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9 「まっボク、ニートなんで」「な、なんだそれは?!」


「……っ私の魔法結界が見破られるということはアサシン……しかも、スローターアサシンか――」


 クラウスベルは体を起こすと早々に魔法を発動する。


「サウザンドアイズ!グロウ・ザ・ツリーズ!」


 床に壁に天上に柱にと千ほどの瞳が浮き出てその視界を共有するサウザンドアイズに、その瞳が映した敵に急成長した木が次々串刺しを狙うグロウ・ザ・ツリーズ。

 隠密スキルのアサシン対策としては完璧なコンボで、ものの数十秒でレインは木々によって隔離されてしまう。


「邪魔なアサシンは後回しだ!コジロウという彼を殺ればキミも素直になるだろう?フラエクラニーチェ!!」


 フラエはコジロウに"逃げて"と声をかけようとする、が、その表情を見て声をかけるのを止めた。

 それは、今までに見たこともない鋭い表情を彼がしていて、血管が浮き出るほどの怒りを表していたからだ。


「ふう……まっちょっと待ってなさいなフラエさんや――」


 息を整えた彼はその右手の杖を肩に乗せてクラウスベルと対峙する。

 木が乱雑に生やされた奥側からレインが、「無茶しないで!コジロウ!」と声をかけると「はいはい――」と軽い返事を返した。


「私はワイズマンのクラウスベル……キミがコジロウで相違ないかな?」


「コジロウですが何か?」


「いやなに、今から殺す相手をちゃんとフラエクラニーチェの想い人かどうか確認しておかないとね」


 その言葉を聞いたコジロウはフラエに視線を向け、「え?想い人って?え!?」と笑みを浮かべると「なっべ、ベつに!そんなんじゃないよ!バカ!」とテレ隠しに罵るフラエ。

 木々に襲われるレインは、「こんな時にまでイチャイチャして!」と言いながらも必死に木を避ける。


「……私のフラエクラニーチェとイチャイチャつくな!魔法の深淵を見せてあげるよ!」


 杖を構えるクラウスベル、その視界内でコジロウが既に魔法を唱え終わっているのが映り驚愕する。


「なっなんだいその貧相なファイアボールは――」


 ビー玉程度のサイズのファイアボールが杖の前でフワフワと浮かんでいる。


「……このファイアボールが今使える最大火力でね……正直立っているのもやっとさ」


 それを聞いたクラウスベルは、「アハハハ!はっはっはっはは!」と声を上げて笑う。


「相手はワイズマン!そんなマッチ程度の火じゃ勝てないよ!逃げて!コジロウ!」


 フラエが叫ぶと同時にクラウスベルは杖を構えるのを止める。


「くだらない……魔法?それを魔法なんて呼ぶようなら私は神だよ」


 歩いてコジロウに近づくクラウスベルは、杖を剣のように構えて駆け出した。

 ほぼ棒立ちのコジロウを横薙ぎで殴りつけると、鈍い音が響いてコジロウの左腕が拉げる。


「はは!まずは左腕!!」


 笑みを浮かべたクラウスベルは、痛みに顔を歪ませているだろうとコジロウへ視線を向ける、が、その顔は痛みなど感じていないような真顔だった。


「……魔法使いが接近戦をしたがる状況でなら――」


 杖を投げ捨てたコジロウはクラウスベルに組み付き、彼を拘束して動けなくする。

 コジロウの意図を理解できないまま、「放せ!!」と叫ぶクラウスベルは全力で振り解こうとするも、まるで鋼の鎖のように外れることはなかった。


「あんたがワイズマンであることも、取得しているスキルも、得意とする魔法スキルも、全てアルセイヌさんから聞いているんだ……、なら後はそれらを踏まえた上で倒す方法を考えるだけだ」


「捕まえただけで私を倒せると本気で思っているのか!」


「こっちは鬼畜な難易度のMMOにどっぷり浸かってきてるんだ、この後あんたがどうなるかも教えてやってもいいけど……どうする?」


 エムエム………?ふざけるな!と叫びながら筋力全開で抜け出そうとするも、フラエの魔法で痛みを感じない状態を維持しているコジロウは、どれだけ腕に負荷がかけられてもその効果が切れるまでは絶対に放すことはない。


「火炎耐性+、火炎耐性++、加えて火の加護に火炎の加護、スキルで魔法耐久も取得したボクは、スキル――メテオストライクの一撃も耐えられる……あんたはどうかな?」


「何を言う?!メテオストライクなどウィザードの最上位魔法スキルでしかないだろ!」


 クラウスベルの言う通り、メテオストライクは魔法としては下級魔法と呼ばれる部類にあたり、通常の威力は中級魔法の半分で上級魔法の四分の一程度しかない。


「たしかにそうだけど……、火属性+、火属性++、火炎属性+、火炎属性++で強化したとしたら?想像できるかな――」


「バカな――あんなコストの大きなスキルを取っていたら他のスキルが取れないだろ!?そもそもこの体勢では魔法など使えない!」


 両手で拘束する側は杖を持っていないため魔法の発動などできるはずもなく、クラウスベルは「そんなことも考えられないのか?」と現状に笑いを浮かべる。


「……だから~言ったっしょ?ボクもう魔力使い切っちゃって動くのもだるいって……、ひょっとして何の策もなしにここにきてるとか思ってないよね?」


 その気怠そうな視線が、自身の頭上に向けられているのに気が付き、素早く天を見上げるとそこには数メートルの穴が見え、その先に広がる黄金色の空に黒い点が徐々に大きくなっていく。


「………ま、まさか!?そんな馬鹿なことがあるか!!」


 上空から降ってくるそれが、既に発動されていたメテオストライクなのは明らかで、クラウスベルは面食らってしまい思考が停止してしまう。


「まっ始めからここまで全て計算してるからもう不可避だよ」


「……は、始めから?全て?私がアサシンをグロウ・ザ・ツリーズで隔離して、その後で魔法ではなく近接することまで計算していたというのか!?」


 コジロウは気怠そうに、「まっ単純なベイトに引っかかる方が悪いね」と空を見上げた。


「な、なんなんだ!あのメテオストライクは!正気なのか!?アレを受けて耐えれるわけがない!」


「耐えれるよ……ボクはね、あんたはその様子だと火の耐性を一切とらずに上位の魔法スキルばかり割り振ってるだろうから……まず耐えられんだろうね」


 クラウスベルの記憶上で、メテオストライクが拳台の火球であったことを思い返すが、現状落下してきているそれは天上に開いた穴を優に超えるサイズだ。


「はははっこれは凄い!これは致死確定の秘中!……だが、ウィザードなんかじゃない!断じて!知的なウィザードの戦い方ではない!」


 その言葉に気怠そうな笑みを浮かべたコジロウは、「まっボク、"ニート"なんで」と言うと「な、なんだそれは?!」とクラウスベルは言った。

 天上の穴を一瞬で破壊して通過したメテオストライクは、そのままコジロウ諸共クラウスベルに直撃した。


 直撃の瞬間フラエがコジロウの名前を叫ぶも、風圧で壁際まで転がって止まった。

 視線を落下地点へ向けるとそこは火の海で、二人の姿はゆったりと倒れ込んだ。


 燃えている中を助けるためにフラエが飛び込もうとすると、木々の追撃から自由になったレインが持ち前の素早さでコジロウを助け出した。

 火炎耐性の高いローブと、その耐性ステータスと耐性スキルのおかげで彼はほぼ無傷で助かった。


「無茶苦茶だよ!死んだらどうすんのさ!」


 安心と同時にそう言いながら泣き始めたフラエ。コジロウはグッタリとしていて疲れた様子はあるものの、「火傷はしてないからさ」と彼女に笑みを返した。

 確かにやけどはない、でもレインが服を捲って傷の有無をたしかめると、左腕の腕部は完全に骨折していて皮膚がドス黒く変色し、両腕にミミズ腫れのような症状も出ていた。


 痛みがないのが幸いしていることは明らかで、フラエは直ぐに治療をしながら「僕の所為で……ごめんなさい」と漏らす。


「カワイイは正義……悪いのは欲情を押し付けたアイツであって、お前が悪いなんてことは一つもない……にしても、少しやり過ぎたかなぁ?レイン……アレの修理代っていくらぐらいだろう?」


「そうね……数千万くらいかしら――」


 二人が見上げる先をフラエが確認すると、地下から見えていた穴がさらに広がり、穴の近くにあった地上の建物が崩れて半分倒壊しかけていた。


「アレは計算に入れてなかったな……ボク、ニートなのに保険とかあるのかな……ないんだろうな……やだな……働くの」


 と心配事を連ねていると、「私が面倒見てあげるから大丈夫よ」とレインが優しく額に手を置いた。


「ぼ、僕も少しなら姉様から頂いたのがあるので!」


 というフレアに、気持ちだけでいいよと笑みを浮かべるレインは、「これで一応はいつも通りに戻れるね」とコジロウに声をかけた。


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