人が言ってたの」

「!? 嘘! それなら、ちょっと信じられる。そっか、イメージ。確かにそれは模写とは違うよね。イメージ、すなわち妄想。私の描きたいもの、か。出来るのだろうか・・・・・・、情熱があれば。あれ? でも、私いつもあの人の発言追ってるけどそんなこと一言も言ってなかったよ。私が知らないところでなんか書いてた!? 天音っち、ソースはどこ!?」

「ええとね・・・・・・」


 やっぱりちょっと躊躇う。

 ネットのどこかで見たとか言っといた方がいいだろうか。でも、また隠し事をするのも嫌だし。

 父のことがバレたとき、千代は信頼できるって思った。


「あの作家さん、私の母・・・・・・なの」

「は! は!? ・・・・・・母!」


 ぶるぶると千代が下を向いて震えている。


「だ、大丈夫?」


 声を掛けると、千代が顔を上げた。

 そして、


「天音っち、どんだけハイスペックなの!?」


 叫んだ。


「私は全然ハイスペックじゃないけどね。それは親の方だけどね。後ね、ちーちゃん。いつものことだけど、ここ教室」


 遠くから三島君が私たちを見ている。あ、目逸らした。

 そうだよね。こんなことしてる変な女子達と仲間だって思われたくないよね。

 一応、千代も父のこととかVtuberの計画に関することとかは大声で言ったりしないから、その辺考えてはいるんだろうけど。

 三島君とはLINEで連絡を取ることにして、教室ではあまり話さないようにするということで話がついている。やっぱり、教室で女の子とあんまり話したりするのは恥ずかしいからに違いない。しかも、内容が内容だ。クラスメイトにもバレないように気を付けなくてはいけない。

 今のところ、三島君が誰かに話したような様子は無い。クラスの誰も、私たちを気にしている感じがしない。

 千代の言っていたとおり、本当に信用できる人のようだ。最初はどうしようかと思ったけど、よかった。それに、動画を作る知識もあるみたいで頼りに出来そうでもある。


「ね! ね! じゃあ、今度行ったとき天音っちのお母さんと話させてもらってもいいだろうか!?」

「あ、うん。お母さんもそんな子がいるなら会ってみたいって言ってたし」

「マジかーい! ありがとう、ありがとう」


 千代が私の手を掴んでぶんぶんと振る。


「天音っちの両親、マジ神」

「人の親を信仰しないで~」

「そう言われましても」


 これで、母も声優としての藤沢和孝の大ファンでもあるなんて知ったら、千代が更に大喜びするだろうか。

 母は古の腐女子と自分で言うだけあって、すごく古い父のアイテムなんかを持っている。あのコレクション部屋にある物たちだ。

 千代とは意気投合してあの部屋から出てこなくなるかもしれない。

 それはそれで、平和でいい、のか?


「でも、私頑張ってみる! なんか、出来そうな気がしてきた! 情熱!!」


 ともあれ、千代はやる気になったみたいだ。鼻息を荒げながら拳をぐっと握りしめている。


「天音っちにぴったりなキャラを作ってみせるからねっ。出来る、出来る。私なら出来る。よっしゃ、よっしゃー!」


 なんだか私が焚き付けちゃったみたいだけど、千代が描くオリジナルのキャラとかちょっと見てみたい。


「楽しみにしてるね」

「おう!」


 私の言葉に、千代はびっ! とかっこよく親指を立てたのだった。男前。


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