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餓死
旅の途中で立ち寄った村は、悲惨だった。
草花は枯れ、腐敗臭が立ち込めて虫が集っている。
村落……いや、廃村か?
などと考えながら、通り過ぎるため村へ侵入した。
村では、幾人もの人が死んでいた。
痩せ細って骨張っている者が多いため、飢餓で滅んだのだと推測出来る。
俺は、全員が死んでしまったのだと考えた。しかしその時、隣から石が飛び転がってきた。
不自然に転がってきたその石が気になり、足を止めてそちらを視認する。
するとそこには、今にも死んでしまいそうなお爺さんがいた。
助けて……。
枯れかけの声で紡がれた言葉に、ギリギリ生きているのだと理解する。
俺はポケットに手を突っ込み、最後の食料の干し肉を見つめて思考を巡らす。
これを渡せば、お爺さんはもう少しだけ長生き出来るだろう。
しかし、その少しを生きたからと言って何になるのだ。
飢餓になるまでここに留まっているということは、足を伸ばしてもこの辺りでは食料を確保出来ないということだ。
さらに食料だけでなく、生きるために必要な何もかもが無いのだろう。
ならば、今僅かに命を繋いでも意味が無い。
それに、俺自身だって次の食料を確保出来るとは限らない。
虎の子の干し肉を手渡して、2人とも絶えるなんて未来は望まない。
俺は干し肉をポケットに戻した。するとお爺さんは、掠れぎみの唸り声で恨み言を述べた。
あんたにあげたところで、その身体じゃあもう助からねぇよ。
喉まで出かかった言い訳を飲み下し、自分にだけ言い聞かせてその場を後にした。
助けなかったんじゃない、もう助からなかったんだ。
だから、俺が見殺しにした訳じゃない。
消えゆく命から目を逸らし、自身の選択を是非を問続けた。