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「うわぁ、なんだよ。真っ暗だ」

 夜半に礼一は妙な振動を感じて目を開ける。瞳に写るものは四方八方の闇、慌てて飛び起きようとするも身体が少しも動かない。

「ん、騒いでも無駄だ。黙ってくれ」

 パニックで気が狂いそうになったところに、鬱陶しげな声が聞こえた。どうやらおっさんはしばらく前から起きていたらしい。

 仲間の声に礼一は少し正気を取り戻す。シロッコが 無事かつ冷静なら少なくとも命に危害が及ぶことはあるまい。

 とはいえ、この事態への論理的な説明が必要である。規則的に身体を伝う揺れに身を任せながら、礼一は現在の状況を判断しようと耳を澄ます。

 チャプッチャプッ

 彼方から水音が聞こえる。顔の周りは何かで覆われているため、周囲の臭いはわからないが、どうやら呑気に寝そべっていた崖から随分と離れた場所に運ばれているようである。夕方に見た限りでは、手近な所に池や川なんてものはなかったはずである。

「これで春うららかなのどかな気分になれでもすればいいだけどな。河骨川も隅田川もこの世界にゃ流れちゃいない」

 礼一は口をモゴモゴと動かしてから、スライムみたいにベッタリと身体を横たえた。

「ん、お目覚めの時間だ。寝坊助は嫌われる。さっさと起きることだ」

 シロッコは乱暴に礼一の顔の周りの何かを引きはがす。自由と引き換えに顔の皮膚がぐりぐり捻られた礼一は悲鳴を上げる。

「人外外道、こん畜生。ハンサムな顔が台無しだ」

「より男前になってよかった。それよりも早く手伝ってくれ」

 悪態の一つなんのそのといった様子で鬼軍曹は不愛想に返事をする。


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