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風にそよぐ 〈ハイファンタジーも甘くない〉 ※第1章完結済み  作者: 鯉のなます
第1章 見知らぬ大洋
24/98

24  風雲

 起床の後に、礼一が食堂に向かうと既に机の上には大量のパンが置かれており、その脇には大量の干し肉と礼一達が小人達の島で食べた黒い果実を干したものが並べられている。

 いつもであれば、食堂にはピオが食材を調理する暖かい匂いが溢れているのだが、今日に限っては何の匂いもせず、厨房の方からシャッシャッと何か刃物を研ぐような音が聞こえてくるばかりである。

「おはようございます。今日は狩りはしないんですか?」

 既に食料が十分にあるのを見回しながら、礼一は近くの椅子に腰かけて何やら頭を抱えているパントレの子分、ヴァスとコロナに質問する。

「おはよ。今日はもう獲物なんか取れないよ。さっき二人で釣りをしてみたんだけどさっぱりだったよ。一応船長に報告したら、みんなが食堂に集まったら何か説明するって言われたよ」

「何を説明するんですか?」

「それが何か忘れちまったから今悩んでんだよ」

 何とも間抜けな話である。仕方がないので礼一も傍の椅子に腰かけて皆が揃うのを待つ。

 暫くすると、洋、フラン、パントレの順で残りのメンバーが食堂に入室し、最後にホアン船長が顔を覗かせる。

 船長は厨房の入り口に頭を突っ込んでピオを呼んだ後、皆が揃っていることを再確認してから徐に口を開く。

「先程ヴァスさんとコロナさんから魚が獲れないとの報告を受け、私自身も確認したところどうやらそのようでした。資源の豊富なこの海で魚が獲れなくなるのは通常あり得ないことですが、一つ考えられることとして魔物に食い尽くされたという可能性があります。どうやら私達は知らず知らずの内に〈海童〉の領域の大分深いところまで入り込んでしまっていたようです。ここまで深く踏み入ってしまうといつ魔物どもが襲ってきてもおかしくないので、すぐに迎撃の準備を整えて下さい。食料はピオさんに頼んでここに出しておいてもらうので、それぞれで小休止を取る際に摘まんでください。魔物が襲ってくれば碌に話す余裕もなくなるかもしれないので、今の内にパントレさんを中心に話し合って戦いの方針を決めておいて下さい。私は今から魔道具を操作して教国の方向に真っ直ぐ進むように進路を取ってきます。今回は手が足りないでしょうから私も戦闘に加わります」

 船長はそう告げると急いで食堂を出ていく。急に危機が身近に感じられ礼一はゴクリと唾を飲み込む。

「何だか慌ただしくなりやがったな。まぁいいや。作戦を決めるぜ。大将首が来たらおいらたちがぶっ飛ばす。あんたさん達二人は潰せるだけ雑魚を潰せ。船長はそこそこ強いが頼んなよ。一応依頼主で本来おいらたちで全部対処しなきゃなんねぇことだからな」

 船長のいなくなった食堂で、パントレがそう言って皆を見渡す。

「  」

 彼はそれ以上何も語らず、沈黙が場を支配する。

「え?それで終わりですか?以上?」

 堪らず礼一が尋ねる。

「おう、奴らのボスをおいら達は見たことねぇんだ。多少の話は船長から聞いちゃいるが、戦闘に関することは恐ろしく早く動くってことぐらいしかわからねぇ。情報がそれだけじゃあ作戦は立てられねぇし、来た奴から順にぶっ飛ばすしかねぇんだよ」

 確かに言っていることは尤もである。どのみちこの船から逃げることはできないし、教国に行くためには他の航路を取る訳にもいかない。

 加えてパントレ達は全員近接戦闘が主体なので、甲板に登ってきた魔物を片っ端から殺していくしかない。

「休憩とかはどうしますか?」

 仕方なく戦闘以外のことについて礼一は質問する。

「そうだな。取り敢えず敵が押しかけてきたら全員で対処するとして、それ以外の時は見張り番を立てて、その他の面子はすぐに駆け付けられるところで休むようにすっか。食事は暇な時に各自で勝手に摂りゃいい。あ、あと予備の武器を階段の周辺に置いとかなきゃなんねぇな。基本的に海の魔物は雑魚ばかりだが数が多い。大将首を仕留める前にくたばらねぇように注意しろ」

 パントレはざっくりと動きの流れを決めると、それぞれに役割を割り振っていく。

 礼一と洋は基本的に戦闘時以外は、食料やら武器の運搬係をすることとなった。一人で見張りをするには力不足というのが主な理由である。

 何だか皆が代わる代わるに見張りを務めている間、小間使いのようなことをするというのは楽をしているようで心苦しい。かといって他に出来ることもないので二人はせっせと船倉から第二甲板まで武器やらを運ぶ。

 武器を運びながら意味が分からず礼一は首を傾げる。

 勿論腕や肩が痛む等の不平は多少あるが、それは今問題ではない。

 問題なのは礼一達が運んでいる武器がただの金属棒ということである。棒は太さも長さも丁度洗濯物を干す物干し竿程である。全員揃ってどこかの佐々木某になる訳じゃあるまいし、意図が全くわからない。

「あのパントレさん、なんでこんなに棒ばっか必要なんですか?」

「言ったろ。やつら兎に角数が多いんだ。まとめてぶっ飛ばせる得物の方が殺りやすい。それにおいらは基本的に短剣主体で戦ってるし、残りの面子も普段は剣を使っちゃいるが、大量の魔物相手に切った張ったしてたら剣の切れ味もすぐになくなっちまって結局金属棒振り回してるのと大して変わんなくなんだよ。なら最初から金属棒使った方がいいだろ」

 そう言いながらパントレは棒を持って縦に振る。凄い勢いで風を切った棒は床にぶつかる寸前でピタリと止まり、先端が揺れる様子もない。

 それを見て礼一は、力の強い彼らだからこそこういう戦い方を選択できるのだと感じる。

「さーてと、じゃあまずはおいらから見張りを始めて、フラン、ヴァス、コロナの順に交代していくからな。交代のタイミングは各自の判断に任せるぜ」

 パントレはそう言うと、棒を担いで軽い足取りで甲板へと続く階段を上がっていく。

「じゃあ、まあ俺たちはここで待機させてもらいますか」

 彼の子分達は銘銘で廊下に自室から持ってきたであろう筵を敷いて座る。

 礼一と洋は大方の武器やらは運び終わり、全員分の昼食を持ってくるために食堂へと向かう。

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