勇者、決戦の舞台に降り立つ
お義父さん……。
娘を溺愛する生き物。
一目見ただけで相手の素性を読み取る能力がある……と豪語する。
ーー異様な空気を発する部屋の前に案内される。
黒いモニョモニョが出てるような雰囲気とでもいうべきだろうか。
お義母さんが扉をノックし「あなた、勇者さんが来ましたよ」と、声をかけるが返事はない。
いや、返事を待たずして扉は開かれた。
居間には胡座をかいて、そっぽを向く男……と呼ぶのは失礼か、未来のお義父さんがいた。
ガッチリとした体格に、無精髭。
よほど俺が忌々しいのだろう、その表情は実に分かりやすく、「お前が嫌いだ」と顔に書いてある。
「は、初めまして、俺、い、いえ、私、ネスレといいます」
姿勢を正し深々と頭を下げるのだが、反応は無し。
「ほらあなた、フラウアから聞いてるでしょ?」
お義母さんが場の空気を和らげようとしてくれているのだが、「ふんっ!」と、不機嫌を露わにする声が聞こえただけ。
俺が頭をあげる事も出来ずに固まっていると、スパァーンと乾いた音が鳴り響く。
「ーーっ!」
「さっ、ネスレさん、お座りになって」
勇者の豆知識④
勇者は正確な時間把握能力(正しく時を刻むメトロノーム)を持っている。
100分の1秒を感じ取れる勇者はこう語る。
「あの頭を下げていた時間……俺には1時間、いや2時間にも感じられた」と。