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6   情報

「ん゛ん゛、そう見つめたってわかるものじゃない。体の中の変化だからな」

 咳払いをしてそう告げ、男は自らの胸部を摩る。

「この辺りに呼吸を司る器官があるらしい。魔物の家ではその改造を行う。具体的には魔石の核をこの器官に移し替えることで体内に魔石を作り出す。そうすれば使用できる魔力量が増え、素体となった魔物の能力を一部獲得できる」

 あれま随分と大がかりな手術だこと。

「身体に害はないんですか?」

 正直一番気になっていたことを礼一は尋ねる。この手のことで良い事尽くめだった試しがない。

「身体の中で魔石が生成される過程で嗜好や性格が稀に変わると聞いたことがある。ん、だが魔物の家の歴史は長い。そうそう問題も起こるまい。俺は無学だからあの粉末の詳しい中身や調合方法は知らない。しかし君達のボスはその道のプロなのだろう。その辺は任せておけばいい」

 その説明だとちっとも安心できないし、十分怖いわ。嗜好は兎も角、性格が変わるなんてアウトだろ。何故そこまで平然としていられるんだ。

「俺の知り合いでも手術を受けた者は大勢いる。ちょっとした変化があるやつもいたが、今もしっかりと生きている。死なないのだから十分良心的な手術だ」

 男はそう言ってニヤリと笑う。どうやら価値観に大分相違があることはわかった。まぁ必ずしも性格が変わる訳ではないなら考えないこともない。何にしろもう少し詳しい情報が欲しい。

 その後男がぽつぽつと語ることを聞く限りでは、施術は合計で三段階に渡るという。初めに身体に適合する魔石の選定、次いで謎の薬の処方、仕上げに昨夜礼一達が目にした変な煙の吸引という流れである。男によれば二段階目の薬が中々に曲者で、魔力の巡りが極端に悪くなることに加え、疲労感、頭痛、発熱に長時間悩まされるらしい。男も未だ薬の効果が続いており、そこそこ辛いらしい。それにしては朝から煩かったが。

「体調が悪いなら朝っぱらから騒ぎ立てないでくれよ」

 思わず愚痴がこぼれる。

「誰一人来ないから大声で叫んだんだよ」

 男が疲れ切ったように言う。ああ成程、そいつはご愁傷様。

「魔物の家とは何だ?」

 手術の全体像が知れたところで、またも洋が身を乗り出し、今度は魔物の家について尋ねる。

「まったくせっかちだな。と言っても何をするところかは粗方話しただろう。聞きたいのはそれ以外のこと、どこの誰が何の為にやっているのか、あの店主は何者か、といったところか」

 男は二人の反応を見ながら質問の意図を推し量る。隣では洋君がヘッドバンギングを繰り返している。洗いざらい説明しろということなのだろう。そもそも二人の当初の目的は店主の正体を探ることだったのだ。それが何の因果か午前中一杯を中年の男と語り合って潰している。解せぬ。

「何か失礼なこと考えてないか。そんな目で見るんだったら話しをしないぞ」

 男がこちらに向かって不機嫌そうに言う。ちっ、勘の鋭いおっさんだこと。

「滅相もない。おっさん、いやおっさまには色々聞かせてもらって感謝しております」

 ここで話を止められては困るので礼一はしどろもどろに弁明する。

「馬鹿にしてるだろ。大体さっきからおっさん、おっさんと、人のことを年寄りみたいに呼ぶんじゃない。俺にはシロッコていう立派な名前がある。気軽に呼び付けるな。年長者はもっと敬うものだ」

 おや意外なところを気にしていたようだ。だが年寄り扱いされたくない癖に年功序列でマウント取ってくるとかこの人も大概無茶苦茶だな。心の底で呆れながらも礼一は何とか男を宥めすかして口を開いて貰う。これじゃどっちが年上だがわかったもんじゃない。

 何はともあれやっとこさおっさんことシロッコから話を聞き出したのだが、その話はどれも噂の範疇に留まり、まともな情報は一つもなかった。どうやら魔物の家というのは一所に留まることが殆どなく、噂が湧いた頃にはもう引っ越しているのが常らしい。よってまともに記録されることもなく、その存在は謎に包まれているということだ。

「同じ場所で商売を続けているのはここぐらいだ。何しろこの国では魔物関連のものは白い目で見られるからな。素性が表に出ること自体拙い。“円卓の末裔”にでも見つかって危害を加えられたら堪らない。ん、そうかもう俺もそっち側か。面倒だ」

 口周りにまばらに生えた顎鬚を擦りながらシロッコがぼやく。

「円卓の末裔?」

 即座に礼一は反応する。話の流れからして厄介ごとを運んでくる者に違いない。



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