6 ニャーニャー、ニャ~↑?ニャ~↓ニャー!
レインは下の毛も処理している。下とはアンダーのことであり、つまりスマホ自撮りで部屋の床に落ちているのが映り込んだらハッとするような毛のことだ。
どうしてそんな話になるかと言うと、日々のマッサージの流れで、最近では衣類を一切身に着けないことから発覚した事実で、初めの頃は彼女も薄い肌着を身に着けていたものの、肌着から下着へ、下着から裸体へと徐々にパージしていったのだ。
そう、つまり現在彼女は裸でボクのマッサージを受けているわけで、ボクも目のやり場に困るわけで、もちろん下心しかないから見るけど。
あのグローワームの件後、報酬がとてつもなくしょぼくて、どれくらいしょぼいのかと言うと、レインの日給の百分の一くらい……ちなみにレインはソロで賞金狩りをしているので、日にウン百万からウン千万を稼いでる。
それでも、あの件は日頃お世話になっている宿の女将さんに対する感謝の気持ちが含まれるため、報酬云々ではない…が――やはりしょぼすぎる。
これだけしょぼいと、どの冒険者も受けずに放置された経緯があり、その結果でグローワームがあれだけ育ったのにも頷ける。
そういうことから、最近では下水道で週に一回グローワームを駆除するために外出するようになった。レインもボクも衛生的に下の処理をしているということだ
育つ前に倒すことで雌牛の子宮や美味しい牛乳が守れるのなら安いものだ。ちょっと行ってパッと燃やしてサッと帰る、そのため仕事ではない…つまり今もボクはニートです。
お尻をマッサージするよりも短い時間のそれが苦にもならなくなったのは、グローワームを倒して得た経験値のおかげだろう。
レベル27、中級者一歩手前のレベルではあるけど、その実、連戦や遭遇戦の経験がないためまだまだ初心者である自覚は持っている。
ステータスは魔力極振り、スキルも火炎特化、こういうのは平均的より極振りの方がロマンがあっていいよね。
結果的に魔法使いになってしまうわけだけど、その威力は今はまだ分からない…だって使わないから、そんな機会たぶんないから。
フラエは、「そんなステ振りもスキル振りも見たことないので、威力とかは未知ですね」と言い。レインは、「きっと大きな花火が空にあげれるんじゃないかな?」ともはや趣味の領域でしか見てない。
慣れた手付きでオイルを手で温め伸ばし、足首から際どいラインへと向かう手は何度か行き来して、次にお尻からの腰、括れからの背中へからの脇の下でお尻へと反復する。
最後に両手から首へと向かい、摩擦で肌が傷つかないようになり保温効果も出たところで、グイグイとコリをほぐしていく。
スキルによって的確な処置ができるのだが、首は一度も揉んだことがない。おそらく、揉む必要がないのだろうというのが何となくだけど分かる。
手の指をマッサージし終える頃にはもうレインは夢見心地で、体が冷えないようにタオルをかける。
最後に特に意味もなく、むしろ性的な意味しかない行為であるのだが、アンダーを優しく撫でると、「あんっ――」とレインの声が漏れてボクはそれを聞いてよし!と何かを確認しマッサージを終える。
後から自問自答で"感度の確認でもしているのかボクは?"と考えるものの、間違いなくただ"抑えきれぬ性欲の一端"を吐き出す行為でしかないけど。
そんな行為を後ろから見られていたとは知らず、「…コジエロウのヘンタイ――」とフラエに声をかけられて、ボクは赤面して顔を両手で隠し内心悲鳴を上げた。
キャー見られてた!レインにしかしないことだから、フラエがまさかそんな事をボクがしているとは思ってもいない、そんな可能性も残っていたのに…。
現行犯で彼女のボクへの評価がまた下がったに違いない。いや、そういえば前にエールで酔った時にフラエの乳首をひたすらにマッサージしたことがあった…、あの時は酔っていたとはいえやり過ぎだと思うから、あの時点からボクへの評価は最低なのかもしれないけど。
「コジエロウさん…少しお話があるんですが…いいですか?」
ボクは赤面した顔を隠しながら、「承知いたしました」となぜか高い声で返事をしてしまった。
神妙な面持ちでボクの対面に座るフラエ。
ひょっとしてパーティーから抜けたいという話では?!あっ別に今もパーティーという感じではないのか…、なら!この前マッサージ中に話していたことの再確認か?
その時フラエがボクにした質問とは、「どうやったら子どもってできるのかな?」という予想外過ぎる質問だった。
ボクはあまりに当たり前に、性に関する知識を持っているお年頃だろうと決めつけていたため、その場で口籠り誤魔化してしまったのだが、まさか改めてこんな畏まった席を設けるとは思ってもみなかったため身構えた。
「コジエロウさん…、僕はどうやら……火傷が苦手なようなんです――」
「へ~、ん?ほ~…ん?(←全く理解していない)」
「今日、赤々と血の滴る様子にゾクゾクして興奮してしまうと同時に、治癒を開始して一度傷口が晒され徐々に治っていく…その様子を見て感動すら覚えました」
「へ~そう…なるほど?(←むしろレインのアンダーを触っていた事実がバレたという事が気になって仕方ない)」
「でも、コジエロウさんの火傷を見ても、悲しい気持ちや切ない気持ちが増して、涙まで出て…全然楽しくないんですよ」
後から思えば、彼女が"相変わらずの傷好き"というだけの話だが、ボクはマッサージに下心などないというスタンスをどう取り繕えば保てるかに思考を割いていて全く関心がなかった。
「……もしかして、聞いてないとかないですよね?コジエロウさん…」
「へ~なるほど?ん~…ん?(←むしろ聞いていたらコジエロウに対して何かしら言及する場面である)」
そして、突然にフラエが「ふん!」と息を吐いたかと思うと、ボクの左手の甲にアイスピック(火傷を冷やす氷を砕くためのやつ)が突き立てられる。が、その痛みはなくそれがどうやら彼女の言っていた"痛みを感じなくさせるための魔法"の効果であることは後の気付きである。
ボクは手の甲を貫通して串刺しになったそれを三度見してから、もう一度一呼吸置いて四度見の際に眼を見開き、まるで別人の低いダンディーな声で"え?"と呟いた。
それに対してフラエはアイスピックをもう一本持ち出して、火傷の治ったばかりでまだ若干黒い右手の甲を勢いよく「どっせい!」と掛け声とともにダン!と貫いた。
机の上にアイスピックで両手を拘束されたボクは右手を凝視して、「…え?」とさらに低いダンディーな声で言うと考えるのを止めた。
「は~話したら何だかスッキリした~!相談に乗ってくれてどうもありがとうございました!コジエロウさん!」
満面の笑みで去っていく彼女に、ボクはただアイスピックを凝視して固まったままでいた。
ちなみにこの後、魔法の効果が切れて痛みで奇声を上げたボクは、驚いて出てきたレインによって解放されるが、その傷は二日ほどフラエに治癒してもらえず匙を握ることもできなかった。
魔王軍第一軍軍団長なるモンスターが、新進気鋭の冒険者のパーティーによって討伐されたらしい。
リーダーの名前はアーサー、冒険者ギルドに登録して三か月というスピードでレベル1からレベル93になった才能溢れる冒険者。
メンバーは、レベル110のアークプリーステス、レベル112のサムライソードマン、レベル108のワイズマン、レベル103のヘビーナイト。
そんな彼らが戦いの場から骨休めにこの街へ帰ってくるらしい、そのため街はかつてない凱旋パレードに沸き立っていた。
時を同じくして、ボクはレインとフラエの三人でちょっとした旅行に出ていた。
旅行はフラエが提案し、レインが旅費や下見をして、ボクがニートすることで決行された。
秘境温泉の旅…、いや~もうね!混浴でね!三人でね!ってな具合に事が進みますよ!何せ、言い出したフラエが混浴を希望してレインが拒むはずもなく、ボクは望むところですから。
最近では見慣れてしまった二人の裸も、今までとは違う環境で新鮮な目線(エロイ目線でしかない)で見れる。
などと考えていたボクが愚かだった…、ニートのボクとフラエは早々に険しい山道に降参して、「ちょっと先を見てくる」と言い残してレインが迷子に、結果ボクとフラエも迷子となった。
「あれから二時間…予定通りなら三人で温泉に浸かっているはずだったのに…」
嘆くフラエに、「本当ならおつパイをガン見していたはずなのに…」とボクは返す。
二人は深い溜め息を吐くと同時にお腹が鳴り、互いの顔を見合うと「お腹空いた…」と互いに呟いた。
フラエが石に座っていると尻が痛いと言い出したので、手招きで呼び寄せると彼女を股の間に座らせた。
「あ…これはらくちんですね、少しだけコジロウの事を見直しました――、少しだけコジエロウなのではと疑ったことをお詫びします」
…いやいやフラエくん、ボクはコジエロウですぞ。少女を胡坐の上に座らせて自身の体を背もたれとして椅子となる…、興奮せずにいられないシチュエーション!レインでこないだ試したら"なんか違う感"が否めなかったけど、これぞまさしくボクの求めていたものだ。
などという下心も空腹と喉の渇きにはだんだん敵わなくなってきた。
フラエも口数が少なく、ボクもボーとしてたつもりだったけど、手の甲に痛みが走りその原因を確認しようとすると、「チクビ…」とフラエが呟く。
どうやらボクは、無意識の内に手持ち無沙汰で彼女の胸に手が伸びていたらしく、手の甲を抓まれた…つまりさっきの言葉の真は、"チクビ揉むなコジエロウ"となるわけだ…、これが空腹と渇きの引き起こす悪影響か(←ただ単にコジエロウなだけ)。
それから少ししてフラエが錯乱した…、落ちていたあのキノコを食べたようだ…、鮮やかな斑点が目を引くあのキノコを…おそらくは死にはしないだろうけど、ニャーニャー言い始めて可愛いぞコンチクショウ!
そして、何か餌付けするための餌と考えた時、やはり魚か――と考えて山道を少し外れて沢へと近づく。
沢の一角に深い場所があり、なかなかのサイズの魚がそこにいて、徐に右手を水に浸けて魔法の炎で水を沸騰させた。
魔法スキルというものは簡単にこういうこともでき、つまり、この時点で水と食料を手に入れているのだが、ニャーニャー(錯乱したフラエ)しか頭にないボクは、ただただ浮いてきた魚を掴みいい感じに焼くとニャーニャー(錯乱したフラエ)の前に出した。
そう、始めから魔法でどうにでもできたのだ…、空に炎を打ち上げればレインはそれに気が付いてボクらのところへ辿りつけた。
今からでもおそくはない、彼女のことだ心配して今も探し回っているに違いないのだから。
しかし、ボクはそうしないのだ…ほら、目の前でニャーニャー言ってるこの可愛い生き物をどうして無視できようか…。
「ニャーニャー、ニャ~↑?ニャ~↓ニャー!」
その後、山道を通った冒険者によってボクとフラエは保護された。
発見当時、少女が舌で少年の口元をペロペロと舐められているところを見た彼らは、「マセガキどもが!」と吐き捨てて去ろうとしたが、鮮やかなキノコに歯型があったことから勘違いだと気が付き保護してくれた。
ボクは、口元がビチョビチョになるまで舐められた状態で、満面の笑みを浮かべて気を失っていたという。
朝から花火の音が鳴り響いて歓声がワッと上がると、ボクはムクリと起き上がりベットの上で"うるせぇ"と小さく悪態を吐いた。
「コジロウー起きてる?おはよう!今日はちょっと遅くなるけど、夕飯には間に合うように帰ると思うから、あと、フラエにちゃんと薬飲むように言ってあげてね」
「りょう~かい」
シーフの装いでレインが仕事へ出かける、労働戦士に敬礼!…帰ってきたらまたマッサージをしてあげよう。
レインが言うフラエの薬とは例のキノコの毒の治療用である。体内に入ったネコ真似菌は特殊な薬でしか完治しないのだそうだ。
「あ!コジロウおはようニャー、今朝はハムエッグらしいニャ、朝ご飯食べたら買い物に付き合ってほしいのニャ」
…カワイイ!もう!カワイイ!これほどカワイイ生き物をどうして薬で消せようか!
ボクはレインに言われた薬を半分の量だけフラエに手渡してきたため、もう少しだけこのカワイイ生き物を愛でることができるだろう。
それに加えて、最近普段着からネコ耳フードの付いた丈の短い上着に、ネコ尻尾突きモコモコショートパンツのコンボ、さらに加えて白ニーソにネコ足肉球付きの部屋靴…へへへ。
ニヘラと表情を緩めてフラエの歩く後ろ姿を見ていると、ボクは唐突にハッとして顔を右手で覆った。
「まさか…、そんなまさか…、いつの間にか少女を見てニタニタしているぞボクが…」
ほぼ毎日フラエと過ごしていたために、ボクのステータスの好きな女性の欄に、"少女"が増えて称号の部分に"(微)ロリコン"と表記されてしまっているに違いない。
「そう言えば最近、フラエをマッサージし終えた後に、レインにだけする例の行為を自然とフラエにもしていたような気がする…、ひょっとして…目覚めた――のか?」
廊下で振り返ったフラエが「一緒に行くニャー」と言った瞬間、もうすべてがどうでもよくなって、ボクはヘラヘラしながら彼女の後へと続いた。