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僕が創り、彼女が解く  作者: 二壱七
5/9

1,第一問

 「やあ、おはよう。。。」


 「声に元気がないわね。お疲れかしら」


 この女、よくもまぁぬけぬけと。こちとら徹夜じゃい。

 彼女は、昨日来た時と同じように、こちらに背を向ける形で座っていた。一つの机に向かい合う形で配置された椅子二脚。僕は眠い目を擦り、脇腹に抱えた推理小説達の重さに辟易しながら、彼女の向かいに座った。


 「やる気があるのは認めるけれど、一朝一夕でまともな謎解きが出せるとは思えないわね」


 たかが数冊読んだくらいで、と彼女は僕の持っている本たちを見ながらそう言った。

 認めよう。その通りだ。僕は昨日、彼女と謎解き勝負する約束を取り付け(てしまっ)た。それからずっと、どんな問題を出そうか考え続けていた。幸いにしてここは図書館だ。加えて、何故か大学図書館なのに娯楽系の小説まで完備されている。そう推理小説も。何か謎解きのヒントを得られないかと徹夜までして読み漁ったが、まるで浮かばなかった。


 「実を言うと、その通りです。色々読んでみましたが、自分で考えてみろと言われても、そう簡単に浮かぶもんじゃない。作家というものの偉大さを感じましたよ。とはいえ一日一日は貴重です。ここで雑談していたら何か浮かぶかもしれないと、玉も持たずに会いに来たってわけです」


 実際、この謎解き勝負はそこまで大事なわけではない。僕が勝っても彼女は約束を反故にできるのだから。それよりも大事なのは彼女を知ること。つまり、この雑談の時間だ。


 「でしょうね。そうでなければこの世は推理作家で溢れてしまう。とはいえ、もう新しいトリックなんてなかなか出てこないでしょうけどね。過去の焼き増しばっかりよ」


 そういうもんか。トリックは大体似たり寄ったりで、見せ方を工夫したり、状況設定を工夫したりが関の山、って感じなのかな。

 

 「この調子だと一日一問も出せそうにないわね。さっさと諦めたほうがいいわよ」


 「そういうわけにもいきません。大金がかかっていますからね。なんとかあなたが解けない問題を考えて見せますよ」


 「それは楽しみね。応援してるわ」


 彼女は余裕の態度を崩さない。まぁいい。最後に笑うのはこの僕だ。とりあえず、いったん謎解きの話は置いておこう。


 「今日のところは何も用意がありませんし、ちょっとお話しませんか?例えばあなたの研究の話とか」

 

 「そんなものに興味はないんじゃなかったの?というか、あなたどこまで知ってるのよ」


 「大したことは知りません。あなたが大事な大事な研究をほっぽり出して、偉い人が連れ戻したがってるってことぐらい」

 

 「あらそう。なら私から言えることは何もないわ」


 「そこを何とか。なぜ研究に協力したくないんですか?」


 「ノーコメント。答えられない。研究者はね、論文として成果を発表するまでは、外部に情報を漏らしてはいけないのよ」


 「だとしても研究に協力したくない理由ぐらいは答えられるでしょう?」


 「……個人的な理由よ。答えたくない」


 ここまでか。まだ関係も浅い。深入りするのはやめておこう。じっくりとだ。焦る必要はない。


 「こんな話をしてるより、謎解きを考えたほうがいいんじゃない?貴重な時間を無駄にしてないかしら」


 無駄にはしていない。地道に関係を構築しているのだ。だが口には出さない。


 「悩んでいるんだったら少しヒントを上げる。私は謎解きといったけれど、殺人事件の問題を出せとは言っていない」


 ほう。なるほど?


 「つまり?」


 「世の中には日常ミステリというジャンルがある。アイザック・アシモフの【黒後家蜘蛛の会】とかはそこそこ面白いわね。殺人のトリックを考えるよりよっぽどレパートリーがあるし、日常生活の疑問を扱うからアイデアも浮かびやすいかもしれない」


 「そんなことを言っていいんですか?敵に塩を送ることになりますけど」


 「構わないわ。私に解けない問題をあなたが出せるとは思えない。それに万が一解けなかったとしても、約束なんて破ってしまえばいい。仮に私が1ヵ月勝ち続けたところで、あなたが約束を守れる保証もないわけだし」


 その通りだ。僕も約束を守る気はさらさらない。

 でもいいことを聞いた。日常ミステリか。選択肢が広がるに越したことはない。


 「アドバイスをいただきましたからね、その【黒後家蜘蛛の会】とやらを読んでみましょう」


 僕が今日にかけて読んだ本の中にはなかった。そもそもこの図書館内にあるかな。なかったらどっか探しにいかないと。一日すら無駄にしたくないから、あまり時間をかけずに済ませたいが。


 「まえこの図書館で見かけたわよ。一体なぜ大学の図書館にあんな本置いてるのか分からないけど」


 あんな本という言い方はどうかと思う。作者も知らないし読んだことないけど。というかそこそこ面白かったって言ってたじゃないか。まあいいか。探しに行こう。借りられてないといいけど。


 「じゃあちょっと探しに行ってきます」


 「はいはい行ってらっしゃい」


 僕は本を探しに席を立った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 たったったった。


 足取りは軽く。急がねば。

 部屋についた。彼女は朝見た時と変わらない。荒い息を整えつつ、彼女の向かいの席へ向かう。


 「朝とは大違いね。なにか思いついた?」


 「ええ。まだ日付は変わっていません。今日の一日一謎解きといきましょう」


 僕はもったいぶって席に座り、彼女に出題する。

 


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