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僕が創り、彼女が解く  作者: 二壱七
8/9

2,二日目

 今何時だろう。眠っていたようだ。薄明かりが何もない机を照らしている。彼女はいない。背中の心地よい重みに気づく。柔らかい。毛布だ。心なしかいい匂いがする。頭が働かない。このまま寝てしまおう。

  

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 陽の光の眩しさで目が覚めた。スマホを確認する。10時だ。やばい寝すぎた。


 「起きたかしら。だいぶお疲れだったようね」

 

 彼女は相変わらずこちらを見ないままそう言った。まだ心の距離は遠そうだ。

 今日は文庫本を読んでいる。背景は見えない。推理小説は嫌いと言っていたから、恋愛小説あたりだろうか。

 机の上には湯気が立ったコップが一つ置いてあった。当然彼女の側に。ファンシーなクマの顔が描かれている。鼻孔をくすぐるこの匂いは


 「コーヒーですか。いいですね優雅で。僕にもいただけませんか?まだ眠気が残ってて」


 「自分で淹れてくればいいわ。これは私のよ」

 

 これ見よがしにコップを自分の方に引き寄せて、所有権を主張する彼女。

 あれ、というか


 「それってマイコップですか?図書館で?蓋つきじゃないし、こぼすリスクとか湿気とか大変そうですけど、怒られません?」


 「これはここの備品だから問題ないわ。そもそもここにある本たちなんて、もう見捨てられたようなものよ。咎める人なんていない」


 「そんなもんですかね」


 まぁ大丈夫だというなら大丈夫なのだろう。彼女は僕よりもここを知っているはずだし。


 「それで、どこで淹れられるんです?」


 あっち。と一つしかない出入口を指さす彼女。

 いやいや、それじゃあどこか分からんよ。


 「もう少し詳しくお願いします」


 「ここから見て最初の分かれ道を左に行って、次の突き当りを右。それから……」


 「ちょっ、ちょっと待ってください。メモするんで」


 ひとしきり説明し終わると、さっさと行けと言わんばかりに手をシッシッと振られた。

 僕はメモを頼りに、言われた場所に行くことにした。 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 着いてみるとそこは行き止まりだった。左右と前方には見上げるほどの本の壁。人が通れるスペースが一人分程度しかない。なんとも圧迫感がすごい。

 どこかで道を間違えたのかとメモと記憶を確認した。

 間違いない。言われた通り、メモした通りに来たはずだ。嘘をつかれたのだろうか。ありうる。今頃僕のことを嘲笑っているのだろうか。だとしたらなんとも性悪な女だ。


 「おっ?」


 そんなことを思っていると、あることに気づいた。

 ここら辺にもほとんど人が来ないのか、辺りの本には埃が多々積もっていた。だが前方の本棚、ちょうど僕の目線の高さ、一冊だけ埃が積もっていない。最近動かされた跡がある。

 その一冊を抜き出そうと引っ張ると、途中でつっかえてそれ以上動かなくなった。と同時にガゴンという重く鈍い音がして、目の前にあった本棚がゆっくりと動き始め、先に進む道が開けた。


 実際にこんな仕掛けあるんだなぁ。創作の世界だけかと思ってた。そんなことをぼんやり思いつつ先に進む。疑って悪かった。


 中は暗い。スマホで明かりを確保しつつ電気のスイッチがないか探す。あった。

 つけてみると、そこは管理人室のようだ。そう、独房の。

 監視カメラのものであろう映像が大量に画面に映し出されている。彼女が映っていないか探す。いた。こちらを見ずに手だけこちらに向けて振っている。あそこに監視カメラなんてあったのか。というかよく僕がここに来るタイミングを狙ってそんな行動取れるな。なんでもお見通しってか。

 とはいえ、今の僕の目的はコーヒーだ。どこかに準備があるはずだ。監視カメラの映像に目を奪われていたが、探すまでもなく、すぐに新しめのコーヒーメーカーが見つかった。さっさと淹れて帰るとしよう。

 わざわざこんな場所を僕に見せた、その理由を問わねばなるまい。これは彼女なりの歩み寄りだろうか。だとしたら順調に心の距離が縮まっていると思いたい。

 昨日徹夜して頑張ったかいがあろうというものだ。


 部屋を出たところで気づいた。ところで、この本棚の仕掛け、戻すのはどうすればいいんだろう。

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