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(1)魔女と弟子

 ほの暗い部屋の中に、水晶玉の光がゆらゆらと(あや)しく揺れています。

 そのたびに、調度品(ちょうどひん)(かげ)がゆらりゆらりと動く(さま)は、まるで地の底からわき出した悪魔の影が、奇妙なダンスを踊っているようです。


 ⎯⎯そして、その水晶玉をのぞいている魔女たちが二人…………。




「うーん、よく見えないですね」

「そこが一番の課題ね」


 かわいい少女が二人。仲良くソファーに並んで腰かけ、頬をよせあって水晶玉をのぞいています。

 ⎯⎯二人ともおもいっきり、しかめっ面です。


 栗色の髪に緑色の瞳の十四歳の少女はエマ。新米の魔女見習いです。


 隣にいる八歳くらいの黒髪に黒い瞳の少女がエマの師匠、魔女のターニャです。

 冗談のようですが、本当です。


 魔女はとても長生きです。

 人の何倍も寿命があるので、年をとるのもとてもゆっくりなのです。


 ですからターニャはこんな見た目ですが、本当の年齢は、もう五十歳を越えているのです。


 エマのほうは魔女見習いになったばかりなので、見た目どおりの十四歳ですよ。


 二人は今、新しい魔法の道具の実験をしているところです。


「やっぱり、水晶玉が小さすぎるんですよ。丸いから(ゆが)んで見えるし」

 エマがおやつの皿とカップをを手早く片づけて、新しいお茶をいれながら、魔法の道具の欠点を指摘しています。


「もっと大きな水晶玉を使うことはできないんですか?」


 ターニャのほうはかわいい顔をしかめて、なにやら水晶玉をいじっているようです。


「大きな水晶玉は、けっこう“お高い”のよ」

「お師匠様はお金持ちじゃないですか」

「私は作る人。買うのは私じゃないわ」


 ターニャは水晶玉に集中しているようです。

 なにやら呪文を唱えながら、エマに素っ気ない返事を返しています。

 じつに器用です。


「そうだ、お師匠様。いっそ、私たちのほうが小さくなるというのはどうでしょう? そうすれば水晶玉が大きく見えるじゃないですか!」


 エマが自分のなかなかの思いつきに、ワクワクした表情でターニャのほうを見ると⎯⎯。


 ターニャはフンと鼻を鳴らしました。


「あら、とっても良い思いつきじゃない。でもそれだと、魔法が使える魔女以外は使えない道具になるわね」


「あっ……」


 エマが愕然としていると、ターニャはエマのほうを振り返って、ニヤリと意地悪そうに笑いました。


「小さくなる魔法には、“魔法の(たね)”が必要ね。私はたくさん持ってるけど、お前はどうするのかしらね」


 魔女は満月の次の朝に“魔法の花”を咲かせます。

 キラキラした光をまとう美しい白い花は、すぐに散って種を残します。

 これが“魔法の種”です。


 この種にはいろいろな使い道があります。

 魔法の薬の材料になったり、魔法の道具や魔法の生き物を作ったり、大きな魔法を使う時にも必要なのです。


 ちなみに、魔法の種は作った本人以外は使えません。


 魔女見習いは、この“魔法の花”を咲かせることができたら一人前の魔女と呼ばれるようになるのです。


 もちろん、魔女見習いに成りたてのエマには無理です。


 ターニャがエマに魔法をかけてやることもできますが⎯⎯。


 エマは眉毛を八の字にした情けない顔になりました。


「お師匠様ぁ」


「情けない声を出さないでちょうだい。私がいじめてるみたいじゃないの」

 ターニャは()まし(がお)で、水晶玉を元の場所に戻しました。


「そんな面倒なことをしなくても⎯⎯ほら」


 ターニャが前を指差すと、水晶玉は再び光を放ち始めました。


 今度は全体が光るのではなく、玉の一部に強い光が集中し、前の壁に大きな光の絵を浮かび上がらせました。

 絵が動いています。


 先ほど水晶玉の中で小さく動いていたのと同じものです。


 これは魔法の生き物が見ているものを、水晶玉を使って、離れた場所でもまったく同じように見ることができるという魔法の道具なのです。


 魔法の生き物とは何か?⎯⎯と言いますと⎯⎯。



 ◇◇◇◇◇ 



 [魔法の生き物について:レポート担当エマ]


 魔法の生き物とは、簡単に言えば、魔女が魔法で作った生き物のことです。


 ここ、お師匠様の魔女の家にもいろいろな魔法の生き物たちがいます。


 フクロウの時計鳥(とけいどり)のホーさん。


 ネズミのチューさん。モモンガのモモさん。カラスのアオさん。


 ホーさん、チューさん、モモさん、アオさんの名前は⎯⎯私、エマが命名させていただきました。


 それまでお師匠様は、時計鳥(とけいどり)、ネズミ、モモンガ、カラスと呼んでいたんですよ。

 ぜんぜんかわいくないでしょう?


 アオさんはカーカーではなく、アオーアオーと鳴きます。

 だからアオさんなんです。


 いいえ。アホーアホーではありません。アオーアオーですよ。


 ホーさんはもう200歳を過ぎた、この家の最年長です。

 ホーさんは人の言葉を話すことができます。

 読み書きも完璧にできるのですよ。字は私よりもキレイです。


「ホウホウ。エマはゆっくりで良いから、もっと丁寧に書くホウッ」


 ほらね。


 時計鳥という名前の通り、いつでも正確なお日様の位置を教えてくれるのです。雨や雪でお日様が隠れてしまっていても大丈夫なんですよ。

 すごいですね。



 フフフフフ。聞いてください。

 この前お師匠様が私のためにかわいいヒヨコを作ってくださったんです。

 名前は目覚まし時計鳥のピーコといいます。


 黄色くて、小さくて、フワフワで、とってもかわいいんです。

 おまけにがんばり屋さんなんですよ。

 毎朝、私がお願いした時間にちゃんと私を起こしに来てくれるんです。偉いでしょう。


 小さなくちばしで一生懸命つついて起こそうとがんばる姿がそれはそれは可愛くて可愛くて⎯⎯。


「えへん、おほん、ホウホウ」

 失礼しました。

 ピーコのことなら、お話しすることがいくらでもあるものですからついつい⎯⎯。


 魔法の生き物は主人と契約を結びます。

 (うち)でいうと、ピーコ以外はお師匠様。ピーコだけは私が主人です。


 魔法の生き物は主人と“命の時”を同じくします。

 つまり、主人が死ぬ時には一緒に死ぬのです。


 ホーさんに関しては、特別のようなのですけどね。


 えっと、今回お師匠様が作った魔法の道具は、この魔法の生き物と水晶玉とを魔法で繋ぎ、彼らが見ているものを遠く離れた場所でも見られるようにする⎯⎯というものなのです。


 この実験のために、お師匠様は新しい魔法の生き物を作りました。

 それがヤモリの“チョロさん”です。


 大きさは私の手のひらに乗るくらい。

 舌をチョロチョロ出すのがとってもチャーミング。


 壁や天井、どこにでもに張りついていることができます。

 姿を人から見えないようにすることもできるんですよ。

 本当にすごいですよね魔法の生き物って。


 いや、お師匠様はべつにのぞきをするために作ったわけじゃないです。⎯⎯本当ですよ。


 もっとずうっと小さな魔法の生き物を使って、人の目に見えないところを見たいのだと言っていました。


 人の体の中を見たいのですって。


 体の中の怪我や病気を見ることができたら、魔法の薬でも助からなかった人たちを救えるようになるかもしれないって⎯⎯。


 そしていずれは、魔法の生き物が人の体の中を勝手にぐるぐる見て回って、病気を見つけたら魔法で治してしまうようにしたいのだそうです。


 そうすれば、病気になる人は一人もいなくなるかもしれないって⎯⎯。

 すごいですよね。実現したら夢みたいですよね。


 でも、お師匠様ならそんな夢をかなえてしまうんじゃないかと、エマは信じているのです。


 今回の実験は、そのための第一歩。ちゃんと問題にならない場所を選びました。


 ええ。選んだはず……だったのですけどねえ。





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