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第五話 思慕/エピローグ

「これは?」

「朝食にと思い買ってきました。サンドイッチとお湯を入れて作れるスープと、野菜ジュースが入っています! お休みしてからで良いので、きちんと食べてくださいね」


 眼鏡をあげつつ、彼女は言った。

 それを聞いた僕は笑みを浮かべ、


「そうすることにしよう。では、インストールの件は任せたよ」

「了解しました!」


 そしてどたどた、と足音が聞こえるぐらいのスピードで彼女は駆け出していった。

 うちの校舎、走るの厳禁なんだけれどなあ。それぐらい理解はしているか。


「失礼します」


 そんなことを思っていたら、別の来訪者がやってきた。


「おや、君は」

「お忘れになりましたかな」

「いや、忘れていないよ。君の名前は、確かオーイシだったか」

「愛称の方で覚えていただけて何よりです」


 今日のオーイシはちょっと不気味だった。この前被っていなかった帽子を被っていたし、それに黒いスーツで身を包んでいた。まるで闇をそこから出してきたかのような、そんな黒だった。

 オーイシは帽子を取り外し、頭を下げる。


「別に気にする話でもないだろう。それで? 今日はどんな用件だ」

「スタンダロンの件で伺いに参りました」

「何だ? 今度は逮捕令状でも持ってきたの」


 ぱん、と乾いた音が研究室に響き渡った。

 痛い。

 痛みの広がった方角を見る。

 白衣は真っ赤に濡れていた。

 僕はどさりと倒れ込む。

 オーイシの顔を見ようと、何とか這い上がろうと試みるも、それもなかなか上手く行かない。


「スタンダロンのデータをよこしなさい」

「腹に銃弾喰らった人間に言う台詞かね、それが」

「スタンダロンのデータを、よこしなさい。時間は残されていない。幾らここが防音だからと言っても時間は限られているはず。だから、急いで私にデータをよこしなさい!」

「もし、パッチファイルのことを言っているならば、それは無理な話だ」


 僕は何とか、必死になりながら、言葉を紡いだ。


「何ですって?」


 オーイシは僕に問いかける。


「既にパッチファイルは助手に提出している。そして、それは既にインストールされているだろうよ。残念だったな、どこの機関のロボットかは知らないが、既に賽は投げられた」

「貴様っ!」


 これ以上時間を使うのはもったいないと判断したのか、オーイシは急いで部屋を出て行った。

 助手の心配をする必要もあったが、彼女なら僕と彼女しか入ることの出来ないコンピューティングルームにスタンダロンを保管しているし、問題もないだろう。

 だが、問題は僕だ。

 血が流れて、徐々に冷たくなっていく、その身体。

 痛みはもう慣れてきたが、問題は血。

 人間、死ぬ前になると冷静になるものだな、と思いながら、僕はゆっくりと目を瞑った。



 +++



 スタンダロンのプログラムをインストールし終えた私は、どこか胸騒ぎがしていた。けれど、ここを出るわけには行かないと私の『何か』が告げていた。私の中にあるそれは、何故かは知らないけれど、ここから出てはならない、ここから出てはいけないと教えてくれていた。

 そして、その後、私と同じクラスの学生がやってきて、こう言ったのだ。


「博士が、死んだ」


 博士が、死んだ?

 私は何を言っているのかさっぱり分からなかった。しかし、けれど、博士の意思を引き継がなくてはいけないと同時に思うようになっていた。

 博士の葬式は質素なモノだった。聞いた話によれば、博士は生涯独身だったらしい。確かに、そうでなくてはずっと研究室に閉じこもったりはしないだろうし、致し方ない話なのかもしれない。

 博士の研究は、そのまま助手である私に引き継がれることとなった。そのときに警察から事情聴取を受けることになったけれど、博士が死んだ時間に私はアリバイがあるということで釈放された。

 一週間もすれば、博士の埋め合わせはあっという間に決まってしまい、普通に流れる日常に私はついていけなくなりかけていた。けれど、私は博士の研究室を断固として他人に譲りたくはなかった。

 だから、結果的にその研究室を特例として、二年生の私が引き受けることが出来るようになった。


「スタンダロン、二人きりだね、これで」


 スタンダロンは眠っている。

 私は、ただそれを見つめている。

 同時に、私は思うようになっていた。

 博士を殺したのは、誰だ。

 博士を殺した相手に、復讐してやらなければ気が済まない。

 私はそう思い、研究を重ねた。

 スタンダロンの改良と、スタンダロンを守るために。

 そして――五年の月日が流れた。


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