2,協力プレイ
「無事に見つけられたようね」
「おかげさまで」
僕はコーヒーの入ったコップを片手に、彼女の向かいの椅子に向かう。
結局あの部屋の閉じ方?は分からなかったから、そのままにしてしまった。まぁほとんど人が来ないところだし大丈夫だろう。
「あの部屋、監視部屋みたいでしたね。わざわざあれを見せるためにこんな回りくどいことを?」
僕は手に持ったコップを少し持ち上げてアピールする。
「お気に召さなかった?これは私からあなたへのアピールよ。この図書館のことはあなたよりも知っているということのね」
彼女も手元のコップを持ち上げて応じ、そのまま口元へもっていった。少し顔を背けて横顔が見える形で一口こくんと飲んだ。
なんか飲み方が色っぽいなぁ……。そのまま舌をペロリとやってくれれば完璧なんだがなぁ……。おっとっといかんいかん、こんなことを考えている場合ではない。
「ええ、そうでしょうね。参りました。今ではあんな問題を出したことが恥ずかしいですよ」
いくら問題を創るのに不慣れで、かつ一問目だったとはいえ浅はかだったかもしれない。反省。次はきっとうまくやる。
「分かればいいのよ。それにあなたが知らないことはまだまだある」
それはそうだろうとも。そのギャップを埋めるために、ひいては彼女をまた研究に協力させるヒントを得るために、今こうして頑張っているのだ。1,000万がかかっていることだし。
「それはそうでしょう。結局あの場所って何なんです?ここが独房だったころの名残に見えましたけど」
あの本棚の隠し扉の先。監視カメラが沢山あった。彼女が普段使いしているのだろうコーヒーメーカーや簡易ベッドなんかもあった。ベッドメイキングはされていたが。
あの部屋はどうみても今でも普通に使われている場所だ。目の前の人物に。あそこで寝泊まりしている可能性は十分にある。
昨夜を思い返してみると、深夜ふと目を覚ました時彼女はいなかった。そりゃいなくて当然だが、毎日ここに来るなら近くに寝床があった方が効率的だ。
「残念だけれど、私の答えを教えることはできない。そうだわ、自分なりに答えを出してみて、私に今日の問題として出してみるのも面白いんじゃない?」
彼女は全く残念そうに思っていないすまし顔でそう言った。あくまでも勝手にすれば?という空気を醸し出している。だが。彼女がした目配せを僕は見逃さなかった。
ははーんなるほど。ここにもっていくためにこんな回りくどいことをしたのか。
つまり、彼女は自己開示したいのだ、と思う。自分から自分のことは言えない立場にあるから、何とかしてヒントを出して、自分のことを知ってほしい。
自分は何も言っていない、僕が勝手に調べて結論を出しただけ、自分の責任ではない、これはあくまでもそういうゲーム、そういうような立場を取りたいのだ。
そういうことなら乗ってあげよう。僕は彼女のことが知りたい。彼女は自分のことを話したい。両者の希望は一致している。ただそれが堂々とできないだけで。ゲームという建前を利用してやろうじゃないか。
「分かりました。ええ、万事。任せてください」
彼女の瞳がキラリと光ったように感じた。それがどういう意味なのかは分からないけれど。
……あれ、そういえば、彼女と見を合わせたのはこれが初めてかもしれない。そう思いたった。