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風にそよぐ 〈ハイファンタジーも甘くない〉 ※第1章完結済み  作者: 鯉のなます
第1章 見知らぬ大洋
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5  船長

 パントレ達と共に甲板を進む。船は全体が白い何かで塗装されておりツルツルした質感をしている。

 船体自体妙な形をしていて、普通の船についていそうな帆であったり、落下防止用の柵であったりというものが何もない。ツンツルテンの甲板が広がっており、その中心に円形の蓋が置かれているのが見える。

 パントレは慣れた様子で蓋を撥ね上げると、先頭に立って下へと続く階段を下っていく。階段の下には中央に廊下が縦に走っており、途中に幾つも部屋の戸がある。

「ここが第二甲板だ。船長室は船首の方にあらぁ」

 意外なことに船長室に向かう途上で、各部屋について何のための部屋だとか一々説明をしてくれる。何というか騒いでいる印象しかなかったので案外ちゃんとした奴なのだと心の中でパントレを見直す。

「よぉ船長、面白いやつ見つけて来たぜ」

 ノックもせずにパントレが部屋に踏み込む。

 船長室は部屋としては一風変わった造りをしている。入り口付近の壁は廊下と同じ木材だが、部屋の半分の丁度船首に当たる部分の壁は透明なガラス質で出来ており、船の正面の海原が見える。入り口の壁には海図のようなものが貼られており、その下には大きな机が置かれ、卓上には分厚い本が幾つも積み重ねられている。

 そしてその前には礼一達と大して齢が変わらないような青年が、天辺に宝石のようなものが嵌ったゴツイ杖を持って立っている。どうやらこれが船長のようだ。

「あ、パントレさん戻りましたか。ってその人達誰です?」

 船長に相談せずに連れて来たのかよ。大丈夫か?頭。

「髪も目も黒いのに獣人じゃないらしい。どうしてだかわからないねぇがボロボロになってルチン族に捕まってたから連れてきたんだよ」

「そこの彼は酷く負傷していますね。早く手当をしないと。それにしてもあの寛容で知られるルチン族にしては珍しいこともあるものですね」

 あの小人達ルチン族っていうのか。ていうか何処にも寛容の要素なかったぞ。

 ルチン族とやらの仕打ちのせいで散々になった自身の身体を思い、礼一が心中で愚痴を吐いていると、船長が礼一の傍に跪き胸にそっと手を置く。

「取り敢えずこの怪我を治しちゃいますね」

 寒い日に風呂に浸かったようなじんわりと温かい感覚が、船長の手を中心に身体の隅々まで広がる。

「挨拶が遅れました。私はこの商船〈白鯨〉の船長のホアンです。治療にはしばらく時間がかかるので、その間にあなたたちについて教えてもらって良いですか?」

 それから礼一達は一昨日からの出来事を洗いざらいに話した。変な事続きの二日間だったので、どれ程信じて貰えるかは分からなかったが、言葉が通じてまともに話を聞いてくれそうな人に漸く出会えたので藁をも掴む思いで言葉を紡ぐ。

 ホアン船長は矢継ぎ早に語られる礼一の話を、一度も遮ることなく、時折頷きながら最後まで黙って聞いていた。

「恐らくあなた方が最初にいた場所というのは、ルチン族が祈りを捧げている大岩のことでしょう。あそこの周辺には〈贄喰い〉と呼ばれる何にでも群れで飛びついて喰い殺す夜行性の魚が生息していて、命があるのは奇跡なのですが、」

 そう言うと、もう治療は済んだのか立ち上がって机に歩み寄り、一冊の本を取り上げてめくり始める。

「あった。やはりそうですね。彼らにとってあの大岩は、年に一度神が降りる神聖な場所のようです。ルチン族は寛容ですが、流石にそこに上がりこまれて何にも無しで済ます訳にはいかなかったのでしょう」

 それから彼は何も知らない二人に本に書いてある島のことを教えてくれた。しかしながらその話を聞くにつけて、どうやら一昨日に思い描いていたキャンパスライフから、遠くかけ離れた場所に来てしまったらしいことを二人は実感するのだった。

 ところで一応ホアン船長は本の内容を説明してくれているのだが、二人にとってその大半はちんぷんかんぷんであった。わからないことは遠慮なく質問していたのだが、その答えの中にもわからないことが出て来るのだから始末に負えない。

 それでも根気よく質問を重ねる内に、どうやらそもそもの前提の常識面に問題があるらしいと双方気付く。

「では聞きますが、これまでに魔力を使ったことがないどころか、その存在すら知らなかったということですか」

 眉の奥にある思慮深そうな目が、興味深げにこちらを見つめる。

「いや、知らないというか、まだそんなものがあるのも信じられないんですけど」

「そうですか。翻訳の魔道具が使えているという事は魔力はあるという事なのですが」

 そう呟き数瞬瞑目する。

「いいでしょう。私にはお二人の人間性は問題なく思えます。幸いこの船は欠員が出たばかりですので、行く宛がないのであればこの船で働いてみませんか?」

 渡りに船であった。少なくともまたあの島に放り込まれるのは勘弁願いたいところだったので、二人は寧ろ頼み込む勢いで頭を下げる。

「良かったな。これからおいら達は同僚って訳だ。よろしく頼むぜ」

 パントレが陽気に声を上げる。

「パントレさんは相談なしに勝手をしたので、三日間禁酒にしますからね。前回やらかした時に散々念を押しましたよね」

 ホアン船長が呆れたような顔をしてパントレに申し渡す。

「頼むからそれだけは勘弁して下せぇ。お願ぇします船長様」

「駄目です。今回は許しません」

 やいのやいのと船長の前で土下座をしながら陳情をしているパントレだったが、結局許しは貰えず不貞腐れながら部屋を出る。

「な、言ったろ。おっかねー船長だって」

 明らかにあんたの自業自得だろ。まぁそれに救われはしたけども。

レビュー、ブクマ、評価等々宜しくお願い致します。

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