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第005話 〈死を告げる猛毒蛇〉の討伐 1

《天啓》が指示した方に向かって歩くと、そこには一際大きな建物があった。


 波を打ったような庇に、格子状に設けられた窓がびっしりと壁一面を覆っている。


 立派な建物だな。こういうのはたしか、バロック様式? とか言うんだっけ……。よく知らないけど。


 建物の上部には、『エムル中央図書館』と彫られている。


「小さな町だけど、図書館はあるんだな。《天啓》の矢印は、どうやらこの建物の真下を示しているらしい……」


 そう言えば本屋もあったし、この世界では本自体はそれなりに流通してるみたいだな。


 建物の中に入ると、カウンターの向こうで眼鏡をかけた女性が本を読んでいた。おそらく、この図書館の司書だろう。


 司書は俺を一瞥すると、またすぐに読んでいた本に視線を戻した。


 この様子だと、出入りは自由みたいだな。


《天啓》で出現させてる矢印も、他の人には見えないらしい。


 じゃあさっそく、魔導書探しを始めるか。


 矢印に従い、図書館の奥へ進むと、矢印は完全に真下を指すようになっていた。


 おかしい……。たぶん、この図書館の地下に魔導書があるんだろうけど、どこを探しても地下へ続く階段が見つからない……。


 もう一度入り口まで戻り、本を読んでいる司書に小声でたずねた。


「あの、すいません。地下へ行きたいんですけど、階段はどこにあるんですか?」


「……地下、ですか? この図書館に地下はありませんよ?」


「……え? あ、あぁ、そうですか。すいません。ありがとうございます」


 やっぱり一筋縄ではいかないか……。


 おそらく、この図書館のどこかに地下へ続く道が隠されているはず……。


 だったら……。


「《天啓》。地下へ続く道を出現させるために必要なものを示せ」


 下に保管されているであろう魔導書に向いていた矢印が、ひょいと上を指示した。


 二階? それとも三階か?


 矢印に従い、三階まで上がると、壁際に置かれていた本棚の前にたどりついた。


 矢印はこの本棚を指している。ということは、ここのどこかに……。


 本棚を詳しく調べると、その上部に小さなでっぱりがあるのを見つけた。


 これか!


 それを指で押すと、ガコン、とどこからか音が聞こえてきた。


 またも矢印が回転し、今度はまた下を指した。


 最初示してた場所とはまた違うみたいだ。これは、二階かな?


 二階へ下り、今度は壁に取り付けられているライオンの顔をした飾り右に捻り、さらにもう一度一階へ下り、本棚の下にあったスイッチを押すと、その本棚が扉になっていたらしく、ゆっくりと前にせり出してきた。


 その本棚の後ろを覗くと、ようやく地下へ続く階段を発見した。


「ようやく現れたか……。やけに厳重だな。それにこの埃の量……。長い間使われてなかったみたいだ」


 周囲に人の気配がないことを確認し、本棚の裏に出現した階段に体を滑り込ませた。


「うわっ……。扉を閉じると暗くて何も見えないな……。あっ! そうだ!」


 暗闇の中でリュックの中を漁り、そこから〈アカリスライムの欠片石〉を取り出した。


 それを、こつんと壁にぶつけると、ぼんやりと黄色い光を放ち始めた。


「よし。あまり広範囲は照らせないけど、足元くらいはちゃんと見えるようになったな」


 地上とは違い、冷たい風が下から吹き込んでくる。


「さむ……。もっと厚着してから来るべきだったか……」


 階段はとにかくずっと地下深くまで続いていて、かなりの距離を歩く羽目になった。


「長い階段だな……。もうそろそろ魔導書があるはずだけど……」


 ようやく階段が終わると、そこは今まで以上の真っ暗な闇が広がっていた。


「なんだ? ここは部屋か? それも、〈アカリスライムの欠片石〉の光が壁に反射しないくらい広いってことか?」


 部屋の中を歩いていると、コツン、と足先に小石がぶつかった。


 跳ねた小石の音が、暗闇の中に響き渡る。


「……この音の響き方、こりゃあかなり広いな。……《天啓》。最短距離にある転移魔法系の魔導書の場所を示せ」


 胸の前に矢印が表示されると、それは何故か、ゆっくりと左右に動いていた。


「あれ? どうなってんだ? 矢印が動いてる……。壊れたのか?」


 いや、待てよ。


 もしかして……。


「魔導書自体が、本当に動いているんじゃ……」


 そのまま矢印を見ていると、矢印は次第に、ゆっくりと上を向き始めた。


「どういうことだ? 上? そっちに何か………………は?」


〈アカリスライムの欠片石〉を矢印の方向に掲げると、弱弱しい光の向こうで、艶々とした黒色の物体が俺を見下していた。


 それは、巨大な蛇だった。


 真っ赤な目をしていて、舌をチロチロと出している。尖った鱗を全身に纏っていて、頭だけでも俺の全身より二回りは大きかった。


「なんだよ……。これ……」


 ボン、ボン、ボン、と周囲から音がして、部屋の壁に設置されていたいくつものたいまつに、自動的に火が灯されていく。


 そして蛇は、俺を丸のみにできるくらいの大口を開けて咆哮した。


「ギシャアアアアアアアアアア!」



死を告げる猛毒蛇(グリム・リーパー・サーペント)

 希少種。温度を感知するピット器官を持っており、暗闇の中でも自由に動き回ることが可能。体内で強力な毒を作り出す。



 名前からしてヤバいんですけど……。


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