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プロローグ 後編

「いずれにせよ、この窮屈な空間を作り上げたのは人間ですよ。人間が自由に過ごしたいがために作り上げた都市だったはずなのに、いざ作り上げたらルールをルールで固定していく都市ができあがった。今や書類一つ作るのに何種類ものルールを遵守せねばならない。その代わり、人間の安全性は高まりましたがね」

「ほんとうにそうだと言えるのでしょうか」


 僕は冷めきった珈琲を飲み干し、


「いったい何が言いたいのですか、さっきから」


 強引に話を進めようと思った。

 少しでも話が進むのではないかと思った。

 しかし、現実は異なる。


「まあまあ、博士。少しは落ち着いてください。これからの話を受け入れて貰えなくなるかもしれませんからね」

「もう既に僕はあなたの話を聞く準備が出来ているんですよ。あなたは何故話そうとしてくれないんですか」

「すいませんねえ。物事には、」

「段取りを踏まなくてはいけないのでしょう? 分かっていますよ。それにしても、あなた、まるでロボットのように話をしますが」

「ああ、分かりましたか。実は、『これ』は警察機構開発の人造人間P-01号、製造番号PS080014ZZです。仲間からは014を取って、オーイシと呼ばれています」

「オーイシ。まるで人間のような言葉遣いだが。珈琲も飲むのかね?」

「あくまでも飲むという行為のみです。オイル以外は別の場所に貯蓄され、任務終了後に破棄します。ロボットと人間の区別を見分けられないようにするための秘策ですね。博士、スタンダロンにはそのような装備はしていないのですか?」

「していない。代わりに、肌に太陽電池を使っている。だから、太陽さえ浴びていれば問題ない仕組みになっているんだ。まあ、それに充電をすれば二十四時間は平気で持つシステムになっている」

「そうですか。では、漸く話が出来ますね」

「何?」

「スタンダロン。唯一の自立型ロボット。そのスタンダロンが、昨日人を殺した。あなたはそう聞いて、どう思いますか」


 それを聞いた僕は思わず立ち上がった。

 僕の開発したロボット、スタンダロンが殺人を犯しただと?

 そんなことあり得ない!

 そんなこと信じられない!

 僕は、オーイシに続きを聞かせろと言わんばかりに近づいて、


「何を言っているんだ。スタンダロンは、ロボット三原則を用いて製造されたれっきとしたロボットだ。確かに『彼』には心があるが、憎悪という感情を抱くようにはプログラムされていないはずだ」

「だが、多くの人間が『彼』を見たと言っている」


 オーイシの話は続く。


「スタンダロンは特徴的なロボットだ。赤いカラーリングをしている。そして、その赤いカラーリングは血の色を隠すためではないか、という批判も上がっているのです。そう思われたくはないでしょう!」

「つまり、君は何が言いたい」

「私はスタンダロンが殺人を犯したとは言えないと考えています」


 何だと?

 突然の話に僕の頭は真っ白になった。まるで大きな爆弾が頭の中にあった懸念要素全てを爆発させたような、そんな感覚。

 オーイシの話は続く。


「突然やってきてこのような話をされて、さらにこの発言。信じられないと思われても致し方ありません。しかしながら、これは事実ではないかと私は考えているのです。スタンダロンが殺してしまったのか? ほんとうに、スタンダロンは人を殺すほどの性能を持っているのか?」

「それを聞きたかったために、わざわざ早朝の僕の部屋を訪れたのか」


 オーイシは頷く。


「大学のデータベースに、アクセスしました。あなたのスケジュールを確認して、自由な時間は研究室で研究を続けていることも調べて、」

「そこまで来ると、もうストーカーか何かだな」


 失笑する僕に、オーイシは首を傾げる。


「そうでしょうか?」

「そうだろうが、どう見ても」

「妄執、とでも言えば良いのでしょうか」

「いや、きっと違うと思う。まあ、ロボットが人間らしい考え方を身につけるのは難しいかもしれないな」

「でもあなたは作り上げた。その人間に近しいとも言える人工知能と、それを搭載したロボットを」

「一応、だ。確定ではない。そんなものを作り上げることが出来るのは、神の領域に達した存在だよ。僕は、凡人だ」

「そんなことは、」

「あり得ない、とは言い切れない。それが人間の思想であり、人間の思考であり、それこそ君が言いたかった『妄執』かもしれないがね」

「そう、ですか」

「さて、君が言いたかった話だが。スタンダロンは僕の最高傑作だ。もう何十年と研究したとしても、僕はあれ以上のものを作れないだろうね」

「しかし、あなたは作り上げた」

「まさか、とは思うが」


 僕は一つの結論を彼に言い放つ。


「君は、ほんとうは、スタンダロンになりたいのではないか?」

「私が、ですか?」

「そうだ。スタンダロンになりたいと思うならば、今までの話が帳尻の合う話だ。確定である保証はない。しかし今の僕から考え出せる結論は、それだ」

「いいえ、それは違います。私はあくまでスタンダロンの殺人容疑を晴らしたいために」

「まあ、それも良いだろう」


 僕は立ち上がり、壁につけられたボタンを押す。

 するとシャッターはせり上がっていく。

 当然だ。今僕が押したボタンこそが、そのシャッターを開くボタンなのだから。


「スタンダロンに会いに行こうではないか。それで結論をつけよう、オーイシ君?」


 その言葉に、オーイシは無言で頷くばかりであった。


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