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コミケデビューとか、しないから!

「ねえ、お母さんって元々絵描くの上手かったの?」

「ぶっふ!」


 台所で夕飯の用意をしている母に声を掛けたら、なんか吹き出した。でも、笑ってるって感じじゃなくてびっくりしてるような、そんな感じ。

 どっちの反応?


「そんな訳ないでしょ」


 どうもそっちだったらしい。


「どうしたの、急に」

「えと、この前お母さんが絵描いてるの見ちゃったから・・・・・・。すごく上手いなと思って」

「あら、ありがとう」


 本当は言ってたのは千代の方なんだけど、私もすごいなとは思ってたから嘘ではない。本当に上手だし。今っぽくは無いんだけど、それはそれで良さがあるし。


「けど、いきなり何? 天音もなんか描き始めたとか? ハッ! まさか、天音もそっちの道に!? コミケデビューしちゃう!?」

「しないしない」


 父といい母といい、なんでこうなんだろう。私の家。

 まあ、いいけど。慣れてるから。


「そっかー」


 母は何故か肩を落としている。


「親子でコミケとか、そういうのも聞くから楽しそうだなーとか思ったんだけどな-」

「それ、恥ずかしいよ」

「そう? ネットとかで見ていいなと思ってたんだけど」

「それより、じゃあお母さんどうやって絵上手くなったの?」

「そんなに上手い上手いって言われると照れるじゃない」

「ネットでよく言われてるんじゃないの?」

「うーん。意外とそういうのって直接言われることって無いからねえ。面と向かって言われると嬉しいのよ。しかも可愛い娘からでしょ? 嬉しいに決まってるじゃない」

「そういうもん?」

「そういうもんよ。お母さん照れちゃう!」


 だとしたら、千代が直接言ってくれたらもっと喜ぶに違いない。もう帰っちゃったけど。あれから結局、何も決まらずぐだぐだのままお開きになったのだ。

 わざわざ来てもらった三島君には悪かったけど、千代と盛り上がってたからいいのかな?


「お父さんだって、天音がこっそりイベントに来てくれたのすっごく喜んでたんだから。というか、それなら私も行きたかったんだけどね」

「いつも家で一緒なのに・・・・・・」

「それとこれとは別なの! で、どうやったら上達したって話よね」


 話が戻った。


「・・・・・・とにかく、描いた!」

「それだけ?」

「そうなのよ。好きこそ物の上手なれって言うでしょ? 自分の好きなキャラを素敵に描きたいって一心でめちゃくちゃ描いたのよ。もー、最初は下手で下手でね-。上手い人なんていっぱいいるんだから、私が描かなくてもいいかなんて思ったんだけど。それでも自分の見たいものが描きたいって諦めきれなくてね」

「そうなんだ」

「それにね、上手いって言うけど私は全然、今だって満足してないのよ?」

「そうなの?」

「もっと上手くなりたいし、再開したばっかりだから昔の勘を取り戻したいって思うし、もっとガンガンやらないとね! お父さんだってそうだと思うわよ?」

「え、お父さん?」

「今だって素敵だけど、それを維持しようっていつも筋トレしたり走りに行ったり、演技に役立つんじゃないかって今も色々新しいことにチャレンジしようとしてるでしょ?」


 確かに、父も人気声優の座にあぐらをかいてる訳じゃない。いつも色々努力しているのは私も知っている。同じ家に住んでるんだから見えてしまう。


「それに、お父さんだって最初から人気だったわけでもないしね。あ、私は元々新人の頃から目、付けてたけどね。若い頃の和孝さんも初々しくて素敵だったんだから」


 母がどこか遠くを見ている。その頃の父を思い出しているのか、妄想の世界に行ってしまったようだ。


「あーん、和孝さん。初々しい演技もよかったけど、今の落ち着いた演技も最高! で、なんの話だったの?」


 あ、帰ってきた。

 言っていいのかな。ぼやかせば大丈夫かな。


「私の友達で絵を描いてる子がいるんだけどね。模写とか、キャラを真似して描くのは得意なんだけど、オリジナルを描くのが苦手らしくて悩んでて、そういうのってどうしたらいいのかなって」

「よくある悩みね」

「そうなの?」

「でも、まずは上手い人の絵を見て真似することって大事だよ。うーん、でもそこからオリジナル書こうと思ったら・・・・・・。私だって既存キャラ描いても、手癖で自分の作風になっちゃうだけだからなぁ」

「手癖・・・・・・。ぼんやりしすぎててわからない・・・・・・」

「その子って、模写は上手いの?」

「うん! めっちゃ上手い!」

「そっか。じゃあ、いっぱい練習したんだね。きっと。絵、描くのすごく好きなんだ」

「だと思う」


 いつも千代のイラストはすごいなって思うから。

 そっか、改めて考えるとあれって千代に才能あるんだと思ってたけど、努力した結果だったんだ。

 好きだからがんばっていっぱい描いてたんだ。


「だったら、オリジナルだって描けると思うよ。既存キャラをそっくりに描けるなら、そうだなあ、後はイメージかな。どんなキャラを描けばいいかっていうのがわからないんじゃないかな。頭の中に思い浮かぶイメージ! こんなキャラが描きたいっていう情熱! それが大事だと思うな」


 うん、わからない。抽象的すぎて!

 けど、なんとなく理解出来る部分もあるような?

 一応、千代に伝えてみよう、なんて思っていたら母の目がきらりと光った。


「で、その子、もしかして同人とかやってたりする? あ、もしかしてこれからやろうとか思ってたりする? そこで行き詰まってるってことは何か興味あるってことじゃない? なんなら、古の腐女子として相談に乗っちゃうよ? うふふふふふ」

「じゃあさ」


 ここはきちんと本人にも断りを入れておかねば。


「お母さんの言葉、友達に伝えても大丈夫かな」

「もっちろん! 是非是非伝えて! そんでもって、いいものを描いてもらわねば! 若者には頑張って欲しいですから!」

「あ、ありがとう」


 母の熱血っぽい話し方に押されてしまうけど、とりあえず千代に伝えられそうなことが聞けてよかった。


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