舞い降りた星の四葉
愛しい人を見てたら、思いついた小説とでもいいましょうか。
...そんな感じです。
私は朝日を浴びながら、微睡む意識の中で、昔の事を思い出していた。
些細なことで、親と喧嘩した私。まだ幼く、その些細な事で自室のベットで泣いていた。
ひとしきり泣いた頃、窓から月明かりが漏れて、私を照らした。
今日は、やけに月が明るい。
私は、その月明かりに誘われる様に自室の窓からパジャマのままで飛び出した。
そこには、親に対する反抗心と月明かりが照らす森への好奇心があった。
裸足で森まで駆けて行ったので、足の裏は泥だらけだし痛みもあった。でも、だんだんと膨れ上がる好奇心の方が優って、そんな些細な事では私の足を止める事はできなかった。
親からは、白いワンピースの女の幽霊が出て連れ攫われるから、近づいてはいけないと言われていた。
それもあって、普段は薄暗いその森は、なんだか怖くて近寄らなかった。
だが、今日に限っては、月明かりのせいか、木々がキラキラ輝いて見え、クリスマスツリーの様で、胸を躍らせた。
月明かりの導くままに、駆け回ったら、少し喉が渇いた。
丁度よく、川の流れる音がして、私はそっちへ駆けて行った。
着いた先は、小さな滝と滝壺のあるキラキラと月明かりに反射した澄んだ水が流れ、水苔がエメラルドに輝き、一面が宝石の絨毯みたいに広がる場所だった。
私は、喉を潤そうとその幻想的な川へ向かおうとするが、先客がいて足を止めた。
一際大きな平たい岩の上を、優雅に踊る一人の女性がいる。
ふんわりと柔らかそうな真っ白なワンピースを身につけ、髪も柔らかそうな栗毛が踊る様に舞い、すらりとした手足はしなやかに舞う。時折、流るる水に浸り、足を後ろに蹴り上げると、水飛沫が月明かりでキラキラと舞い上がり円を描いて小雨の様に降り注ぐ。
踊る彼女に、スポットライトの様に強い月明かりが絶え間なく降り注ぐ。
そこはもう、彼女の舞台とでもいう様に。
幻想的な場所で月明かりを纏って踊るその彼女を、私は、ミューズが舞い降りたんだと思った。
楽しそうに舞う姿をただ息を潜めて魅入っていた私だったが、もっと近くで観たいと、ゆっくり足を踏み出した、その時だった。
地面に落ちていた小枝を踏んでしまう。
パキ
はっとした驚きを隠せない私と、舞うのを止めて、可愛らしい笑顔がすっと消えて強い意識を持った様な眼差しの彼女との視線が合った。
何を言えばいいのか分からない私をよそに、彼女はふっと花が咲いた様な笑顔を見せた。
私はまた、はっとして、駆け出した。彼女の美しい長い指先に触れるか触れないか。
彼女は、
タン
と高く高く飛び上がり、強い光に包まれて行く。
目が痛くて開けていられないほどの眩い光。
眩しさが収まり、瞼をゆっくりと開けると、そこにいたはずの彼女は居なかった。
ただ、彼女が舞い上がった群青色の空には満点の星々輝き、その星が注ぐ様に、星の砂の様な小さな煌めきが、私に降り注いだ。
私は、その煌めきが全て落ちるまで、ただただ、天の川の様な夜空を眺めていた。
全ての煌めきが落ちた時、キラキラとエメラルド光る一つの鮮やかな四つ葉のクローバーが私の手に中に落ちてきた。
その小さく宝石の様なクローバーは、息をする様に小さくではあるが光っては消えるを繰り返す。
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それから私は、どれだけの年月を迎えたのか。その時には全くなかった皺が気になるくらい経ったのかもしれない。
未だにあの不思議な出来事は、なんだったのか。何度も、何度も考えたが、答えは出ない。
一度きり、会えた彼女。
私のミューズ。
私の初恋。
微睡みから、現実に戻る。
私の手には、未だに輝くクローバーがある。
それを見ると、彼女に恋焦がれ、一時も忘れず、想う。
私は、奪われたのだ。
心を。
会えなく、夜な夜な涙が流れ落ちることもあるけれど、このクローバーが輝き続ける限り、私と彼女は繋がっていると、そう思うのだ。
そして、このクローバーがあれば、きっと、彼女と、もう一度会えると。
その時は、必ず彼女の手を取ろうと、そう思うのだ。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。