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5 だって!ニートだもの!


「ねぇ…最近フラエの様子がおかしいと思うの」


 レインの唐突な言葉に、彼女の腰をいやらしく触りながらマッサージするボクは、「んぇ?」と変な返事をしてしまう。


「だから、フラエがね…妙にコジロウに優しい気がするの、この前の夕飯の時――」


『コジロウ、頬にソースが付いていますよ、ここですよここ、ほら………パクっ』


 確かにその時の事は憶えている、何せ美少女が自身の頬に付いていたソースを指で取ったかと思うと、そのまま口へ入れてしまったのだから。


「それに、この前のお風呂の時も――」


『コジロウ、今日は僕らが最後らしいので一緒に入りますか?え?遠慮しないでくださいよ、ダーインスレイヴ?が暴走するからダメ?よく分からないけどそれじゃ仕方ないですね』


 女性と裸の付き合いとか…、同じベットで寝ていた事もあるレインにならまだしも、マッサージで耐性が付いてきたと言ってもまだフラエと入るのはなぜか犯罪臭がする。


「あんなに傷傷と言っていた彼女が、コジロウに興味もないって言っていた彼女が、あんなの虫みたいな存在ですよ?ニートでヘンタイでロリコンなんですよ?って言ってた彼女がよ」


 ほほ~随分と見下してくれるじゃ~ないか!この!ゴッドハンドにて!ゴーテゥーエデン!してやろうか!

 それにしても、確かに最近妙に優しかったり、わざわざ夜中部屋に入ってきてベットに潜りこんでは、「あっ間違えました、まっいいですよね」とそのまま寝てしまう始末。


「話し方も随分と変わったと思うの、敬語が多くなって語尾が柔らかくなった気がする…ねぇコジロウ、私が冒険に出てる間彼女に優しくしすぎてない?」


 優しく?ん~いや、マッサージをしたり一緒にアイス作ったり、一緒に昼食作ったり昼寝したり、特に変わったことは……ん?あれ?あれれ?ひょっとして…いやでも…。


「まるで恋人どうしやないかい!」


 唐突な一人ツッコミにレインも驚きを隠せない。いやむしろボクが自分に驚きを隠せない!

 いつからだ?!いつからボクはそんなスィーツの十倍甘い状況に!!


「ちょっとコジロウ?急にどうしたのよ、もしかして…フラエに好かれるようなことしてたの?」


 なんですか?!レインさん!その浮気している彼氏に向けるような視線は!?アレ?ボク、レインと付き合っていたんだっけ?!アレ?冒険者のパーティーってこんなんだっけ?

 ゲームと現実とでは完全な乖離があるということに、この時初めて気が付いたボクだった。



 日々のニート生活が板についてきた頃、借りている宿の女主人から、グローワームというモンスターが街の周辺で増えていて困っているという話を聞いた。

 狭い隙間に入ったり、体から触手を出してウネウネと体に巻き付くらしく、所謂ローパーというやつに近いと聞けば聞くほど思った。


 しかし、グローワームは女性にとっては思った以上に厄介な相手で、その理由が性器から内部に触手が侵入して一部を分裂させ、その一部が定着し中で成長して気が付くと妊娠したようにお腹が大きくなる……らしい。

 話を聞いて想像したら気分が悪くなり、朝食のスープをリバースしそうになった。そのボクの隣でフラエがリバースしていて、結果的にボクも再びリバースしそうになったが何とか踏みとどまった。


「倒しましょう!レイン!これは女として放っておけない案件です!」


「?…そうね、私もそうしたいけど…グローワームには魔法しか効果がないから、アークプリーストとアサシンとニートじゃ職種的に無理だと思うの」


 あれ?今さらっとレインがボクの胸に針を刺した気がする。


「魔法か…一応ボクは使えるけど、レベル的に意味ないか…」


 と呟くと、「「コジロウ!魔法が使えるの?」ですか?」と二人して身を乗り出した。

 そう、あれからボクは魔法を習得したのだ。現在のレベルは14で、スキルポイントを便利そうなものを取ろうと考えて、魔法基礎ポイント1、火属性+ポイント1、火属性++ポイント2、ファイアボールポイント2、火の加護ポイント2を習得した。


 魔法で火を起こせば火起こしが楽になると考えてファイアボールを覚えたけど、初めて使った時に自身の手が燃えてしまい少し火傷したため、火の加護を習得せざるを得なかった。というのも、手前で火属性+を取り過ぎたというのが原因ではあるというのは後から分かることだけど。


「いいえ!十分よ!グローワームは炎が弱点で、ファイアボールでも十分に退治できるわコジロウ!」


「そっそれなら大丈夫だね!コジロウ!悪しきモンスターを倒しに行こう!」


 ……う~ん、ボクはファイアボール?そんなのじゃ無理だよ…となるはずだったんだけど、女性の身が危ないと言われたらボクもニートだからこそ"人に優しく社会には無神経に"というやつかな。


「よし!そのグローワーム(ローパー)を討伐しに行くぞ!」



 街の周囲は、下水道とランダムな穴が交差するミニダンジョンが地下に形成されていた。

 フラエが、「ベイバダムにこんな地下があるなんて知らなかったよ」とロンティーではなく、アークプリーストの戦闘スタイルで一番後方をボクの服を摘まんでついてくる。


 レインはボクの前を歩いているのだが、その口元は黒布で覆われ、いつもの肌の露出が多いなんちゃってシーフの格好とは違い、完全に闇に溶け込む姿で両手両足に籠手と脛当てまで着けて腰に短刀を忍ばせている。

 露出がないのに、その体にフィットした格好は明るい場所でまじまじと見たい気がするけど、今はそういう状況ではないため口には出さない…けどやっぱり見たい。


 ボクはと言えば、レインに渡されたレッドローブ(魔力を高め炎耐性が上がる)とサステアの杖(魔力を高め治癒効果を上げる=フラエの私物)を身に着けている。

 この装備を身に着けたボクがファイアボールを使うと、標的にした人台の岩が真っ赤に熱を帯びるほどの威力を出せる。つまり人なんか簡単に燃やせちゃう…それ故に、その威力を初めて見た時ボクは"荷が重い"と思ってしまったくらいだ。


「あ゛~帰りたい…」


 ボクがそう言うと、「もうニートのスキル"ホームシック"発動ですか?まったくコジロウは…激しく同意しましけど」とフラエが言う。

 レインは時折振り返ると、「大丈夫??怖くない?おぶる?手繋ぐ?」と保護欲全開で構ってくれて、流れでおつパイ揉みたい――と言えばさせてもらえそうな気がしたくらいだ。


 こっちへ来てから美女、美少女、人妻美女などの体のマッサージしかしてこなかったボクが、今更冒険ゴッコに興じるのも無理な話であるのは明らかで。


「あっ虫だ…クモの巣もある、帰りたい…」


「コジロウ…フラエ…ヤツがいたわ」


 レインに言われるまま足を止め、脳内に想像していたローパーとのすり合わせをするために様子を窺った。

 半透明なゼリー状なのか肉質なのか分からない物体が、ただひたすらに無数の細い触手をウネウネさせている。


 ボク…アレ、ジBリで見たことある…あれに触れられると傷が治るんだぜ~(棒)。

 バタンっと音が鳴ったと思うと触手が急に慌ただしくなる。その音の発生源に視線を向けるとフラエが"キュー"と言って気絶していた。


 分からんでもない、アレの視覚へのインパクトはフラエのような反応をしても致し方ない。

 レインはその両手にボクとフラエを抱えると来た道を全力で引き返し始めた。


「あれはもう普通のグローワームのサイズじゃないわ!あれを燃やし尽くすのは無理でしょうから、逃げることを優先しま――」


 一瞬の出来事だった…、ボクとフラエがゴロゴロと転がって、触手に絡め捕られたレインがゼリー状の体内に取り込まれてしまった。

 これはオワタ…、きっとこの後、服を溶かされてイヤらしい事がレインの身に待っているんだ…、アレ?でも普通に苦しんでるような。


 それもそのはず、ゼリー状の体内にいる=息ができない=苦しくてそのままデス。


「フラエ!レインが!――あ…」


 視線をフラエに向けると、気絶した彼女をズルズルと引っ張る触手が見えて急いで体を抱えて抗った。


「あんっ………」


「あっごめん!…あっ」


 フラエを抱える⇒胸に手があったる⇒あんっ⇒慌てて手を離す⇒ゼリーイン!フォー!!


「しまった!くそ!燃えろ!」


 右手から火の玉を勢いよく射出し、それがゼリー状の体に当たると激しく燃え上がる…が、それは数十秒で消え去ってしまう。

 無理だ…表面だけ燃えてもグローワームを倒せない、あーレインごめんよ…、フラエ…結構お前の体をマッサージするのは楽しかったぜ。


 視界に入ったゼリー内のレインとフラエの右手が必死にボクへ向けられている。

 死ぬ気になれば――もしかすると助けられるかもしれない、ボクは彼女らを失っても生きていけるのか?彼女らの存在はそんなに軽いのか?


「軽いわけないだろ!死んでいいわけないだろ!」


 ボクは彼女たちを失いたくない、失ったら生きてはいけない。


「だって!ニートだもの!」


 駆け出したボクは、グローワームの触手に捕まりその体内へと引きずりこまれた。

 呼吸だの対策だとは考えず、ある事だけに全力を賭したのだ。


 くらえよ!ニートの全力!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!

 その後合計何回使っただろう、最後に放った時の気持ちは"やっぱりニートじゃだめかな"だった。


 爆散したグローワームと、いつの間にか吐き出されたボクとレインとフラエ、人台の大きさにまで小さくなったグローワームは、コソコソと逃げる様子で下水道の中へ消えていった。

 右手はファイアボールの連発で痛みがないのが不思議でならないくらい黒く染まってしまっていて、おそらく脳内でアドレナリンが云々とかで麻痺していたのだろう。


 気が付くとレインの背中で、肩からだらりと垂れた右手をフラエが泣きながら魔法で治そうとしてくれていた。

 そうしてもう一度気を失って、宿で目を覚ますとフラエが傷を前に深刻そうな表情でいて、寝起きのような状態ながらも、「どうした?大好きな傷だろ?」と声をかけた。


「…気が付いたんだね、コジロウ…僕、変なんですよ、この傷を見ても全然ときめかないんです、それどころか悲しくてなんだかとっても辛いです」


 この時ボクは、グローワームが女性の体内に――というのを思い出して、「体…体内にアイツが入り込んでるからなんじゃ…」と言う。


「あぁ、あれは勘違いですよ、グローワームが子宮内に入るっていうのは馬とか牛とからしいです、レインはそれを知ってたから、そんな心配は初めからしてなかったと言っていました」


 …なんだ知ってたなら教えておいてほしかったな、その知識の所為でレインやフラエがイヤらしいことされるだけで、つまりは死ぬようなことはないと本気で思っていたんだよボク。


「僕も知らなくて勘違いしてて、"グローワームを産んじゃうのかな?"ってレインに必死になって聞いたら、なにそれ?って笑われちゃった」


 それにしても、傷に高揚しないとは…フラエ――もしかするとよほど頭の打ちどころが悪かったのか?

 右手はどうも火傷の痕が残るらしい、自分の魔法で火傷を負っていたら世話無いが、今回のはニートなりに人生を賭けた大事件だったため、その辺は致し方ないと思うしかない。


「…今度こんな無茶したらダメですよ、コジロウはニートなんですから…危険な目に遭って死んじゃったらニートの称号が泣きますよ」


「…たしかに、こんなに働いたらニートって言えなくなっちゃうからな…、でも明日からはまたニートに戻れるよ――間違いなく」


 そう言うと怒られるのかもと思っていたけど、フラエは「その方が楽でいいからね僕も――」と微笑み返してきた。

 その後、レインがやってきて泣きながら謝ってきたが、彼女が今回悪いことはなにもなく、ただただ相性が悪かっただけであり、それでもボクが傷ついてしまったことがショックだったらしく、かなり落ち込んでいた。


 今はまだ笑い話にもならないけど、その内どこかで今回の件をネタに笑ってエールでも飲めればいいな。

 そう思える、ボクとレインとフラエのパーティーとしての初冒険は、なかなかにスリリングなものとして記憶に残った。


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