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怨霊事変  作者: 十六百七
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第三話

「おい!落ち着け!何やってる!」

 伊勢の腕を掴んだ何者かが怒鳴った。が、まったく止まりそうにない伊勢は後ろから羽交い絞めにされた。そのままズルズルと引っ張られていく。

「なんだあそいつ、怨霊に殴りかかるたあ、無謀な奴だの」

「ホント、頭のおかしい新入りだよ。…おい、見てないで手伝え」

「わかったわかった」

 面識のない二人組に伊勢はなすすべもなく引きずられていった。その様子を見ても、あの不気味な女は特に追ってくるふうでもなくその場にたたずんでいた。伊勢は眼前の仇を叩きのめさんと暴れ続けてはいたが、女が離れていくにつれて正気に戻りつつも、意識は朦朧としていった。

「はなせぇ…チキショォ…ぼかあアイツをつぶすん…」

 伊勢はなさけない声をあげながら気を失った。




 伊勢が次に目を覚ました場所は駅―――ではなかった。

 辺りを見渡すと、見知らぬ人間に囲まれていることに気付き、恐れをなしたが、よく見ると三人は年も雰囲気もバラバラだった。一人は厳つそうなおばさん、一人は何本か矢の刺さっている侍だった。ここまでなら囲まれると小便ちびりそうなメンツであるが、伊勢と大して年が変わらなさそうな少女もいた。

 不気味な女に近寄られて気を失うわ、覚めたあと知らない人間に拉致られてまた失神するわで伊勢の頭は混乱の極みに達していた。そのせいか現在地がよくわかっていなかったらしく、改めて周りを確認すると見慣れた鳥居を見つけた。知らない土地だと思っていたところは近所の神社だったのである。

「おう、目、覚めたか」

「混乱してるとこ悪いな新入り!ああ、初めまして、ヨシコっていうもんだ。これからよろしく!」

 状況を飲み込むのに必死な伊勢に、厳ついオバサンと侍みたいな奴が急に話しかけてきた。いきなりカツアゲ的な展開にならなかったのはいいとして、初対面のはずなのに馴れ馴れしいのは不可解だった。しかも自身を『新入り』呼びされることに対し、伊勢は記憶をフル稼働させてなんとか目の前の人物を思い出そうとした。

「わしゃあヤノスケっちゅうもんじゃ。おめえさん、名は?」

 伊勢の混乱そっちのけで侍まで自己紹介した。

 伊勢はここにきて、自分が変な芸人か役者にスカウトでもされてるんだろうと判断した。侍のコスプレしてる野郎もいることだし、きっとそうだ。ここでやることはひとつ!―――伊勢は決心した。

「すいません、もう遅いんで、家に帰らせていただきまーす!」

 伊勢の返答に、三人は呆れた表情を見せた。

「あの…わかってる?アンタ死んだんだけど」

「は?」

「いや自分でわかってない?ホントアンタ変だねえ。いきなり怨霊にケンカ売るところとかもそうだけど」

「?」

「コイツ何もわかってないのか…。とりあえず、アンタは死んだんだ。さすがに自分でも何となくわかるだろ?」

 そう言われて、伊勢はドキリとした。まさかさっきまでの流れは夢ではないのか。

「え…じゃあここどこなんですか?家の近所だと思ってたんすけど違うんですか?天国か何かですか」

「天国とかメルヘンな」オバサンが噴き出した。伊勢はイライラした。

「もういいっすよ!帰ります!」

 伊勢の発言に三人は哀れなものを見る目をするので、伊勢は居た堪れなくなって足早に立ち去ろうとした。

「悪かった悪かった。死んでることがわからないんだな。じゃ足元の砂利、どれでもいいから持って見せてくれ」

 オバサンの謝罪の軽さに苛立ちは収まらないものの、伊勢は素直に従った。さっさと話を終わらせて帰りたかったのである。しゃがんで石をつかむ。それだけだった。

 しかし、どれだけやっても小石を持ち上げられなかった。というより小石に触っているはずなのに感触がない。

 半泣き状態で、伊勢は小石をつまんでいる『はず』の親指と人差し指の先を合わせた。


 …指先はあっさりと、小石を通り抜けてしまった。


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