第七話 精査
「その、スタンダロンをどうするつもりですか、先生は。博士の行動に抗うつもりですか?」
「いいや、今の私にそれほどの力は無いよ。博士の研究を見て思ったんだ。……博士は、凄いよ。早く死ぬには惜しい存在だった。たとえ大学が目の敵にしていたとしても、ね。スタンダロンをほしがっていたのは別に大学だけのことじゃあない。世界各国が画策してもおかしくない話だった。それぐらいにスタンダロンの性能は高く、完成度も高かった」
「博士は凄かったのですね。可能ならば、一度お会いしたかった」
「確かに、そうね……」
私は考えに耽る。
「でも、先生は博士の話をしているときはとても生き生きとしているように見えますよ。……やっぱり、好きだったんじゃあないですか?」
「な、何を突然」
「言ってはいけなかった、ですか?」
「いや、そういうわけじゃあないけれど」
スタンダロンへの会話は尽きない。
博士が開発した、唯一にして完璧なロボット。それがスタンダロンであり、それがスタンダロンの持ち味だったからだ。
「先生、いつになったら僕をスタンダロンに会わせてくれるのですか」
それを聞いて、私は我に返った。
「スタンダロンに?」
「ええ。だってスタンダロンに会えるのは、今も先生だけです。このままじゃあ、仮に先生が居なくなったりしてしまったら、スタンダロンの研究は宙に浮いてしまいます」
「冗談でもそんなことを言わないでちょうだい。……しかし、それも間違いじゃあないわね。いつかはあなたもスタンダロンに会わせてあげないといけない。正確には、『会話』をして貰わないといけない。スタンダロンの研究をここで続けていく以上はね……」
椅子から立ち上がり、私は机からカードキーを取り出す。
「ついてきなさい」
「どちらへ?」
「言ったでしょう」
私は続ける。
「スタンダロンに会いに行くわよ」
通路を進んでいく私、そしてそれを見て歩いて行くヤマグチ。
「どうして、スタンダロンに急に会わせようとしたんですか?」
ヤマグチの問いに、私は答える。
「あなたにもそろそろ……スタンダロンに『認識』させてあげる必要が出てきたのよ。あなたもスタンダロンに会いたくてここに入ったのでしょう?」
「ええ。まあ、確かにそうですけれど……」
「スタンダロンに会わせるにはね、それなりに私の『精査』が必要だと思っていた。博士の死も、不審だったからね。もしかしたら私も殺されかねない。そう思っていたのよ」
こつ、こつ。
階段を下りていく。
それを聞きながら、ヤマグチは何も言わなかった。
さらに、私は話を続ける。
「あなたがどう考えているかは分からない。けれど、スタンダロンに会いたいという思いと、私の精査による検証はもう終わった。後はスタンダロンがあなたを認めてくれるかどうか。それは私には言えないし、言うことも出来ない。全てはスタンダロンの『脳』がどう考えるか、という話なのだから」