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第四話 シスター


「確かに、来てましたよ。変わったロボットが居るな、とは思っていましたけれど。博士の研究物だったんですね」

「はあ、まあ、研究物というか開発物というか」


 この大学は宗教に寛容だ。

 なので、大学の敷地内に教会まで設置されている。まあ、僕は無宗教なので行くことはないのだけれど、今日に限っては行かざるを得ない用事が出来てしまった。

 スタンダロンの『脳』内を解析したところ、毎夜この教会のシスターに会いに来ているのが目撃されていたのだ。シスターに会いに行く、というのはとても人間らしい行動に見えて、その実間違っているようなそんな気もする。何せ開発者である僕が無宗教なのだ。どうして開発したロボットに宗教観等という概念を埋め込むだろうか?

 シスター、名前はミズキと言っていた、は告げる。


「ですから、私はただ話を聞いていただけなのです。私はロボットを開発する技術とか、絆すことなんて出来やしないのですから」

「別にそれを質問したいわけじゃあない。スタンダロンは何をあなたに懺悔したのですか」

「別に懺悔という程でもないと思うのですけれど」


 そう話を切り出して、ミズキは言った。


「人間とロボット、どちらが良い生き方をしているか、ということについて聞かれました」

「人間とロボット、」

「どちらが良い生き方を?」


 僕とオーイシはその単語というか、着目点というか、注意すべきポイントというか、ともかく、そういうありきたりに言えば着眼点とでも言えば良いのか、そのポイントについてただただ告げるばかりだった。

 ミズキは続ける。


「あなたは、ロボットの開発をなさったのですよね? 言われなかったのですか、スタンダロンに」

「言われなかった。それどころか、ここに来ていることすらも知らなかった。監視カメラの映像を偽装してまですることか? 僕はそうには思えない」

「しかし、確かに」

「そこまでする話ではありませんよね」

「一度、プログラムを解析してパッチを用意するべきか。今度は、絶対に宗教観など持たせることはない。断じてそのようなことを話させない、完璧なロボットを作り上げるんだ」

「博士、それは」


 オーイシの言葉に、僕は首を傾げる。


「どうかしたか、オーイシくん?」

「いや、何も。ただ、気になっただけなので」

「そうか。ならば良い」


 踵を返し、立ち去る準備をする。


「失礼した、シスター。もし機会があれば日曜日にまたやってくるとしよう」

「それは絶対にあり得ない話のようにも思えますが」


 皮肉にも思える言葉を返されて、僕はただ笑った。

 それだけのことだった。



 +++



 取りかかれば、何ということはなかった。あっという間にコードを書き直して、僅か一週間で寝食を必要最低限にした犠牲はあったものの、無事パッチが完成した。


「あとはこれをインストールすれば、完璧なロボットの完成だ」


 僕がインストールさせようとUSBデバイスにそのパッチファイルを移動させた時、ドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」

「博士、失礼します」


 入ってきたのは、大学の二年生にあるマリー=オルステッドだった。マリーは変わり者の僕に突然『弟子入り』を仕掛けてきた。聞いた話によれば、僕が完璧なロボットを開発したという話をあのシスターから聞いたらしい。僕としても助手は必要だったし、断る理由もなかったから、そのまま採用した。


「ちょうど良いところに入ってきたね」


 僕はマリーにUSBデバイスを差し出す。


「これは?」

「これはUSBデバイス。ってのは言わずもがな。これにはパッチファイルが入っているから、インストールさせておいてくれ」


 何にインストールさせれば良いのか、そんなことは言わなくても分かっていた。

 彼女の目がキラキラと輝くのが分かる。


「博士、ということはついに完成したんですね! 完璧なロボットの頭脳が!」

「ああ、それを使えば良い。僕は少し疲れた。仮眠室で眠っているからその間にインストールしておいてもらえるかな」

「了解しました!」


 敬礼をして、彼女はコンビニで買ってきたと思われる物品が入っている手提げ袋を差し出した。


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