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第016話 冒険者登録 1

「私も一緒に戦えればいいのですが……」


『ウォーム・カーネーション』の拠点から出て、冒険者ギルドへ向かおうとすると、リシュアは申し訳なさそうにそんなことを言った。


 チグサがふるふると首を横に振る。


「リシュアは戦闘能力皆無だろう? 気にするな」


「でも……」


 俺もうんうんと頷いて、


「こっちはこっちで何とかするから、リシュアは怪我人の世話とか、ギルドの仕事とかに専念してくれ」


「……わかりました」



     ◇  ◇  ◇



 リシュアに見送られながらトボトボと町へ向かって歩いていると、チグサは俺のリュックの上で眠っているロロを指差した。


「ところで、その子は幸太郎殿の娘さんか?」


「へ? いやいや、違うって。こいつはロロ、俺が作った魔核人形(マナ・オートマタ)だ」


「なっ!? 魔核人形(マナ・オートマタ)だと!? ……ふーむ。ここまで人間に酷似した魔核人形(マナ・オートマタ)なんて、私は初めて見たぞ……。凄まじい技術だ……」


「そうなのか?」


「少なくとも私の故郷では、もっと人形寄りの外見をしたものが一般的であったな」


「チグサの故郷では、魔核人形(マナ・オートマタ)は一般に普及していたのか?」


「いや、珍しいものではあったが、魔核人形(マナ・オートマタ)を使った人形劇が人気でな。私も何度か劇場に足を運んだことがある」


魔核人形(マナ・オートマタ)を使った人形劇か……。いろんな文化があるんだなぁ。いつかチグサの故郷に行って観てみたいな」


 そうたずねると、チグサは少し自慢げに答えた。


京楼都(きょうろうと)というところだ。観光客も多く訪れる綺麗なところだぞ。……まぁ、ここからだととてつもなく遠いがな」


「そうなのか? じゃあ、チグサはどうしてそんな遠くからここへ来たんだ?」


「いろいろ理由はあるが、そうだな……。修行の一環と言って差し支えないだろう」


「修行かぁ。やっぱり強いだけのことはあるなぁ」


 チグサは照れくさそうに、「い、いや私なんてまだまだ……」と言い淀むと、話を逸らすように前方を指差した。


「ほら、幸太郎殿。もうコータスの町が見えてきたぞ」


 チグサが指差した先に視線を向けると、道の先がそのまま町の中へ繋がっていて、エムルの町と違って閑散とした様子だった。


「あまり人がいないみたいだな。それに、町の周囲に外壁もないのか」


「モンスターが凶暴化したため、住民のほとんどは家に引きこもっているか、他の町へ移住してしまったらしい。この町に外壁がないのは、長い間ここがドライアドの庇護下にあったからだ。それで質の悪いモンスターは町に近づくことさえなかったそうだ。……だが、ドライアドの守護がなくなって以来、その安寧は失われた。今では町とエデンとの境界を中心に、急ピッチで外壁の建造が行われている」


「モンスターが凶暴化し始めたのはいつ頃からなんだ?」


「私がリシュアと出会った三ヶ月前には、すでにモンスターは凶暴化し、エデンに立ち入った人間を襲い始めていた」


 いなくなったドライアドと、モンスターの凶暴化……。


 やっぱり、二つの事象には何か関係があるんだろうな。


 それから簡単な検問を受けて町へ入り、そのまま中央の通りをしばらく進んだ先に、冒険者ギルドの建物があった。


 チグサは慣れた手つきで建物の扉を開けながら、


「エデンの討伐クエストを受注するためには、まず冒険者ライセンスを取得する必要がある。簡単な手続きと、ライセンス発行料として一万ルルドが必要だ」


 一万ルルドって……。日本円で換算すると、約一万円ってことだろ?


 発行料だけでそれって、結構とられるな……。


 それだけ冒険者になりたい奴が多いってことか?


 チグサは胸元から皮袋を取り出すと、


「私は今受注している採集クエストの達成報告をしなければならない。だから一度別れ、またあとで合流しよう」


「あぁ。わかった」



     ◇  ◇  ◇



 建物の中はかなり広い構造になっているが、ここも外と同様、閑散として人の気配はあまりなかった。


 そこら中に並べられた衝立や、壁中にクエストの紙を貼り付けられるスペースがあるが、合計してもせいぜい五、六枚のクエストしか貼りだされていなかった。


 住民が家にこもったり町から出て行ったりして、クエストを依頼する奴がいなくなったのか。


 必然的に、クエストを受注して金を稼いでいる冒険者の人数も減って、問題はますます解決されなくなる……。


 悪循環だな……。


 エデンの調査クエストには何人くらい集まってるんだろう?


「ちっ! どいつもこいつもしけたクエストばっかじゃねぇか!」


 そんな乱暴な声が聞こえ、視線を向けると、そこには一見しただけでタチが悪そうだと思える男三人の姿があった。みな苛立ったようにクエストの紙を眺めている。


 冒険者かな……。


 あぁいうのには近づかないのが一番だ……。


 絡まれたら面倒だしな……。


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