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18  厄運

 ひと時の息抜きを経て、支度を済ませた二人は門の方へと向かう。新しい服に着替えたお陰か気分は新鮮である。シロッコが置いて行ってくれたのはダボダボなシャツとズボンに灰色のポンチョの三点。思っていた軍服とは少し違ったが、服の裾を捲り上げれば見てくれは整った。馬子にも衣装とは良く言ったものである。バッジについてはピンバッジ形式だったので無難に鎖骨の下辺りに付けておいた。表面に何やら細かい意匠が施されていたが、何の意味が込められているのかは不明である。

「あー、あれか」

 門の横に縦長の大きな建物を見つけ、足先をそちらに向ける。建物は総じて無骨な石造りで何がどの建物かという見分けはつかないが、シロッコの説明に従えば恐らく今向かっている建物で間違いはないのだろう。

「すいませーん。すいませーん」

 これまた石造りの扉を叩きながら礼一は大きな声で呼びかける。来る時間が早すぎたのか、扉は開きもしなければうんともすんとも言わない。こいつは困ったと洋と一緒にまごついていると、大きな影が二人に覆い被さる。

「おめーさんたち、何してんだ?」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、明け方に門で会ったパシという男が訝しげにこちらを見下ろしている。

「先程はどうも、あのここで食料が貰えるとシロッコさんに聞いたんですけど開かなくて」

「へ?おめーさんたちぁシロッコの奴の知り合いかい。ここはまだ開かないから、ほれこいつをやろう」

 パシは礼一達が誰だか分らなかったようで不思議そうな顔をする。最初に会った時は顔やら姿やらが見えない恰好だったので無理もない。彼は洋の手に巾着袋を一つ落とすと、鍵をガチャガチャやって開けて扉の内へ入っていってしまう。

「何だ?」

 洋が袋の口を広げると、団子のようなものが出てくる。子供が小さい頃によく作る泥の団子に酷似していて僅かに柔らかい。

「ちょっとかじってみるか」

 まさか仲間の知り合いに毒を盛ることはあるまい。礼一は団子を一つ手に取って端を齧る。

「う゛ぇっ」

 お世辞にも美味しいとは言えない味がした。野草のしぼり汁を凝縮したような苦みと共に青臭さが鼻を突き抜ける。最高の調味料の空腹を以てしても克服しがたい不味さだ。

 ふー、はっ

 しかし何も栄養を取らないのはそれ以上に不味いと頭で理解しているので、覚悟を決めて一息に団子を飲み下す。水分がないため喉におそろしい違和感が残るが取り敢えず任務完了だ。美味しい飯にありつくつもりがとんでもない目にあった。吐き気と怒りがこみ上げる。

「おい、さっさと口に入れろよ」

 嫌な思いを自分だけが味わうのは不公平だ。礼一は隣の友人に早々に団子を召し上がるよう勧める。人の好意は有難く受け取るべきだよ、洋君。

「クソ」

 最高に嫌そうな顔をしながら洋は団子を食み、口をへの字に結ぶ。期待を裏切らない不味さだったようで涙目になりながら必死に飲み込んでいる。

「やっぱ同じ釜の飯を食ってこその仲間だな。さ、戻ろう」

 愉快な友の姿を見て溜飲を下げた礼一は、あの誰もいないガラガラの建物に戻ろうと意気揚々と歩き出す。

 惨憺たる戦果を手に兵舎に戻った二人がしたことはというとうたた寝だ。元々然したる勤勉性も持ち合わせない二人である。暇になったからと言って訓練に励むべくもない。不思議とさっき食べた団子で腹は膨れているので食料庫に出かける予定もキャンセルし、ごろ寝をする。ごろ寝というのは文字通りゴロゴロだ。床に直に寝転ぶので、身体の節々が痛くならないよう時たま体勢を変えるのがミソである。

「ん?好きに過ごせとは言ったが他にすることなかったのか」

 用事が終わったのか顔を覗かせたシロッコもこれには呆れ顔。

「いや、だって何もすることないですし。というかこれから俺たち何をすればいいんですか」

 反論しながら礼一は起き上がる。洋も起き上がってきて座りなおす。

「ん、ああ。それを伝えに来たんだ。まずは軍に馴れてもらう。先ほど俺も正式に君達の指導係を仰せつかってきてな。どうせ魔力が使えないから任務にも出れない。丁度良い」

 シロッコは部屋の戸を開け放つ。

「それでだ。軍の仕事に、兵舎の人間についてと説明することは沢山あるがまずはちょっと付いて来てくれ」

 返事も待たずにスタスタ歩き去る彼を二人はよたよた追いかける。行く場所ははっきりしているようで足取りは結構に早足だ。

「今大丈夫かな。少しの間だけ上に登らせてもらいたいのだが」

 物見台らしき塔に着いたところでシロッコが入口の兵士に頼むと、意外にもすんなり中に通される。どうやら融通が利かないのは朝に見た兵舎の門衛だけらしい。

「足元に気を付けてくれよ。結構急だからな」

 そう忠告されたように塔のてっぺんへと続く螺旋階段は一段一段が大きく急で、一つ足を掛け間違うと転げ落ちそうだ。自分がそんなに器用でないことを自覚済みの礼一は恥も外聞も捨ててへっぴり腰で両手をつき、這うように四つ足で階段を上る。

「うわっ、周りは全部山なのか」

 ようやっと最上部に辿り着き、周囲の景色を見まわした礼一は呆気にとられる。無理もない。この塞がある山の後ろ側には果てまで緑が広がっていたのだから。

「見てわかる通り、俺たちの仕える方の領地の殆どは山でな。そこら中に魔物がいるから人が住める場所は僅かだ」

 ポカンと辺りを見回す二人にシロッコが講釈を垂れ始める。


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