① ジカク
1章開幕となります。投稿ペースが遅いですが気長にお待ちいただけると幸いです。
-白伊 蓮人 (主人公)-
「─きよ──のだ─」
誰だ?もう少し寝かせてくれよ。こんなに心地いいのに。
「早く起きるのだこのバカ者。」
頭に衝撃を受け謎の浮遊感とともに目覚めた俺はそのまま背中を強打し、けっこうな勢いで転がった。息が…でき、な…
「ぅぐ…」
「うむ、流石は余だ。かな~~~り、ものすご~~~~~く、手加減したとはいえ、Lv1にも満たないクソ雑魚でもこの耐久力。余!素晴らしい!」
嬉しそうなのはいいことだが俺は全身くまなく痛てぇよ…あ、息できる。
「あー、えっと、誰?」
「む?驚いた、もう喋れるのか……余の力だけではないな………誇れ、汝、素晴らしき才能を持っておるぞ。この余が認めよう。これを史上の誉とすることを許す。」
うーん、聞いたことに答えてほしいなぁ…
「とは言っても、なんだかんだもう痛くないし、やっぱ俺って回復力高いのかなぁ…」
「うむ、汝のその再生力は目を見張るものがある。凄まじいぞ?Lv1にも満たない状態でありながらあのトカゲもどき…ワイバーンに勝るとも劣らぬ再生力。正直キモい。」
「非道い!?」
なんで初対面の人にこんなこと言われなきゃいけないのー…ん?初対面?
「って、だからあんたいったい誰だ?」
「おー、そうじゃった、忘れておったわ。すまんすまん、許せ人の子よ。」
大して悪びれもせずペロッと舌を出しながら謝るその様は子供みたいなのになぜか大人の妖艶さを醸し出している。まぁ、このサイズじゃなければね…
「聞いて驚くが良い、余こそ、あの三幻霊と名高い、そう、余だ!」
「いやだから誰ですか…てか知らんですよ三幻霊なんて…」
しまったついつい突っ込んでしまった。これホントに凄い人とか敵対する人だったらどうしよう…ってかここどこだ?俺さっきまでエレベーターにいなかったっけ?あれ?
停滞していた思考が、徐々に回復してきて自分の状況を理解し始める。
「は?え?ここ、どこ?」
だが、そう簡単に思考がまとまるはずもなく、言葉が漏れる。
「はぁ、汝は鈍いのぉ…そして質問が多い。先ず、余の名だが、この世に3体しか存在せず、魔神や神をも超える力を持つ、精霊の一柱、エクセルである。」
ドヤッと言わんばかりに胸をはる約30cm。エクセル?PCソフト?表計算とかの?ってかほんとに凄い人じゃんこの…人?
「なにを呆けておるか。こちらの世界に来たからにはあちらの常識は通用せぬ、あちらの常識などこちらには存在しないものとして考えねば、もたんぞ?」
挑発的な笑みを浮かべる約30cm。こちらの世界?異世界なの?ここ。あ、なんだかんだ答えてくれてる。優しいかも。
「あー、えっと、ここは異世界ってことでおーけー?」
念の為確認をば。
「その通りじゃ。ここは地球とは惑星はおろか銀河、果ては宇宙そのものが異なる別次元に位置する異世界『ファアファル・エールデ』なのじゃ。」
ゲームと同じ名前…ってことはここはゲームの中?じゃないか、異世界って言ってたし。ゲームがここを模していたのか、そもそもフェイクだったから関係ないか…
「っとそうだ!他の人は!?」
「阿呆、周りを見よ。視野が狭すぎるぞ。」
そう促されて周りを見る。確認できたのは1人を除いてまったく見覚えのない計3人。1人は竜人みたいなツノまで生えてるけど…みんな気持ちよさそうに寝ているが、俺を含めて4人しかいない。20人いたはず…
「少なくないか?」
「うむ、20人行動は目立つからの、ジブリールが五班に分けたぞ。」
ジブリール?
「あぁ、迅さんか。」
「ん?あぁ、向こうでは確かそう名乗っておったな…」
「ジンで大丈夫ですよ?」
にゅっと何もない空間から窓があるかのようにジンさんが顔を出す。
「うっわぁ!!?」
「痛っ。」
驚いた拍子に後ろに下がったら人が立っていたらしくぶつかった。
「あ、すみません。」
さっきのツノの生えてた人だ。
「ふむ、時間も惜しい、全員起こせ。」
有無を言わさぬ空気を放つエクセルからの命令、逆らったら死にそう。
数秒後、全員が無事目を覚ましたが当然のように混乱していたので説明に少し時間がかかった。要約すると、エレベーターから異世界転移。
「さて、現状を皆が理解したところで、汝らに言うべきことがある。非常に面倒であるが、もうそんなことを言っていられる状況でもない故、なにも言わず黙って聞くが良い。」
真剣な表情で語りだしたエクセル。俺たち全員が彼女に視線を向ける。
「汝らの世界にライトノベル?というものがあるだろう?余たちはそれらを参考に汝らをこちらに連れ出すことにした。故に、汝らにはこちらから謝罪の意を込めて幾つかのスキルを授けた。その中の4つは皆が共通して持つスキルだが、それぞれ種族能力や固有特性を授けてある。それらを説明するとともにどのように確認するかを教えていこうかと思う。」
告げられた内容はまさに信じられないものだった。だが、感情とは裏腹に体は動かなかった。正確には動かせない。エレベーターの時と同じ…ではない、今回は動こうと思う意志そのものが疎外されている感覚、精神干渉?体の占有権を取られている?だが、そんなことより俺は、俺たちは聞かなければならない。彼女の話を。ゲーマーとして、オタクのような人種としての使命である。
「さて、早速1つ目じゃが、『万能眼』というものじゃ。これは皆も存じているであろう『鑑定眼』類の最上位に位置するスキルじゃな。相手のステータスを除くことや、物体の詳細、果ては構成素子でさえも視ることの出来る文字通りの万能眼じゃ。
2つ目は、『全英雄化』じゃな。あらゆるステータスの超強化、武術やその手の類い、主に戦闘に関する動きを完全に身体の芯まで浸透させ、無意識下ですらその動きを完全再現するというものじゃな。喜べ、ただの一般人が瞬く間に戦闘のプロをも凌ぐ強さを持ったのじゃからな。動きだけじゃが…
では、3つ目だ。『全強化』というのじゃが、これはおまけみたいなもので2つ目の劣化版じゃな、身体能力の底上げじゃな。効果は2つ目の半分といったところかのぅ…
最後に4つ目じゃが、これがメインじゃな。『死返し』というもので、死んでもその場で生き返る。というものじゃな。その際、所有しているスキルのLvを上昇させることがあるぞ。ざっとこんなもんじゃが、なにか不満や不明瞭な点があれば言うがいい。なければこのまま次に移る。」
話が終わるとともに口の自由が戻るが、どうやら不満や疑問以外は発声できないようだ。不満などあるはずもないし、心は派手に盛り上がっているというのに、誰とも共有できない。なんとももどかしい。が、それよりも続きを聞きたくて仕方ない気持ちが勝っている。
「誰もおらぬようじゃな。では、次じゃ、確認方法じゃが、[ステータスオープン]と、唱えるとこのように自身のステータスが表示される。」
そういうと彼女の前に謎のウィンドウが表示される。そこには謎の文字のようなものが書かれて?浮いて?いるが、読めない。異世界語かな?
「このようにして表示しているステータスは、鑑定などでみられるか、開示しない限り絶対に相手にはわからないようになっておる。謎の文字が浮かんでいるじゃろう?そういうことじゃ。理解したか?」
口とともに首の自由が返ってくる。徐々に体の占有権が返ってきているのだろう。返してくれているだけかも知れんが。とにかく、未だ限定的にしか喋れない口の代わりに、自由になった首を縦に振り肯定の意を示す。
「では、試してみるが良い。」
その瞬間、体の自由が全て返ってきた。解き放たれた、と言うよりは突き飛ばされたかのような感覚によろけながらも呟く。
「[ステータスオープン]」
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地球名︰白伊 蓮人
異界名︰クロイツ・エルド・ロータス
髪色:呂色 墨色
身長:173.0cm
体重:63.4㎏
年齢:18歳
誕生日:10月9日
適正属性︰無
レベル︰0
パラメータ︰HP(体力)⋮237/2147→474/4294
MP(魔力)⋮1899/1899→3798/3798
STR(物攻)⋮578→1156
VIT(物防)⋮482→964
INT(魔攻)⋮580→1160
MND(魔防)⋮501→1002
AGI(敏捷)⋮612→1224
DEX(命中)⋮71→100(MAX)
LUK(運)⋮45→90
CRI(急所率)⋮76→100(MAX)
称号︰『万能なる英雄』
保有スキル︰『万能眼Lv10』『全英雄化Lv10』『全強化Lv10』『死返しLv1』
固有特性︰『不規則な規則Lv1』[自身のHPが8分の1以下になった場合、その都度、自身の全てのパラメータを2倍にし、状態異常を上昇効果に、上昇効果を下降効果に変える。スキルレベル最大時、パラメータを2.5倍にし、状態異常のみを逆転させる。(自動誘発型)]
種族能力︰ヒト(人族) 人の突然変異種。自身の肉体で攻撃した場合、能力や耐性など関係なしに防御貫通ダメージを与える。
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は?基準がわからないからなんとも言えないが、英雄?しかも万能?固有特性以外はとんでもなく強いなんてことはなさそうな気が…いや待て、レベル0ってなんだ?そんなのあるのか?いや、あるからなってるんだろうけど、レベル0か…それ以前に、異界名?わからないことが多すぎる………既にカンストのステータスがあることも、戦闘してないのにステータス上がってるし…情報量が多すぎて頭がパンクしそうだ。
「どれ、[万能眼]ほう………ふはははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!面白い、面白い程にわかりやすい固有特性よのぉ。うむ、ステータスも申し分なし。なるほど、このアホみたいなステータスもこの固有特性の恩恵ということか…そして?このまま普通に成長するわけがない、と。これは確かにチートじゃな…くはは…久方ぶりに盛大に笑ったわ。ふむ其方らは、本当に面白い。では、其方達の初陣を始めようか。」
「え?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた次の瞬間、目の前に出現した4体の巨人。
体長は3メートルほどで、頭部は山羊。その様はさながら悪魔のようだった。ただ、尻尾はなく、羽もない。代わりに皮膚の下に潜む筋肉がはち切れんばかりに膨張している。
「そいつらは『ヴィヴ・ヴィリオン』と言ってのぉ、本来なら…Lv10ぐらいの冒険者が4人で挑む敵じゃな…まぁ、大丈夫じゃろ。」
「んなわけあるかぁ!!!!!」
俺の叫びに反応してか、4体が一斉に俺に襲いかかる。
「れん!」
誰かが俺を呼ぶがそんなことはかまってられない、避けなきゃ死ぬ。眼前に迫る拳が俺にその現実を突きつける。
「くっそ…」
間に合わない、と思っていたのだが、体が勝手に回避行動をとる。
「れん!大丈夫?」
回避した先にいたのは月詠だった。安心したのもつかの間、俺を心配する月詠の後ろから、ヴィヴ・ヴィリオンの拳が迫っているのが見えた。けど、
「あれ?」
怖くない。まるで、ゲームをプレイしているかのような感覚に包まれる。直後、全身を突き動かさんとする高揚感。
「はは、おっもしれぇ、ヴィヴ・ヴィリオンだっけ?討伐してやんよ。」
いける。やれる。そう確信して俺は位置を入れ代わるように月詠の手を引く。
「え?」
月詠の間の抜けた声が聞こえたが、これはゲームだ。そう、ゲーム。エネミーを討伐するだけ。簡単だ。
「ははは」
拳を避ける、当たれば頭が吹き飛びそうな威力を横に感じながら、全力で拳を振りかぶる。
「まずは、小手調べ!」
そのまま振り抜く。拳は敵の体を貫き、振り抜いた腕は敵の体を引き裂いた。ように見えた。いや、実際にそうなったのだ。だというのに、目の前のそれは、無傷なままで、
「っが!?」
腹に衝撃。いや、背中にまで激痛。貫通した、死んだ。これはマズい。痛い!痛い!痛い!痛い!死ぬ、死んだ。これは、終わった。ゲームなんかじゃない、現実だ。地面が向かって…こない…自分の腹に腕が刺さっている。でも、生きてる。動ける。戦える!
「いっっっっっってぇなちくしょう!!!!!!!」
突き刺さったままの腕を膝と肘で挟んで潰し、腕から逃れる。腕が抜けるとそこは、何事も無かったかのように服ごと再生されていた。わけがわからないよ。
「んー…まぁ、死んでも生き返るって言ってたしなるようになんだろ。」
「れん?1匹任せて。」
そんな言葉が聞こえた次の瞬間、一体のヴィヴ・ヴィリオンが飛んでいった。
「1人1匹、ってことになったんで、サクッと殺っちゃいましょ。」
月詠とは違うツノの生えてない人が、話し合いの結果?みたいなのを教えてくれて、そのまま1匹持っていく…
「じゃあ、1匹よろしく?」
ツノの生えた人に頼んでみる。
「任せて!」
そう言うとやはり1匹連れて飛んでいく。
「みんな適応しすぎじゃね?」
まぁ、感覚がもうゲームだしなぁ…やったるべ。
迫る拳に唸る脚その全てが地球で相対したなら即死級の威力。なぜか体が覚えていた受け流しなどをしなければ今頃ミンチなのではなかろうか?
「楽しいなぁ…常々、こんなことできるようにならないかと考えてたんだよ~」
もう楽しくて楽しくて笑顔が止まらない。
「キサマ、トウソウチュウニワラウトハ、ヨユウダナ!」
こいつ、喋るぞ!?
「よゆーもよゆーよ、お前の攻撃は、単調すぎんの!」
またも迫る拳を流し、カウンターの拳を置いていく。そこに迫るガラ空きの脇腹。
「ヌグゥ!?」
巨体の重さで拳が突き刺さる。そのまま振り抜き次を構える。
「グゥ…」
「はいドーン」
構えた拳を振り抜き頭に直撃させる。すると、頭が弾け飛んだ。おぇ、グロ……画面の向こうならまだしも、目の前でこれか………嫌だなぁ…と、本来なら思うはずなんだけど…あれぇ?
「まだ、立つのか…」
「ニンゲン、オマエヲキョウシャトミトメヨウ。ダガ、ワレニハオヨバヌ!イクゾ!」
その言葉と共に再び振るわれる拳。
「甘いんだよ!」
よし、避け───────
「ぁえ?」
「フン、フェイクトイウヤツダ。マエニタタカッタニンゲンガツカッテイタギジュツヲマネタ。ケイケンノサトイウヤツダ。」
なんだこれ、魔法か?視界が揺らぐ…焦点が定まらない…敵が、見えない…だが、
「……経験の差?この程度でか?笑わせてくれる。」
フルダイブ方式のVRは確かに世界初だった。だがなぁ、地球にはARがあったんだよ。見えない敵や視界を閉ざしてくる敵なんぞしょっちゅう居たわ。そういう時はなぁ…
「音を、聴け…」
「ナニヲ?」
声を出したが運の尽き、全身全霊、これで決める。
「そこだァ!!!!!」
「ナンダト!?グァアアアアア!!??」
『[終撃︰拳]を習得しました。蓄積された経験を感知、[終撃︰拳]のレベルが最大値に達しました。』
「ん?」
なんか習得した。そんでそれのレベルが最大になった。らしい…
「ふむ、やはり最初はお主か。予想通りはつまらんのぉ…」
「けっこう必死だったんだけどなぁ…それはもう今までにないくらい全力で…」
いやほんとに辛かったぁ…
「確かに、アレが発動しておるようじゃったしなぁ…」
「え?なんて?」
「なんでもない、気にするな。」
気になるなぁ…
「っとそうだ!他の奴らは!?」
「今死闘中じゃな。まぁ、ほっといても負けることは無い。安心せよ。」
そう言われてもねぇ…
「傍から見るとけっこう悲惨なんだなアレ…うっ…」
「ふむ、やはり戦闘中はアレが発動しておったか…しかしまだ完全ではない、と。故に、まだまだ未熟よなぁ…」
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あれから数分経っただろうか、最後の1体が倒された。
『[英雄伝説初陣]の称号を取得しました。』
「あぁ、俺たち、世界救う英雄なんだったっけか…」
戦闘が終わったからこそより実感する英雄という称号。死闘を終え、その余韻に浸る俺たちに対して、真剣な顔をしたエクセルが口を開く。
「死闘という名の戦闘を終えた汝らに問う。汝らはこれから先、アレよりもさらに凶悪な敵と相対することになる。それでも、この世界を救うべく戦ってくれるか?」