2.誓い(ニル・クロノス視点)
私、ニル・クロノスはこの国の第一騎士団団長である。
2年前に妻を亡くし、目の前が真っ暗になり仕事に熱中した。
なにも考えずに済むように。
そのため毎日遅くに帰り、朝早く家を出るため子供達と最近は顔を合わせていない。
今となっては会ってなにを話せばいいのかさえもわからん。
家に帰ると、執事のカルムが本日の子供達の報告を伝えにくる。
「お帰りなさいませ、旦那様。ノアーズ様は本日も主に図書室でお過ごしになっておられました。そして、リリアナ様ですが…その」
「?リリーがどうした?さっさと言え」
「それが、本日いきなり倒れられ未だ目を覚ましておりませぬ」
ガタンっ。椅子が倒れた。
「っ!?…バカもの!なぜすぐに知らせなかったのだ!」
気づいたら娘の部屋に向かって走りだしていた。
そしてリリアナの頬に手を当て、呼吸をしているのを確認できるとひどく安心した。
あぁ、また神は私から大切なものをを奪っていったのかと部屋に来るまでずっと不安で苦しかった。
そうか、私は子供たちを愛している。
「ふっ」
失いそうになって初めて気づき、自分のバカさ加減に笑ってしまう。
でも、妻が亡くなって以来、正面からまともに接してこなかった子供だちにとって私などどうでもいい存在だろうな。
そう思うと切なくなった。
「リリー、リリアナ」
娘を前に、娘の名を口にしたのは久々だった。
「…パパ」
そう言って、娘は頬にある私の手を愛おしそうに微笑み両手を添えてきた。
「っ!?」
全てに驚いた。
妻が亡くなって以来、あまり笑わなくなった娘。
またそれ以来、私のことをお父様と呼んでいたなと今さらながら気づいた。
娘は、リリーはすごく寂しかったのではないか?
私は妻が亡くなって悲しみから逃げるように、子供達と距離をとってしまった。
そうすることで大人びるしかなかったこの子は、私のことをお父様と呼び、すべてを我慢したのでは?
「ごほんっ。お、お父様?お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ございませんでした」
目が覚めてしまった娘は、姿勢を正し頭を下げた。
また、だ。違う。
なんて声をかければいい?
今まですまなかった?甘えろ?
そんなこと急に伝えても‥。
ん?それより今お父様と言ったか?うむ。
「…ぃのか?」
しまったっ。
つい口にしてしまった。
「あの?」
娘がすかさず聞いてくる。くっ、どうにでもなれ。
「っ。パパとはもう呼んでくれないのか?」
恥ずかしい。
だか、娘は私の言葉を聞いた瞬間、花のようにふわりと笑って喜んだ。
私はこの笑顔を一生守りたいと思った。
そして敬語もいいと伝えると私に感謝して、朝食を一緒にしたいとまで言ってくれた。
うちの娘は天使なのかもしれない。
そして、私と同じ騎士にまでなりたいと言い出した。
はぁ。もう一生手放せる気がしない。
妻よ、今日をむかえるのに2年もかかってしまったがここに誓う。
私、ニル・クロノスはノアーズとリリアナを生涯かけて愛し守り抜くと誓うよ、君の分もね。