② ツドエヨドウホウ
前回のプロローグの続きです
-白伊 蓮人 (主人公)-
ここは東京某所のビル。最新技術を搭載したとあるゲームのβテストのためだけに約1ヶ月ほど貸し切りとなっている。それだけ、今回初の最新技術、VRシステムが危険性を孕んでいるということだろう。だからなのだろう、最初の説明のとき、本当にテストに参加するのか、と、今までの生活に戻れないかもしれない、と、釘を刺された。それを受けて、200人いたテスターが、俺を含め20人程度まで減ってしまっていた。つまり、残った者達は真のゲーマーなのだろう。と、俺は思うことにした。なんかカッコイイしいいよね!
とまぁ考え事はそこまでにして、俺には彼女がいるのだが、現在捜索中である。
「ったく、どこ行ったんだあいつ。」
めでたく一緒に当選したというのに、ビルが大きすぎて迷子らしい。ちなみに、俺と彼女が残った理由はゲームの世界に入るのは全ゲーマーの夢!それを先行体験できるなんてまたとない機会、ここで残らにゃ通行費諸々含めて大損!と言った感じである。
「我ながら馬鹿だよなぁ…」
本当に死んだらどうすんだろ。ゲームの中で死ねるなら、とも思ったんだけど、彼女のこともあるし、なにより、まだまだクリアしていないゲームがあるし……
「はぁ……あ、いた。」
そんなことを考えながら歩いていると目的の人物が見つかった。
「おーい、月詠ー!」
俺が呼ぶとようやく気付いたよ…う…で?
「うわーん、れーん!!」
「おぐぅ!?」
はい、タックルいただきました。オナカイタイ。
「はっ!ごめんごめん。」
「あぁ…お前にやられるなら悔いはないさ……」
「はい。」
「はい。おら、戻るぞ。」
「りょうか〜い。」
戯れ程度の茶番をしつつ、集合場所の大食堂へ向かう。
「ただいま戻りました。お待たせしてすみません。」
3階全てを使った大食堂。そこへ通じる階段を降りてきた俺たちに一斉に視線が集まる。まだ時間ではないが、早く集まればそれだけ早くプレイできると思って俺を含め全員が早めに集まったのだが、コイツ、月詠がやらかした。迷子とかお前……今どき小学生でもやらねぇぞ?多分。
「遅れてすみません!」
ちゃんと謝れたから及第点。
現在、この場所にいるテスターは20人。つまり、全員集まっているということだ。あとは、
「おや、皆さんお早いご着席で…せっかくですし、説明をして始めてしまいましょうか。」
そう言いながら、エレベーターから降りてきたのは、今回のゲームの最高責任者である、草薙 迅さんだ。彼は男から見てもイケメンと思えるほど美形で、金髪碧眼の美青年といった感じである。足が少し長く、身長はおおよそ188cmほどだろうか…外国人かな?でも、名前的に、ハーフの線も…
「さて、今作『ファアファル・エールデ』には、皆さんご存知の通り『VR技術』を取り込んだ、『VRMMORPG』を予定して制作されています。この技術を利用するにあたって皆さんの頭にこちらの『アクターズ・ヘッドギア』を装着していただきます。こちらは、特殊な電波によって脳に干渉し、仮想的な世界を知覚させ意識をその中へ送り込み、その世界で活動させることを可能とするための道具です。実用試験は何度もしていますが、脳に電波を送るという性質上、何が起こるか分かりません。そのため、このような場所を設けさせていただきました。と、まぁ長々とお話しましたが、要約すると、安全にプレイしましょうということなのです。」
ニコッとこちらに微笑む様は、男の俺でもイケメンだと思えるほどに、爽やかで…じゃなくて、今サラッと説明の意義を否定しなかったか?
「なにはともあれ、さっそくプレイしていただきたく…え?なぜそんなに急ぐかって?そりゃ、皆さんは未体験ゾーンをいち早く体験でき我々はデータが取れる!まさにWin-Winじゃないですか?」
いや、聞いてないです、ほんとに。
「それでは、ご案内させていただきますので、わたしの後についてきてください。」
この人、思ってたより自由人なのかもしれない…
少し歩いて着いたのはエレベーター。
「さぁ、乗ってください。」
「─こ───たち────せ──を───」
そう言えば、エレベーターに乗り込む瞬間、どこかから声が聞こえた気がしたが、多分気のせいだ。
12階、最上階でエレベーターは止まった。
「さて、ここらで始めましょうか。『施錠』。」
ガチャリと空間が固定されたような、いや、体がまったく動かせないところから考えて、固定されたのだろう。というか、声すら出せないとか。なにこれ、魔法?もうゲーム始まったんだっけ?
「ようやくか、流石に余も待ちくたびれたぞ?ジブリールよ。」
どこからともなく現れた少女?どう表現すればいいんだ?まるで大人ををそのまま30cmほどまで縮めたような、そう、妖精のような姿だ。しかも、めちゃくちゃ美人。凍ってしまったかのような世界に咲く一輪の花のように輝く赤い、いや、紅い髪を持て余すようにはためかせ、艶やかな体を1枚の白い布で隠している、少女とも女性とも言える存在に動かせないはずの目を奪われる。
「仕方がないでしょう?関係のない者を巻き込んでしまったら適性の無い者達はたちまち霧散してしまうのだから。」
え、なにそれ怖い。え、俺たち大丈夫なんだよね?
「くはは、それもそうじゃのぅ。よし、予定通りこやつらは余が作り変えるとして、しかと送り届けるが良い。さもなくば、我らの世界は滅ぶと知れ。」
んー、この声聞き覚えがあるなー。エレベーター乗る前かなー、ヨクワカラナイナー。
ってか作り変えるってなに?さっきから怖いことばっか言わないでほしいなぁ…不安になる。
「えぇ、承りました。ジブリール・クリエルンの名に誓って必ずや送り届けてみせましょう。」
その言葉と地面に浮かび上がった魔法陣のようなものを最後に俺の意識は途絶えた。
次回からは1章開始の予定です