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風にそよぐ 〈ハイファンタジーも甘くない〉 ※第1章完結済み  作者: 鯉のなます
第1章 見知らぬ大洋
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10  夕食

「おーい、ピオいるか。飯飯飯」

 パントレは怒鳴りながら昼にご飯を食べに行った部屋に入っていく。当然先程服を脱いだので、彼も子分の三人も真っ裸のままである。

 ようやくあの最果ての島のような場所から文明の存在する船に移ってきたというのに、中で暮らしている人間が文明と対極の道を歩んでいることに礼一は呆れる。

「ちゃんとした格好してきてよー。あとゴミを持ち込まないでー、えいっ」

 奥の厨房から顔を覗かせたピオがそう言うなり、四人を軽々と持ち上げ、次々に廊下に放り出す。

 食うことが好きなだけで性格は至って温厚なはずのコックが、実はニコニコ笑いながら仲間のことぶん投げる怪力サイコパスと分かり、礼一は顔を引きつらせる。

「礼一と洋は、まぁ、、大丈夫だねー」

 及第点を貰えたようで何よりだったが、礼一と洋はこの後絶対に身体と服をしっかり洗おう胸に誓う。食事に来ただけで殺されるとか洒落にならない。

 放り出されたパントレ達が呻きながらムクリと起き上がる。

「ピオー、手前ぇよくもやりやがったな。あとゴミとはなんだ。これはおいらたちの服だぞ。一仕事してきた仲間に中々の仕打ちをしてくれるじゃねぇか、ぁあん」

 パントレが恨み言を吐く。

「何ー、何か言ったー?」

 サイコなコックは振り返ってニコッと笑い、片手に持っていた鳥のようなものの首を包丁一閃スパッと刎ねる。

「お、覚えてやがれっ」

 三下の悪役の捨て台詞を吐いてパントレ達は這う這うの体で退散する。

「あっ、そいつ」

 洋が何かに気付いたように声を上げる。

「んー?〈飛行魚〉を知ってるのー?これ捕まえるの面倒だけど美味しいんだよねー」

 これが洋が最初の岩場で見たってやつか。南無阿弥陀仏。無残に頭部をすっ飛ばされた初対面の魚に礼一は祈りを捧げた。

「何だか騒がしいので様子を見に来ましたが、もう晩御飯の時間ですか」

 後ろから声が聞こえ振り向くと、戸口にホアン船長が立っている。珍しいことに船長室では片時も離さなかったゴツイ杖を持っていない。

「あれ、杖はどうしたんですか?」

「実はあれ、船倉の下の機関室迄行かないと使えないので、持ってても意味ないんですよ。一応船長としての威厳を見せるためというのと、機関室に置いておいて何かあっては困るという理由で、船長室に置いてあるんですが」

 ホアン船長は礼一の問いに苦笑交じりで答える。

「船長ー、すぐ出来るから待っててねー」 

「そうですか。では座って待たせて貰いますね」

 船長はすぐ側の椅子に座りながら、二人にも手で座るように勧める。

「ところで礼一君、身体の方は問題ないですか?」

「はい、治療して貰った後は動いてもちっとも痛くないので助かってます。ありがとうございます」

「そうですか。それは良かったです。ただ痛くないからといって無茶をしてはいけないですよ。私に出来たのは、あくまで怪我をしたことで乱れた体内の魔力の流れを整えることだけですからね。痛みは軽くなるし治りも早くなるけれど、怪我自体は治せていません」

「いえ十分です。痛みがなく動けるだけで大助かりです」

「一応薬がない訳ではないんですけどね。魔石を使ったものなので正直あまりお勧めはしません。効果は劇的ですが」

「結構です、結構です。とんでもございません。現状に満足、船長に乾杯っ」

 魔石に意思があると聞いてからすっかり魔石恐怖症の礼一は、訳の分からないことを言いながら慌てて薬を断る。効果が劇的どころか文字通りの劇薬じゃないか。

 船長プレゼンツのトンデモ薬を礼一が断っていると、廊下からパントレ達の騒ぐ音が聞こえてくる。

「これで完璧だろう。今度ケチつけたら殴り飛ばしてやる」

 変に鼻息荒く意気込んでパントレが入場する。口調の割にへっぴり腰で部屋に入って来たのはご愛嬌だろう。

 ピオは四人が入って来たのをチラッと確認すると特別触れることもなく調理に戻る。

 それを見てパントレは何故か勝ち誇った顔をして椅子に腰掛ける。

「今日のお片付けはどうでしたか。問題なく終わりましたか?」

 ホアン船長が話しかける。

「船長頼むから片付けって言うのはやめてくれよ。こっちは冒険者の端くれだぜ。一応命賭けの商売で、相手は雑魚でも魔物なんだからな」

「それは失礼しました。それでどうでした?」

「まぁいつも通りさ。肩透かしにもならなくてこのまんまじゃ腕が鈍っちまう」

「それは何よりです。それでは腕を研ぎがてらそこの二人に戦い方を教えてあげたらどうです?」

 唐突にホアン船長が妙な提案をぶっ込む。ちょっと待ってくれ。さっき無茶すんなって言ったのあんただよな。

「いや実のところ、ここから先の航海が少し大変そうでして、人数も少ないことですし、出来る限り戦力が欲しいかなぁなんて思ったりするのですが」

 物言いたげな礼一な顔を見て、船長がお茶目に笑ってそう告げる。

 いや言いたいことはわかるのですが、それは今思い付きましたよね?それと何か性格変わってませんか?

「任しといて下さい。このパントレ、命に代えましてもお役目果たしてご覧にいれます」

 何だか仰々しい挨拶をしたかと思うと、パントレはこちらに顔を近づける。

「な、おっかない船長って言ったろ。おいらだけその割りを食うのは不公平ってもんだろ。今日だって禁酒を言い渡されてんだしな。これから宜しくな後輩」

 クソみたいな先輩だな。礼一の中でパントレの評価が地に落ちる。

「完成ー」

 ピオがもうもうと湯気の立った大鍋を運んでくる。鍋の中では、死にたてホヤホヤの〈飛行魚〉の死別した頭と胴体が一緒くたになって野菜と共にクタクタ煮えており、感動の再会を遂げている。分かりやすく言ってしまえばアラ汁である。

「旨い」

 スープを口にしてその味の深みに驚く。飲み込んだ先からじんわりと身体の隅々まで旨味が染み渡る。

 それから先は暫しの間、皆無言で食事に没頭する。お代わりは銘々で勝手に鍋から装う。そこには貴賎の別も上下の別もなく唯純粋な食への飽くなき渇望があるだけだった。

 と、しょうもないことを作者が考えている間に鍋は空になり、至福の時間は終わる。

「ふー。堪能しました。相変わらずピオさんの料理は美味しいですね」

 船長がすっかりご機嫌な様子で話す。

「流石おいらが認めた漢だぜ」

 今ばかりはパントレが鬱陶しい感想を述べたところで誰も突っ込まない。どうも旨い飯というのは幸せをもたらすのと同時に人を堕落させるらしい。

「さてと、今日の夜の見張り番はパントレさんとコロナさんでしたね。丁度良いですから礼一君と洋君にやり方を教えてあげて下さい。と言ってもここらの辺りでは問題が起こることはほぼないので黙って起きてるだけで終わると思いますが」

 船長はパンッと手を叩いて皆の注目を集めてからそう告げる。

「よっし、じゃあ前半はおいらと礼一が、後半はお前と洋がやることにしようぜ」

 パントレはそう提案すると、礼一に付いてくるように目配せをして、廊下に出る。

 そうして何故か礼一の方ではなく閉めた扉に向かって、大きな声で呼びかける。

「それじゃあ礼一、まずは十分に準備をしなくちゃならないぞ」


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