ある春の日
短編です。拙い文章ではありますがお付き合いいただければ幸いです。
僕はこの春、高校に進学し一人暮らしをすることになった。
中学校卒業後すぐに、あるアパートに入居することになったんだけど、引っ越しシーズンだからか、どうも隣も作業中らしい。
(まあ、挨拶はするけどそこまで関わることもないだろうね)
何せ僕は高校生だ。ご近所付き合いをする必要はあまりない。
そう思い、引っ越し作業が終わり本格的に暮らすようになった初日、隣に挨拶するため扉を叩いた。
「はい~、どなたかごようですか~?」
その部屋に住んでいたのは同年代の女の子だった。かなり可愛らしく、ぶっちゃけ好みだった。
「引っ越しの挨拶です。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ~、よろしくお願いします~。お茶出しますから上がってください~」
女の子は間延びした口調で話す。多分のんびりした性格なのだろう。
(というか、普通に僕を部屋にあげたけど、この子大丈夫!?)
他人ながら、いきなり心配になった。そして、誘われたからと部屋に上がる僕も僕だと思う。
お茶を飲みながら世間話をしているうちに、どうもこの子は僕と同じ学校でしかも新入生らしい。
それを知った彼女は、明らかに安心しきった緩い表情になった。そんな顔、年頃の男にしないで欲しい。
「よかったです~。これで遅刻せずにすみますし~、お勉強もいつでも教え合えますね~」
「無視して関わらないかもしれないよ?」
「あなたはそんな人じゃ無さそうなので~、信じます~」
恐らくこの子、警戒心が無いのだろう。可愛くて警戒心が無い子が一人暮らしするのはあまりにも迂闊だと思った。
その翌日、彼女が家の前で途方に暮れていた。話を聞くと家の鍵を落としてしまったらしい。
しかも電話も家に忘れたので連絡も出来ないというので、一時的に僕の家で保護した。
「すみません~。このご恩は必ずお返しします~」
「いいよ別に。同級生が困ってるの見捨てられないからね」
平静を装っていたが、内心は動揺しまくっていた。
(こんな可愛い子家に上げたけど僕の理性大丈夫かな? 来客とか想定してないからお茶も出せない!)
そうやって悩んでいると、彼女が冷蔵庫の中身を見ていた。いや、何してるの!?
「お礼にお料理をと思ったのですが~、食材がありません~」
「ああ、僕料理できないからその辺で買ったりして適当に」
「あらあら~、それは身体によくないですよ~」
この日から、彼女が料理を作ってくれることになった。そして間もなく、僕が家事出来ないことがバレた。
「お掃除も、しっかりしましょう~。洗濯物は、溜めたら駄目ですよ~」
「そういう君も、鍵落とすの何度目かな? いい加減この辺の道くらい覚えようか」
家の中でダメダメな僕と、家の外でダメダメな彼女は、自然と生活を共にするようになっていた。
そして入学式。
事前に指定された時間になったので、彼女の部屋に合い鍵を使い入る。彼女はベッドですやすやと眠っていた。
可愛らしい寝顔で幸せそうだけど、入学前に学校に行く用事があったとき、起こさずにいたら大遅刻したので、心を鬼にして起こす。
「ほら、起きて。今日は入学式だよ?」
言葉は優しくしつつ、鼻を摘まんでいる。しばらくもがき、顔が赤くなってきたところで離してあげる。
「ひどいです~。もっと優しく起こしてください~」
「そうしたら起きないよね?」
「そうですけど~、私女の子なんですよ~?」
もちろんわかっている。望みを叶えつつ起こす方法もあるにはあるけど、さすがに出来ない。
(共依存になってるから、これで告白してもちょっとね)
そもそもお互いに恋愛感情を抱いているのかすらわからない。
「もちろん女の子ってわかってるよ。一人じゃ何も出来ないからって甘えてくる妹みたいだけど」
「そういうあなたも~、家事全然ダメじゃないですか~。そんなダメダメなお兄さんは~、私がお世話しないと~」
「なら、そんなダメな僕のご飯のお世話、頼めるかな?」
わからないからこそ、こういうことが言えるんだけど。
「ご飯はそちらのお部屋ですね~」
「終わったら着替えて学校行くから。遅かったらまた部屋に入るからね」
「その時は~、お手伝いお願いします~」
彼女と朝食をとり、制服に着替えて待つも彼女がいつまでも出て来ない。しびれを切らして部屋に入ると、乱れた服の彼女がいた。
初めて会った辺りなら動揺していたが、今はもう慣れた。
「大丈夫?」
「まだ靴下が~」
とりあえず無心になりながらちゃんと着せて、靴下まで履かせた。今の僕なら悟りが開けると思う。
「ちゃんと着られました~」
「僕のおかげでね。戸締まりは出来てる?」
「忘れてます~」
「もう、僕がするから待ってて!」
彼女の部屋の戸締まりを行い、鞄まで持たせ扉を閉める。
「じゃあ行くから、ついてきて」
「はい~。これで迷わず行けます~」
「しかしまあ、よくそれで一人暮らししようと思ったね」
「それはあなたもですよ~」
生活能力の無い僕と、自分のことが駄目な彼女。どちらも一人ではどうにもならなくとも、二人なら何とかなる。
(きっと、彼女とは離れられないんだろうな。離れたらどっちも危ないから)
そうして、僕達は日々を重ねていく。
蛇足だけど、しばらく家でのノリで普通に過ごしていると、周囲からカップル扱いされていることに気付き、春の間に自然と付き合い出すことになるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。